)” の例文
横浜本牧ほんもくあたりでれたまきえびを、生醤油きじょうゆに酒を三割ばかり割った汁で、弱火にかけ、二時間ほどげのつかないように煮つめる。
車蝦の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
昨日きのうのように、たまごがしてしまっては、べられやしないよ。」と、賢二けんじが、いいますと、おねえさんは、女中じょちゅうをしかりつけて
北風にたこは上がる (新字新仮名) / 小川未明(著)
「うう、こわいこわい。おれは地獄じごく行きのマラソンをやったのだ。うう、切ない。」といいながらとうとうげて死んでしまいました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
津田の口の中にはもうげた麺麭パンがいっぱい入っていた。彼はそれ以上何も云う事ができなかった。しかし看護婦の方は自由であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何の匂いでござんす? 火事や江戸の名物だ。ジャンと来た奴なら今に始まッたこッちゃござんせぬ。年中げ臭せえですよ」
云い終ると、孔明は、やがて下流のほうに、火焔かえんが天をがすのも間近であろうと、玄徳を促して、樊口の山頂へ登って行った。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるほどなるほど、味噌はうまく板に馴染なじんでいるから剥落はくらくもせず、よい工合に少しげて、人の※意さんいもよおさせる香気こうきを発する。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
藤七の口吻くちぶりには、我慢のなりかねた憤怒がげ附きます。五十五六の中老人ですが、何んとなく練達な感じのする町人でした。
「もうその訳は先刻から、申し上げておるではございませんか」「ふん、お前はそんなにまで、あんな男にがれているのか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いあんばいに、天人の彫りは無事で、げた箇所ところ波形なみがただけですが、その波形はほりでなくって、みんな、薄い板が組み合せてあるのです。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼奴きゃつ先刻さっき、この室に這入ると間もなく、吾輩がこの大暖炉の中で焼き棄てた著述の原稿の、げ臭いにおいを嗅ぎ付けたに違いないのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
静かに宿命を迎へた死骸である。もし顔さへげずにゐたら、きつとあをざめたくちびるには微笑に似たものが浮んでゐたであらう。
ただわけもなくきつけられて、ちょうどあの黙々とした無心に身体をがしつづけている螢の火にじっと見入っている時と同じ気持になり
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
あの湯気の立つあつものをフウフウ吹きながら吸う楽しみや、こりこり皮のげた香ばしい焼肉を頬張ほおばる楽しみがあるのだろうか? そうでなくて
炎天、日盛ひざかり電車道でんしゃみちには、げるような砂を浴びて、蟷螂とうろうおのと言った強いのが普通だのに、これはどうしたものであろう。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の全心が愛のほのほで燃え尽きませうとも、それを知らせる便宜たよりさへ無いぢやありませんか、此のまゝがれて死にましても
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
フライ鍋へバターを入れて少しげる位にしておいて今の鰯へメリケン粉をまぶしたものを入れてジリジリといためます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私は彼の眉毛まゆげの上を指で撫でゝそれがげて了つてゐるのに氣が附いて、そして、それを昔の通りに太く濃くするものを何かつけようと云つた。
煙のみいたずらにたちのぼりて木にも竹にも火はたやすく燃えつかず。鏡のわくはわずかにげ、丸太の端よりは怪しげなる音して湯気を吹けり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
およそ人間というやつは、興奮の振動体のようなもので、いつも二十四時間、なにかかにかの興奮に神経をがしている。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家々の高張、軒提燈のきぢょうちんは云うも更なり、四ヶ所の大篝火おおかがりびは天をもがすばかりにて、森の鳥類を一時に驚かすのであった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
天もげよと燃えあがる熖の紅ではなく、淋しい不可思議な花の咲く秋の野の黄昏たそがれを、音もなく包む青ばんだもやである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
誰もが大火の火熱によって数町先のものがげることや、大火の呼び起こす烈風がその方向を気ままに変えることや
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
飯を炊きつつある際に、病人の方に至急な要事が出来るといふと、それがために飯がげ付くとか片煮えになるとか、出来そこなふやうな事が起る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蕎麥そば里芋さといもをまぜてつくつたその燒餅やきもちげたところへ大根だいこんおろしをつけて焚火たきびにあたりながらホク/\べるのは、どんなにおいしいでせう。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして甚兵衛は、二月の末になるのを待ちがれました。馬は相変わらず元気で、毎日材木の荷車をひきました。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
木と木の摩擦は木質より細粉さいふんを生じ、此細粉はねつの爲にげてホクチの用を爲す。是實驗じつけんに因りて知るを得べし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
芝居しばゐ土間どま煙草たばこつて、他人たにんたもとがしたものも、打首うちくびになるといふうはさつたはつたときは、皆々みな/\あをくなつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かまのそこがだんだんあつくなってきて、そのうちじりじりげてきたので、さすがの山姥やまうばもびっくりして
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さあさあ、こんなところにいないで早く表へ出て行っておくれ。私は用があるんだよ。おかまの御飯が噴いているのに、お前のお蔭でげ臭くなったじゃないか
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
むねも完全に焼け落ちてしまいました。ほのおは相変らず天をがすといえども、要するに余燼よじんに過ぎません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれども、如何仕様どうしようも無い、って行く外はない。咽喉のどは熱してげるよう。いっそ水を飲まぬ方が手短に片付くとは思いながら、それでもしやにひかされて……
おほいなる都會をうづつくさうとする埃!………其の埃は今日も東京の空にみなぎツて、目路めじはてはぼやけて、ヂリ/″\り付ける天日てんぴがされたやうになツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その材料は土地ごとに甚だ区々まちまちで、がますすきの穂の枯れたものも使えば、或いは朽木くちきの腐りかけた部分を取ってきて、少し火にがして貯えて置く者もあったが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼等かれらはじり/\とのどげるやうかんじてもにがかほしかめつゝんでものさへある。比較的ひかくてき少量せうりやうさけたびにするたびむしろうへこぼれても彼等かれらをしまない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
学校で、金子先生の無内容なお話をぼんやり聞いているうちに、僕は、去年わかれた黒田先生が、やたら無性むしょうに恋いしくなった。げつくように、したわしくなった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
水がことごとく火の上に落ち、灰の雲が、うるさいものに腹を立てた獣のように、オノリイヌ目がけて飛びかかり、からだを包み、呼吸をつまらせ、皮膚をがした。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
とほむかしに、燒肉ビフステーキすこぎてるからと怒鳴どなつて、肉叉フオークもつけずにいぬはせてしまつた一件いつけんや、「サンドウイツチ」は職工しよくにん辨當べんたう御坐ござるなどゝ贅澤ぜいたくつて
「それがお前の鳥をがす理由になるのかな? その色はね」とここで彼は私の方へ向いて、——
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
げつくやうな砂を踏んで彼女はみぎはに立つて、ぼんやり波の戯れを見てゐたが、長く立つてゐられなかつた。目がくらくらして波と一緒に引込まれて行きさうであつた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
私が空っぽの胃をきずってひょろひょろ街を歩いているうちに、ある家の芥溜ごみための中に、げついて真黒なめしが捨ててあるのを見て、そっとそれを口に入れたことを。
おせいの誘惑によつて、何とか生きかへりたいと思ひ、一種のげつくやうな興奮をさへ感じてゐる。——眼の前にゐる亭主とゆき子を眼の前から消してしまひたかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
例令たとえ遠山とおやまは雪であろうとも、武蔵野の霜や氷は厚かろうとも、落葉木らくようぼくは皆はだかで松のみどりは黄ばみ杉の緑は鳶色とびいろげて居ようとも、秩父ちちぶおろしは寒かろうとも、雲雀が鳴いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まんは口をげるようにしてげだらけの炉縁ろぶちへ、煙管きせるたたきつけるようにしていった。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
このあたりを取り巻いているものは、ひろびろとした荒寥こうりょうたる環境かんきょうばかりでした。からびた褐色かっしょくのヒースと、うす黒くげた芝草しばくさが、白い砂洲さすのあいだに見えるだけでした。
ただすさまじい雷鳴と共に、家内が俄かに明るくなったように感じただけであったが、雨が晴れてから出てみると、かの柳は真っ黒にげて、大木の幹が半分ほども裂けていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
堤防の下に立っている焼残りの樹木と、げた柱ばかりの小家を吹き倒そうとしている。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何物にか執着しふぢやくして、黒くげた柱、地にゆだねたかはらのかけらのそばを離れ兼ねてゐるやうな人、けものかばねくさる所に、からす野犬のいぬの寄るやうに、何物をかさががほにうろついてゐる人などが
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
赤い恐ろしいほのおが見える、街並の家がそこにちゃんと見えているのにそれとは別にまぶしいような火焔がそこらいちめんに拡がってみえる、のどがすような、熱い噎っぽい煙の渦
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
辟易へきえきしていると、なかから、「——どうぞ」と細君が言い、その声と一緒に、ヘットのにおいと、ソースのげついた臭い、そういったお好み焼屋特有の臭いをはらんだ暖かい空気が
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)