はぶ)” の例文
但し二度目であるために、通し狂言とはしないで一番目に据え、菊五郎は多助の一役だけを勤めて、道連れ小平の件りははぶいていた。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっとも郵便配達がお嬢さんを運び出すことは出来ないけれど、そんな風なごくつまらないものがはぶかれていはしないでしょうか
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その上、この老人をわずらわすなどとはお話にならない沙汰……まあまあこんな事件は、蜂須賀家の御記録にもていよくはぶいておくことだな
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「せめてと存、誠に大切に百箇日迄、ちゆういん中同やうにつとめ申候。日々かうぶつのしなをそなへ申候。」語は前にはぶいた中にある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
雪片そのものの形容をはぶいて、すぐに「蝶々とまれ」といってのけたところにこの句の特色がある。万歳の句として一風変ったものであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
もうして、このはなしはぶいてしまえばわたくし幽界生活ゆうかいせいかつ記録きろくおおきなあなくことになって筋道すじみちたなくなるおそれがございます。
されど己が十字架をとりてクリストに從ふ者は、いつかかの光明の中にひらめくクリストを見てわがかくはぶくを責めざるならむ 一〇六—一〇八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
上り下りに馬鹿骨が折れる丈けに樋の山はいながらにして城址しろあとでも日和山ひよりやまでも一目に見えるから一々足を運ぶ手間がはぶける。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わがくに陸上りくじよう火山かざん巡見じゆんけんするにあたつてどうしてもはぶくことの出來できないのは、富士山ふじさんたか三千七百七十八米さんぜんしちひやくしちじゆうはちめーとる)であらう。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
このほかたのしみのうたはありますが、としわかいあなたがたにはわかりにくいものははぶきました。これらのうたならば、あなたがたにも大體だいたいわかりませう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「なに、捨てゝ置くさ。同一人に債権のあつまった方が、弁済をするにしても、督促を受くるにしても手数がはぶけていゝ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これをはぶくとも鉄道運河の大体の設計にはなんらの支障を生ずる事なかるべし。これに反して荷車をく労働者には道路の小凹凸は無意味にあらず。
自然現象の予報 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なれたる人はこれをはきてけものを追ふ也。右の外、男女の雪帽子ばうし下駄げた其余そのよ種々雪中歩用ほようあれども、はく雪の国に用ふる物にたるはこゝにはぶく。
どれも自分の家族の者たちのためにこしらえるのでありますが、利得のためではないので決して手をはぶきません。作り方は代々伝えられた技であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しやく釈につくるの外、たくを沢、驛をえきつくるぞくなり、しかれども巻中えきたくの字多し。しばらくぞくしたがうて駅沢に作り、以梓繁しはんはぶく。省字せうじは皆古法こほふしたがふ。
かたがたはぶき得らるるだけは省く方針をりましたので、もちろんナムの村落の変った事などをことさらに話す程の事もないと実は心付かん位でした。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
むしろ彼らの便利を標準とすれば簡便かんべんなる裏門をもうけ、面倒めんどうな礼をはぶくのが相互の便利とするのではあるまいか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
だから死に近づきながら好い心持に、三途さんずのこちら側まで行ったものが、順路をてくてく引き返す手数てすうはぶいて、急に、娑婆しゃばの真中に出現したんである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなはこれ實行じつかうせんとすれば現在げんざい國民こくみん消費せうひ相當さうたう程度ていど節約せつやくせしむるよりほかにないのである。くしてはじめ冗費じようひせつ無駄むだはぶかしむることが出來できるのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
(なお『万葉』と『古今』との相違については、格調律動の相違も重大である。しかしそれはこの小篇には故意にはぶいた。いずれ別の機会に論じてみたいと思う。)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
通行の一日前とか乃至は半日前に音物だけをこっそりと先に贈り届け、陣屋の御門を閉めておいて貰って、乗り物を降りる手数のはぶけるような工風を編み出しました。
とまくし立てて、ひるむところへ単刀直入、「しばらく足を洗ったために、乞食夥間なかまはぶかれた。面桶めんつう持って稼がれねえ。今この家を出るが最後、人間の干物になります。 ...
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「運命」と「愛」と「永遠」との交錯こうさくの中に描こうとしているかぎり、私は、この半年ばかりの彼の生活についても、そう無造作に筆をはぶくわけにはいかなかったのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
勿論、モデル問題が起らないくらいに修飾をしてね、それから横田さん二人のことも——これは恋の勝利者だから構わないようなものの、一寸気がさすのではぶいてしまうんだ。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
與吉よきちよつつにつた。惡戯いたづらつててそれだけおつぎのはぶかれた。それでも與吉よきち衣物きものはおつぎのには始末しまつ出來できないので、近所きんじよ女房にようばうたのんではどうにかしてもらつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼女はそれを少しも悪いことだとは思わなかったし、またその金で、少しでもクリストフの骨折りをはぶくことができ、粗末な夕食に一さら多く加えることができるのを、喜びとしていた。
ふるつて庄兵衞をうち即座そくざ自害じがいはてんと爲しは上のお手數てかずはぶくの御奉公ごほうこう天晴あつぱれなる擧動ふるまひなり父武左衞門は自儘じまゝなんとする娘を止めそれを引連事柄ことがら委細ゐさいのべ自首じしゆする段法度はつとを重じ上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
盆前ぼんまへよりかけてあつさの時分じぶんをこれがときよと大汗おほあせになりての勉強べんきやうせはしなく、そろへたるとう天井てんぜうから釣下つりさげて、しばしの手數てすうはぶかんとてかずのあがるをたのしみに脇目わきめもふらぬさまあはれなり。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかしこれはむろんはぶかなくてはならぬ、なぜならば我々は農商務省の官衙かんが巍峨ぎがとしてそびえていたり、鉄管事件てっかんじけんの裁判があったりする八百八街によって昔の面影を想像することができない。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人格統一の修養を論ずることははぶかねばならぬが、要するに大いなるパトスと、大いなるロゴスとの合一こそ、大いなる実践の前提であり、価値ある人格の統一もまたそのことにほかならず
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
一、官に学校を立つれば、金穀きんこくに差支えなくして、書籍器械の買入はもちろん、教師へも十分に給料をあたうべきがゆえに、教師も安んじて業につき、貧書生も学費をはぶき、書籍に不自由なし。
一二八ときを得たらん人の、倹約を守りつひえをはぶきてよくつとめんには、おのづから家富み人服すべし。我は仏家の前業ぜんごふもしらず、儒門の天命にもかかはらず、一二九異なるさかひにあそぶなりといふ。
それから巻頭百〇一版の序をはぶき、斯新序を入れました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
言葉をはぶくと人おもへり。
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
よくはぶ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「一箇の人材を求めるためには、せわしい用をはぶいても苦しゅうあるまい。他用のついでになどとは、じいにも似あわぬ横着な——」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃ、なぜそうと云わなかったのだ。あれが京子さんと分れば、捜査の手数がグッとはぶける訳だし、君としても別に隠すことはないじゃないか」
なれたる人はこれをはきてけものを追ふ也。右の外、男女の雪帽子ばうし下駄げた其余そのよ種々雪中歩用ほようあれども、はく雪の国に用ふる物にたるはこゝにはぶく。
遠いむかしは右馬之助といったのだそうであるが、何かの事情で馬の字をはぶいて、単に右之助ということになって、代々の当主は右之助と呼ばれていた。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
幸にして余の原稿が夫程それほどの手数がはぶけたとて早く出来上る性質のものでもなし、又ペンにすれば余の好むセピヤ色で自由に原稿紙をいろどる事が出来るので
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずまた機会おりがありましたらあらためておもらしすることとして、ただあの走水はしりみずうみ御入水ごにゅうすいあそばされたおはなしだけは、うあってもはぶわけにはまいりますまい。
巴里パリーでは昔から町の番地や室の番号から十三をはぶいています。アメリカにも然うしているところがあります。
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しからばおもて礼儀れいぎうらは礼をはぶいた意味とし、家にあるときも、裏でなく表でいたとしたらどうであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
分家いはほ、清川安策、森枳園との間には、此前後に雁魚がんぎよの往復があつたが、はぶいて抄せなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今度こんどのおはなしでは、短歌たんかならしようせられてゐる長歌ちようかのことは、はぶきたいとおもひます。がこれは、大體だいたい第一章だいいつしようのところでべてある物語ものがたりうたから、變化へんかしてたものとてさしつかへありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
その法、なし、文部省、工部省の学校を分離して御有となすときは、本省においては、従来学校に給したる定額をはぶくべきは当然の算数にして、この定額金は必ず大蔵省に帰することならん。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
僕は僕の敵をこの二つの外に選んでもならないし、そのうちの一つを敵からはぶいてもならない。僕は、この二つを敵に選ぶことによってのみ、僕の現在の危機をきりぬけることが出来ると信ずる。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
美尾みをはゝ東京とうけう住居すまいものうく、はした朝夕てうせきおくるにきたれば、一つはお前樣まへさまがたの世話せわをもはぶくべきため、つね/″\御懇命ごこんめいうけましたるじゆ軍人樣ぐんじんさまの、西にしけう御榮轉ごゑいてんことありて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それらの会話の内に含まれていたので、その一夜の会合の写実によって、僕の説明的な報告をはぶくことが出来るからだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
くわしい一騎打ち合戦はここでははぶく。——が、ただ乱軍中とつとして、新田方の第五列が尊氏の中軍に大混乱を呼び起したことだけはのぞきえない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)