とし)” の例文
私の心持は、また、三つのとし行方知れずになったお染のことで一パイになり、その日その日の仕事にも身が入らない有様になりました
親兄弟の同意せぬ恋愛結婚などはまして遂行すべくもない薫である。十九になったとしに三位の参議になって、なお中将も兼ねていた。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いつの間にやらだんだん口がおごって来て、三度の食事の度毎たびごとに「何がたべたい」「かにがたべたい」と、としに似合わぬ贅沢を云います。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのとしも段々せまって、とう/\慶応三年のくれになって、世の中が物騒ぶっそうになって来たから、生徒も自然にその影響をこうむらなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
卯平うへい久振ひさしぶり故郷こきやうとしむかへた。彼等かれらいへ門松かどまつたゞみじかまつえだたけえだとをちひさなくひしばけて垣根かきね入口いりくちてたのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
単に人を悩ます者がおとらであり、おとらはとし久しき狐なることを証明するためならば、それほど力を入れずともよいのであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
カスチリヤの使と、支那の使とを引見したるは、すなわこのとしにして、の翌年ただちに馬首を東にし、争乱のの支那に乱入せんとしたる也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
致すはこゝのこと林藏はよいとしことほかずき夫故大方然樣さやうな一けんでも御座りませうが主有者ぬしあるものに手を出すの密夫まをとこなどは致ませんが只々たゞ/\ぜに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
気にしながらえぬものは浮世の義理と辛防しんぼうしたるがわが前に余念なき小春がとし十六ばかり色ぽッてりと白き丸顔の愛敬あいきょうこぼるるを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
わするゝひとありとかきしがこれはまたいかにかへるべきいへわすれたるかとしもまだわかかるを笑止せうしといはゞ笑止せうしおもへばさていぶかしきことなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それが自分の十か十一のとしの時であったと書いてよこした。考えて見ると自分は幼少ちいさい時から苦労性であったと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「何だエ」と伯母は眼をまるくし「其様そんなえら婦人ひとで、其様そんなとしになるまで、一度もお嫁にならんのかよ——異人てものは妙なことするものだの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今年ことしみたいに、紅白こうはくはながたんといたとしい。一面いちめんめるやうないろだ。どこへつても垣根かきねうへしゆ御血潮おんちしほ煌々ぴかぴかしてゐる。
予(蒲松齢ほしょうれい)は庚戌こうじゅつとし、南に遊んで泝州に往き、雨にへだてられて旅舎に休んでいたが、そこに劉生子敬という者がある。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「旧暦のとし、山の狸が園遊会をやってさかんに舞踏します。その歌にいわく、いさ、としので、御山婦美おやまふみまいぞ。スッポコポンノポン」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ついては、としも押しつまりましたし、久々で御健勝の体をも仰ぎ申したく、近く歳暮せいぼの儀をかねて、出府しゅっぷいたすつもりです。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『アハハハハハばかを言ってる、ドラ寝るとしよう、皆さんごゆっくり』と、幸衛門の叔父おじさんとしよりも早く禿げし頭をなでながら内に入りぬ。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかるに天保てんぽう四年みずのととし十二月二十六日のの刻すぎの事である。当年五十五歳になる、大金奉行おおかねぶぎょう山本三右衛門さんえもんと云う老人が、ただ一人すわっている。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのとし有名なる岸田俊子きしだとしこ女史(故中島信行氏夫人)漫遊しきたりて、三日間わがきょうに演説会を開きしに、聴衆雲の如く会場立錐りっすいの地だもあまさざりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
へい、そんな事は容易たやすいことで、わたしは、子供の時からこのとしまで三十年間も、手品師で飯を喰つてまゐりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
御両親が相果あいはててからと云うものは、わしの手許に置いて丹精をしてやったのじゃないか……女子おなごの手もない寺へ引取り、十一のとしから私が丹精をして
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兄からお聞きになっているなら、大抵のことはもう御承知でしょうが、わたくしは今年二十歳はたちですから、あしかけ七年前、わたくしが十四のとしでした。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家庭の紛雑いざこざは島村氏を極度の神経衰弱に陥らしめた。氏はそれを治すためにあるとしの秋から冬にかけて、かなり長い間京都三本木ぼんぎ信楽しがらきに泊つてゐた。
私もこのとしになるまで、ずいぶん変わった世間も見てきましたが、こんな恐ろしい目に出会ったのは天にも地にも、これが生まれて初めてなんでして……
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
何千という観客の歓声に取り巻かれていた者が、けちなとしの市にかかる見世物小屋へ現われるわけにはいかない。
断食芸人 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「三十のとしから五十まで、寛政七年から文政元年まで、ざっと数えて二十年間、わしはこの道では苦労しています」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
としは二十六七にもなろうか。髪はさまでくしの歯も見えぬが、房々と大波を打ッてつやがあって真黒であるから、雪にも紛う顔の色が一層引ッ立ッて見える。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
きんの指輪をはめた死人の指。おや、悲しくもないのに涙が出ました。こんなとしになって、つまらぬ花の事で涙を流すなんて、私もずいぶんお馬鹿ですね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
およそ十月よりとしえて四月のはじめまでは、むなしくやしなひおくのみ也。これ暖国だんこくにはなき難儀なんぎの一ツ也。
まだとしも若し、気もさかんであるから、高い足場へ上って、差図さしずをしたり、竹と丸太を色々に用いてあごなどの丸味や、胸などのふくらみを拵えておりますと
古来、民間に厄年やくどしと称して一般に忌み嫌うとしがある。例えば十九歳、三十三歳、四十二歳、四十九歳などを厄年と唱えて、厄払いをすることになっておる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その他小さな寺々からも参りますが、この時ラサ府に集まる坊さんの数は二万五、六千人、としによって多少はありますけれども、まず大抵その位の数である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私等は十五のとしに女学校を卒業しましたが、南さんはそのまゝおさがりになり、私は補習科に残りましたから、淋しく物足らない思ひをすることもしば/\ありました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なほとしの入るものを計るにまさに出づるに五倍すてふ、子爵中有数の内福と聞えたる田鶴見良春たづみよしはるその人なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ハハハと笑って口をあいて見せた歯並はなみが、ばかに細かくて白い。としは、そうさ、七兵衛よりも十歳とおも若いか、笠を取って見たら、もっとずっと若いかも知れない。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしてここの絵馬にはめの字の記されたものが多く、うまとしの男、め、め、め、と幾つも記されてある。
(前略)とし辛巳かのとみ十二月廿一日癸酉みづのととりの日、穴穂部間人あなほべはしひとの母后崩じ、明年二月廿二日甲戌きのえいぬの夜半に太子こうず。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
一、ペンネンノルデが七つのとしに太陽にたくさんの黒いとげができた。赤、黒い棘、父赤い、ばくち。
お前の生命いのちを救つてくれたのさね。去年の亀の親かも知れない。或は親の又親ぐらゐかも知れんよ。何しろ大きな亀だつたからね。百年以上のとしをとつてゐたらう。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
もとからずんば、このところしたがはん。(六〇)としさむうしてしかのち松柏しようはくしぼむにおくるるを
今のとしになるまで全生涯ぜんしょうがいの大半を暗いこの世界で過して来たというこの老人は、もう何事もあきらめているのであろうか、言葉少なにいつも笑っているような顔であった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
丁度此としの春三月、南日、中村の二君は丹波山村に行かれ、其処そこから大洞山(飛竜山)に登られて、此方面に於ける暗黒なる奥秩父の山脈に一道の光明を与えられた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
としも暮れに近づいた。或る日彼女の良人をつとの兄といふのが所用で大阪へ行つた帰りとかで立ち寄つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
そんなふうで、もみの木のとしは、まいねんふえてゆくふしのかずを、かぞえて見ればわかりました。
二十八さいの今日まで女を知らずに来たという話ももう冗談じょうだんに思えず、十八のとしから体をらして来た一代にとっては、地道な結婚をするまたとない機会かも知れなかった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それらの繪馬ゑままじつて、女の長い黒髮の根元から切つたらしいのが、まだ油のつやも拔けずに、うやうやしく白紙はくしに卷かれて折敷をしきに載せられ、折敷のはしに『大願成就だいぐわんじやうじゆとらとしの女』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「今夜に限って妙に述懐めくではないか。しかし、言って見ればもうかれこれ半としにはなろう」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
貴州の紅崖山の深洞中より時に銅鼓の声聞ゆ、諸葛亮ここに兵をとどめたといい、夷人祭祀ごとに烏牛くろうし、白馬を用うればとしみのる(『大清一統志』三三一)てふ支那説に近い。
「男爵も此の時分はまだ御盛ごさかんであったな。丁酉ていゆうとし季春きしゅんというとわしが辞職する前の年だ。」
春雨の夜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
降誕祭前一週間ほど、市役所前の広場にとしいちが立って、安物のおもちゃや駄菓子だがしなどの露店が並びましたが、いつ行って見ても不景気でお客さんはあまり無いようでした。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)