ひとつ)” の例文
その印刷術もト通りは心得ておかねば不自由ダと思い、そこで神田錦町にあったひとつの石版印刷屋で一年程その印刷術稽古をした。
シノネ曰ふ、我はことばにて欺けるも汝は貨幣かねにて欺けるなり、わがこゝにあるはひとつの罪のためなるも汝の罪は鬼より多し 一一五—一一七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
殊に就中なかんずく蕪村の如く、文化が彼の芸術と逆流しているところの、ひとつの「しき時代」に生れた者は、特に救いがたく不遇である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
知られで永くみなんこと口惜くちをしく、ひとつには妾がまことの心を打明け、且つは御身の恨みの程を承はらん爲に茲まで迷ひ來りしなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
この両側左右の背後に、浄名居士じょうみょうこじと、仏陀波利ぶっだはりひとつ払子ほっすを振り、ひとつ錫杖しゃくじょう一軸いちじくを結んだのを肩にかつぐようにいて立つ。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それからのわたくしえず竜宮界りゅうぐうかいこと乙姫様おとひめさまことばかりかんがむようになり、わたくし幽界生活ゆうかいせいかつひとつ大切たいせつなる転換期てんかんきとなりました。
一向にわきまへずして感應院後住ごぢうの儀は存じもよらず爰にさればひとつの御願ひあり何卒當年たうねんより五ヶ年の間諸國修行致し諸寺しよじ諸山しよざん靈場れいぢやうふみ難行苦行を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかも実に明らかな達見たっけんがそのうちにある。光圀のいったところと、頼房のことばとは、まったくひとつであった。血はただしくひとつであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左は言へど敢て在来の詩人を責むるにもあらず、又た自己の愛するところを言はんとにもあらず、唯だ我が秋に対する感のひとつとして記するのみ。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
其中に、一円の金貨が六ツか八ツも有升ありましたがお祖父ぢいさまはやがて其ひとつをとりいだして麗々とわたしの手のひらのせくださつた時、矢張冗談じようだんかと思ひました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
少女むすめの両眼には涙が一ぱい含んでいて、その顔色は物凄ものすごいほど蒼白あおじろかったが、ひとつは月の光を浴びたからでも有りましょう
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
カーテンを引いた白ペンキ塗りの枠を持つ今ひとつの部屋の窓からは内部の模様がわからなかったが食堂らしい南側の室との間の細長い廊下を引き切って
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うしろから不意に小供に飛びつく事、——これはすこぶる興味のある運動のひとつだが滅多めったにやるとひどい目に逢うから、高々たかだか月に三度くらいしか試みない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自動車は余の嫌いなものゝひとつである。曾て溜池ためいけ演伎座前えんぎざまえで、微速力びそくりょくけて来た自動車をけおくれて、田舎者の婆さんが洋傘こうもりを引かけられてころんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのほかに我々の時代の生んだ音楽や演劇で我々が新しい様式としての価値を認め得るものはひとつも存しない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
◯ヨブは実在の人物か想像の人物かはひとつの問題である。そして余はヨブを実在の人物と信ずる者である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
なかには人間にんげん知識ちしき高尚こうしやう現象げんしやうほかには、ひとつとして意味いみのある、興味きようみのあるものはいのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これを廝に告げんとすれど、悲しや言語ことば通ぜざれば、かれは少しも心付かで、阿容々々おめおめ肴を盗み取られ。やがて市場に着きし後、代物しろもの三分みつひとつは、あらぬに初めて心付き。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いつはしらの皇子みこ次を以て相盟ふこと先の如し。然して後に天皇のたまはく、朕がこども各異腹にして生る。然れども今ひとつ母同産おもはらからの如くてめぐましむ。則ちみそのひもひらきて、その六皇子を抱きたまふ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
の市川新田の出外ではずれの処に弘法寺こうぼうじ深彫ふかぼりのあるひとつの石塚が建っており、あれから右へ曲ると真間の道で、左右が入江になっており、江には片葉の芦が生えて居りまするが
小供のなじむは早いもので、間もなく菓子ひとつを二ツに割ッて喰べる程むつみ合ッたも今は一昔。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
試みんと口には云しが汗のみ流れて足は重し平塚村といふに小高き森ありてよき松の樹多し四方晴れて風すゞしきに此の丘にのぼれば雌松雄松がひとつになりし相生あひおひあり珍しき事かなと馬を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
これひとつは生梅あるいは不熟のすもも等には時として青酸といえる大劇毒のあるに因る。青酸毒は一滴を吸入しても人をして昏倒せしむ。青酸中毒はすみやかに食物を吐出せしむるが肝要なり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それ牛王ごおうを血にけがし神を証人とせしはまだゆかしき所ありしに、近来は熊野くまのを茶にしてばちを恐れず、金銀を命と大切だいじにして、ひとつきん千両なり右借用仕候段実正みぎしゃくようつかまつりそうろうだんじっしょうなりと本式の証文り置き
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お前が自分で欺されたのかくば吾々を欺して居るのだ必ず其ふたつひとつだ巡
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
信吾の持つて帰つたほん可成なるべく沢山借りて読まうといふのもそのひとつであつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
撫院をはじめ諸士歩行せし故、路険に労して背汗濈濈しふ/\たり。すなはち撫院きぬひとつぬぎたり。忽ち岩頭に芭蕉の句碑あり。一つ脱で背中に負ぬ衣更ころもかへといふ句なり。古人の実境を詠ずる百歳の後合する所あり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
果して其朝はひとつも獲物なくして帰りたりといへり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひとつは福を他は難を*充たす、ヂュウスが人間に
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
新しい一裑ひとつみひとつも着せて遣りませう
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ひとつしづくと誰か見る。
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
この住居すまいは狭かりけれど、奥と店との間にひとつの池ありて、金魚、緋鯉ひごいなど夥多あまた養いぬ。が飼いはじめしともなく古くより持ち伝えたるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これふたつの小さき焔のこゝにおかるゝをみしによりてなり、又ほかひとつ之と相圖を合せしありしも距離あはひ大なれば我等よく認むるをえざりき 四—六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
凡ての人類と共にあり、限りなきの生命いのちを以て限りなきの愛を有する者、基督なりとせば、天地の事、豈ひとつの愛を以て経綸すべしとなさゞらんや。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
運命が僕を詛うてるのです——貴様あなたは運命ということを信じますか? え、運命ということ。如何どうです、もひとつ
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
飯場頭と云うのはひとつの飯場を預かる坑夫の隊長で、この長屋の組合に這入る坑夫は、万事この人の了簡りょうけんしだいでどうでもなる。だからはなはだ勢力がある。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けだし晩年の蕪村は、この句によってひとつの新しい飛躍をしたのである。もしこれが最後の絶筆でなかったならば、更生の蕪村は別趣の風貌ふうぼうを帯びたか知れない。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
花道には、ひとつきん何十銭也船橋何某様、一金何十銭也廻沢何某様と隙間すきまもなくびらをった。引切りなしに最寄もよりの村々から紋付羽織位引かけた人達がやって来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
このなかには人間にんげん知識ちしき高尚こうしょう現象げんしょうほかには、ひとつとして意味いみのある、興味きょうみのあるものはいのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれども余はヨブに代って答えよう、ひとつの信仰がよく世界を動かすことあり、神よりの力われに臨めば我にし得ざること一もなし、ビルダデよ汝の言はあやまれりと。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
じいさんの御話おはなしからかんがえてましても、竜宮りゅうぐうはドウやらひとつ蜃気楼しんきろう乙姫様おとひめさま思召おぼしめしでかりそめにつくあげげられるひとつ理想りそう世界せかいらしくおもわれますのに、実地じっちあたってますと
文三が某校へ入舎してからは相逢あいあう事すらまれなれば、ましひとつに居た事は半日もなし。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
応仁の乱麻らんまから、割拠かっきょしていた群雄のおびただしい複数が、徐々に単位に近づき、信長によって、飛躍的にそれがひとつに達しようとしたとき、忽然こつぜんと彼は世を去り、彼の死は加速度に
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日きのう御身に聞きたきことありといひしが、余の事ならず」ト、いひさしてかたちをあらため、「それがし幾歳いくとせ劫量こうろうて、やや神通を得てしかば、おのずから獣の相を見ることを覚えて、とおひとつあやまりなし。 ...
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
たま/\ひとつか二つ出ればそれで沢山たくさん儲けて沈着おちついてらっしゃるが、わたしどもはガチ/\して廉く売って、利を数で見て居りまする、あなたの方でも廉く売れば屹度きっと売れますから廉くお売りなさい
新しい一身ひとつみひとつも着せて遣りませう
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
我見しに、かの光の奧には、あまねく宇宙にひらとなりて分れ散るもの集り合ひ、愛によりてひとつまきつゞられゐたり 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ひかけて、みづにはのぞまず、かへつてそらゆびさした老爺ぢいゆびは、ひとつみね相対あひむかつて、かすみたかい、天守てんしゆむねならんでえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひとつは所がへだたっていてのあたり見なれぬために遠隔の地の人のことは非常に誇大こだいして考えられたものである、今は交通が便利であるためにそんな事がない
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真理は実に多側なり。神のおもてひとつなれど、之を見るものゝ眼によりていかやうにも見ゆるものなるべけれ。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)