かた)” の例文
深夜に一旦外へ踏み出せば、自分が斬られるか、或いは斬られて倒れているものを発見することは、さしてかたいことではありません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
爪弾つまはじきされたことは想像にかたくなく、極端な無抵抗主義が因をなして、「腰抜け」という、有難からぬ綽名あだなまで頂戴したのでしょう。
歴代の女たちがわが子のためまたはわが夫のためにも、是は彼に着せる布と、心に念じつつ糸を引いていたことは察するにかたくない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さしもになかよしなりけれど正太しようたとさへにしたしまず、いつもはづかしかほのみあかめてふでやのみせ手踊てをどり活溌かつぱつさはふたゝるにかたなりける
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「往きて汝のてる物をことごとく売りて、貧しき者に施せ。さらば財宝たからを天に得む」「富めるものの神の国に入るはいかにかたいかな」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
一四二烈婦さかしめのみぬしが秋をちかひ給ふを守りて、家を出で給はず。翁も又一四三あしなへぎて百かたしとすれば、深くてこもりて出でず。
また山に沿う丘やらやつやら狭道で攻めるにかたい。——のみならず、南は海で、その海面に義貞はなんら攻め手を持っていなかった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
であるから、この虎ヶ窟に棲む山𤢖なる者の正体は、大抵想像するにかたからずで、はり前に云ったような種類に相違ないんです。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
Kはその朝の微白い空気の中にも、死ぬことのかたくないことを感じたが、そこでは一層かれはさうした心持に浸ることが出来た。
浴室 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
以て芭蕉が客観的叙述をかたしとしたる事見るべし。木導の句悪句にはあらねどこの一句を第一とする芭蕉の見識は極めて低く極めておさなし。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この翻訳はなかなかかたい。原文を精確に会得えとくしなければ翻訳はできない。また訳する言葉がわからなければ適切な翻訳ができぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
外出のかたかるべきは予期せる所なりしを以て、運動に供せんため自ら室内操櫓器そうろきなづくる者を携え行きたりしが室内狭くしてしばしばこれを
およぜいかたきは、もつくことるのかたきにあらざるなり(五七)またべんあきらかにするのかたきにあらざるなり
湖山はこの行を送って、「莫道羊腸行路険。也勝百折世途難。」〔フ莫カレ羊腸ノ行路険シク/またまさル百折ノ世途ノかたキニト〕と言った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
常陸、主馬之介の申す言葉に我らも同意でござりまする。万卒ばんそつは得易く一将はかたしと、昔より申してもおりますればその大功ある武兵衛殿を
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これに反して帰るべくして帰らざる保を日ごとに待つことは、五百のかたんずる所であった。この時五百は六十八歳、保は二十七歳であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
皆天地の御主おんあるじ、あなたの御恵おんめぐみでございます。が、この日本に住んでいる内に、私はおいおい私の使命が、どのくらいかたいかを知り始めました。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは国が僻在へきざいしておって守旧に便利なのと、「スラーブ」民族が元来政治思想に乏しきが故であるが、その地勢が守るにやすく攻むるにかた
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
僕は父親になつた経験はないけれども、父が子を殺すということは、姉が弟を殺すというよりもはるかにかたいと思つている。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
骨になった者に逢いたくないかというのは、盆の中の水を地面にザッとあけてその水を再び盆の上に取り戻してみせる以上にかたいことだった。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
されど汝の眼前めのまへに今なほ横たはる一の路あり、こはいとかたき路なれば汝ひとりにてはこれを出でざるさきに疲れむ 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たとえば艱難かんなんなんじを玉にすとか、富める人の天国に行くは駱駝らくだの針の穴を通るよりかたしとかいうことなどあるがために
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
此の念を断切たちきる事は何うもかたい事です、修業中の行脚を致しましても、よく宿場女郎を買い、あるいは宿屋の下婢おんなに戯れ、酒のためについ堕落して
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
象次郎曰ふ、復古はかたきに非ず、然れども門地もんちはいし、門閥もんばつめ、けんぐることはうなきに非ざれば、則ち不可なりと。二人の本領自らあらはる。
彼妙音の女怪の一人此舟の中に來ぬこそ殘惜しけれ。その容色はいと好しとぞ聞く。さるものを待遇せんは、わがともがらかたんぜざるところぞ。われ。
彼のいかりしを見んはかたく彼の泣くを見んはたやすからず、彼は恨みも喜びもせず。ただ動き、ただ歩み、ただ食らう。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
囲碁・将棋等の技芸もやすきことにあらず、これらの技芸を研究して工夫をめぐらすのかたきは、天文・地理・器械・数学等の諸件に異ならずといえども
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
劉填りうてんいもうと陽王やうわうなり。陽王やうわうちうせられてのち追慕つゐぼ哀傷あいしやうしてやまひとなる。婦人ふじんこのやまひいにしへよりゆることかたし。とき殷※いんせんゑがく、就中なかんづくひとおもてうつすにちやうず。
聞きたるまゝ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼はこれ等の多くを散文にものしたが、天成の詩人たる彼が詩歌に第一の新聲をいだすにかたんじたとは運命の戯謔か、——悲痛の感に堪へないのである。
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
すなわ徐安じょあん鐘祥しょうしょうをしててんって、懐来かいらいに走らしむ。宗忠そうちゅう懐来かいらいり 兵三万と号す。諸将之を撃つをかたんず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼はこの色を売るの一匹婦いつひつぷも、知らずたれなんぢに教へて、死にいたるまでなほこのがたき義にり、守りかたき節を守りて、つひに奪はれざる者あるに泣けるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかしてべつある誤謬ごびゆうそんするあるにもあらずしてこの殺人さつじんつみおかす、世に普通なるにあらずして、しかも普通なる理由によつてなり、これをうつきはめてかた
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
六郎氏がこの彼にとっては恐らく新発見であった所の、新しい趣味に共鳴したことは想像にかたくありません。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
我が抜苦ばつく与楽よらく説法せつぱううたがふ事なく一図いちづありがたがツて盲信まうしんすれば此世このよからの極楽ごくらく往生おうじやうけつしてかたきにあらず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
予が此実際よりは更に困苦と粗喰とを取るは、未開地を開墾するの農家の本分たり。ああ創業のかたいかな。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
これもまた限りあり。限りあるの地に向って限りなきの欲望を充たさんと欲す、そもそもまたかたからずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たま/\一熊いちゆうるとも其儕そのともがらあたひわかつゆゑ利得りとくうすし、さればとて雪中の熊は一人ひとりちからにては得事うることかたしとぞ。
見よ「人いかでか神の前にただしかるべけん」と、げにこれこの世における最もかたき問題の提出ではないか。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
且つ、同姉妹が二人共、女性としては珍らしき気嵩きがさなる性格の所有者なる事実よりこれを推せば、両人の間にかかる黙契の成立し得べき事は想像にかたからざる事。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
退しりぞ投首なげくびなし五日の中に善惡二つを身一つにして分る事のいとかたければ思案にくれるに最前さいぜんよりも部屋の外にて二個ふたり問答もんだふ立聞たちぎきせし和吉は密と忠兵衞のそばへ差寄りたもと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この冀望たる、余が年来の志望にして、つねに用意せし所なりといえども、その事の大にしてかたきや、未だこれを全うするの歩を始むるを得ず、荏苒じんぜん今日に至れり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
○さま/″\なる世に在りて、いづれを上手と定めんは、いとかたし。いづれを下手と定めんは、いと/\難し。上手を定めんよりも、下手を定めんは一層難き事なり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
尋ね尋ねあてて魚の有りや無しやを問ひそれを我等に報じてしかして後に調理にかゝられては一日二日の滯留にては味ふことかたかるべし肴の儀は取消しとすべし急ぎ膳を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
濃霧は山をおりるにしたがい次第次第に薄くなって、緑の山々も四方に見えるようになったが、道はしばしば草に埋没して見えなくなる。崖の崩れて進むにかたところもある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
この村が相当なものであることは予測にかたくなかったが、びしょ濡れになって、寒さに凍えている我等の主人公は、ただもう寝床のことより他は何も考えなかった。
その所領より産するものは領主に帰属する、当然のことですが、云い切るのはかたいことだと存じます。
たまふり作品さくひんかんじがあらはれるといへば、じつわたしにとつてわすかたいのは亡き岩野泡鳴さんだつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ゆえに、いやしくもその人を得るにあらずんば、教法、正しといえども行われず、論説、理ありといえども信ぜられず。ああ信のかたき、これを信ぜしむるを難しとす。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
因って思うに、到底のうの如きは、金員きんいんを以て、男子の万分の一助たらんと欲するもかたしと、金策の事は全く断念し、身を以て当らんものをと、種々その手段をはかれり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
道義の運行は悲劇に際会して始めて渋滞じゅうたいせざるが故に偉大なのである。道義の実践はこれを人に望む事せつなるにもかかわらず、われのもっともかたしとするところである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)