今日こんにち)” の例文
母はもし自分というものがなかったなら今日こんにちまでこうして父のなくなった家にさびしく一人で暮してはおられなかったかも知れない。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
沢庵より上る利益の計算のために必要な算盤や、コムパス達は、今日こんにちの土曜と明日みやうにちの日曜とを利用して、魚釣うをつりに出かけるのである。
工場の窓より (新字旧仮名) / 葉山嘉樹(著)
加之おまけみちが悪い。雪融ゆきどけの時などには、夜は迂濶うっかり歩けない位であった。しかし今日こんにちのように追剥おいはぎ出歯亀でばかめの噂などは甚だ稀であった。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十三世紀におけるフィレンツェの生活を知らなかったとしたら、自分は神曲を、今日こんにちの如く鑑賞する事は出来なかったのに相違ない。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たとへば、淡路あはぢ和泉いづみあひだうみは、古來こらい茅渟ちぬうみせうたつたのを、今日こんにちはこの名稱めいせうばないで和泉洋いづみなだまたは大阪灣おほさかわんせうしてゐる。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
今日こんにちは、」と、声を掛けたが、フト引戻ひきもどさるるようにしてのぞいて見た、心着こころづくと、自分が挨拶あいさつしたつもりの婦人おんなはこの人ではない。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このトトキの語が、今日こんにちなお日本の農民間に残って、ツリガネソウ一名ツリガネニンジン、すなわちいわゆる沙参しゃじんをそういっている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そらこが狼火のろし……そして最後さいご武運ぶうんいよいよきてのあの落城らくじょう……四百年後ねんご今日こんにちおもしてみるだけでも滅入めいるようにかんじます。
すべて狸一派のやり口は今日こんにち開業医の用いておりやす催眠術でげして、昔からこの手でだいぶ大方たいほうの諸君子をごまかしたものでげす。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『しかし、僕のよりも、君のお父さんのよりも、また今日こんにちわれわれが見る、どんな人の肩よりも広かったにちがいないと思うねえ。』
『いや今日こんにちは、おゝきみ今日けふ顏色かほいろ昨日きのふよりもまたずツといですよ。まづ結構けつこうだ。』と、ミハイル、アウエリヤヌヰチは挨拶あいさつする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかるに経済社会の進捗しんちょく富財ふざい饒多じょうたとなるに従って、昨日の贅沢品ぜいたくひん今日こんにちは実用品と化し去り、贅沢品として愛翫せらるるものは
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しかしそれも今日こんにちはもう歴史である。これからさきはどう変って行くか、私たちはまた一つの新しい経験を積まなければならぬのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日こんにちはその事で上つたのではないのですから、今日こんにちの始末をお付け下さいまし。ではどうあつても書替は出来んと仰有おつしやるのですな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今日こんにちは結構な御演題で、聴衆一同多大な期待をもつて居るやうでございます。で、閣下のおほせられまする体育と申しますのは……」
それに、これを書いた当時と二十年後の今日こんにちとでは、周囲の事情も異り、人も変り、そういう自分の心の持ち方も改まって来ている。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不知庵主人フチアンシユジンやくりしつみばつたいする批評ひゝやう仲々なか/\さかんなりとはきゝけるが、病氣びやうき其他そのたことありて今日こんにちまでにたるはわづか四五種しごしゆのみ
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
今日こんにちの平尾家はその頃よりも一層盛大で、今の当主は二代であるが、先代の賛平氏時代も相当な資産家で化粧品をやっていました。
「おじいさん、今日こんにちは、いいお天気てんきだから、どこかへおかけなさい。」と、うちのものがいうと、おじいさんは、はげあたまそらけて
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
現に今日こんにちでも、彼のことといえば僕の祖母は大いに同情して、もし誰かがその悪口でも言おうならば烈火のごとくに怒り出すのだ。
さうして、このふたつながら、ならんでおこなはれてゐました。そのとなごとが、今日こんにちでも、社々やしろ/\神主かんぬしさんたちのとなへる、祝詞のりとなのであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
今日こんにちは、ハンス・ハンゼン。相変らずかわいい前髪だね。まだ一番なのかい。パパとママによろしく。ほんとにきれいな子だね……」
此時たるや、精神上に言うべからざるの感を為すは、これ終身忘るる事能わざるべきなり。故に今日こんにちに於ても時々思い出す事あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
始めて男性に心身を許してしまった今日こんにち、私の結婚生活に対する幻影は早くもさめてしまった。古人が結婚は恋愛の墓だといっている。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さてさういふさる人間にんげんとの中間ちゆうかんのものゝほね今日こんにちまでにいかほど發見はつけんされたかといふに、殘念ざんねんながら中々なか/\おもふようにてまゐりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
防波堤が無かつたら直ちに印度インド洋の荒海あらうみに面したコロムボは決して今日こんにちの如く多数の大船たいせんを引寄せる良港とは成らなかつたであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
奉「黙れ今日こんにち其の方に尋ぬるは余の儀ではない、友之助が北割下水にて重傷を負い、其の方宅へ持込まれたと云うは何月何日じゃ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
離れて大に暖かみを覺ふ昨日車中より見たる畑の麥はわづかに穗をいだしたるのみなりしが今日こんにち馬上に見れば風に波寄る程に伸びたり山を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
つまり今日こんにち尊氏に従っている者も、かつては、ここの探題屋敷を攻めて英時を自滅させた当時の下手人ならざるはないのであった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはただに儒学じゅがくのみでなく、仏教においても同然で、今日こんにちもなおがたき句あれば「珍聞漢ちんぷんかん」とか、あるいは「おきょうよう」なりという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
じつ著者ちよしやごときは、地震學ぢしんがく今日こんにち以上いじよう進歩しんぽしなくとも、震災しんさいほとんど全部ぜんぶはこれをまぬか手段しゆだんがあるとかんがへてゐるものゝ一人ひとりである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
今日こんにち、この詩を読むと、すでに古典風で隔世の感があるが、内容からいえばこの詩人の思いには堂々とした、重い西欧名画の接触がある。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
遠き故事を引くにも及ばず、近きためしは源氏の末路まつろ仁平にんぺい久壽きうじゆの盛りの頃には、六條判官殿、如何いかでか其の一族の今日こんにちあるを思はれんや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
今日こんにちは」と、加集は聲をかけた。そして窓の奧から婆アさんが一人、樹の濡れ縁のところへ出て來たのに向つて、「まだ來ませんか?」
今日こんにち、ひのき、すぎなどはやしをこのたいなかるのは、ひとうつゑたもので、もと/\ひのき、すぎなど温帶林おんたいりん生育せいいくしてゐたものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
可哀かわいそうに! 普通なみの者なら、何ぼ何でも其様そんなにされちゃ、手をおろせた訳合わけあいのもんじゃございません、——ね、今日こんにち人情としましても。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかし、貴様の持っている例の品物を元の持主に返し(送り先は知っている筈だ)今日こんにち以後かたく秘密を守ると誓うなら、命は助けてやる。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
勿論もちろん今日こんにちおいても潜水器せんすいき發明はつめいいま充分じゆうぶん完全くわんぜんにはすゝんでらぬから、この手段しゆだんとて絶對的ぜつたいてき應用おうようすること出來できぬのはまでもない。
こと今日こんにちは鉄道も有り電信も有る世界にて警察の力をくゞおおせるとは到底とうてい出来ざる所にして、おそかれ早かれ露見して罰せらるゝは一つなり。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
お経の文句を知ってる人が一人もありませんので……今日こんにちこうしてあなた様がお見えになったのは、ほとけ様のお引合せに違いありません。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
詰まり僕の今日こんにちまでの生活は此点に到達しようとする、秘密な序幕である。僕はかうしなくてはならないやうに前から極められてゐるのだ。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
そこで、今日こんにちまで「足が早いから名誉の勝利を得たのだ」という言葉を、亀や、かたつむり類は、そのままに信用しています。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
筆一本握る事もせずに朝から晩まで葉子に膠着こうちゃくし、感傷的なくせに恐ろしくわがままで、今日こんにち今日の生活にさえ事欠きながら
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
馳け悩まして行く、その怪活躍ぶりが今日こんにちまで、頭山満翁と同様に、新青年誌上に紹介されないのは嘘だという事を知っているのみである。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「老師がお亡くなりになった今日こんにち、必然的に後継あとめの問題が起こっておるであろう。イヤ、身どもが萩乃どのとひとこと話しさえすれば……」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今日こんにちこれ復興ふくこうするをべし、而してその復興ふくこうはうたるや、安楽椅子あんらくいすかゝり、或は柔軟じうなんなる膝褥しつぢよくうへひざまづ如何程いかほど祈祷きたう叫号きうごうするも無益むえきなり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
今日こんにち不図ふと鉄道馬車てつだうばしやの窓より浅草あさくさなる松田まつだの絵看板かんばん瞥見致候べつけんいたしそろ。ドーダ五十せんでこんなに腹が張つた云々うん/\野性やせい遺憾ゐかんなく暴露ばうろせられたる事にそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
詩人 僕が聞きたいつていふのは、その成立ちでなく、あなた方今日こんにち現在の関係、つまりその、世帯休業といふものに関する規約の条文です。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ところが独逸ドイツ文化の力はすべての方面に入り満ちているのである。これが四方しほうに敵を受けて今日こんにちなお防禦より攻勢を取っているゆえんである。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
今日こんにち、一同に改めて話すことがある。ほかでもないがわしも老年に及んで、一、二年このかたとかく体の工合が思わしくない。
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)