一旦いつたん)” の例文
六年には一旦いつたん京都へ上つて歸つた如水と相談して、長政が當時那珂なか郡警固村の内になつてゐた福崎に城を築いた。これが今の筑紫ちくし郡福岡である。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
世間せけん容赦ようしやなく彼等かれら徳義上とくぎじやうつみ脊負しよはした。しか彼等かれら自身じしん徳義上とくぎじやう良心りやうしんめられるまへに、一旦いつたん茫然ばうぜんとして、彼等かれらあたまたしかであるかをうたがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かべ天井てんじやうゆきそらのやうにつた停車場ステエシヨンに、しばらくかんがへてましたが、あま不躾ぶしつけだとおのれせいして、矢張やつぱ一旦いつたん宿やどことにしましたのです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「国家の公益? ハヽヽヽ其れは大洞、君等の言ふべき口上ぢや無からう、かく一旦いつたん取りさだめたものを、サウ容易たやすく変更することもならんからナ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
左樣さやうさ、一旦いつたん無事ぶじ本國ほんごくかへつてたが、法律ほふりつと、社會しやくわい制裁せいさいとはゆるさない、嚴罰げんばつかうむつて、ひどつて、何處いづくへか失奔しつぽんしてしまいましたよ。
さてはこの母親の言ふに言はれぬ、世帯せたい魂胆こんたんもと知らぬ人の一旦いつたんまどへど現在の内輪うちわは娘がかたよりも立優たちまさりて、くらをも建つべき銀行貯金の有るやにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
奥さんはそれで一旦いつたん青木さんの方へお帰りになつたんだけど、やつぱりたうとどうもあれだものだから……それは詳しく言へばもつとあるんだけれど
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
かうむり候へ共是は私しの心付には御座なく全く伊豆守いづのかみ心付なり然共されども先達て將軍の御落胤おとしだねに相違なしと上聞じやうぶんに達し其後の心付なりとて一旦いつたん重役ぢうやく共申出し儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女性じよせい無邪氣むじやきなる輕薄けいはくわらひ、さら一旦いつたんあたへたる財貨ざいか少娘こむすめ筐中きようちうよりうばひて酒亭一塲しゆていいちじやう醉夢すいむするのじようかしめついふたゝ免職めんしよくになりしこと
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
それが一旦いつたん兄さんがつまらない心を起して返り討ちにあつてから、落魄らくはく一途いちづ辿たどりはじめた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
これが氣附きづかれたときは、一旦いつたん集合しゆうごうしてゐた消防隊しようぼうたい解散かいさんしたのちであり、また氣附きづかれたのち倒潰家屋とうかいかおくみちふさがれて火元ひもとちかづくことが困難こんなんであつたなどの不利益ふりえき種々しゆ/″\かさなつて
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
人の凍死こゞえしするも手足の亀手かゞまる陰毒いんどく血脉けちみやくふさぐの也。にはか湯火たうくわねつを以てあたゝむれば人精じんせい気血きけつをたすけ、陰毒いんどく一旦いつたんとくるといへどもまつたさらず、いんやうかたざるを以て陽気やうきいたれ陰毒いんどくにくしみくさる也。
定むるも掛りの男居ずして知れがたし先拂ひにして下されよとの事にそれにて頼みしが此等より東京へ出すには一旦いつたん松本まで持ちかへるゆゑ日數ひかず十四五日は掛るといふ果して東京へは二十日目に屆きたり雨は上りたれど昨日きのふよりのふりに道は惡し宿しゆくの中ほどに橋ありこれを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
佐伯さへきでは一旦いつたんあゝしたやうなものゝ、たのんでたら、當分たうぶんうちぐらゐことは、好意上かういじやうてくれまいものでもない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はじめは人皆ひとみな懊惱うるさゝへずして、渠等かれらのゝしらせしに、あらそはずして一旦いつたんれども、翌日よくじつおどろ報怨しかへしかうむりてよりのちは、す/\米錢べいせんうばはれけり。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二十代や三十代の、だ血の気の生々なま/\した頃は、人に隠れて何程どれほど泣いたか知れないよ、お前の祖父おぢいさん昔気質むかしかたぎので、仮令たとひ祝言しうげんさかづきはしなくとも、一旦いつたん約束した上は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それと同時どうじに、一旦いつたんいへかへつた櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさは、きんモールのひかり燦爛さんらんたる海軍大佐かいぐんたいさ盛裝せいさうで、一隊いつたい水兵すいへい指揮しきして、屏風岩べうぶいわしたなる秘密造船所ひみつざうせんじよなかへと進入すゝみいつた。
幾ら贔屓ひいきだつたと云つたつて、死骸しがいまで持つて來るのはひどいと云つて、こちらからは掛け合つたが、色々談判した擧句あげくに、一旦いつたんいけてしまつたものなら爲方しかたが無いと云ふことになつたと
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
遣し一旦いつたん奇麗きれいに里を離縁りえん致したなれ共惣内方へ再縁さいえんなせしを見て未練みれんを遺せしならん又金子等つかはしたも定めし扱人あつかひ差略さりやくで有う彼是を遺恨ゐこんに存じ惣内夫婦の者を殺し疑ひの心を晴ぬ爲に兩人の首を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
成程なるほど一旦いつたんひと所有しよいうしたものは、たとひもと自分じぶんのであつたにしろ、かつたにしろ、其所そこめたところで、實際上じつさいじやうにはなん効果かうくわもないはなしちがひなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なんだつて一旦いつたんけがした身體からだですから、そりやおつしやらないでも、わたしはうけます。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
如何どうしても菅原様へくことが出来ないならば、私は一旦いつたん菅原様へ献げた此のきよ生命いのちの愛情を、少しも破毀やぶらるゝことなしにいだいたまゝ、深山幽谷へ行つてしま心算つもりだつて——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
半町はんちやうばかりまへを、燃通もえとほさまは、眞赤まつか大川おほかはながるゝやうで、しかぎたかぜきたかはつて、一旦いつたん九段上くだんうへけたのが、燃返もえかへつて、しか低地ていちから、高臺たかだいへ、家々いへ/\大巖おほいはげきして
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おやためだつて、なんだつて、一旦いつたんほかひとをおまかせだもの、道理もつともだよ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)