)” の例文
茫然ぼんやりしてると、木精こだまさらふぜ、昼間ひるまだつて用捨ようしやはねえよ。)とあざけるがごとてたが、やがいはかげはいつてたかところくさかくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はその後も彼の異様な恋情をてなかったばかりか、それは月日がたつに従って、愈々いよいよこまやかに、愈々深くなりまさるかと思われた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは神に見てられたる男だった。徒刑囚だった。この徒刑囚という一語は、彼にとっては、審判のラッパの響きのように思えた。
故に姦雄的かんゆうてき権略的の性質を備ふるものにあらざれば之を軽侮し之を棄却せざるなり(例へばナポレヲンがヨーゼフㇶンをつるが如し)
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
「そんならついて来い。葡萄などもうてちまへ。すっかりくちびるも歯も紫になってる。早くついて来い、来い。おくれたら棄てて行くぞ。」
(新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
彼女かのぢよは、片山かたやま一人ひとりためには、過去くわこの一さいてた。肉親にくしんともたなければならなかつた。もつとも、母親はゝおや實母じつぼではなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
その爲に武士をてたといふひどい跛者ちんばで、身體も至つて華奢きやしや、町人のやうに腰の低い、縞物などを着た、至つて碎けた人柄です。
みんな家郷をて親兄弟を棄てて国事に身をささげる人々だ、名も求めず栄達も望まず、王政復古の大業のために骨身を削る人々だ。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
王子おうじはこういうあわれな有様ありさまで、数年すうねんあいだあてもなく彷徨さまよあるいたのち、とうとうラプンツェルがてられた沙漠さばくまでやってました。
おまけに舶来の絹巻線きぬまきせんが気に入らないと云って、自分で器械を作って絹巻線を製作しては切りて、作っては切り棄てる事二万マイル
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
児をてる日になりゃア金の茶釜ちゃがまも出て来るてえのが天運だ、大丈夫だいじょうぶ、銭が無くって滅入めいってしまうような伯父おじさんじゃあねえわ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこには、ゴロンと二つの生首が転がり、二人分の滅茶滅茶になった血みどろな躰が、二三間先きに、あくたのように、てられてあった。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
心の許さぬ、望みのない思ひをいさぎよくてるに最も安全なみちむしろ其の相手の欠陥に幻滅を起すことより他になかつたからである。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「いやいや拙者の考えでは、浮気者の大莫連だいばくれん。それで許婚の貴殿をて、あだし男と逃げた筈でござる。……競争相手はなかったかな?」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もっともこれは地上ちじょうははいて申上もうしあげることで、肉体にくたいててしまってからのはは霊魂たましいとは、むろん自由自在じゆうじざいつうじたのでございます。
田口は敬太郎の矛盾をこの一句で切りてたなり、それ以上に追窮するをあえてしなかった。そうして問題をすぐ改めて見せた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この雉を持って来た序詞は、鑑賞の邪魔をするようでもあるが、私は、意味よりも音調にいいところがあるのでて難かったのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかし、それでもまだてられるほどではなかったが、間もなくおできが出来て、それがつぶれて牀席ねどこをよごしたので、とうとうい出された。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そうして滅亡するか復興するかはただその時の偶然の運命に任せるということにする外はないというばちの哲学も可能である。
津浪と人間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分の皮膚をてて顧みないやうな無関心さがあつた。或ひはそれを伊曾に、全く別の事にいつも気を取られてゐるといふ風にも見えた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
薬嫌いで医者がくれた薬さえ二度に一度は秘密ないしょてたほどなのに、今の場合父の常用の消化薬をさえ手頼りにする気になった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
端折はしょりのしごきを解きて、ひざの上に抱かれたまま身をそらすようにして仰向あおむきに打倒れて、「みんな取って頂戴ちょうだい足袋たびもよ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そういいてると博士をはじめ、幹部連はさっさと引揚ひきあげてしまいましたが、そうなると、今度はかえって、あとのさわぎが大変。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
このためにもちろん親をてずにいた罪はゆるされたのみか、のちに神にまつって、蟻通明神ありとおしのみょうじんというのがそれだということになっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
物の貴き所以ゆえんはこれを得るの手段難ければなり。ひそかに案ずるに、今の学者あるいはその難をてて易きにつくの弊あるに似たり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
このまま進めば、結局自分のすべてを与えて、一茎の日かげの花、パトロンと愛人との関係に、青春の日をてて行くのではあるまいか。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかしそういう時はまたそういう時で、とかく切りてにくいのであった。嫉妬しっとは第三者が現われたときに限るのではなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
例之たとえば筆法を正すにも「徳安とくあんさん、その点はこうおうちなさいまし」という。鉄三郎はよほど前に小字おさななてて徳安と称していたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夜泣きの刀、乾雲丸の取り戻し方を思いとどまってくれ……というお艶のことばは、さながら弊履へいりてよとすすめるにひとしい口ぶりだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
をどつてうたうてかつしたのど其處そこうりつくつてあるのをればひそかうり西瓜すゐくわぬすんで路傍みちばたくさなかつたかはてゝくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私が今日の目的に就いて水車小屋のあるじに語った後に、杖をて、ゼーロンをき出そうとすると彼は、その杖をむちにする要があるだろう——
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
赤いたすきをかけた女工たちは、甲斐甲斐かいがいしく脱ぎてられた労働服を、ポカポカ湯気の立ちめているおけの中へ突っ込んでいる。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
それは決してその詩人が赤まんまの花や何かを歌いてたからではなく、いわばそれを歌い棄てようと決意しているところに
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
騎馬隊のはげしい突撃を避けるため、李陵は車をてて、山麓さんろくの疎林の中に戦闘の場所を移し入れた。林間からの猛射はすこぶる効を奏した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それは貴方のせいで美しかったのでございます。それなのに貴方はとうとうわたくしを無慙むざんにもてておしまいなさいました。
この帽子は、当時、一番かぶるものが多く、したがって一番余計てられる帽子である。だから、漂浪者が多くかぶっている。
己れ炊事をみずからするの覚悟なくばの豪壮なる壮士のはいのいかで賤業せんぎょううべなわん、私利私欲をててこそ、鬼神きしんをも服従せしむべきなりけれ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
なるべくおのれをててしゅうとに調和せんとするをば、さすがに母も知り、あまつさえそのある点において趣味をわれと同じゅうせるを感じて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それにしても、轎夫かごかきもいなければともの者もいない。まるで投げててでもあるように置いてあるのが不思議でならなかった。
棄轎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを信仰の暮しに帰すことは誤りであろうか。迷信はてていい。だが迷信の奥深くに潜んでいるある神秘なものをも棄てていいだろうか。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
数寸ずつ切りてて、𧋬との結びめを新にし、疲れたる綸𧋬いとすを用いず、言わば、一尾を釣る毎に、釣具を全く新にするなり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
先生はいきなり私たちの真似まねをしてシャツを脱ぎて、上半身裸になつてもう一度酒を飲みました。先生のその格好は古い壁画のやうでした。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「食えませんけれど、釣れないよりは宜いと見えて持って来ます。しかし彼奴あいつは鶏が食っても死にますから、肥溜こえだめてるより外ありません」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
衆人の攻撃もおもんぱかるところにあらず、美は簡単なりという古来の標準もてて顧みず、卓然として複雑的美を成したる蕪村の功は没すべからず。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
少数のなまけ者共に有らゆる贅沢ぜいたくをさせる為めに、自分の生活を美しくする一切のものを永久に見てなければならぬのか。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「うち、もう学校はめよおもてんねん」いうて、うしろから上衣うわぎ着せたげて、そのままそこに、脱ぎてた着物たとみながらすわってました。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
主人夫婦を呼びてにして、少しでもその意地の悪い心に落ちないことがあると、意張いばりたがるお客が家の者にがなりつくような権幕であった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
かねて師匠から小刀を譲られて、今さら、今日に及び生計たずきのためと申して、その家業の木彫りをてて牙彫りをやるというわけには参りません。
おおかたくわえた楊枝ようじてて、かおあらったばかりなのであろう。まだ右手みぎてげた手拭てぬぐいは、おもれたままになっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あはれなるかな吾友わがともよ、我のラサ府にありし時、その身につみのおよばんを、知らぬこころゆわがために、つくせし君をわれいかに、てゝや安くすごすべき
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)