)” の例文
けれどもこう真面目まじめに出られて見ると、もうかえす勇気もなかった。その上彼のいわゆる潰瘍とはどんなものか全く知らなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
光秀は恩を謝して、それを持つと、歩卒にじって、前線に出、乱軍となると、敵地へふかく駈けこんだまま姿をかくしてしまった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父はすぐその手桶に嘉永四年云々と書き認めていた。その時俄に邸内が騒がしくなって、火の見やぐらで鐘と板木はんぎとあえぜに叩き出した。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
養蚕をしている村への菜穂子や明をじえての雨後の散歩、村はずれでのしいほど期待に充ちた分かれ——、それだけの出会が
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その中へ林檎の裏漉しにしたのを入れてよくぜてそれからうつわごと水の中へ漬けると寒い時には一時間位で冷えて固まります。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
榛軒は抽斎より一つの年上で、二人のまじわりすこぶる親しかった。楷書かいしょに片仮名をぜた榛軒の尺牘せきどくには、宛名あてなが抽斎賢弟としてあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「うむ、一しよにしてくろ」とおつたはやはらかにいつた。勘次かんじふたつを等半とうはんぜてそれからまたおほきな南瓜たうなすつばかり土間どまならべた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「能くぜ返す奴ぢや。小説家志願だけに口の減らぬ男ぢやナ。併し汝が瘠肱を張つて力んでも小説家ぢやア銭が儲からんぞ。」
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
曇ると見るに、むらがりかさなる黒雲くろくもは、さながらすそのなき滝の虚空こくうみなぎるかとあやしまれ、暗雲あんうんたちまち陰惨として、灰に血をぜた雨が飛んだ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
母親は二階のとこの間に、ゆるような撫子なでしこと薄紫のあざみとまっ白なおかとらのおといろいこがねおぐるまとをぜてけた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
偃松の枝に捉まって、涸谷を眼下に瞰下みおろすようになったが、ここにも大きな残雪があったので、雪と岩片をぜに渡った。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
オペラやリードもほんの少しぜるが、それは刺身のつまほどで、かつて日本へ来た時、五夜の独唱曲目に、大作曲家のものはたった一つ
最後に「日本の聖母の寺」その内陣ないじんのおん母マリア。穂麦ほむぎじつた矢車やぐるまの花。光のない真昼の蝋燭らふそくの火。窓の外には遠いサント・モンタニ。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
殊に庭の襁褓おしめが主人の人格を七分方下げるように思ったが、求むる所があって来たのだから、質樸な風をして、たれも言うような世辞をぜて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「あぶなかッたら人の後に隠れてなるたけ早く逃げるがいいよ」とかぶとの緒をめてくれる母親が涙をぜて忠告する。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
男百日たず、九十九日めに開き見るに、紫雲立ち上って雲中より鐘が現われたとあるは、どうも浦島と深草少将を取りぜたようなつたない作だ。
『英語をぜて書いたのは面白いぢやありませんか。初めのマイデヤサーだけは私にも解るが、終ひの文句は何といふ意味です? 甲田さん。』
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
東京あたりの雛店は、殊に十軒店とか両国とかいう専門的の雛店は雛人形、雛道具しか並べておらぬ。ぜ物なしである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
帆村探偵をぜた係官の一行が、深山理学士の研究室を訪ねたのは、新しい赤外線テレヴィジョン装置が出来上ったというの日の夕刻のことだった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
五俵、十俵と、雑穀をじえた百姓達のうりに出す米のすうは、豊作見越しの収穫まえだけに、倉庫の店先には、幾台となく、いつも売込うりこみの米は止まっていた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
そこで裂石の雲峰寺を出た紳士青年商人学生取りぜの一行が改めて馬上の人に注意することになりました。
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのうしろには二枚折の屏風びょうぶに、今は大方おおかた故人となった役者や芸人の改名披露やおさらいの摺物すりものを張った中に、田之助半四郎たのすけはんしろうなぞの死絵しにえ二、三枚をもぜてある。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
若旦那はその時に、昨日きのうの石切場の方を指して、頭を振ったり、奇妙な手真似や身ぶりをぜたりして、何かしら一所懸命に話して御座るように見えました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それにこの暗さをおおう化粧土さえも用いた歴史がなく、また釉薬うわぐすりも色のえた瑞々みずみずしいものを用いたためしがなく、ただ赤土をうすくいて、これに灰を
多々良の雑器 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ふたりは、おかりかけていました。みずのようなそらに、のない小枝こえだが、うつくしくじっていました。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
付け旅も少しは草臥くたびれて辛い事の有るのが興多しあまり徃來の便を極めぬうち日本中を漫遊し都府を懸隔かけへだちたる地の風俗をぜにならぬうちに見聞けんもん山河やまかはも形を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
二間三間とじんどって、ゆっくりはいりたければ、代金さえ支払えば定員だけはいらなくともよいのだし、そのかわりに子供もぜて六人はいっている窮屈なのもある。
どうしたものかんがへ、こまつたものとなげき、はては意見いけん小言こゞとぜてさまざまかせぬ。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
常にうぐいすを飼っていてふんぬかぜて使いまた糸瓜へちまの水を珍重ちんちょうし顔や手足がつるつるすべるようでなければ気持を悪がり地肌のれるのを最もんだべて絃楽器を弾く者は絃を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おにおおぜいつかまえておいたむすめたちの中には、池田いけだ中納言ちゅうなごんのおひめさまもじっていました。頼光らいこうおにのかすめた宝物たからものといっしょにむすめたちをつれて、めでたくみやこかえりました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
これもマア、酒に酔ったこの場だけの坐興で、半分位も虚言うそぜてはなすことだと思って聞いていてくれ。ハハハハハ。まだ考のさっぱり足りない、年のゆかない時分のことだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
耳をすますと、風と雨との音にじって、やはりことりことりと戸を叩いています。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
春風馬堤曲とは俳句やら漢詩やら何やらぜこぜにものしたる蕪村の長篇にして、蕪村を見るにはこよなく便となるものなり。俳句以外に蕪村の文学として見るべきものもこれのみ。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
露貨は其様そんなに持たない、仏貨をぜたら有るかも知れぬと、云ふとそれでもいと云ふ。かく八十円を出して仕舞しまふと、後は途中の食費と小遣が十円も残るや残らずになるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
露貨ろくわ其樣そんなに持たない、佛貨ふつくわぜたら有るかも知れぬと云ふと、其でも好いと云ふ。兎に角八十圓を出して仕舞ふと、後は途中の食費と小遣いが十圓も殘るや殘らずになるのである。
巴里まで (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
半焦の腱によつて互に引吊られ或ひは半ばとろけた肉塊の粘りで共に膠着し合つてゐるボロ/\に折れ崩れた人骨、煑沸された腦髓、石炭とざつて煮凝にこごりになつた血、強烈な竈の火熱の中で
無法な火葬 (旧字旧仮名) / 小泉八雲(著)
下りて行きかけるおくみに生欠伸なまあくびじりにお言ひつけになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
とお父さんがぜ返した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大總おほぶさ小總こぶさぜて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
河番所も、常よりは役人の手をやし、江戸表から来た同心などは、素槍を持って中にじっていた。戦時のような厳しさなのである。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、冷かしも、ぜっ返しも気に掛けるいとまなく、見栄みえ糸瓜へちまも棒に振って、いきなり、おはちからしゃくって茶碗へ一杯盛り上げた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
亜米利加で新しいオートミルを買って拵えますと一晩水へ漬ける世話もなし、湯を沸立ててその中へぜれば三十分で出来るそうです。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その頃いつも八重さくらがさかりで、兄はその爛熳らんまんたる花に山吹やまぶき二枝ふたえだほどぜてかめにさして供へた。伯母おばその日は屹度きつとたけのこ土産みやげに持つて来た。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
おつぎは勘次かんじ吩咐いひつけてつたとほをけれてあるこめむぎとのぜたのをめしいて、いも大根だいこしるこしらへるほかどうといふ仕事しごともなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そしてたれも誰も、自分は神話と歴史とをはっきり別にして考えていながら、それをわざとぜて子供に教えて、怪まずにいるのではあるまいか。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
兎に角私の物のように思われて、今は斯うして松という他人をぜて話をしているけれど、今に時刻が来れば、二人一緒に斯う奥まった座敷へ行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
はさみの音、水の音、新聞紙を拡げる音、——その音の中にじるのは、籠一ぱいに飛びまはる、お前たちのさへづり声、——誰だい、今親方おやかたに挨拶した新造しんぞは?
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「敵は十五台の爆撃機よりなり、三隊に編成せられたり。高射砲隊の沈着勇敢なる戦闘を期待す」——防空司令官から、激励の辞をぜたメッセージが来た。
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平次は一とつかみの錢と小粒をぜて馬吉の膝小僧の下にならべたのです。額は二分以上あつたでせうが、馬鹿に取つては、一貫の上は二貫でなければなりません。
……しかしおこの別誂べつあつらへもつて、とりのブツぎりと、玉葱たまねぎと、凍豆腐こゞりどうふ大皿おほざらんだのを鉄鍋てつなべでね、沸立わきたたせて、砂糖さたう醤油しやうゆをかきぜて、わたし一寸ちよつと塩梅あんばいをして
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)