)” の例文
和尚おしょうさんのお部屋へやがあんまりしずかなので、小僧こぞうさんたちは、どうしたのかとおもって、そっと障子しょうじから中をのぞいてみました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
逆光線になったM子さんの姿は耳だけ真紅しんくいて見えます。僕は何か義務に近いものを感じ、M子さんの隣に立つことにしました。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
投げ込んで行くところはさらわれても仕方がない、何でもおちゃっぴいになって、朝比奈をギュウと言わせてやりさえすれば胸がくわ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この人はどんな朗らかにとおるような空の下に立っても、四方から閉じ込められているような気がして苦しかったのだそうである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほッと、息をついて、あたりの闇をかしてみると、ここはいつかの晩、綱倉の窓からおよねすすり泣く声をきいた記憶のある掘割岸。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皮膚がけるようなぐあいで、なにかの花びらのように柔らかくしっとりと湿っていて、でると指へ吸いつくような感じである。
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
青く血管のけるような白い頬で、女は、でも、固く目を閉ざしていた。ふいに、涙がその目じりからあふれた。頬に光の筋を引いた。
暑くない夏 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
町幅一杯まちはばいっぱいともいうべき竜宮城りゅうぐうじょうしたる大燈籠おおどうろうの中にいく十の火を点ぜるものなど、火光美しくきてことに目ざましくあざやかなりし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ほたるもすそしのつまりて、うへ薄衣うすぎぬと、長襦袢ながじゆばんあひだてらして、模樣もやうはなに、に、くきに、うらきてすら/\とうつるにこそあれ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たとえていえば、玲瓏たる富士の峰が紫にいて見えるような型の、貴女をといっている。これはだいぶ歌集『踏絵』に魅せられていた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
赤緒あかお下駄げたと云えば、馬糞ばふんのようにチビたやつをはいている。だが、雑巾ぞうきんをよくあててあるらしく古びた割合に木目がきとおっていた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
また、まち並木なみきは、たいていちつくしてしまって、くろ小枝こえださきあおそらしたこまかく、あみのようにいてえていました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、これがもしスパイの余得であったなら同志を欺くためにもこういう不当所得のかされるような真似まねは決してなかったろう。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
小さなボヘミヤンは、罎を地べたの上に置いて、低い戸にぶらさがるようにして中をのぞき込んだ。彼の眼は闇をかそうと努力をした。
硝子箱がらすばこへ物を入れたように中の品物が見えかねばならん。しかるに我邦の文章とか文学と言われるものは鉄板をかさりにしてある。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし君、いくら窮境に陥つたからと言つて、金を目的めあてに結婚する気に成るなんて——あんまり根性が見えいて浅猿あさましいぢやないか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
袖やすそのあたりが、恰度ちょうどせみころものように、雪明りにいて見えて、それを通して、庭の梧桐あおぎり金目かなめなどの木立がボーッと見えるのである
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
のみならず臍繰金へそくりがねを高利に廻して、養蚕ようさんや米の収穫後になるとかさずに自分で出かけて、ピシピシと取立てたりするようになったので
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さては、と思ってかして見ると、酔眼朦朧すいがんもうろうたるかれの瞳に写ったのは、泥濘ぬかるみを飛び越えて身軽に逃げて行く女の後姿であった。
「うん、なんか附いてはいるが——」若い男は注射器を、明り窓の方にかして、その茶色の汚点おてんに眺め入った。「電灯はきませんか」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんなとほるやうな感じの女が、どう間違つて伊丹屋の駒次郎などの思ひ者になつて居たことか、平次にはそれが不思議でなりません。
「海はいでいました」と、月が言いました。「水は、わたしが帆走ほばしっていたみきった空気のように、きとおっていました。 ...
呼び出された女童めのわらわは、雨の降り込む簀子すのこの板敷にしょんぼり立っている男の姿をやみかしながら、さも驚いたらしく云った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの高間医院といふ字を裏側からかし出した曇り硝子の二枚戸が片寄せになつて、そこに長方形のかつきりした戸口があり
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
鳶尾草いちはつの花、清淨しやうじやう無垢むくかひなの上にいて見える脈管みやくくわんの薄い水色、肌身はだみ微笑ほゝゑみ、新しい大空おほぞらの清らかさ、朝空あさぞらのふとうつつた細流いさゝがは
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
背は並より高いほう、目の大きい眉のこい三角形さんかくがたの顔であった。白いうなじがきとおるようにきれいで、それが自分にはただかわいかった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
岩のきまに獅噛しがみついた、サクシフラガ Saxifraga の、星のような花をまたいで、十五分も登ると、立派な小屋の裏手に出た。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
そのなかの「壁に來て草かげろふはすがり居りきとほりたるはねのかなしさ」といふ一首に私は云ひやうもなく感動した。
聞いてゐると、何だか、それは名前ぢやなくつて、景気好く釘でも叩き込む音のやうな気がして、胸のく思ひがしたぜ。
鏡地獄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
はだは白魚のようにきとおり、黒瞳こくとうは夢見るように大きく見開かれ、額にかかる捲毛まきげはとの胸毛のように柔らかであった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
降り立った二人の前に、広い石畳いしだたみと、御影石みかげいしの門柱と、締め切ったかし模様の鉄扉と、打続くコンクリートべいがあった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
外へ出て其処そこらを見廻しながら立っていると、まだ夜の気の彷徨さまようている谷の向う河岸や此方の林の中で、青蜩ひぐらしとおるような声で鳴き初めた。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
我は既に魂等全くおほふさがれ玻璃の中なる藁屑わらくづの如く見えける處にゐたり(これを詩となすだに恐ろし) 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お声はごくきとおって重味のある、威厳のあるお声である。ですから自然に敬礼をせなければならんようになるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「人の体も形が形として面白いのではありません。霊の鏡です。形の上にとおって見える内のほのおが面白いのです。」
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おかしいぞと思って、内をかすと、男の隻頬かたほおが見えた、それは父親の顔であった、奴さんの眼前めさきはまた暗んだのさ
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おもくちたあぶらかしてたが、さてどうやらそれがうまくはこぶと、これもあしさきさぐした火口ほくちって、やっとのおもいで行燈あんどんをいれた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして窓明りをかしてその米の表面おもてを眺めた。平らにならされた面の上には「寿ことぶき」という字が指で書かれてあった。
きとほるやうに蒼白あをじろきがいたましくえて、折柄をりから世話せわやきにたりし差配さはいこゝろに、此人これ先刻さきのそゝくさをとこつまともいもとともうけとられぬとおもひぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
裏の大きな垂木たるきは落ち、壁は崩れて本堂の中はいて見え、雨は用捨なく天井から板敷の上へと落ちた。仏具なども、金目のものはもう何もなかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
今晩は私少々伺いたいことがあるんですから外出はお断りですよ、とかさず極めつけますと、何だ? 何だい? とその慌て方ってありませんのよ。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
日の暮れ方にお増は独りで、とおるような湯のなかに体をひたして、見知らぬ温泉場ゆばにでも隠れているような安易さを感じながら、うっとりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
緑色にとおった小天地、白い帆かけ舟が一つ中にともした生命いのちの火のつゞく限りいつまでもと其おもてはしって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
また私は、お前にそれを心のありったけ話し尽したならば、私の此の胸もくだろうと思う、そうでもしなければ私は本当に気でもれるかも知れない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「ああ、自分は馬鹿であつた! 豐太閤や伊藤公のき、すなはち、拔けてゐた缺點をいつも指摘しながら、自分も亦いつのまにかその缺陷があつたのだ。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
相手の欠点、美に見える! 見えいた手練手管さえ、好もしいものに映って来る。諫められて聞かず説かれて服さず、かえってその人を怨みさえする。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水飴の中へ毒などは入れられません、いて見えます極製ごくせいでございますから、へえ、なか/\何う致しまして、其様そんなことは……御免遊ばして下さいまし
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わがはちやうど蝗虫いなごのやうだ、こゝよ、かしこよと跳回はねまはる、うなつてあるく、また或時あるとき色入いろいりはねひろげて、ちひさなくびきとほつて、からところをみせもする。
「人の体も形が形として面白いのではない。霊の鏡です。形の上にとおって見える内のほのおが面白いのです。」
といって、それを幸いに、その嘘を真実ほんとうにしようなぞという気はもうとう起らなかった。彼にはあまりにも自己本位な兄の性根がありありと見えいていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)