奈良なら)” の例文
夕ばえ近い町を、伝六は左へ、名人は右へ、——お奈良なら茶漬ちゃづけ宇治料理とかいたのれんが、吸いこむように右門の姿をかくしました。
慶州けいしゆうには周圍しゆういひくやまがあつて、一方いつぽうだけすこひらけてゐる地勢ちせいは、ちょうど内地ないち奈良ならて、まことに景色けしきのよいところであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
自分の研究所のW君のにいさんが奈良なら県の技師をしておられるというので、これに依頼して、本場の奈良で詮議せんぎしてもらったら
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ちえたところは物びている。奈良ならの大仏の鐘をついて、そのなごりの響が、東京にいる自分の耳にかすかに届いたと同じことである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのほかの人形は——きょう伏見ふしみ奈良なら博多はかた伊勢いせ秋田あきた山形やまがたなど、どなたも御存知のものばかりで、例の今戸焼いまどやきもたくさんあります。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
悩ましい日の色は、思い疲れた私の眼や肉体を一層懊悩おうのうせしめた。奈良ならからも吉野よしのからもいたるところから絵葉書などを書いて送っておいた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ひとが、かつ修學旅行しうがくりよかうをしたとき奈良なら尼寺あまでらあまさんに三體さんたいさづけられたとふ。なかから一體いつたいわたしけられた阿羅漢あらかんざうがある。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とうさんが奈良ならかねというのは、直径ちょっけいが二メートルぐらいあったそうだから、そんなのにくらべれば、ごんごろがねかねあかぼうにすぎない。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
泉州せんしゅう沢庵たくあんなどが見えた日は、病室には談笑の声さえ聞えた。奈良なら宝蔵院胤栄ほうぞういんいんえいは、かれよりも十数年まえに歿していた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
摂津せっつ大阪おおさかにある四天王寺してんのうじ大和やまと奈良ならちか法隆寺ほうりゅうじなどは、みな太子たいしのおてになったふるふるいおてらでございます。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたしはとうとう山城川やましろがわをのぼり、奈良なら小楯おだてをも通りすぎて、こんなにあちこちさまよってはいるけれど、それもどこを
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
昨日きのう奈良ならより宇治に宿りて、平等院を見、扇の芝の昔をとむらい、今日きょう山科やましなの停車場より大津おおつかたへ行かんとするなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
実際、もしシナ古代の青銅器具または唐代および奈良なら時代の宗教的美術品を研究してみれば均斉を得るために不断の努力をしたことが認められるであろう。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ことに、仏像の部屋には、奈良なら時代から鎌倉かまくら時代までの、国宝や重要美術品がいっぱいならんでいるのです。
妖星人R (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こちらはその大きな西瓜をうゑた人達ひとたちです。その人達は奈良ならの大仏を二つも合した程の巨人おほびとでありました。
漁師の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
十二月の二十日過ぎに中宮ちゅうぐうが宮中から退出しておいでになって、六条院の四十歳の残りの日のための祈祷きとうに、奈良ならの七大寺へ布四千反をわかってお納めになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
同行三 ではございましょうが、あなたは長い間比叡山ひえいざん奈良ならで御研学あそばしたのでございましょう。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
いつか奈良ならへ旅した時、歩きくたぶれて、道傍みちばたの青草原に、べったり坐ってしまったくらいだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
十二月は僕は何時いつでも東京にゐて、そのほかの場処といつたら京都きやうととか奈良ならとかいふはなはだ平凡な処しかしらないんだけども、京都へ初めてつた時は十二月で、その時分は
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あをによし奈良ならみやこにたなびけるあま白雲しらくもれどかぬかも 〔巻十五・三六〇二〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
足の下で、奈良ならの町の火が美しくつき出した。はちれの唸呍つぶやきの様な人声物音が響く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
平和へいわはるばんにはおことがしたり、おちゃをにるかおりがして、うたにも『あおによし奈良ならみやこはなの、におうがごとくいまさかりなり』と、たたえられたみやこも、いまはあとかたなく
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
奈良なら七重ななえ……奈良朝は七代の御代みよということだが、そのなかで女の帝様は……」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きよく致せと云れけるに源八は覺悟かくごをせし樣子やうすにておほせの如く我々白状致すべし先第一は南都なんとに於て大森通仙おほもりつうせん娘お高に戀慕れんぼいたし戀のかなはぬ意趣いしゆに鹿を殺し通仙つうせんの家の前へおきしにより通仙は奈良なら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぎに持統ぢとう文武もんぶ兩帝りやうてい藤原宮ふじはらぐうみやこしたまひ、元明天皇げんめうてんのうから光仁天皇くわうにんてんのうまで七だい奈良ならみやこしたまひ、桓武天皇以來かんむてんのういらい孝明天皇かうめいてんのうまで七十一だい京都けうとみやこしたまひたるにて、漸次ぜんじ帝都ていと恒久的こうきうてきとなり
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
復一は関西での金魚の飼育地で有名な奈良なら大阪おおさか府県下を視察に廻った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見ると山ねこは、もういつか、黒い長い繻子しゆすの服を着て、勿体もつたいらしく、どんぐりどもの前にすわつてゐました。まるで奈良ならのだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のやうだと一郎はおもひました。
どんぐりと山猫 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
津村は何日に大阪を立って、奈良ならは若草山のふもと武蔵野むさしのと云うのに宿を取っている、———と、そう云う約束やくそくだったから、こちらは東京を夜汽車で立ち、途中とちゅう京都に一泊して二日目の朝奈良に着いた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
…………奈良なら旅籠はたご三輪みわ茶屋ちやや…………
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
またくらのようなものは、おほくは今日こんにち奈良なら正倉院しようそういん御倉おくらなどにるような、みあはせた校倉あぜくらといふものであつたとおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
(間)私は比叡山ひえいざん奈良なら僧侶そうりょたちが憎くなります。かほどの尊い聖人しょうにん様をなぜあしざまに讒訴ざんそしたのでございましょう。あのころの京での騒動のほども忍ばれます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
坂上田村麻呂さかのうえのたむらまろいまから千年余ねんあまりもむかし桓武天皇かんむてんのう京都きょうとにはじめて御所ごしょをおつくりになったころ、天子てんしさまのおともをして奈良ならみやこからきょうみやこうつってたうちの一人ひとりでした。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ほんとうをいうと、彼は少年時代から、この幻想げんそうかれていた。夢にもよく見た。中学校の集団旅行で、奈良ならの大仏を見たときには、恍惚こうこつとして目がくらみそうになった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
焼きなよ。それから、奈良ならづけのいいところをふんだんに出してな。そっちの南部のお鉄でゆっくりお湯を沸かして、玉露のとろりとしたやつで奈良茶づけとはどんなものだい
日本はシナ文化の先蹤せんしょうを追うて来たのであるから、この茶の三時期をことごとく知っている。早くも七二九年聖武しょうむ天皇奈良ならの御殿において百僧に茶を賜うと書物に見えている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
その跡を御追いなすった事、今ではあなたの御家族の中でも、たった一人姫君ひめぎみだけが、奈良なら伯母御前おばごぜ御住居おすまいに、人目を忍んでいらっしゃる事、——そう云う御話をしている内に
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここへ来たり奈良ならへ行ったり、住吉すみよし方面へ碑の石をさがしに行ったり、建碑の起工から一切のことを奔走して、いまも工事の監督にあたっている水戸家の臣、佐々介三郎さっさすけさぶろうなのである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに並んで寝床が二つ延べられ、四人の抱えが手足を縮めてやすむのだったが、次ぎの三畳にも六人分の三つの寝床が敷かれ、下の玄関わきの小間では、奈良なら産まれの眇目めっかちばあやと
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
(わん。)津島つしまぶ、隱元いんげん、きす、鳥肉とりにく。(はち。)たひさしみ、新菊しんぎくあまだい二切ふたきれ。(はち。)えびしんじよ、ぎんなん、かぶ、つゆ澤山だくさん土瓶どびんむしまつだけ。つけもの、かぶ、奈良ならづけ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見ると山ねこは、もういつか、黒い長い繻子しゅすの服を着て、勿体もったいらしく、どんぐりどもの前にすわっていました。まるで奈良ならのだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のようだと一郎はおもいました。
どんぐりと山猫 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そしてお兄上のお死がいを奈良ならの山におほうむりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そのぎにふるいのは奈良なら西にしにある藥師寺やくしじとう、それから聖武天皇頃しようむてんのうころもの奈良ならにちょい/\のこつてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
奈良ならの大仏のからだの何倍もあるような、想像もできないほどの、大きな大きな顔なのです。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まもなく、かれはゆうべの夢を実行して、京から大阪おおさか、大阪から奈良ならの空へと遊びまわっている。町も村も橋も河も、まるで箱庭はこにわのような下界げかいの地面がみるみるながれめぐってゆく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うたの中にある「斑鳩いかるが」だの、「とみ小川おがわ」だのというのは、いずれも太子たいしのおまいになっていた大和やまとくに奈良ならちかところで、そのとみ小川おがわながれのえてしまうことはあろうとも
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私は九歳の年に出家してから、比叡山ひえいざん奈良ならで数十年の長い間自分を善くしょうとして修業いたしました。自分の心からのろいを去り切ってしまおうとして、どんなに苦しんだ事でしょう。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
のぞき鼻の鼻梁びりょうが、附け根から少し不自然に高くなっているのも、そう気になるほどではなく、ややもすると惑星のように輝く目に何か不安定な感じを与えもして、奈良ならで産まれたせいでもあるか
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「じょうだんじゃねえや、おれなんか、裾野すそのにいたじぶんから、ズッと奈良ならや京都のほうを見物して歩いてる時なんかも、こんなまずいものを一どだってったことはありゃしねえ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのときちょうど奈良ならからはつもののうりを献上けんじょうしてました。めずらしい大きなうりだからというので、そのままおぼんにのせて四にんのおきゃくまえしました。するとまず安倍晴明あべのせいめいがそのうりを手にのせて
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
富士の裾野すそのをでていらい、わしに乗って北国ほっこくも見たし、東海道とうかいどう見物けんぶつしたし、奈良なら堂塔どうとう大和やまとの平野、京都の今宮祭いまみやまつりまで見たから、こんどはひとつ思いきって、四国へ飛ぼうか、九州へいこうか?
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)