さかり)” の例文
木曾きそ掛橋かけはし景色けしきおなことながら、はし風景ふうけいにはうたよむひともなきやらむ。木曾きそはしをば西行法師さいぎやうほふしはるはなさかりとほたまひて
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
残暑の夕日がひとしきり夏のさかりよりもはげしく、ひろびろした河面かわづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まっしろなペンキ塗の板目はめに反映していたが
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
発育さかりはげしい労働に苦使こきつかわれて営養が不十分であったので、皮膚の色沢いろつやが悪く、青春期に達しても、ばさばさしたような目に潤いがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
山里は万歳まんざい遅し梅の花。翁去来きよらいへ此句を贈られし返辞に、この句二義に解すべく候。山里は風寒く梅のさかりに万歳来らん。どちらも遅しとや承らん。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「いえ、上野や向島むこうじまは駄目だが荒川あらかわは今がさかりだよ。荒川から萱野かやのへ行って桜草を取って王子へ廻って汽車で帰ってくる」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お杉が評判の美人であるにもかかわらず、さかりを過ぎるまで縁遠いについても、山里には有勝ありがち種々しゅじゅの想像説が伝えられた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから、川柳の背の高いのがそのあたり一帯にあって、花はもうさかりを過ぎてほほけている。僕は、「これは何かの流に近くなって来たのだな」とおもった。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ここに山部やまべむらじ小楯をたて針間はりまの國のみこともちさされし時に、その國の人民おほみたから名は志自牟しじむが新室に到りてうたげしき。ここにさかりうたげて酒なかばなるに、次第つぎてをもちてみな儛ひき。
長閑のどかな日に花のさかりを眺むるやうな気持で催促に行つたり、差押さしおさへを為たりしてをるか。どうかい、間
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
老僕の傍にはさかりをすぎた一匹の獵犬ポインターと名だたるバンタム、これは小さな老ぼれの小馬で、もじやもじやのたてがみに長い赤錆色の尾をたらし、睡たげに、温和しく路傍に立つて
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
をさなかりし程は、母上我に怪我せさせじとて、とある街の角にたゝずみて祭のさかりを見せ給ひしのみ。
十一月の末だから日は短いさかりで、主人真蔵が会社から帰ったのは最早暮れがかりであった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
左様さうでせう、だから余ツ程考へなけりやなりませんよ、何時いつまでも花のさかりで居るわけにはならないからネ、お前さんなども、いづれかと言へば、最早もう見頃を過ぎたとしですよ、まア
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
老人達も少し酔つてやがて寝てしまつた。兄の少年が船からりて来た時には、盲目めくらの婆さんも、鼻唄をやめて横になつて居た。晴れた日影ひかげはキラキラと水に反射して今が暑いさかりであつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
洗出あらひだしの木目のたつた高からぬ塀にかゝりて、さかりはさぞと思はるゝ櫻の大木、枝ふりといゝ物好な一構ひとかまへ、門の折戸片々いつも内より開かれて、づうと玄關迄御影の敷石、椽無ゑんなしの二枚障子いつも白う
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
またのぼり少しくだりて御花圃はなばたけといふ所、山桜さかりにひらき、百合・桔梗・石竹の花などそのさま人のうゑやしなひしにたり。をしらざる異草いさうもあまたあり、案内者に問へば薬草なりといへり。
私の子供も長男に妹が二人で、皆まだ小さくて、手のかかるさかりでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
さく花は千種ちぐさながらにうれを重み、もとくだちゆくわがさかりかな
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
つゞいては、このわが若きさかりの雲の髮に
千部読む花のさかり一身田いっしんでん 碩
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
短いさかりの光を見せる。
じやくたるもりなかふかく、もう/\とうしこゑして、ぬまともおぼしきどろなかに、らちもこはれ/″\うしやしなへるにはにさへ紫陽花あぢさゐはなさかりなり。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
およそ人の一生血気のさかりを過ぎて、その身はさまざまのやまいおかされその心はくさぐさのおもいに悩みて今日は咋日にまして日一日と老い衰へ行くを
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
どうして兄様にいさん、十一月でさえ一月の炭の代がお米の代よりか余程よっぽど上なんですもの。これから十二、一、二とず三月が炭のさかりですから倹約出来るだけ仕ないと大変ですよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わがさかりまた変若をちめやもほとほとに寧楽ならみやこを見ずかなりなむ 〔巻三・三三一〕 大伴旅人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「まあ、奇麗な! 木槿もくげさかりですこと。白ばかりも淡白さつぱりしていぢやありませんか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「どうです御宅の桜は。今頃はちょうどさかりでしょう」で結んでしまった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またのぼり少しくだりて御花圃はなばたけといふ所、山桜さかりにひらき、百合・桔梗・石竹の花などそのさま人のうゑやしなひしにたり。をしらざる異草いさうもあまたあり、案内者に問へば薬草なりといへり。
『江戸では、今は松魚かつをさかりですな』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「じゃが、ご心配ないようにな、暗い冷い処ではありません——ほんの掘立ほったての草の屋根、秋の虫のいおりではありますが、日向ひなたに小菊もさかりです。」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
残暑ざんしよ夕日ゆふひが一しきり夏のさかりよりもはげしく、ひろ/″\した河面かはづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まつしろなペンキぬり板目はめに反映してゐたが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三十人に余んぬる若き男女なんによ二分ふたわかれに輪作りて、今をさかり歌留多遊かるたあそびるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あをによし寧楽ならみやこはなにほふがごとくいまさかりなり 〔巻三・三二八〕 小野老
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
若き空には星の乱れ、若きつちには花吹雪はなふぶき、一年を重ねて二十に至って愛の神は今がさかりである。緑濃き黒髪を婆娑ばさとさばいて春風はるかぜに織るうすものを、蜘蛛くもと五彩の軒に懸けて、みずからと引きかかる男を待つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
菜の花既にさかりを過ぐ。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
朧々おぼろおぼろも過ぎず、廓は八重桜のさかりというのに、女が先へ身を隠した。……櫛巻くしまきつましろく土手の暗がりを忍んで出たろう。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかころのおいとうちはさほどに困つてもなかつたし、第一に可愛かあいさかりの子供を手放すのがつらかつたので、親の手元てもとでせいぜい芸を仕込ます事になつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あれから、今の真宗大学を右に見て、青柳町へして、はて、どこらだろうと思う、横町の角に、生垣の中が菊のさかり
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしその頃のお糸のうちはさほどに困ってもいなかったし、第一に可愛いさかりの子供を手放すのがつらかったので、親の手元でせいぜい芸を仕込ます事になった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちょうど藤つつじのさかりな頃を、父と一所に、大勢で、金石の海へ……船で鰯網いわしあみかせにく途中であった……
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仲之町夜桜のさかりとても彼は貧しげなる鱗葺こけらぶきの屋根をば高所こうしょより見下したるあいだに桜花のこずえを示すにとどまり、日本堤にほんづつみは雪にうもれし低き人家と行き悩む駕籠の往来おうらい
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
就中なかんずく喫茶店は、貴婦人社会にさるものありとひとりたる深川綾子、花のさかりの春は過ぎても、恋草茂る女盛り、若葉のしずく滴たるごとき愛嬌あいきょうを四方に振撒ふりま
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふぢ山吹やまぶきの花早くも散りて、新樹のかげ忽ち小暗をぐらく、さかり久しき躑躅つゝじの花の色も稍うつろひ行く時、松のみどりの長くのびて、金色こんじきの花粉風きたれば烟の如く飛びまがふ。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
よくない洒落しゃれだ。——が、訳がある。……前に一度、この温泉町ゆのまちで、桜のさかりに、仮装会を催した事があった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背中一面に一人は菊慈童きくじどう、一人は般若はんにゃの面の刺青ほりものをした船頭がもやいを解くと共にとんと一突ひとつき桟橋さんばしからへさきを突放すと、一同を乗せた屋根船は丁度今がさかり上汐あげしおに送られ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あんまり知らないふりをなさるからちょっとおどかしてあげたんだけれど、それでも、もうお分りになったでしょう。——いつかの、その時、花のさかりの真夜中に。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのかたわら尻端折しりぱしょりの男一人片手を上げて網船賑ふ河面かわづらかたを指さしたるは、静に曇りし初夏の空に時鳥ほととぎすの一声鳴過なきすぎたるにはあらざるか。時節はいよいよ夏のさかりとなれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文政十二年ぶんせいじふにねん三月二十一日さんぐわつにじふいちにち早朝さうてうより、いぬゐかぜはげしくて、さかりさくらみだし、花片はなびらとともに砂石させきばした。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大寒だいかんさかりにこの貸二階の半分西を向いた窓に日がさせば、そろそろ近所の家からさけ干物ひものを焼くにおいのして来る時分じぶんだという事は、丁度去年の今時分初めてここの二階を借りた当時
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
番小屋めきたるもの小だかき処に見ゆ。谷には菜の花残りたり。路の右左、躑躅つつじの花のくれないなるが、見渡すかた、見返る方、いまをさかりなりき。ありくにつれて汗少しいでぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)