引上ひきあ)” の例文
見物がまたさわぐ。真黒まつくろりたてた空の書割かきわり中央まんなかを大きく穿抜くりぬいてあるまるい穴にがついて、雲形くもがたおほひをば糸で引上ひきあげるのが此方こなたからでもく見えた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
わかいものをれて、どたばた引上ひきあげる時分じぶんには、部屋へやまへから階子段はしごだんうへけて、女中ぢよちゆうまじりに、人立ひとだちがするくらゐ、二階にかいしたなにとなくさはつ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ねえ、ゴテルのおばあさん、うしてあんたのほうが、あの若様わかさまより、引上ひきあげるのにほねれるんでしょうね。若様わかさまは、ちょいとのに、のぼっていらっしゃるのに!」
そして三人がいよいよ成功してそのアメリカ人を取巻とりまいて巣へ引上ひきあげようとかかるとみんな一斉いっせい
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこで、今迄いまゝで毎月まいげつ三銭さんせんかの会費くわいひであつたのが、にはかに十せん引上ひきあげて、四六ばん三十二ページばかり雑誌ざつしこしらへる計画けいくわくで、なほひろく社員を募集ぼしうしたところ、やゝめいばかりたのでした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ほつと一息ひといき引上ひきあげてると、おもつたより巨大おほきうをで、ほとんど端艇たんてい二分にぶんいちふさいでしまつた。
マーキュ へん「くろねずみ」とりゃ夜警吏よまはり定文句きまりもんくぢゃが、もしも足下きみが「黒馬くろうま」なら、「ぬま」からではなく、はて、恐惶おほそれながら、足下きみくびッたけはまってゐるこひ淵樣ふちさまから引上ひきあげてもやらうに。
何故なぜでもしない、れが無理むりやりにつて引上ひきあげてもれは此處こゝうしてるのがいゝのだ、傘屋かさや油引あぶらひきが一番いちばんいのだ、うで盲目縞めくらじま筒袖つゝそで三尺さんじやく脊負しよつてたのだらうから
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また反對はんたい爲替相場かはせさうば騰貴とうき道程だうていにある場合ばあひには日本品にほんひん賣値うりねげずにどう一としておくには輸入國ゆにふこく貨幣買値くわへいかひね段々だん/\引上ひきあげてたかはすことになるのであるから商賣しやうばいがしにくくなることは事實じじつである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
坊主はしめたりと思い引上ひきあげようとすると、こは如何いかにその魚らしいものが一躍して岡へ飛上とびあがり、坊主の前をスルスルと歩いて通りぬけ、待網のうしろの方から水音高く、再び飛入とびいってついに逃げてしまった
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
が、砂地すなぢ引上ひきあげてある難破船なんぱせんの、わづかに其形そのかたちとゞめてる、三十こくづみ見覺みおぼえのある、ふなばたにかゝつて、五寸釘ごすんくぎをヒヤ/\とつかんで、また身震みぶるひをした。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もとよりかゝ巨魚きよぎよくることとてとても、引上ひきあげるどころのさわぎでない、あやまてば端艇たんてい諸共もろとも海底かいてい引込ひきこまれんず有樣ありさま、けれど此時このときこの鐵鎖くさり如何どうしてはなたれやうぞ、沙魚ふかつか、わたくしけるか
手が、砂地に引上ひきあげてある難破船の、わずかにその形をとどめて居る、三十石積こくづみと見覚えのある、そのふなばたにかかって、五寸釘をヒヤヒヤとつかんで、また身震みぶるいをした。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
端艇たんてい引上ひきあげられた武村兵曹たけむらへいそうは、此時このときたちまさけんだ。
あめれたり、ちやうど石原いしはらすべるだらう。母様おつかさんはあゝおつしやるけれど、わざとあのさるにぶつかつて、またかはちてやうか不知しら。さうすりやまた引上ひきあげてくださるだらう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
勿體もつたいないが、ぞく上潮あげしほから引上ひきあげたやうな十錢紙幣じつせんしへい蟇口がまぐち濕々じめ/\して、かね威光ゐくわうより、かびにほひなはつたをりから、當番たうばん幹事かんじけつして剩錢つりせん持出もちださず、會員くわいゐん各自かくじ九九九くうくうくうつぶそろへて
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
といふ掛声かけごゑとゝもに、制吒迦せいたかごとあらはれて、写真機しやしんき附属品ふぞくひんを、三金剛杵こんがうしよごと片手かたてにしながら、片手かたてで、おびつかんで、短躯小身たんくせうしん見物けんぶつちうつておよがして引上ひきあげた英雄えいゆうである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(おめしうやつてきませう、さあおせなを、あれさ、じつとして。お嬢様ぢやうさま有仰おつしやつてくださいましたおれいに、叔母をばさんが世話せわくのでござんす、おひとわるい、)といつて片袖かたそで前歯まへば引上ひきあ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『へい、いゝえ山深やまふかまゐつたのが、近廻ちかまはりへ引上ひきあげてたでござります。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほりしてはるかな石垣いしがき只中たゞなかへもたゝきつけさうだつたいきほひせて——猶予ためらさまして……トした足許あしもとを、までくだらず、此方こなたひくほりきしの、すぐ灰色はいいろみづる、角組つのぐんだあしうへへ、引上ひきあげたか
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)