神田かんだ)” の例文
神田かんだを歩いてあの数多い書店のたなから棚とあさって歩いて見ても、連句に関する書籍の数は全体の何万分の一にも足りない少数である。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夜、兄さんは僕を連れて、神田かんだへ行き、大学の制帽と靴とを買ってくれた。僕はその帽子を、かぶって帰った。帰りのバスの中で
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
夏の炎天神田かんだ鎌倉河岸かまくらがし牛込揚場うしごめあげば河岸かしなどを通れば、荷車の馬は馬方と共につかれて、河添かはぞひの大きな柳の木のしたに居眠りをしてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
地図で五軒町という町を探すと、神田かんだ区内にあることが分った。そこで愈々いよいよ玩具の札を受取に行くのだが、こいつが一寸難しい。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いや、あれは神田かんだの方で買った古本に落丁らくちょうがあってね。ちょうどその本があそこにあったから、買って来てそこだけ取って補充したのさ。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
学校から帰りに、神田かんだをいっしょに散歩して、須田町すだちょうへ来ると、いつも君は三田みた行の電車へのり、僕は上野うえの行の電車にのった。
出帆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僧 今日は朝から湯島ゆしま神田かんだ下谷したや淺草あさくさの檀家を七八軒、それからくるわを五六軒まはつて來ましたが、なか/\暑いことでござつた。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
神田かんだのアテネ・フランセという所で仏蘭西フランス語を習っているとき、十年以上昔であるが、高木という語学の達者な男を知った。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
主人が三十七、妻が三十二、長男が十六、長女が十一、二男が七つである。やしき神田かんだ弁慶橋べんけいばしにあった。知行ちぎょうは三百石である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
神田かんだの私立学校で英語を授けてくれた浅見先生がこの郊外へ移り住んでいるということは捨吉に取っては奇遇の感があった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なんだ神田かんだの、明神様みょうじんさまいし鳥居とりいじゃないが、おまえさんもきがなさぎるよ。ありゃァただのお医者様おいしゃさま駕籠かごじゃないよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
吾助爺はこの洪水のような雑踏の中を押し切って、毎朝神田かんだの青物市場へ野菜物を満載した荷車を曳いていくのだった。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
随って手洗いしょが一番群集するので、喜兵衛は思附いて浅草の観音を初め深川ふかがわの不動や神田かんだの明神や柳島の妙見や
このついでに今一つ、江戸の古い町の名で、東京になるまでのこっていた、神田かんだ連雀町れんじゃくちょうという地名も、もとは運送業者の住んでいたところであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神田かんだ叔父おじの処へちょっと行って来ました、先生今晩お宅でしょうか。』幸吉の言葉は何となく沈んでいる。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たづぬるにくはしからず、宿題しゆくだいにしたところ近頃ちかごろ神田かんだそだつた或婦あるをんなをしへた。茄子なす茗荷めうがと、油揚あぶらあげ清汁つゆにして、薄葛うすくづける。至極しごく經濟けいざい惣菜そうざいださうである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いや、わたしは神田かんだですが、昨夜から、これ、このとおり、筵を持ってきて、御門前に泊まりこみました」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
文治が友之助を助けた翌日、お村の母親の所へ掛合かけあいに参りまして、帰りがけに大喧嘩の出来る、一人の相手は神田かんだ豊島町としまちょうの左官の亥太郎いたろうと申す者でございます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長き海路うみじつつがなく無事横浜に着、直ちに汽車にて上京し、神田かんだ錦町にしきちょう寓居ぐうきょに入りけるに、一年余りも先に来り居たる叔母は大いに喜び、一同をいたわり慰めて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
勇美子は、その足ですぐ陽子を誘って、神田かんだに事務所を持って居る顧問弁護士の石井三太郎を訪ねました。
身代りの花嫁 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この時などは実に日夜にちやねむらぬほどの経営けいえいで、また石橋いしばし奔走ほんそう目覚めざましいものでした、出版の事は一切いつさい山田やまだ担任たんにんで、神田かんだ今川小路いまがはかうぢ金玉出版会社きんぎよくしゆつぱんくわいしやふのに掛合かけあひました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
家業を変えて肴屋さかなやを始め、神田かんだ大門だいもん通りのあたりを得意に如才なく働いたこともありますが、江戸の大火にって着のみ着のままになり、流れて浅草あさくさ花川戸はなかわどへ行き
山下やました菊屋きくやで夕食をした後友は神田かんだに行こうと云い出した。私は云うがままに彼について行った。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「やあ、てゐたのか」とひながら座敷ざしきあがつた。先刻さつき郵便いうびんしてから、神田かんだ散歩さんぽして、電車でんしやりてうちかへまで宗助そうすけあたまには小六ころくひらめかなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
神田かんだ錦町にしきちょうで、青年社という、正則英語学校のすぐ次の通りで、街道に面したガラス戸の前には、新刊の書籍の看板が五つ六つも並べられてあって、戸をけて中に入ると
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その時分になると、葉子も神田かんだの下宿へ荷物と子供を持ちこんでいた。毎朝毎夜、クリームを塗ったりルウジュをつけたりしていた鏡台と箪笥たんすは今なお庸三の部屋にあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
御青物おんあおもの御用所ごようどころ神田かんだ竪大工町たてだいくちょう御納屋おなやに奉公に出ていて、江戸れている上に、丹那小町と呼ばれた美人なので、村の若者が競って恋を寄せたのであったが、ことごとく斥けて
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
媒妁なかだちの役目相済んだつもりで納まって居ると、神田かんだの料理屋で披露の宴をするとの事で、連れて来られた車にのせられ、十台の車は静かな村をひしめかして勢よく新宿に向った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その一方は駿河台するがだいへ延びて神田かんだを焼きさ、伝馬町てんまちょうから小舟町こぶなちょう堀留ほりどめ小網町こあみちょう、またこっちのやつは大川を本所ほんじょに飛んで回向院えこういんあたりから深川ふかがわ永代橋えいたいばしまできれえにいかれちゃった
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
本郷に移り下谷に移り、下谷御徒町おかちまちへ移り、芝高輪たかなわへ移り、神田かんだ神保町じんぼうちょうに行き、淡路町あわじちょうになった。其処で父君を失ったので、その秋には悲しみの残る家を離れ本郷菊坂町きくざかちょうに住居した。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あきつらし九ぐわつすゑにはかにかぜにしむといふあさ神田かんだ買出かひだしのまでかつぎれるとそのまゝ、發熱ほつねつにつゞいて骨病ほねやみのいでしやら、三つきごしの今日けふまであきなひはさらなること
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
買馴染かひなじみ其空せみは五歳の時人に勾引かどはかされ揚屋町善右衞門口入にて神田かんだ小柳町松五郎が姪成めひなりとて三浦屋へ賣込しが年季明ねんきあけにて源次郎の妻に致し其主人へねがひ湯治たうぢひまもらひ信州より越後へじつおや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ある人は、電車で神田かんだ神保町じんぼうちょうのとおりを走っているところへ、がたがたと来て、電車はどかんととまる、びっくりしてとびりると同時に、片がわの雑貨店の洋館がずしんと目のまえにたおれる
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
神田かんだ旅籠町はたごちょうの安宿八文字屋に泊まり込んでいることがわかりました。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
神田かんだを歩いていても下谷したやを歩いていても、家のかげになって見えない煙突が、少し場処をかえると見えて来る。それを目当に歩いて来て、よほど大きくなった煙突を見ると心がほっとしたものである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
神田かんだは、あきらめて、わらいながらかえっていきました。
神田かんだ駿河台するがだいだよ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夏の炎天神田かんだ鎌倉河岸かまくらがし牛込揚場うしごめあげばの河岸などを通れば、荷車の馬は馬方うまかたと共につかれて、河添かわぞいの大きな柳の木のしたに居眠りをしている。
今度の家には弟も同居して、神田かんだの学校へ通っていますし、赤松さんのお妹さんが二人、皆きれいな方でしたが、やはり来ていられます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
神田かんだ神保町辺じんぼうちょうへんのあるカッフェに、おきみさんと云う女給仕がいる。年は十五とか十六とか云うが、見た所はもっと大人おとならしい。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
神田かんだの夜店の木枯らしの中に認めたこの青衣少女の二重像ドッペルゲンガーはこのほとんど消えてしまっていた記憶を一時に燃え上がらせた。
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
神田かんだだ。」と重い口調で言った。ひどくしわがれた声である。顔は、老俳優のように端麗たんれいである。また、しばらくは無言だ。ひどく窮屈である。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かべみみありよ。さっき、とおりがかりにんだ神田かんだ湯屋ゆやで、傘屋かさや金蔵きんぞうとかいうやつが、てめえのことのように、自慢じまんらしく、みんなにはなしてかせてたんだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それから清水港しみづみなととほつて、江尻えじりると、もう大分だいぶん以前いぜんるが、神田かんだ叔父をぢ一所いつしよとき、わざとハイカラの旅館りよくわんげて、道中繪だうちうゑのやうな海道筋かいだうすぢ町屋まちやなか
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
東京神田かんだの共立学舎で語学を教わった古い教師でありますし、そのわたしが芝白金しばしろかねの明治学院へかよったころにも先生は近くの高輪たかなわに住んでいたものですから
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ほとんど毎日のように私は神田かんだ、本郷、早稲田、その他至るところの古本屋をまわり歩いて本をさがし、黄河以外の支那に就ても書くためには読みすぎるほど読んだけれども
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そのうち電車でんしや神田かんだた。宗助そうすけ何時いつものとほ其所そこえてうちはういてくのが苦痛くつうになつた。かれ神經しんけいは一でも安井やすゐ方角はうがくちかづくにえなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
衝立の蔭から美しい女給の声、居眠りでもして居たのでしょう、僅に顔をあげた風情ふぜいで、こう応えました。階下からは蓄音機でジャズの響き、神田かんだの十一時は未だ宵です。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
東京では神田かんだ明神のお祭りに、佐野氏の者が出て来ると必ずわざわいがあったといいました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神田かんだで腕の好い左官屋の娘である春次より年嵩としかさの、上野の坊さんの娘だという福太郎を頭として、十人余りの抱えがおり、房州船形ふなかた団扇うちわ製造元の娘だという、美形の小稲に
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)