じょう)” の例文
見究みきわめようとしているのであったが、いくじょうとも知れないほど深く湛えた蒼黒い水は、頼正の眼をさえぎって水底を奥の方へ隠している。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きもも太いが手ぎわもいい、たちまち三じょうあまりの絶壁ぜっぺきの上へみごとにぐりついて、竹生島ちくぶしまの樹木の中へヒラリと姿をひそませてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するともなくそこへ、一じょうにもあまろうという大きな赤鬼あかおにが、かみ逆立さかだてて、おさらのような目をぎょろぎょろさせながらました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「おお、」と母親ははおやうめいた。「わたしは千じょうもあるそこへでもはいっていたい。あれをかされちゃア、とてもたまらない。」
じょうに足らぬひのきが春に用なき、去年の葉をかたとがらして、せこけて立つうしろは、腰高塀こしだかべい隣家となりの話が手に取るように聞える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが風にらぐと、反射でなめらかながけの赤土の表面が金屏風きんびょうぶのようにひらめく。五六じょうも高い崖の傾斜けいしゃのところどころに霧島きりしまつつじがいている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その阿古屋をおつとめになるのが私と同じ年で今年十七におなりになったばかりの中村半次郎じょう……ほかならぬ貴方様で
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
玉虫色たまむしいろの服をきた美しい女が、片手かたて絵日傘えひがさを持ち、すらりとした足をしずかにすべらせようとしています。二じょうもあろうと思われる高いところです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
巨大なるこのくすのきらさないために、板屋根をいた、小屋の高さは十じょうもあろう、脚の着いた台に寄せかけたのが突立つッたって、殆ど屋根裏に届くばかり。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「良いじゃないか、雪がうんと降って、その雪が一じょう二丈も積んで、みちがこの上にできたら、按摩あんまさんが二階の窓からおっこちて来るよ、あの按摩さんもね」
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其芽それがだんだん大きくなって枝に枝を生じ、その枝が成長して九月頃になると全く成長の極に達するのです。最も大なる宝鹿ほうろくの角はその長さが一じょうしゃく程ある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
二階の休憩室には色々な飾り物が所狭く陳列してあって、それに「花○喜○じょう」と一々札がつけてある。一座の立役者Hの子供の初舞台の披露があるためらしい。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しまったことをした! しまったことをした! 千じょうの堤も、ありの一穴——あのいやしい女白浪の、恋にやぶれた、口惜しまぎれの口から、大事が敵に洩れたら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
引幕には市川いちかわ○○じょうへ、浅草公園芸妓連中げいぎれんじゅうとして幾人いくたりとなく書連かきつらねた芸者の名が読まれた。しばらくして
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幾百本とも判らぬ幹が総立に一まとまりになっているから、全周囲は二三じょうもあるであろう、思えば先年参詣の時門前の婆さんが千本銀杏と申しますと云われたのであった
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
幾千とも知れぬ大岩小岩につきあたる波は、十じょうの高さまでおどりあがっては、たきのごとく落下し、すさまじい白い泡と音響おんきょうをたてて、くだけてはちり、ちってはよせる。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
このためには、現在魯侯よりも勢力をつ季・叔・孟・三かんの力をがねばならぬ。三氏の私城にして百雉ひゃくち(厚さ三じょう、高さ一丈)をえるものにこうせいの三地がある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それから地蔵河原じぞうがわらを渡渉して、最後に三の公川に達するまで、川と川との間の路は、何じょうと知れぬ絶壁ぜっぺきけずり立った側面をうて、ある所では両足を並べられないほどせま
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やがて北からは黄いろい蛇、南からは白い蛇、いずれも長さ十余じょう、渓の中ほどで行き合って、たがいに絡み合い咬み合って戦ったが、白い方の勢いがやや弱いようにみえた。
怪物は不具者の身をもって、どうして一じょうもあるコンクリート塀を乗り越すことが出来たか。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
土佐では槙山まきのやま郷の字筒越つつごしで、与茂次郎という猟師夜明よあけに一頭の大鹿の通るのを打留うちとめたが、たちまちそのあとから背丈せたけじょうにも余るかと思う老女の、髪赤く両眼鏡のごとくなる者が
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いずれ一座いちざのカピじょうはもう一度おうかがいにつかわしますから、まだご祝儀しゅうぎをいただきませんかたからも、今度はたっぷりいただけますよう、まえもってご用意をねがいたてまつります
からだの両脇に土をって、風が、下からふいた。四、五じょうも落ちたであろうか。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
薬研堀やげんぼり不動様ふどうさまへ、心願しんがんがあってのかえりがけ、くろじょうえりのかかったお納戸茶なんどちゃ半合羽はんがっぱ奴蛇やっこじゃそうろうごのみにして、中小僧ちゅうこぞう市松いちまつともにつれた、紙問屋かみどんや橘屋たちばなや若旦那わかだんな徳太郎とくたろう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
然しいつまで川水を汲んでばかりも居られぬので、一月ばかりして大仕掛おおじかけ井浚いどさらえをすることにした。赤土あかつちからヘナ、ヘナから砂利じゃりと、一じょうも掘って、無色透明無臭而して無味の水が出た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あるおとこは、いつものようにしずかな寝静ねしずまったまち往来おうらいあるいていると、雲突くもつくばかりの大男おおおとこが、あちらからのそりのそりとあるいてきた。見上みあげると二、三じょうもあるかとおもうような大男おおおとこである。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
第十二代景行天皇けいこうてんのうは、お身のたけが一じょうすん、おひざから下が四しゃく一寸もおありになるほどの、偉大なお体格でいらっしゃいました。それからお子さまも、すべてで八十人もお生まれになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
じいさんがそうわれているうちに、天狗てんぐさんは直径ちょくけい一尺いっしゃくもありそうな、ながおおきなすぎえだ片手かたてにして、二三十じょう虚空こくうから、ヒラリとおどらしてわたくしている、すぐまえちました。
それというのがどれもこれも垂涎すいぜん三千じょうの価値あるものばかり。
それぞ大手の寄手の背後を突くべく、兵五百ほどをひきつれて裏門を出た扈家荘こかそうの秘蔵むすめ、あだ名を一じょうせいという女将軍であったのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくらあるいてもいえらしいものもえませんでしたが、そのうちいつどこから出てたか、一じょうせいたかさのある大男おおおとこがのそのそと出てました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
怒り心頭に発したとは正にこの時の鬼王丸の事、じょうに余る白髪を一本一本逆立てんばかり、はたと三太夫を睨んだが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誰でも知っている通りサナダ虫は一じょうも二丈もある上に、短かい節々のつながりが非常に切れ易いので、全部を引出し終るにはナカナカ時間がかかる。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御身とわれと始めて逢える昔を知るか。じょうに余る石の十字を深く地にうずめたるに、つたいかかる春の頃なり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何と、お行者ぎょうじゃ、未熟なれども、羽黒の小法師こほうし、六しゃくや一じょうながむしに恐れるのでない。こゝがだ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「里人岩飛いわとびとて岸の上より水底へ飛入て川下におよぎ出て人に見せ銭をとる也とぶときは両手を身にそえ両足をあわせて飛入水中に一じょうばかり入て両手をはれば浮み出るという」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
高さ四、五じょうも、周囲二町もあろうと見えるひさごなりな小島の北岸へ舟をつけた。瓠の頭は東にむいている。そのでっぱなに巨大な松が七、八本、あるいは立ち、あるいは這うている。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
前の方で大きな声をする人があるので、わたしも気がついて見あげると、名に負う第一の石門せきもん蹄鉄ていてつのような形をして、霧の間からきっそびえていました。高さ十じょうに近いとか云います。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近づくままに熟視じゅくしすると、岸には百じょう岩壁がんぺきそばだち、その前面には黄色な砂地がそうて右方に彎曲わんきょくしている、そこには樹木がこんもりとしげって、暴風雨のあとの快晴の光をあびている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そこで様子を聞くとこの宿屋の風呂場がちたとのことで、一体その風呂場ふろばは二階にありますがシンガポールの家は随分二階と下の間が開いて居りましてほとんど一じょうもあるように見受けます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
新帰朝しんきちょう百面相役者××じょう出演
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とはいえ、西の扈家荘こかそうの女将軍一じょうせいは、日月の双刀をよく使う稀代きたいな女傑ですし、独龍岡そのものも、不落の城、充分お気をつけなさいまし。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから老人は立ち上り、一じょうあまりも飛び上った。と、体が細まりくびれ、煙のように朦朧となり、やがてあたかも尾を引くように、壺の中に入って行った。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俺は思わず一じょうばかりの溜息をいたよ。滑稽な気持ちなんかミジンも感じなかったから不思議だよ。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
じょうくらいながさのある、まっくらな岩穴いわあなの中をくぐってそとへ出ますと、さあさあとおとてて、ちいさな谷川たにがわながれているところへ出ました。そのときおじいさんたちはふりいて
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
でこぼこした石をつたって二じょうばかりつき立っている、暗黒な大石の下をくぐるとすぐ舟があった。舟子は、しまもめんのカルサンをはいて、大黒だいこくずきんをかぶったかわいい老爺ろうやである。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この路筋みちすじさえ御存じでらっしゃれば、世を離れました寂しさばかりで、けだもの可恐おそろしいのはおりませんが、一足でも間違えて御覧なさいまし、何千じょうとも知れぬ谷で、行留ゆきどまりになりますやら
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
断橋だんきょう鉄軌レエルを高きに隔つる事じょうを重ねて十に至って南より北に横ぎる。欄にってすとき広き両岸のせいきわめつくして、始めて石垣に至る。石垣を底に見下みおろして始めて茶色のみちが細くよこたわる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも入口は小さなもので、中へ入るとその二間四面の漆喰しっくいで固めてある土間どまに、深さ一じょう、長さ六尺、幅六寸ほどの穴が穿うがたれてありまして、その穴の両側に四角な大きな柱が置かれてあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「年によると、一じょうも積もることがあります。」
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)