はら)” の例文
同じ祝詞のりとの中には、また次のような語も見えます。曰く、「国中に荒振神等あらぶるかみたちを、かみはしに問はしたまひかみはらひに掃ひたまひて云々」
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幡旗はんきに埋められて行く車蓋しゃがい白馬はくば金鞍きんあんの親衛隊、数千兵のほこの光など、威風は道をはらい、その美しさは眼もくらむばかりだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪をはらふは落花らくくわをはらふにつゐして風雅ふうがの一ツとし、和漢わかん吟咏ぎんえいあまた見えたれども、かゝる大雪をはらふは風雅ふうがすがたにあらず。
一切の枝葉をはらひ、一切の被服ひふくぎ、六尺似神じしんの赤裸々を提げて、平然として目ざす城門に肉薄するのがすなはち此手紙である。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
君側の奸をはらわんとすと云うといえども、詔無くして兵を起し、威をほしいままにして地をかすむ。そのすなわち可なるも、其実は則ち非なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と共に、たとい内裏拝観の際でも一塵をはらう事を解せざるほどに無責任の男である。浅井君は浮ぶ術を心得ずして、水にもぐる度胸者である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寺男が閼伽桶あかおけと線香とをもってきて、墓のこけはらっている間、私たちは墓から数歩退いて、あらためて墓地全体をみやった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ただ野田山の墳墓をはらいて、母上と呼びながら土にすがりて泣き伏すをば、此上無こよな娯楽たのしみとして、お通は日課の如く参詣さんけいせり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「冗談じゃない、酒は憂鬱うれいはら玉箒たまははきというんだぜ、酒を飲んで胸を重くするくらいなら、重湯を食べて寝ていた方がいい」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
西洋紙にあらざるわたしの草稿は、反古となせば家のちりはらうはたきを作るによろしく、やわらげてかわやに持ち行けば浅草紙あさくさがみにまさること数等である。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この阜のいただきに公園地あり、木の下道清くはらひて、瀟洒なる茶亭を設く。呼子湾を圧するながめこころよし。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それが右からも左からも、あるいは彼の辮髪べんぱつはらったり、あるいは彼の軍服を叩いたり、あるいはまた彼の頸から流れている、どす黒い血を拭ったりした。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかもその人家は「時」の大きな手にすつかりはらつて取去られて了つたかのやうに一軒もそこに見出されなかつた。すつかり桑畠くはばたけと野菜畑とになつてゐた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
雪の降ってる中ですから殊更ことさらに池のような深みたまりの間に入ってそうして雪をはらい込んでその中へ寝たんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
〔譯〕人心のれい太陽たいやうの如く然り。但だ克伐こくばつ怨欲えんよく雲霧うんむ四塞しそくせば、此のれいいづくに在る。故に意をまことにする工夫は、雲霧うんむはらうて白日をあふぐより先きなるはし。
幕府の威信はすでに地をはらい、人心はすでに徳川を離れて、皇室再興の時期が到来したというような声は、血気さかんな若者たちの胸を打たずには置かなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
秋風落葉をはらふが如く名士漸く墓中に入る、多情なる彼は深く人間のたのむべからざるを感ぜしならん。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
それをあの子は知らなんだ。昼間も大抵一人でいた。盆栽の花に水を遣ったり、布団のちりはらったり、扉のつまみ真鍮しんちゅうを磨いたりする内に、つい日はってしもうた。
前途甚だ遠いことであるが、らんではかん。また女子の教育については失敗もあろう。弊害もありましょう。しかし弊害があらばその弊害をはらわなければならん。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
遺念かたみになった、昨年は河童かっぱ橋から徳本峠まで、落葉松からまつの密林が伐り靡けられた、本年は何でも、田代池のつがはらってしまうのだそうであるが、あるいはもう影も形もなくなって
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
このあひだにありて憂愁いうしうはらり、心身しん/\なぐさめたるものは、じつ灌水くわんすゐなりとす。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
小石だもはらひし三五福田ふくでんながら、さすがにここは寺院遠く、三六陀羅尼だらに三七鈴錫れいしやくこゑも聞えず。立は三八雲をしのぎてみさび、三九道にさかふ水の音ほそぼそとみわたりて物がなしき。
表面の虚飾をしりぞけ、またこれをはらい、これを却掃し尽くして、はじめて至親の存するものを見るべし。しからばすなわち交際の親睦は、真率のうちに存して、虚飾と並び立つべからざるものなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
へきは既に引いた葌斎かんさい詩集文政壬午の詩に就いて、其一端を窺ふことが出来る。「但於間事有遺恨。筅箒不能手掃園。」蘭軒は脚疾の猶軽微であつた時は、常に手に箒を把つて自ら園をはらつてゐた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
古来農桑を御奨励になり、正月の初子はつねの日に天皇御ずから玉箒を以て蚕卵紙をはらい、鋤鍬すきくわを以て耕す御態をなしたもうた。そして豊年を寿ことほぎ邪気を払いたもうたのちに、諸王卿等に玉箒を賜わった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
したがつふれしたがつはらところつんで見る事なし。又地にあればへりもする也。かれをもつて是をおもへば、我国の深山幽谷しんざんいうこく雪のふかき事はかりしるべからず。
その面上にははや不快の雲は名残なごり無く吹きはらわれて、そのまなこは晴やかにんで見えた。この僅少わずかの間に主人はその心のかたむきを一転したと見えた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どうも、将軍はすこし神懸かみがかりにかかっているようだから、将軍にいている邪神をはらい落して上げようと思って来た」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かのうづたかめるくちなはしかばねも、彼等かれらまさらむとするにさいしては、あな穿うがちてこと/″\うづむるなり。さても清風せいふうきて不淨ふじやうはらへば、山野さんや一點いつてん妖氛えうふんをもとゞめず。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
煙も地をはらつて、おもてを打つた。したが娘は黙然と頭を垂れて、身も世も忘れた祈り三昧ざんまいでござる。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしもまた彼の人々と同じように、その後を追うべき時の既に甚しくおそくない事を知っている。晴れわたった今日の天気に、わたくしはかの人々の墓をはらいに行こう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
捕われて遠き国に、行くほどもあらねば、この手にて君が墓をはらい、この手にてこうくべき折々の、とこしえに尽きたりと思いたまえ。生ける時は、莫耶ばくやも我らをき難きに、死こそ無惨むざんなれ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お松は今、箪笥から掛物の一幅を取り出してちりはらっていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
燕王の師を興すや、君側の小人をはらわんとするを名として、其のもくして以て事を構えしんを破り、天下を誤るとなせる者は、斉黄練方せいこうれんほうの四人なりき。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
曹操そうそうは、あなたの功を認めるでしょう。あなたは、官軍たるの強みを持ち、曹操の兵を左翼に、劉玄徳を右翼として、大逆の賊を討ちはらうべきです。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、横なぐりに打ち下した竹馬が、まだ青い笹の葉に落花をはらったと思うが早いか、いきなり大地だいちにどうと倒れたのは、沙門ではなくて、肝腎の鍛冶の方でございました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何事にも倦果あきはてたりしわが身の、なほ折節にいささかの興を催すことあるは、町中の寺を過る折からふと思出でて、その庭に入り、古墳の苔をはらつて、見ざりし世の人をおもふ時なり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
弦光は一息ふッ、日のあたる窓下の机のほこりを吹き、吹いた後を絹切ではらった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初雪はつゆきつもりたるをそのまゝにおけば、ふたゝる雪を添へて一丈にあまる事もあれば、一ふれば一度はらふ(雪浅ければのちふるをまつ)これ里言さとことば雪掘ゆきほりといふ。つちほるがごとくするゆゑにかくいふ也。
地方の騒賊をはらっても、社稷しゃしょく鼠巣そそうを掃わなかったら、四海の平安を長く保つことはできぬ。賞罰の区々不公平な点ばかりでなく、嘆くべきことが実に多い。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はらって其後そののちを問えば、御待おまちなされ、話しの調子に乗って居る内、炉の火がさみしゅうなりました。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの煙に咽んで仰向あふむけた顏の白さ、焔をはらつてふり亂れた髮の長さ、それから又見る間に火と變つて行く、櫻の唐衣の美しさ、——何と云ふむごたらしい景色でございましたらう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一昨年の春わたくしは森春濤の墓をはらいに日暮里の経王寺に赴いた時、その門内に一樹の老桜の、幹は半からくだかれていながら猶全く枯死せず、細い若枝のさきに花をつけているのを見た。
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御代みよしずめ、世を護りたまわんがために、悪をはらい、魔を追うところの降魔ごうまの剣であり——また、人の道をみがき、人の上に立つ者が自らいましめ、自らするために
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの煙にむせんで仰向あふむけた顔の白さ、焔をはらつてふり乱れた髪の長さ、それから又見る間に火と変つて行く、桜の唐衣からぎぬの美しさ、——何と云ふむごたらしい景色でございましたらう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かつて明治座の役者たちと共に、電車通の心行寺しんぎょうじ鶴屋南北つるやなんぼくの墓をはらったことや、そこから程遠からぬ油堀の下流に、三角屋敷のあとを尋ね歩いたことも、思えば十余年のむかしとなった。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木理もくめうるわしき槻胴けやきどう、縁にはわざと赤樫あかがしを用いたる岩畳作りの長火鉢ながひばちむかいて話しがたきもなくただ一人、少しはさびしそうにすわり居る三十前後の女、男のように立派なまゆをいつはらいしかったるあとの青々と
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この際、どうか君側の奸をはらい、ご粛正を上よりも示して、人民たちに暗天の憂えなからしめ、業に安んじ、ご徳政を謳歌するように、ご賢慮仰ぎたくぞんじまする
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
演じて夫人の跨下を出づるに至るや、両人覚えず大哭たいこくして曰、「名節地をはらふことここに至る。夫れまた何をか言はん。然れども孺子じゆしの為にはづかしめらるること此に至る。必ず殺して以て忿念ふんねんらさん」
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
駅吏あらかじメ亭ヲはらツテ待ツ。すなわチ酒ヲ命ジテ飲ンデ別ル。(児精一郎ハ藩命ヲ以テ東京ニ留学ス)過午草加そうか駅ニ飯ス。越ヶ谷こしがや大沢ヲ粕壁かすかべノ駅ニ投ズ。諸僚佐皆来ツテ起居ヲうかがフ。晩間雲意黯淡あんたんタリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)