其所そこ)” の例文
其所そこは栃木県下の発光路ほっこうじという処です。鹿沼かぬまから三、四里奥へ這入はいり込んだ処で、段々と爪先つまさき上がりになった一つの山村であります。
彭はしかたなしに其所そこへ立ち止った。いつの間にか夕映も消えて四辺あたり微暗うすぐらくなった中に、水仙廟の建物が黒い絵になって見えていた。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
りますとも、だい一、品川しながはちかくでは有名ゆうめい權現臺ごんげんだいといふところります。其所そこなんぞは大變たいへんです、んな破片はへんやまやうんでります
其所そこで漸く外濠線へ乗り換へて、御茶の水から、神田橋へ出て、まだ悟らずに鎌倉河岸がしを数寄屋橋の方へ向いて急いで行つた事がある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
とは云っても覚えが有るものでございますから、其所そこは相手が女ながらも心におくれが来て段々後へ下る。すると段々見物の人がたかって
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
取たることまで逐一ちくいち訴へ呉ん邪魔じやませずと其所そこひらいて通しをれとのゝしるを段右衞門はいかおのいかして置ば我が身の仇なり覺悟をせよと切付るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其所そこの衛生工事を改良したとか、事務を整理したとか、あるいは軍人になって、ペルシャ人に勝ったことがあったとしても、それは恐らく
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
其所そこれい唱歌しやうか一件いつけんだがね、ぼく色々いろ/\かんがへたが今更いまさら唱歌しやうかにもおよぶまいとおもふのだ如何どうだらう。『ろ』で澤山たくさんじやアないか。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かれかぎを以ちて、その沈みし處を探りしかば、その衣の中なるよろひかりて、かわらと鳴りき。かれ其所そこに名づけて訶和羅の前といふなり。
其所そこは幕府の家來が槍だとか、劍だとか、じうだとか、鐵砲だとかを稽古するところで、私の親父は其の鎗術の世話心得せわこゝろえといふ役に就いて居た。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
けれども各自てんでに一時間半じかんはん其所そこいらはしつゞけたときに、まつたかわいてしまひました、ドードてうきふに、『めッ!』とさけびました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
久松家の用人をしていた私の長兄が留守番旁々かたがた其所そこに住まうようになって、私は帰省するたびにいつもそこに寐泊りをした。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
やっと気分もすこし直って来たので、起き上ろうかと思っていると、其所そこへ友人が呼んでくれた医師が診察に来てくれた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
そういう物は自分一人でえないからみんな薬舗くすりや其所そこへ持って行って分けて遣る。自分の部屋の留守番をして居る弟子坊さんにも分けて遣る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
山の上には、大きなくまが木の枝に臥床ねどこを作つて、其所そこで可愛い可愛い黒ちやん=人間なら赤ちやん=を育てゝ居ました。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
渡邊をれてうららかな秋の街を散歩でもするような足どりで歩き出した、二人は漸次だんだん郊外の方へ近よると、其所そこには黒ずんだ○△寺の山門が見えた
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
わたくしいそいでいわからりてそこへってると、あんたがわず巌山いわやまそこに八じょうじきほどの洞窟どうくつ天然てんねん自然しぜん出来できり、そして其所そこには御神体ごしんたいをはじめ
しかして家庭の風儀は社会の風儀の泉源せんげんであって、家庭の元気は即ち国民の元気でありとすれば、女子教育の国家に必要なる、もとより其所そこでありましょう。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
其所そこには岩崎組、平野組、山田組の人夫が別々に並んだ。役員は人員の数を調べるとそのまゝ黙つて事務所へ引つ込んだ。それで手数はすんだのである。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
ト云ッて差俯向さしうつむいた、文三の懸けた謎々なぞなぞが解けても解けないふりをするのか、それともどうだか其所そこは判然しないが、ともかくもお勢はすこぶる無頓着な容子ようす
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そらは、ドンヨリくもツて、南風みなみかぜはひみやこまはり、そしてポカ/\する、いや其所そこらのざわつく日であツた、此様な日には、頭に故障こしやうのない者すら氣が重い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ここより百ばかり浜の方に、あさおほく植ゑたる畑のぬしにて、其所そこにちひさきいほりして住ませ給ふなりと教ふ。
しかも顔は興奮に青ざめ、息使いまでがせわしい。女はイベットが再びテーブルに眼を落し平気で勝負に身を入れ出すと、小田島をむしるようにき立てて其所そこを離れた。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すると其所そこには、残忍性にとめる在来の堕落霊どもが、雲霞うんかの如く待ち構えていて、両者がグルになって、地上の堕落せる人間に働きかけるから、人間の世界は層一層そういっそう罪と
其所そこへ逃げて行く事は出来るけれども、又一面より見れば此の宗教という者も、一種の禁欲主義に外ならないではないか、人間的な生活——此の煩わしい現実の生活から離れて
絶望より生ずる文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
呼ぶスハヤ尤物いうぶつ此中このうちに在るぞと三人鵜の目鷹の目見つけなば其所そこらんとする樣子なり我は元より冷然として先に進み道のかたへのすみれふきたう蒲公英たんぽゝ茅花つばななどこゝのこんの春あるを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
直に行けばだ藻西太郎が捕縛されて間も無い事では有るし、妻の心も落着いて居ぬ間ですから其所そこ附込つけこみ問落せばの様な事を口走たかも知れません、包みかねて白状するか
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
人物も光俊は綿密家にてよく何事にも行届きし人の様に思はるる故、其所そこにははまりたり。物語は立派にて、心底を明さぬくだりも光俊の品位を保ちてよし。乗切を見せぬは利口物なり。
此方こつちにもある。これ。』と反対の脇の羽の下を見せると、成程其所そこにも血があつた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つい其所そこ天水桶てんすいおけに吸いついてしまうと、夜の蝙蝠こうもりが、のぞいて見てもわからぬ程だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
其れで其所そこには撞楼堂が在る、是れも亦焼けてしまつたが、今小松宮様の銅像がございますが、彼所が撞楼堂であつた、欄干に左り甚五郎の彫た龍があつて、其れが夜な/\池の端へ
下谷練塀小路 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
そして事務所では金の借貸は一切しないから縁者になる川森からでも借りるがいいし、今夜は何しろ其所そこに行って泊めてもらえと注意した。仁右衛門はもう向腹むかっぱらを立ててしまっていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
帰ってくると渋川が来て居るという。予は内廊下を縁に出ると、驚いた。挨拶にも見えないから、風でもひいてるのかと思うていた岡村の親父は、其所そこの小座敷で人と碁を打って居る。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ふなりニキタはをぱたり。さうしてめたてゝ猶且やはり其所そこ仁王立にわうだち
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ほう、もう、お帰去かへりかな。わしもはや行かん成らんで、其所そこまで御一処に」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其所そこに水もある、また水の辺に小さな小屋があったらしい跡がある、これが今から考えて見ると、川上君などがこの山に籠った処であろうと思う、それから先ず木下君と余は共に夏服であるからして
利尻山とその植物 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
台所へ行くと、其所そこに大根卸しに使った大根の切れッ端がある。それを持って来て、お手の物の小刀で猫の足跡を彫り出したのです。
不可能ふかのうで、また其目的そのもくてきのみの大學だいがくでもなし博物館はくぶつくわんでもない、ゆゑ今一息いまひといきといふ岡目をかめひやう其所そこ突入とつにふするだけの餘地よちいでもい。
けれども、あに其所そこを見抜いてかねを貸さないとすると、一寸ちよつと意外な連帯をして、兄がどんな態度に変るか、試験して見たくもある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
是はう云う訳か、田舎ではボサッカと云って、か草か分りません物が生えてなんだかボサッカ/\致して居る。其所そこ入合いりあいになって居る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼が蒼い顔をして沢畔に行吟していると、其所そこへやって来た漁父が、「滄浪之水清兮、可以濯吾纓。滄浪之水濁兮、可以濯我足
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あの老人程かじの取りにくい人はないから貴所が其所そこを巧にやってくれるなら此方こっちは又井下伯に頼んで十分の手順をする、何卒か宜しく御頼おたのみします。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
申か扨々さて/\大膽たいたんなる奴かなしからば證人を呼出よびいだし引合せんとて下役へ差※さしづあれば武藏屋長兵衞紙屑屋長八の兩人白洲へ呼び込みになり其所そこへ罷り出るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「坊や! 坊や!」とを覚したおツ母さんは、きよろ/\其所そこらを見廻みまはしましたが坊やは何所どこにも居ませんでした。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
人間にんげんではどんなにふか統一とういつはいっても、からだのこります。いかに御本人ごほんにんこころかんじましても、そばかられば、その姿すがたはチャーンと其所そこえてります。
例によって僕は事務室をのぞき、ミチ子だけが机の前に坐って手紙らしいものを書いているのを認めた上、図書室のドアを押して入ったが其所そこには誰も居なかった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「私はがさつ者ですから、どうかお許しください、家はつい其所そこですから、お気が向いた時があったら、飲みにいらしてください、どうか御遠慮なさらないように」
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
編物よりか、心やすい者に日本の裁縫を教える者が有るから、昼間其所そこへ通えと、母親のいうを押反して、幾度いくたびか幾度か、を合せぬばかりにして是非に編物をと頼む。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
でこれから、嘉吉がひよつとしたら行つてゐさうな二三の低級なバーを覗いて見て、若し其所そこで見つかつたら自分も何か飲んで、それから一緒に帰つて寝る積りだつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
其時そのときあいちやんは突然とつぜん打開うちひらいたる廣場ひろばました、其所そこにはやうやく四寸位すんぐらゐたかさの小家こいへがありました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)