みどり)” の例文
深いみどりの色をたたえた大堰川の水のただ中に、金の色もあざやかに、人々の讃嘆の目を集めながら、静かに流れ去ったのであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
戸を明くれば、十六日の月桜のこずゑにあり。空色くうしよくあはくしてみどりかすみ、白雲はくうん団々だん/″\、月にちかきは銀の如く光り、遠きは綿の如くやわらかなり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
時は九月の中旬、残暑はまだえ難く暑いが、空には既に清涼の秋気がち渡って、深いみどりの色が際立きわだって人の感情を動かした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
杉の生垣いけがきをめぐると突き当たりの煉塀ねりべいの上に百日紅ひゃくじつこうみどりの空に映じていて、壁はほとんどつたで埋もれている。その横に門がある。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
空そのものより微妙なみどりで、波の反対側の本来の濃緑と代わる代わるあらわれたが、後者の方は比較すると濁ったものにしか見えなかった。
少くも刺身さしみに対する山葵わさびくらいの役をするのではなかろうか。みどりの湖の岸に建っている白い塔の中に、金髪の王女が百年の眠りを眠っている。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
とはいえ、雪をいただく大山脈を長城にして、めざましい空のみどりの色を、こうもあざやかに見たのは、今がそのはじめです。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水の色のみどりの深さ、ただならぬ妖怪じみた色をしており、主でもむという面魂つらだましい、三輪の神様に結びついた伝説があって、水のれることがないそうだ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
赤煉瓦をはすかいに並べた中央の大路を、みどり色の釉瓦くすりがわらで縁取りしている所は、いわゆる矢筈敷ヘリング・ボーンと云うのであろう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
丘陵の灌木と灌木の間を点綴てんていしてうねりに沿って、みどり、紫、群青ぐんじょう、玉虫色に光るいらかを並べて、なだらかな大市街が美しい町並を形づくっているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
やっと、ややおちついて四へきをみると、龍燈りゅうとう鳳燭ほうしょくの光は、みどり金色こんじきわし、二列となっている仙童女は、はた香瓶こうびんしゃく供華くげなどをささげていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「梅子さん、貴嬢あなた此辺このあたりらつしやらうとは思ひ寄らぬことでした、」と篠田は池畔ちはんの石に腰打ちおろし「どうです、天はみどりの幕を張り廻はし、地はくれなゐむしろを ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
二三軒先に小さいカフエがあって、鉄脚の白い小テーブルとみどりと黄とでぬった小椅子が往来に出ているというような街すじ。歩道には新聞紙の屑が落ちてもいる。
川は巌の此方こなたみどりの淵をなし、しばらくよどみて遂にく。川を隔ててはるか彼方には石尊山白雲を帯びてそびえ、眼の前には釜伏山の一つづき屏風びょうぶなして立つらなれり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
斯く打吟うちぎんじつゝ西の方を見た。高尾、小仏や甲斐の諸山は、一風呂浴びて、濃淡のみどりあざやかに、富士も一筋ひとすじ白い竪縞たてじまの入った浅葱あさぎの浴衣を着て、すがすがしくんで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
みどりすだれを銀のかぎでかけた所に美しい女がいた。それが王妃であった。陳を伴れて往った女は
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一面の青麦の畑は見渡す限りうち続き、澄み切ったみどりの空に風車がゆるゆる廻っています。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あのみどりの堀を越えてはるかに仰がれた白壁の江戸城が毀されるその光景を想像して下さい。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
富士洞窟の外の岩かげで、清君に肩をだかれたアーサー少年は、みどりの瞳をかがやかして
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
美濃紙みのがみの薄きに過ぎて、重苦しとみどりいとう柔らかき茶に、日ごとにおか緑青ろくしょうを交ぜた葉の上には、鯉のおどった、春の名残が、吹けば飛ぶ、置けば崩れぬたまとなって転がっている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いとみだして、はな眞赤まつかる、と淡紅うすべになみなかへ、しろ眞倒まつさかさまつてぬましづんだ。みぎはひろくするらしいしづかなみづいて、血汐ちしほ綿わたがすら/\とみどりいてたゞよながれる……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れ遠謀禍殃かおうを招くをいかん 牆辺しようへん耳あり隄防を欠く 塚中血は化す千年みどりなり 九外屍は留む三日香ばし 此老しろうの忠心皦日きようじつの如し 阿誰あすい貞節りんとして秋霜 た知る泉下遺憾無きを ひつぎ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
湖水のみどりなるを見るより、四一うつつなき心にびて遊びなんとて、そこに衣をてて、身ををどらして深きに四二飛び入りつも、彼此をちこちおよぎめぐるに、わかきより水にれたるにもあらぬが
血の如くに赤く黄金こがねの如くに清く、時には水晶の如くにあをきその色その光沢の如何に美妙なる感興をいざなひ侯ふか。みどり深き美人の眼の潤ひも、したゝるが如き宝石の光沢も、到底これには及び申さず候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
活動写真で見る舞踏ダンス歩調あしどりの様に追ひ越されたり、追越したり、段々近づいて来て、今にも我が身を洗ふかと思へば、牛の背に似たみどりの小山の頂が、ツイと一列ひとつらの皺を作ツて、真白の雪の舌が出る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その下に跳つてゐるみどりの波の大きなるうねりを思はせる。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
霞しく春のしほぢを見わたせばみどりを分くる沖つ白波
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
空の みどりを つんざいて 横にながれた白い雲だ
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
海が見える 一轉瞬の幻を 海のみどりに委ねよう
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
あけみどりまじらひ匂ふまばゆさ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
声はみどりの雲の外に
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
浪はみどりに騷ぐらむ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
大河のみどりしたやうに白く見える小さい汽船——やうやく起つて来る雑然とした朝の物の響は、二人の少年の前に忙しい都会をひろげて見せた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
四方はきりたつ岩で、水面は陽の光のそそぐことが珍らしいほど深く落ちこみ、みどりの色をたたえている。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
浴槽ゆぶねの一たん後腦こうなうのせて一たん爪先つまさきかけて、ふわりとうかべてつぶる。とき薄目うすめあけ天井際てんじやうぎは光線窓あかりまどる。みどりきらめくきり半分はんぶんと、蒼々さう/\無際限むさいげん大空おほぞらえる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
窓より見晴らす初夏の空あおあおと浅黄繻子あさぎじゅすなんどのように光りつ。見る目清々すがすがしき緑葉あおばのそこここに、卵白色たまごいろの栗の花ふさふさと満樹いっぱいに咲きて、えがけるごとく空のみどりに映りたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
銀のような山上の雪のまばゆきに映りあって、その空のみどりのまたなんというめざましいことだろう。人の魂を吸いこむほどの碧の色、こうもまあえた色があり得るものかと思いました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きざはし高く整然とみどりあか青のいらかとりどりに、家々が遥かの坂の上まで続いていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ひそかにおもふ。みづうみ全景ぜんけいは、月宮げつきうよりして、みきむらさきみどりなる、たまえだより、金色こんじきをのつてなげうつたる、おほいなる胡桃くるみの、割目われめあをつゆたゝへたのであらう。まつたく一寸ちよつと胡桃くるみる。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
青空のみどりに消える 薊の實……
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
みどり胸毛むなげ垂尾鳥たれをどり
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
剖葦よしきりはしきりに鳴いた。梅雨つゆの中にも、時々晴れた日があって、あざやかなみどりの空がねずみ色の雲のうちから見えることもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
小波はキラキラと静かにふなばたを叩いて、海のみどりの美しさ! 銀鱗をひらめかす小魚の姿、海底に漂う藻草の一本さえも、ありありと透し見られる。なんという明るい明るい陽の光、微風の快さであったろう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
空のみどりに手を染めん
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
晴れ間には日がかっと照って、ねずみ色の雲の絶え間からみどりの空が見える。畑には里芋の葉が大きくなり、玉蜀黍とうもろこしの広葉がガサガサと風になびいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
臨川寺りんせんじの庭にきよして、獨り靜かに下瞰かゝんするに、水はあくまでみどりに、岩は飽まで奇に、其間に松の面白く點綴てんせつせられたる、更に畫圖ぐわとのごとき趣を添へたるを見る。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
群山の上に挺立ていりつすること數百尺、雲は斜にその半腹を帶のごとく卷きて、空のみどり、日のかゞやき、ある時は茶褐色の衣を着け、或時は深紫こきむらさきの服をかさね、あしたは黄金の寶冠を戴きて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
大杉の陰に簇々むら/\と十軒ばかりの人家が黒くつらなつて居て、その向ふの一段高い処に小学校らしい大きな建物があるが、その広場とも覚しきあたりから、二道の白い水が、みどりなる大空に向つて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
白帆がものうそうに深いみどりの上を滑って行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)