かつら)” の例文
宗十頭巾に十徳じっとく姿、顎鬚あごひげ白い、好々爺こうこうや然とした落語家はなしか仲間のお稽古番、かつらかん治爺さんの姿が、ヒョロヒョロと目の前に見えてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
今を去る千百余年、延暦えんりゃく三年二荒山ふたらさんの山腹において、かつらの大樹を見つけ、それを、立ち木のままに千手大士の尊像にきざまれたが——
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
段々廻り廻って、最後に到頭宮内官として宮中に在るかつら太郎たろう〕公〔爵〕に持って行き、公を起して内閣組織を命ぜらるる事となった。
一世お鯉——それはかつらさんのお鯉さんと呼ばれた。二世お鯉——それもねえさんの果報に負けず西園寺さいおんじさんのお鯉さんと呼ばれた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
京都のごりは加茂かも川に多くいたが、今はよほど上流にさかのぼらないといないようである。かつら川では今でもたくさん獲れる。
京都のごりの茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
そこでキジの鳴女なきめが天から降つて來て、天若日子の門にある貴いかつらの木の上にいて詳しく天の神の仰せの通りに言いました。
雪枝ゆきえみちけ、いはつたひ、ながれわたり、こずゑぢ、かつらつて、此処こゝ辿たどいた山蔭やまかげに、はじめてたのはさくらで。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自家の御堂みどうとか、かつらの院とかへ行って定まった食事はして、貴人の体面はくずさないが、そうかといって並み並みのしょうの家らしくはして見せず
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
余はこの輪廓の眼に落ちた時、かつらみやこを逃れた月界げっかい嫦娥じょうがが、彩虹にじ追手おってに取り囲まれて、しばらく躊躇ちゅうちょする姿とながめた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俳諧はいかいの師二世かつらもと琴糸女きんしじょの授くる所の号である。山内水木みきが一月二十六日に歿した。年四十九であった。福沢諭吉が二月三日に六十八歳で歿した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一面にはその年の六月に伊藤いとう内閣と交迭してできたかつら内閣に対していろいろな注文を提出した論文が掲げられて
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
当日、貞之助たちは新京阪のかつらで乗り替えて嵐山あらしやまの終点で降り、中之島を徒歩で横ぎって渡月橋のほとりに出た。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
水に強いと云うかつらわたり二尺余のりぬき、鉄板てっぱんそこき、其上に踏板ふみいたを渡したもので、こんな簡易かんい贅沢ぜいたくな風呂には、北海道でなければ滅多めったに入られぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夏の初め、彼は城下に住むことをいといて、半里へだてし、かつらと呼ぶ港の岸に移りつ、ここより校舎に通いたり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
江戸でも早くから意味が分らなくなって、チーチャコモチャかつらの葉などとうたっていた。備前の岡山では
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
近来、殆んど連年かかる悲惨なる目に遭い、その上苛税かぜい誅求ちゅうきゅうを受けるこのへんの住民はわざわいなるかな。天公かつら内閣の暴政をいかるか、天災地変は年一年はなはだしくなる。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
団員のかつら正一君と篠崎始しのざきはじめ君とが、奥多摩おくたま鍾乳洞しょうにゅうどうを探検しようじゃないかと、ねっしんに主張しました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
多能な小堀遠州こぼりえんしゅうは、かつらの離宮、名古屋なごやの城および孤篷庵こほうあんに、彼が天才の著名な実例をのこしている。日本の有名な庭園は皆茶人によって設計せられたものである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
彼女は下冷泉家の息女第一の姉姫で、実の名は光子てるこの御方、その妹姫は三つ違いで通子みちこと云った。共に艶色絶世で、今出川北御門のかつらたちばなよともたたえられていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顔は茶色でそれを囲つたかつらの葉は萌黄もえぎの塗りは灰色がかつたお納戸なんどである。塀はわざとらしく庭の中から伸び余つた蔓ぐさであつさりと緑の房を掛けさせてあるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『厳神鈔』に「日吉と申すは七日天にて御す故なり、日吉のあおい、加茂のかつらと申す事も、葵は日の精霊故に葵を以て御飾りとし、加茂は月天にて御す故に桂を以て御飾りとす」
宮様御出発の日には、帝にもお忍びでかつらの御所を出て、宮様の御旅装を御覧になったという。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
隅田川絶えず名に流れたれど加茂かもかつらよりはいやしくして肩落かたおちしたり。山並やまなみもあらばと願はし。
山のふところに抱かれた町は早く暮れかかって、かつら川の水のうえには薄いもやが這っている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白樺やかつらの木の多いところをくぐり、ツガザクラの生えたところをさまよい、渓流に逢っては石をたたいて見、丸木橋へ来ては暫くその尺度をうかがって、スルスルと渡りきり
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
軍艦ふねつくるの、戦争いくさするのツて、税は増す物は高くなる、食ふの食へねエので毎日苦んで居るんだが、かつら大臣の邸など見りや、裏の土手へ石垣を積むので、まるで御城の様な大普請おほふしん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ポーツマウスの条約に挙国の不平が沸騰した時に偶然東京朝日の編輯局で書いた「ひとりごと」と題するかつら首相の心理解剖の如きは前人未着手の試みで、頗る読者に受けたもんだ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かつら公爵の人格もしくは政見等については人々の考えは種々に分かれているようであるが、公のただびとならざりしことは、何人なんぴとも同意であろう。して辛抱しんぼうづよい点は公の長所であった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
暗灰褐色の樹皮が鱗状うろこじょうき出しかけている春楡の幹、水楢みずならかつらの灰色の肌、鵜松明樺さいはだかんば、一面にとげのある※木たらのき栓木せんのき白樺しらかばの雪白の肌、馬車は原生闊葉樹の間を午後の陽に輝きながら
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
或日、そら長閑のどかに晴れ渡り、ころもを返す風寒からず、秋蝉のつばさあたゝ小春こはるの空に、瀧口そゞろに心浮かれ、常には行かぬかつら鳥羽とばわたり巡錫して、嵯峨とは都を隔てて南北みなみきた深草ふかくさほとりに來にける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
六日の月皎々かう/\とてらしてそらもちかきやうにて、かつらえだもをるべきこゝちしつ。
「何んの、御遠慮は無用じゃ、——これよ、かつらは居るか」
かつらをとめはかはしもに梁誇やなぼこりするあゆみて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かつら首相に手とられし夢みてめぬ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たまの身かをるかつらかげ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ひとにしてかつら
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
峰の白雪……私が云うと、ひな唄のようでも、荘厳おごそかあさひでしょう。月の御堂のかつらの棟。そのお話の、真中まんなかへ立って、こうした私はきまりが悪い……
かつら川のあゆ加茂かも川の石臥いしぶしなどというような魚を見る前で調理させて賞味するのであったが、例のようにまた内大臣の子息たちが中将をたずねて来た。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さよう——だが、お話の開山上人の薬師仏は、二荒山ふたらさんかつらの大樹を、立ち木ながらに手刻しゅこくしたものではござらぬ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
表面はともあれ、故かつら侯などは正夫人なみにあつかわれたという、その余のともがらにいたってはいうまでもない事であろう。すれば事実は公爵夫人貞子なのである。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
唯有とあ人家じんかに立寄って、井戸の水をもらって飲む。桔槹はねつるべ釣瓶つるべはバケツで、井戸側いどがわわたり三尺もあるかつらの丸木の中をくりぬいたのである。一丈余もある水際みずぎわまでぶっ通しらしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、さかずきをあげ合った。けるほどに、月は冴えを増し、露はたまかつらにちりばめ、主客の歓は尽きるところがない。談笑また談笑のくごとに、一の酒はからになるやと思われた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつらはざまの大工という網人あみびと、網をこうとしてうかがいありく時、この黒島のほとりの磯の水面がおびただしく光るのを、魚とばかり思って引いたところ、それがことごとく鼠であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
六日の月皎々かう/\とてらしてそらもちかきやうにて、かつらえだもをるべきこゝちしつ。
五木ごぼくとは、いつつのおもしてふのですが、まだそのほかくりすぎまつかつらけやきなぞがえてます。もみつげえてます。それからとちえてます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ぢゆう上手かみてにつゞける一間の家體は細工場さいくばにて、三方にりたる蒲簾がますだれをおろせり。庭さきには秋草の花咲きたる垣に沿うて荒むしろを敷き、姉娘かつら廿歳。妹娘かへで、十八歳。相對して紙砧かみぎぬたつてゐる。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
のこるかつらからびぬ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
清水しみづ清水しやうづ。——かつら清水しやうづ手拭てぬぐひひろた、とうたふ。山中やまなか湯女ゆな後朝きぬ/″\なまめかし。清水しやうづまできやくおくりたるもののよし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かつら川の船橋のほとりが最もよい拝観場所で、よい車がここには多かった。六条院の玉鬘たまかずらの姫君も見物に出ていた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
去るものはうとし——別離は涙か、嘲罵あざけりか、お鯉は昔日むかしよりも再勤ののちの方が名が高くなった。羽左衛門たちばなやのお鯉さん、かつらさんのお鯉さんとよばれる一代の寵妓ちょうぎとなった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)