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官自ら以て尊しとするか官の驕傲きょうごう憎むべし。民自ら以て卑しとするか民の意気地なき真に笑ふにへたり。同くこれ国家の糧食なり。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
山中さんちううらにて晝食ちうじき古代こだいそつくりの建場たてばながら、さけなることおどろくばかり、斑鯛ふだひ?の煮肴にざかなはまぐりつゆしたをたゝいてあぢはふにへたり。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしはもうこんな楽しい景色を見るにえられなくなって、手あらく窓をしめきって、急いで床のなかに飛び込んでしまいました。
何かを払いのけようとする、その表情が何にえきれないのかと、彼はぼんやり従いて歩いた。突然、女はビリビリと声を震わせた。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
力は内にある確信と、この確信を実行するためにあらゆる障害にえる意志である、しかしてかくして得たる力が真に強き力である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
波田は、チエンロッカーが、そんな歴史を持っていることによって、その困難な労働をなお一層不快ないやな、え難いものにした。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
と、さも横風おうふうに云った。あまり好い心持ではなかった。何の必要があって、こう自分を軽蔑けいべつするんだか不平にえない。それで単に
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
能面に対してこれほど盲目であったことはまことに慚愧ざんきえない次第であるが、しかしそういう感じ方にも意味はあるのである。
能面の様式 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
というわたしをこの人はまだこどものように見てなにかと覚束ながる。たがいに眼を瞠目みはって、よくぞこのうき世の荒浪あらなみうるよと思う。
愛よ愛 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今は儂にとりて着物きものの如く、むしろ皮膚ひふの如く、居れば安く、離るれば苦しく、之を失う場合を想像するにえぬ程愛着を生じて来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もち前のとり澄まし方に、じっとえていた泰子は、忠盛が、自嘲じちょうを発すると、むかと、顔に血をうごかして、すぐ反撥して来た。
基康 わしの前で内輪うちわの争いは、見るにえぬわい。さるこくまでに考えを決められい。猶予ゆうよはなりませぬぞ。(退場。家来つづく)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
路面に転っていると、群衆に踏みつぶされるおそれがあるので彼は痛手いたでえて、じりじりと、商家しょうかの軒下へ、虫のようにっていった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぼくは、しばしポカンとしていましたが、え切れなくなると、「そうですか」と一言。泣きッつらをみられないようにまた暗い甲板に。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
暫らくは、強い緊張のうちに、父も子も黙っていた。が、父はその緊張にえられないように、面をうつむけたまゝ、つぶやくようにった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
およそ高利の術たるや、渇者かつしやに水を売るなり。渇のはなはだしへ難き者に至りては、決してその肉をきてこれを換ふるを辞せざるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこを自得の袈裟掛けさがけ一刀、伊那高遠の八幡社頭で、夜な夜な鍛えた生木割り! 右の肩から胸へ掛け、水もまらず切り放した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俳諧はつまりその単調にえ切れずして起こったのであるが、芭蕉翁の到達しても、実はまだ完全にこれを打破したとは言えない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これから満洲の田舎路を日本の里数で約三里も歩かせられてはまらないと思ったので、堀部君は途中で供のシナ人に相談した。
雪女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時は九月の中旬、残暑はまだえ難く暑いが、空には既に清涼の秋気がち渡って、深いみどりの色が際立きわだって人の感情を動かした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私はどうも絵が習って見たくてまらなくなってしまったので、父に無理をいってとうとう天満の祥益先生を訪れたものだった。
天下てんか役人やくにんが、みな其方そちのやうに潔白けつぱくだと、なにふことがないのだが。‥‥』と、但馬守たじまのかみは、感慨かんがいへぬといふ樣子やうすをした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さびしきまゝにこと取出とりいだひとこのみのきよくかなでるに、れと調てうあはれにりて、いかにするともくにえず、なみだふりこぼしておしやりぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こういう夫を持たされた妻の寂しさは、娼婦にも母婦にも、勝気な者にも内気な者にも、何としてえることが出来よう。………
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
じっとひとりで部屋に坐りこみいろいろな物思いにもてあそばれることにはえきれず、「世間の人間に会い、」気ばらしをし
それがどうしてあんなに見えたのか、臆病ゆえの錯覚としても、余りにその差がはなはだしく、千代子は不思議にえられませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幾年間いくねんかん女の身一人みひとつで生活と戦つて来たが、今は生命いのちひとしい希望の光もまつたく消えてしまつたのかと思ふとじつへられぬ悲愁ひしうおそはれる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すなわち剣をひっさげて、衆に先だちて敵に入り、左右奮撃す。剣鋒けんぽう折れ欠けて、つにえざるに至る。瞿能くのうあいう。ほとんど能の為に及ばる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
勘次かんじ追憶つゐおくへなくなつてはおしな墓塋はかいた。かれかみあめけてだらりとこけた白張提灯しらはりちやうちんうらめしさうるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わが將來ゆくすゑの事につきて諸〻のいたましきことばを聞きたり、但し命運我をつとも我よく自らとれにふるをうるを覺ゆ 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
がたおそろしさはいなづまごとこころうちひらめわたって、二十有余年ゆうよねんあいだ、どうして自分じぶんはこれをらざりしか、らんとはせざりしか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかも、しかも、もはや寸分といえども正視するにはえなかった。片手で顔を掩うたまま獣眼蒐めがけて続けざまに引金を引いた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし、ここには音楽の白亜紀、カンブリア紀を避けて、一般人の鑑賞にえる僅少きんしょうの作品と、そのレコードをぐるに止めようと思う。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
かゝる不届ふとどきの狼藉者を、かほどの大勢にて御見送り賜はる、貴藩の御政道の明らかなる事、まことに感服にへたりと云ふ可し。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それで自分の生涯を顧みてみますれば、まだ外国語学校に通学しておりまする時分じぶんにこの詩を読みまして、私もおのずから同感にえなかった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
女衣服おんなぎを着せたのは、ながの病気に、重きはえられまじ、少しでも軽くしてやろうと、偶然にもその日それを着せたのである。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
さては老朽してもさすがはまだ職にえるものか、しかし日本服でも勤められるお手軽なお身の上、さりとはまたお気の毒な。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
春のめざめの頃に感じるたくましい空想力を、どんなにしてもえ忍ぶことの出来なかった自分の少女の頃のことをふっとおもい出すのでした。
またそれかといって若宮とお別れしている苦痛にもえきれる自信がないと未亡人は思うので、結局若宮の宮中入りは実行性に乏しかった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのまづしさには決してへられません。私達はもう少し人間にんげんらしく生きなければなりません。今にもうすぐ私達の一生にもふゆがまゐります。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
名を食糧しよくれうの不足にたくして又衆とわかる、明日は天我一行をして文珠岩もんじゆいわを発見せしむるあるをらざるなり、其矇眛もうまいなる心中やあはむにへたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
わたしは一刻もここに立っているにえられないので、早そうに階段を降りかかると、またもやわたしのさきに立ってゆく跫音あしおとがきこえた。
高橋信造は此処ここまで話して来てたちまかしらをあげ、西に傾く日影を愁然しゅうぜんと見送って苦悩にえぬ様であったが、手早くさかずきをあげて一杯飲み干し
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかしとうとう晩年には悲壮なうそつきだったことにえられないようになりました。この聖徒も時々書斎のはりに恐怖を感じたのは有名です。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
厚い皮革製の胡服こふくでなければ朔北さくほくの冬はしのげないし、肉食でなければ胡地の寒冷にえるだけの精力をたくわえることができない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
妻君大原の様子がおかしきにえねど笑うにも笑われず「お登和さん、折角せっかくのお土産みやげですから」と大原のために言葉を添ゆる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
マダしていこともあるだろう、なくていこともあるだろう、傍観者からこれを見たらばさぞがたいことに思うでありましょうけれども
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
君等きみら其時そのとき擧動ふるまひ賞讃しようさんするのをるにつけても、じつ斷膓だんちやうねんえなかつたです——なに、あの卑劣ひれつなる船長等せんちやうら如何どうしたとはるゝか。
一蟻螻ひとつのありを害す、なほ釈氏は憐れみにえざりし、一人を殺す、如何いかばかりの罪に当らむ。いはんや百万の衆生を残害するをや。
想断々(1) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
これは必ずしも私の神経が断定を下すにもえがたいほど病的な衰弱をきたしているから、とばかりは言えないようである。
文章の一形式 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)