愛嬌あいけう)” の例文
徳永と長谷川はウイスキイで元気を附けたらしく意外に平気な様子で遣つたが、近江の処女然と顔を赤くして居たのは愛嬌あいけうであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
案内はガラツ八、何となくそぐはない空氣の中にも、商賣柄の愛嬌あいけうで、茶店の親仁おやぢの善六と、看板娘のお常が機嫌よく迎へてくれます。
家には親方とかみさんとがゐた。色艶いろつやのよい愛嬌あいけうのある小肥りの、筒袖絆纏つゝそでばんてんを着た若いかみさんが私をあいそよく迎へてくれた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
かれくも神經質しんけいしつで、其議論そのぎろん過激くわげきであつたが、まち人々ひと/″\れにもかゝはらずかれあいして、ワアニア、と愛嬌あいけうもつんでゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
虫歯の歯並が悪い口元に笑ふと愛嬌あいけうがあつた。どこか男の子のやうで、少ししやれたやうな声も大人のやうに太かつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
金花は客の額に懸つた、黒い捲き毛を眺めながら、気軽さうに愛嬌あいけうを振り撒く内にも、この顔に始めてつた時の記憶を、一生懸命にび起さうとした。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大變たいへん御賑おにぎやかで結構けつこうです」と宗助そうすけいま自分じぶんかんじたとほりべると、主人しゆじんはそれを愛嬌あいけう受取うけとつたものとえて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ときは、めうなもので……また此處こゝをんな一連ひとつれ、これは丸顏まるがほのぱつちりした、二重瞼ふたへまぶた愛嬌あいけうづいた、高島田たかしまだで、あらい棒縞ぼうじま銘仙めいせん羽織はおりあゐつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『あゝ、御寺内ごじないのおきやくさんだつかいな。孫右衞門まごゑもんさん、御苦勞ごくらうはん。』と、茶店ちやみせをんな愛嬌あいけういた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
けれどもその顔は決して恐くはなくつて、かへつて美しく、愛嬌あいけうがあつて、黄金色こがねいろの髪をしてゐました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
髪は丸髷まるまげに結ひ、てがらは深紅しんくを懸け、桜色の肌理きめ細やかに肥えあぶらづいて、愛嬌あいけうのある口元を笑ふ度に掩ひかくす様は、まだ世帯の苦労なぞを知らない人である。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
へえ頂戴ちやうだいを……うも流石さすが御商売柄ごしやうばいがらだけあつて御主人ごしゆじん愛嬌あいけうがあつてにこやかなお容貌かほつき番頭ばんとうさんから若衆わかいしう小僧こぞうさんまでみな子柄こがらいなモシ、じつしいやうですな
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
細君は小柄で色の白い、そばかすの浮いた顔をしてゐたが、笑ふと愛嬌あいけうのいゝ笑靨ゑくぼが浮いた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それはどこかに古代希臘ギリシヤの彫刻にあるとはれてゐる沈静な、しかも活き活きとした美をゆつたりと湛へて居た。それは気高い愛嬌あいけうのある微笑をもつた女の口の端にも似て居た。
此方こなた紅菊くれなゐぎく徽章きしようつけし愛嬌あいけう沢山の紳士達の忙しげなるは接待係の外交官なるべし。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
くちもとはちいさからねどしまりたればみにくからず、一つ一つにとりたてゝは美人びじんかゞみとほけれど、ものいふこゑほそすゞしき、ひと愛嬌あいけうあふれて、のこなしの活々いき/\したるはこゝろよものなり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
赤ん坊と来ては、てんでお話にならない。泥棒どろぼうとお父さんの区別がつかないのだから。出てゆきがけに泥棒がお愛嬌あいけうに、べろべろべろといつてあやすと、手足をばたばたやつて喜んでゐる始末だ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
愛嬌あいけう笑ひを忘れないと言つた、この上もない如才なさが、腕にも名聲にもかゝはらず、世間の一部から反感を持たれてゐる原因でもあるでせう。
少し容色きりやうの劣つた姉の方がしきりにまづ仏蘭西フランス語で僕に話し掛けて「日本はわが英国と兄弟の国だ」とか「ゼネラル乃木がうだ」とか愛嬌あいけういた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
が、どつちかとへば、愛嬌あいけうもある、く、趣味しゆみわたし莫迦ばかにするほどでもない。これ長所とりゑ面白味おもしろみもないが、気質きしつ如何いかにもまる出来できてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
天性愛嬌あいけうのある上に、すゞしい艶のあるひとみを輝かし乍ら、興に乗つてよもやまの話を初めた時は、確に面白い人だと思はせた。文平はまた、時々お志保の方を注意して見た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
日本に来てもないHは、まだ芸者に愛嬌あいけうを売るだけの修業も積んでゐなかつたから、唯出て来る料理を片つぱしからたひらげて、差される猪口ちよくを片つぱしから飲み干してゐた。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その火の光りでこゝにります女を見ると、年頃としごろは三十二三服装なり茶弁慶ちやべんけい上田うへだうす褞袍どてらりまして、頭髪つむり結髪むすびがみでございまして、もとに愛嬌あいけうのあるあだめいた女ですが
せいもすら/\ときふたかくなつたやうにえた、婦人をんなゑ、くちむすび、まゆひらいて恍惚うつとりとなつた有様ありさま愛嬌あいけう嬌態しなも、世話せわらしい打解うちとけたふうとみせて、しんか、かとおもはれる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こゝろ一ぱいにがまゝをとほしてはぬはゞをもひろげしが、表町おもてまち田中屋たなかや正太郎しようたらうとてとしれに三つおとれど、いへかねあり愛嬌あいけうあればひとくまぬたうかたきあり、れは私立しりつ學校がくかうかよひしを
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
姉のお咲とは似もつかぬ不きりやうですが、色が黒くて愛嬌あいけうもあつて、健康さうで利發者で、何んとなく好感の持てる娘です。
すべての外国人に対して日本人に好感情を持たしめようとつとめられる博士は、相変らず食卓の談話に英独仏の三ごく語を使ひ分けて有らゆる愛嬌あいけう振撤ふりまかれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ふとつたMM容易よういたなかつたが、勿論もちろんかれにも若々わか/\しい愛嬌あいけう洒落気しやれけせてゐなかつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
愛嬌あいけうのある男ださうで、その時は紺の越後縮ゑちごちぢみ帷子かたびらに、下へは白練しろねり単衣ひとへを着てゐたと申しますが、とんと先生のお書きになるものの中へでも出て来さうぢやございませんか。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『あゝ、瀬川君とおつしやるんですか。』と弁護士は愛嬌あいけうのある微笑ほゝゑみを満面に湛へ乍ら、快活な、磊落らいらくな調子で言つた。『私は市村です——只今長野に居ります——何卒どうかまあ以後御心易く。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
亭主ていしゆ法然天窓はふねんあたま木綿もめん筒袖つゝそでなか両手りやうてさきすくまして、火鉢ひばちまへでもさぬ、ぬうとした親仁おやぢ女房にようばうはう愛嬌あいけうのある、一寸ちよいと世辞せじばあさん、くだん人参にんじん干瓢かんぺうはなし旅僧たびそう打出うちだすと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
器量きりやういけれども何所どこともなしに愛嬌あいけうのない無人相ぶにんさう容貌かほつきで若
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
植木屋——と後でわかりましたが、色白で愛嬌あいけうがあつて、でつぷり肥つた恰幅などどう見ても物馴れた商人です。
若衆わかいしゆから小僧こぞういたるまでみなニコ/\した愛嬌あいけうのあるものばかり。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
いつでも涙を溜めて居るやうな、大きいうるんだ眼、口許に女の兒のやうな愛嬌あいけうがあつて、手足が不安定で、引つきりなしに、兩手りやうてみ合せて居ります。
「お勝さんと言ふのは、二十二三の凄いほど綺麗な方で御座いませう。左の下唇の側に、愛嬌あいけうほくろのある」
藝人の愛嬌あいけうで前髮は立てて居りますが、もう二十二三にもなるでせうか、恐ろしい美貌びばうで、引締つた細顎ほそあご、長い眼、ふくよかな顎、華奢きやしやにさへ見える恰好など
なるほどこれは美しい容貌きりやうです。精々十七八、血色のあざやかな瓜實顏に、愛嬌あいけうがこぼるゝばかり。
父親の駒吉に似た小柄ですが、愛嬌あいけうがあつてキビキビして、すぐれた氣性を内に包み乍ら、何んか斯うき通る樣な清らかさと、沁み出す樣な魅力みりよくを感じさせる娘でした。
お杉は正直で働き者だが、世辭も愛嬌あいけうも無いために、伯父の總兵衞にもあまり可愛がられず、お道の父の姉の子であり乍ら、下女同樣に追ひ使はれてゐたことなど、——次第に
愛嬌あいけうのない、何方どつちかと言ふと、働く外に興味も能もない、不景氣な三十男でした。
愛嬌あいけう者の喜八は、少し卑屈ひくつらしいが、邪念じやねんのない世辭笑ひをして居ります。
二十四五の、少しタガのゆるさうな男で、色白で無口で、それが又、妙に愛嬌あいけうになるといつた人相ですから、誰にも憎まれない代り、店中に特別な味方が一人もないといふ不思議な存在です。
あの樣子の良い内儀が顏を出して愛嬌あいけうを振りくから、皆んなはずみが付いて、り合つてやつて來まさア、石川五右衞門が夫婦づれで來たつて、聖天堂の側なんか寄りつけるものぢやありません
顏形は端麗たんれいと言つてよく、道具の揃つて居ることは拔群ばつぐんですが、血色がひどく惡い上に、愛嬌あいけうや世辭を何處かへ振り落したやうな無表情で、斯う相對してゐても何となく、一種の壓迫を感ずるやうな