“菜(さい)” の例文
 蓴菜は俗にいふじゆんさいにして此処(ここ)にてはぬなはと読む。薄加減はじゆん菜(さい)の料理のことにして塩の利(き)かぬやうにする事ならん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
菜(な)が洗(あら)ひ畢(をは)つた時(とき)枯葉(かれは)の多(おほ)いやうなのは皆(みな)釜(かま)で茹(ゆ)でゝ後(うしろ)の林(はやし)の楢(なら)の幹(みき)へ繩(なは)を渡(わた)して干菜(ほしな)に掛(か)けた。自分等(じぶんら)の晝餐(ひる)の菜(さい)にも一釜(ひとかま)茹(ゆ)でた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
粗(ざつ)と水(みづ)に漬(つ)けて、ぐいと絞(しぼ)つて、醤油(しやうゆ)で掻𢌞(かきまは)せば直(す)ぐに食(た)べられる。……私(わたし)たち小學校(せうがくかう)へ通(かよ)ふ時分(じぶん)に、辨當(べんたう)の菜(さい)が、よく此(これ)だつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
何か魚でも釣って来てお菜(さい)にしてあげましょうって今まで掛(かか)って釣をしていましたよ、運が悪くって一尾(いっぴき)も釣れなかったけれども
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お菜(さい)は一六が葱(ねぎ)と薩摩芋の難波煮(なんばに)、五十が豆腐汁(とうふじる)、三八が蜆汁(しじみじる)と云うようになって居て、今日は何か出ると云うことは極(きま)って居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飯の菜(さい)に奴豆腐(やっこどうふ)を一丁食ったところが、その豆腐が腹へ這入(はい)るや否や急に石灰(いしばい)の塊(かたまり)に変化して、胃の中を塞(ふさ)いでいるような心持である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
内證(ないしよ)の取り廻し、客と物貰ひとの處置振り、お菜(さい)の切り盛り、何から何まで覗くやうに見て木戸を一文も拂はないから、大したものでせう
暫(しばら)く立(た)ち止(と)まつて見(み)てゐるうちに、石(いし)の壁(かべ)に沿(そ)うて造(つく)り附(つ)けてある卓(つくゑ)の上(うへ)で大勢(おほぜい)の僧(そう)が飯(めし)や菜(さい)や汁(しる)を鍋釜(なべかま)から移(うつ)してゐるのが見(み)えて來(き)た。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
かの女(ぢよ)は氷峰を「兄さん」と呼び、渠はかの女を「お君」と云つてゐる。義雄には、も早や、北海道流の菜(さい)が親しんでしまつた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
菓子は好物のうぐいす餅、菜(さい)は独活(うど)にみつばにくわい、漬(つ)け物(もの)は京菜の新漬け。生徒は草餅や牡丹餅(ぼたもち)をよく持って来てくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
骨つきのチキンの場合だけでなく、お母さまは、ランチのお菜(さい)のハムやソセージなども、ひょいと指先でつまんで召し上る事さえ時たまある。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
やっとの事で薄暗いランプの下に、煮豆に、香物(こうのもの)、葱(ねぎ)と魚の骨を煮込んだお菜(さい)が並べられ、指の跡のついた飯櫃(おはち)が出る。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「飯を食っている暇も惜しい、私は此処で食べます」とこう云って、女中をして飯と菜(さい)とを持って来させ、一方私と話し乍(なが)ら、他方飯を頬張られた。
名古屋の小酒井不木氏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今は亡き数(かず)の美妙斎を始め、紅葉、緑雨、二葉亭などの逸事を書いた内田魯庵氏は、友人(ともだち)の台所の小遣帳から晩飯の菜(さい)まで知りぬいてゐるのが自慢で
と交々(かわる/″\)近所の者がお菜(さい)を持って往(ゆ)きますから、喰物(たべもの)に不自由はないが肝心のお米と炭薪などは買わなければなりません、段々に冬に成る程詰って参り
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昼飯(ひる)の菜(さい)に豆腐でも買おうとこうやって路地口まで豆腐屋を掴まえに出張って来たものの、よく読めないくせに眼のない瓦本(かわらぼん)でつい髪結床へ腰が据わり
その墓と小栓の墓は小路(こみち)を隔てて一文字(いちもんじ)に並んでいた。華大媽は見ていると、老女は四皿のお菜(さい)と一碗の飯を並べ、立ちながらしばらく泣いて銀紙を焚いた。
薬 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「おいおい、菜(さい)などは何でもいいが、大急ぎで朝飯を食わせてくれないか。……なに、もう午(ひる)近いッて。ははあ、おれには朝飯だが、人には午飯だったのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなたお腹(なか)がすいたでしょう。私気になって急いで帰ったのでしたけど」と、初やにお菜(さい)の指図をして
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
これをいきなり佃煮(つくだに)風にするのは、もったいない気がして、ちょいとやりきれないが、それをやりおおせるなら、その代わり無類(むるい)のお茶漬けの菜(さい)ができるわけだ。
車蝦の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
十二三からは、父の後方(うしろ)について、質屋だの、古着市へ行つて、父と二人で古着を背負つて戻つてきた。中学へ行くやうになると、毎日、油揚げの菜(さい)ばかりなので
一行は高山植物の草原に足を投げ出して、塩のない、皮の固い結飯(むすび)を喰い初めた、福神漬の菜(さい)に、茶代りの雪を噛んだが、喉(のど)がヒリつくので、米の味も何もなかった。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「氷豆腐というものもナカナカ好いものだね……ウマい……ウマい‥…今日の菜(さい)は好く出来た……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
現に精神的教養を受けない京阪辺の紳士諸君はすつぽんの汁を啜(すす)つた後、鰻(うなぎ)を菜(さい)に飯を食ふさへ
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人夫が蕗(ふき)の葉や蓬(よもぎ)、熊笹(くまざさ)引かゞってイタヤの蔭(かげ)に敷いてくれたので、関翁、余等夫妻、鶴子も新之助君の背(せなか)から下りて、一同草の上に足投げ出し、梅干(うめぼし)菜(さい)で握飯(にぎりめし)を食う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
妻(つま)や待(まつ)らん夕烏(ゆふがらす)の聲(こゑ)に二人(ふたり)とり膳(ぜん)の菜(さい)の物(もの)を買(か)ふて來(く)るやら、朝(あさ)の出(で)がけに水瓶(みづがめ)の底(そこ)を掃除(さうぢ)して、一日手桶(てをけ)を持(も)たせぬほどの汲込(くみこ)み、貴郎(あなた)お晝(ひる)だきで御座(ござ)いますと言(い)へば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
掃除をしたり、お菜(さい)を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を済まさせ、彼はようやく西日の引いた縁側近くへお膳を据えて、淋しい気持で晩酌の盃を嘗(な)めていた。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
田鼠化して鶉(うずら)となり、雀海中に入って蛤(はまぐり)となり、鳩変じて鷲(わし)となるという事あるが、愚僧が菜(さい)にすわりたるあえもの変じてヌタナマスと眼前になりたる、この奇特を御覧ぜよ
卑(さも)しい事を言うようだが、其日の弁当の菜(さい)は母の手製の鰹節(かつぶし)でんぶで、私も好きだが、ポチの大好きな物だったから、我慢して半分以上残したのが、チャンと弁当箱に入っている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
弁当は菱屋で拵(こしら)えてくれたもので、山女(やまめ)の塩辛く煮たのと、玉子焼と蓮根(れんこん)と奈良漬の胡瓜(きゅうり)とを菜(さい)にして、腹のすいているわたしは、折詰の飯をひと粒も残さずに食ってしまいました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私が飯まへなのに気がついた伯母さんはみんながかはりに行かうといふのをそれが自分の幸福な特権であるかのやうに剛情をはり定紋つきの小田原提灯をさげて菜(さい)を買ひに出ていつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
湯気で裏表紙が丸くしめり脹(ふく)らんだ蓋(ふた)の本をわきへはねて、鉢(はち)の中にほどよく膨(ふく)れた焼米を小さい飯茶椀(めしぢゃわん)に取分け、白湯(さゆ)をかけて生味噌(なまみそ)を菜(さい)にしながら、秋成はさつさと夕飯をしまつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
お前が廻っている間は、貧乏のことも、古い女房のことも、鼻たれ小僧の泣き声も、南京米のお弁当のことも、梅干一つのお菜(さい)のことも、一切がっさい忘れている。この世は楽しい木馬の世界だ。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「三十分や一時間なら待とうが。何か菜(さい)があるか」
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
お弁当のお菜(さい)には極く調法ですよ
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「世話って、ただ不味(まず)い菜(さい)を拵(こし)らえて、三度ずつ室(へや)へ運んでくれるだけだよ」と安井は移り立てからこの細君の悪口を利(き)いていた。
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母が一人で飯(めし)を焚(た)いたりお菜(さい)を拵(こしら)えたりして五人の小供の世話をしなければならぬから、中々教育の世話などは存じ掛(がけ)もない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
驚(おどろ)いて跡(あと)を見送(みおく)つてゐる閭(りよ)が周圍(しうゐ)には、飯(めし)や菜(さい)や汁(しる)を盛(も)つてゐた僧(そう)等(ら)が、ぞろ/\と來(き)てたかつた。道翹(だうげう)は眞蒼(まつさを)な顏(かほ)をして立(た)ち竦(すく)んでゐた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
百姓の生涯の希望は大抵鹽鮭を菜(さい)にして米の飯をくふやうに成つて見たいといふ以上はないといつてもいゝ位である。
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
虎蔵わが供をなして土筆を摘み赤蛙を捕りての帰道、折節父の家に立寄り夕餉(ゆうげ)の菜(さい)にもとて獲たりしものを与へたり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いや、そんな事(こと)より、力餅(ちからもち)さへ食(く)はぬ二人(ふたり)が、辨當(べんたう)のうまさうなのに、ごくりと一所(いつしよ)に唾(つ)をのんでお腹(なか)が空(す)いて堪(たま)らない。……船頭(おやぢ)の菜(さい)も糠鰊(こぬかにしん)で。……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
斯(か)う屋敷中で見張つて居るところへ、新太郎の膳のお菜(さい)の中へ、石見銀山(いはみぎんざん)の鼠捕りを入れたものがありました。
老「旦那様、お飯(めし)が出来やしたが、菜(さい)は何もありませんぜ、只玉味噌(たまみそ)の汁と大根のどぶ漬があるばかりだ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一等の賄だといふけれど、粗末で味が惡くて食べられないので、母はそこらへ仕附けない買物に出ては三度/\の菜(さい)を拵へて、病院で出すのは大抵その儘で下げた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
おおむね当時は自炊(じすい)ときまっていた。米、味噌(みそ)、肉、菜(さい)、飲みたいだけの酒、すべて現金買いである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「彼等二人は、ちょうどお中食(ちゅうじき)をしているに違いない……」と彼は思った。「テーブルの上には真白な布が敷かれて、コックがお菜(さい)を運んで来る。たぶん支那料理だろう。 ...
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
掃除をしたり、お菜(さい)を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を濟まさせ、彼はやうやく西日の引いた縁側近くへお膳を据ゑて、淋しい氣持で晩酌の盃を甞めてゐた。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
もとは檀家(だんか)の一人(にん)成(なり)しが早(はや)くに良人(おつと)を失(うし)なひて寄(よ)る邊(べ)なき身(み)の暫時(しばらく)こゝにお針(はり)やとひ同樣(どうやう)、口(くち)さへ濡(ぬ)らさせて下(くだ)さらばとて洗(あら)ひ濯(そゝ)ぎよりはじめてお菜(さい)ごしらへは素(もと)よりの事(こと)
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暑い日にも腐らぬやうな乾物(ひもの)だとかから鮭の切身だとかを持つて来て、それを菜(さい)にした。
朝 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
飯を焚くし、ミルクを作るし、夕方の菜(さい)から、悉(こと/″\)く僕だ。三四月からだつたゞらう。僕が、胡座(あぐら)をかいて子供を、脚の間へ入れると、丁度、股が枕になつて、すつぽり、子供の身体が入る。