手先てさき)” の例文
その帽子ぼうし着物きものくつはもとより、かお手先てさきまで、うすぐろくよごれていて、長年のあいだたびをしてあるいたようすが見えています。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さうして御米およねかすり羽織はおり受取うけとつて、袖口そでくちほころびつくろつてゐるあひだ小六ころくなんにもせずに其所そこすわつて、御米およね手先てさき見詰みつめてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
手先てさき火傷やけど横頬よこほゝのやうな疼痛いたみ瘡痍きずもなかつたが醫者いしや其處そこにもざつと繃帶ほうたいをした。與吉よきちばかりして大袈裟おほげさ姿すがたつてかへつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ぐっとばしたまつろう手先てさきへ、春重はるしげ仰々ぎょうぎょうしく糠袋ぬかぶくろ突出つきだしたが、さてしばらくすると、ふたたっておのがひたいてた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「はつ‥‥」と、田中たなかはあわてて路上ろじやう腹這はらばひになつてばした。が、はなかなかとどかなかつた。手先てさき銃身じうしんとが何度なんど空間くうかん交錯かうさくつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
めればふりきるそでたもとまづいましばしとびつうらみつりつく手先てさきうるさしと立蹴たちげにはたと蹴倒けたふされわつとこゑれとわがみゝりてかへるは何處いづこ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
案内せし我々われ/\は江戸南町奉行大岡越前守樣御組中田甚太夫殿の手先てさき岡引をかぴきなりと云ければ用右衞門は増々ます/\驚きけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
といつて手先てさきやはらかてのひらさはると第一番だいいちばん次作兄じさくあにいといふわかいのゝ(りやうまちす)が全快ぜんくわい、おくるしさうなといつてはらをさすつてるとみづあたりの差込さしこみまつたのがある
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と止める手先てさき振切ふりきつて戸外そとへ出る途端とたんに、感が悪いから池の中へずぶりはまりました。梅
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
去年きよねん夏頃なつごろから稼場かせぎば姿すがたはじめ、川風かはかぜあきはやぎ、手袋てぶくろした手先てさきこゞえるやうなふゆになつても毎夜まいよやすまずにるので、いまでは女供をんなどもなかでも一ばん古顔ふるがほになつてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
駆けつけて来た与力、お手先てさき。五里霧中のていでぼんやり引上げて行った。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
なほさぐりし手先てさきさはりしはまさしく熊也。
手先てさきでむずむず はや吹きたそう。
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
かれ自由じいううしなうたその手先てさきあたゝかはるつもつて漸次だん/\やはらげられるであらうといふかすかな希望のぞみをさへおこさぬほどこゝろひがんでさうしてくるしんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こほ手先てさき提燈ちやうちんあたゝめてホツと一息ひといきちからなく四邊あたり見廻みまはまた一息ひといき此處こゝくるまおろしてより三度目さんどめときかね
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すかさず咽喉のどもと突貫つきとほさんとしけれども手先てさきくるひてほゝより口まで斬付きりつけたり源八もだえながら顏を見ればおたかなりしにぞ南無なむ三と蹴倒けたふして其所そこ飛出とびいだつれ七とともあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一體いつたいが、一寸ちよつと手先てさきで、障子しやうじ破穴やぶれあなやうかほでる、ひたひしろ洒落しやれもので。……
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手紙はこまかい字でいてあつた。一行二行と読むうちに、読み終つたぶんが、代助の手先てさきから長くれた。それが二尺あまりになつても、まだ尽きる気色はなかつた。代助のはちらちらした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かたからちちへとながれるほうずきのふくらみをそのままのせんに、ことにあらわのなみたせて、からこしへの、白薩摩しろさつま徳利とくりかしたようなゆみなりには、さわればそのまま手先てさきすべちるかと
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
の人々の中に長吉ちやうきち偶然ぐうぜんにも若い一人の芸者が、口には桃色のハンケチをくはへて、一重羽織ひとへばおり袖口そでぐちぬらすまいめか、真白まつしろ手先てさきをば腕までも見せるやうに長くさしのばしてゐるのを認めた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おこされ、欠伸あくびをしながら手先てさきき、梅
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぢいえたくしてんだつけな、そんぢや先刻さつきくすりつてもらあとこだつけな」おつぎは卯平うへい手先てさきにしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
葬禮さうれいの納め物となすならば寺へこそをさめるはずなれ何ぞ燒場やきばへ納めると云はふあらんやサア尋常じんじやうに白状致せ不屆者めそれせめよと言葉の下より手先てさきの者共しもとあげて左右より彌十のもゝ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)