もよお)” の例文
ただ、地獄街道の道案内を聞かせてやっただけじゃないか。最後の注意をするが、もうソロソロもよおしてくるから、助かりたかったら……
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明治三十八年五月四日の午後、阿吉牛堡あきつぎゅうほうとどまっていた、第×軍司令部では、午前に招魂祭しょうこんさいを行ったのち余興よきょうの演芸会をもよおす事になった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
天保十四年癸卯きぼう 夏、村田清風毛利侯をたすけて、羽賀台の大調練をもよおす。水戸烈公驕慢につのれりとのとがこうむり、幽蟄ゆうちつせしめらる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この日同志の一人大高源吾はふたたび宗匠山田宗徧のところから、きたる十四日いよいよ上野介の自邸において納めの茶会がもよおされる
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
……まず、立派な御殿ごてんを想像してちょうだい。夏の夜で、すばらしい舞踏会ぶとうかいがあるの。その舞踏会は、若い女王のおもよおしなのよ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
『今昔物語』に蜂と蜘蛛くもと戦う話があった。一たび蜘蛛のとりこになったのを人に助けられた蜂が、仲間をもよおして蜘蛛をしに来る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
なるほどなるほど、味噌はうまく板に馴染なじんでいるから剥落はくらくもせず、よい工合に少しげて、人の※意さんいもよおさせる香気こうきを発する。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私共には眼尻にしわをよせて、猫撫声ねこなでごえでものをいう主人が、召使いに対すると、こうも横柄おうへいになるものかと、私は少からず悪感あくかんもよおしました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
遠くの方から飴売あめうり朝鮮笛ちょうせんぶえが響き出した。笛のは思いがけない処で、妙なふしをつけて音調を低めるのが、言葉にいえない幽愁をもよおさせる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
秀吉はさびしく思う下から顔には出ぬ一笑をもよおした。また始まったなという程度に信長の猜疑さいぎにはあらかじめ理解を備えていたからである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この村では、一つの機関や団体が何かいいもよおしをやると、他の機関や団体もいっしょになって喜んでくれ、できるだけの応援おうえん
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
清原 (次第に涙をもよおすような感傷的な気持になって行く)………石ノ上、僕は、そのうちに君にもあのひとに一度逢ってもらおうと思ってる。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
で、三浦家みうらけではいつも社殿しゃでん修理しゅうりそのこころをくばり、またまつりでももよおされる場合ばあいには、かなら使者ししゃてて幣帛へいはくささげました。
天皇はつぎにはまたあるとき、その長谷はつせにあるももえつきという大きな、大けやきの木の下でお酒宴さかもりをおもよおしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
……和歌の会もよおそうそのために、望東尼殿も拙者も参会したものを、月照上人召し捕るなどと申して、この狼藉は何事じゃ
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
聞いてさえきょうもよおしければ妹は如何いかなる人物ならんと好奇心より早く見たくなり窓の格子戸こうしどへ顔を当てて「兄さん、きっとそうでございますよ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
このまちでは、ちょうどむかしからの氏神うじがみさまの祭日さいじつたるのでした。そして、いつも、むかしわらないもよおしをするのでした。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども、父親の老先生が朝食後ひどく眩暈めまいもよおして水にはいれぬことになってしまったので、小初先生が先導と決った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
猿楽さるがく田楽でんがく、その他武藝や遊藝のもよおし物のあった折などに、幾度か侍臣の列に連なる此の青年の頼もしそうな人品骨柄を
ソコデもって中津の有志者すなわち暗殺者は、金谷かなやう処に集会をもよおして、今夜いよ/\しまに押掛けて福澤を殺すことに議決した、その理由は
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夜がけるにつれ、夜伽よとぎの人々も、寝気ねむけもよおしたものか、かねの音も漸々ようように、遠く消えて行くように、折々おりおり一人二人の叩くのがきこえるばかりになった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
場所も丁度ちょうど、この橋の川上だった。久しく打ち絶えていた水馬すいばの競技が、何年かぶりにまたもよおされることになって、平七もその催しにせ加わった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
望月もちづきである。甲斐かい武田勝頼たけだかつよりが甘利四郎三郎しろさぶろう城番じょうばんめた遠江国榛原郡小山とおとうみのくにはいばらごおりこやまの城で、月見のえんもよおされている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この人は高見といって、一二度あるもよおしに自分を招いてくれた人で、人のよさそうな黙笑をその少し酔いの出た、そして睡そうなあの顔に続けている。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
気のいい老父は、よかれあしかれ三人の父親である耕吉の、泣いて弁解めいたことを言ってるのに哀れをもよおして、しまいにはこうなぐさめるようにも言った。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
いつもならば、目を閉じるとすぐに睡眠に落ちるのだが、今夜は慣例を破って、まだ睡気のもよおさぬ前に炬燵を離れたためか、頭が冴えて眼つきが悪かった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
受けて無言だまって居るのですか覚えがないと言切てお仕舞いなさい貴方に限て其様な事の無いのは私しが知て居ますと泣きつ口説くどきつするさまに一同涙をもよおしました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
帰朝してから随分ずいぶん色んな歓迎会ももよおして頂き、酔ったあとで友達同士、女遊びをする機会も多かったのですが、ぼくはどんな場合でも、芸者なり商売女に
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その趣向しゅこうは寝ている余とはもとより無関係だから、知ろうはずもなかったが、とにかくこの議決が山荘でのもよおしに一異彩を加えた事はたしかに違ないと思った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このもよおしを聞いて浦和の町の父兄達も定刻前に会場へつめかけた。各学校の先生達はわが生徒に勝たせようとしのびしのびに群集の中にまぎれこんでいった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
現今げんこんでは精神病者せいしんびょうしゃ治療ちりょう冷水れいすいそそがぬ、蒸暑むしあつきシャツをせぬ、そうして人間的にんげんてき彼等かれら取扱とりあつかう、すなわ新聞しんぶん記載きさいするとおり、彼等かれらために、演劇えんげき舞蹈ぶとうもよおす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
上陸当初の日に一瞥いちべつして嘔吐おうともよおし、現代日本の醜悪面しゅうあくめんを代表する都会とののしり、世界のどんなきたない俗悪の都市より、もっと殺風景で非芸術的な都市と評した東京は
「胆力養成会と申しましょうか? 裏のお山でもよおしたいと存じますが、いかがでございますかな?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
西山のけんまくに少し怖れをもよおしたらしい。クレオパトラは七歳になったばかりの大きな水晶のような眼を眠そうにしばたたいて、座中の顔を一つ一つ見廻わしていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大いにきょうもよおし、さっそくたくさんな花をんで、その紫汁しじゅうでハンケチをめ、また白シャツにけてみたら、たちまち美麗びれいまって、大いに喜んだことがあった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
忍坂おさかの邑に酒宴をもよおして敵を誘い、道臣命の合図で一挙にこれを皆殺しになされたとか、或いは景行天皇御西征の時に、土蜘蛛に赤い着物や珍らしい物を与えて招き寄せ
わしはひたすらあなたに助けをう。あゝ仏様があなたの心に慈悲じひもよおさしてくださるように!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
上町かみまちの鶴の湯にそういうもよおしがあるのを清三も聞いて知っていた。夏の間、二階を明けっ放して、一日湯にはいったり昼寝でもしたりして遊んで行かれるようにしてある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
まず第一に十里ぐらいはなんだとあざけりを心にもよおす。この種類の人も僕が出立しゅったつするときに、今日は十里の散歩をしようと、心に定めたことを度外視してわが輩の遠足をはかる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この芸妓げいしゃは、昨夜ゆうべ宴会えんかい余興よきょうにとて、もよおしのあった熊野ゆやおどりに、朝顔にふんした美人である。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃のことを追想すると、私は今でも心のときめくような深い感慨をもよおさずにいられない。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
それからは急に月が晴れ、五穀ごこくがよく実り、国中の者が喜び楽しみました。そして満月の度ごとに、お城の門をすっかり開いて城下の者も呼び入れ、月見の会がもよおされました。
お月様の唄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
横浜の貿易に非常の影響えいきょうこうむらざるを得ず、すなわち外人の恐惶きょうこうもよおしたる所以ゆえんにして、彼等の利害上、内乱ないらん干渉かんしょうしてますますその騒動を大ならしむるがごときおもいもらず
人の眠もよおさまなるこの水音を源叔父は聞くともなく聞きてさまざまの楽しきことのみ思いつづけ、悲しきこと、気がかりのこと、胸に浮かぶ時は櫓握る手に力入れて頭振りたり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
昔、朝廷ちょうていでは毎年七月に相撲すもう節会せちえもよおされた。日本全国から、代表的な力士をされた。昔の角力すもうは、打つる投げるといったように、ほとんど格闘かくとうに近い乱暴なものであった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その晩、梅信亭ばいしんていで饗宴がもよおされた。この町の若い美技びぎが輪になって、そこで、あかい頭巾に花笠、裁付袴たっつけばかまのそろいで、本場の木曾踊りを踊った。だがあまりに巧緻こうちに過ぎ、柔軟に過ぎた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
のちのしるしにせばやと思いてその髪をいささか切り取り、これをわがねてふところに入れ、やがて家路に向いしに、道の程にてえがたく睡眠をもよおしければ、しばらく物蔭ものかげに立寄りてまどろみたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この秋はあの茶碗の披露で一席もよおし、知っているだれかれを驚かしてやろう。
伊豆はどうやら起き上って、暫く嘔吐おうともよおして苦しんでいたが、それから思い出したようにゆがんだ笑いをうかべて、崩れた着物をつくろいもせずにいきなり懐手をして、ぶらりぶらり帰っていった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あとはまた眠気をもよお沈黙しじまが、狭い床店の土間をのどかに込めて、本多隠岐守ほんだおきのかみ殿どのの黒板塀に沿うて軽子橋の方へ行く錠斎屋じょうさいやの金具の音が、薄れながらも手に取るように聞こえて来るばかり——。