ひん)” の例文
さうして愛情あいじやう結果けつくわが、ひんのためにくづされて、ながうちとらへること出來できなくなつたのを殘念ざんねんがつた。御米およねはひたすらいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
物のすえたしめっぽいにおいとともに、四六時中尖った空気が充満して、長屋の住民はどれもこれも、みんなひんゆえのけわしい顔——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
色の青褪めた、ひんやつれた母親が娘の枕元に来た。じっとうれわしげに、眼を閉じている苦しげな娘の額際ひたいぎわに手を当てて熱をはかって見た。
夜の喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼に私淑ししゅくする者は、彼のをもって北方の衆に敵し得たとか、南軍のひんをもって北軍のとみに当たった、ぼう戦場においては某将軍を破った
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ひんの盜みとでも言ふなら、可哀想にもなるが、百兩二百兩も盜んで、貧乏人に五兩や三兩惠んで好い心持になつてるやうな野郎を俺は大嫌ひさ。
ひんと心の惱みとにきたへぬかれた今(まだまつたくはぬけ切らぬけれども)やうやくある落着おちつきが私の心にを出しかけました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ひんすれば、その間に罪悪ざいあくが生じて世が乱れるが、めば、余裕よゆうを生じて人間同士の礼節れいせつあつくなり、風俗も良くなり、国民の幸福を招致しょうちすることになる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
いとひ自ら縊れ死したるにもや候はんと申立ければ越前守殿は我も然樣思ふなり然る上は老母の死骸しがいは其儘菊に下さるべし又今迄身ひんなる處姑女につかへ孝行を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
文人のひんるは普通のことにして、彼らがいくばくか誇張的にその貧を文字につづるもまた普通のことなり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
曲者「何卒どうぞ御免なすって……実はなんでございます、へえ全くひんの盗みでございますから、何卒御免なすって」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
隱元豆いんげんまめつるなどをたけのあらがきからませたるがおりき所縁しよゑんげん七がいへなり、女房にようぼうはおはつといひて二十八か九にもなるべし、ひんにやつれたれば七つもとしおほえて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひんすればどんすという言葉がありますねえ。」青扇はねちねちした調子で言いだした。「まったくだと思いますよ。清貧なんてあるものか。金があったらねえ。」
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
到る処にひんのかげの差しただようて居るこの家の様子は私が始めて見る——斯う云う家、斯う云う生活もあるものかと思ったこの家の中に、色のやけてやせこけた
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
つねさんなければ恒の心なく、ひんすればらんすちょう事は人の常情じょうじょうにして、いきおむを得ざるものなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
藥草類やくさうるゐってをったが、かほ痩枯やせがれ、眉毛まゆげおほかぶさり、するどひんけづられて、のこったはほねかは
しかしながら一方から考えると実にチベットは残酷ざんこくな制度で、貧民ひんみんはますますひんに陥って苦しまねばならぬ。その貧民の苦しき状態は僧侶の貧学生よりなお苦しいです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ひんすりゃどんになったように自分でせえおもうこのおれを捨ててくれねえけりゃア、ほんこったあ、明日の富に当らねえが最期さいごおらあ強盗になろうとももうこれからア栄華えいがをさせらあ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「心の貧しき者はさいわいなり」、是れ奨励である又教訓である、「天国は即ち其人の有なれば也」、是れ約束である、現世に於けるひんは来世に於けるとみを以て報いらるべしとのことである。
ひんすればどんするということわざどおりに成り落ちる人間もあるし、また反対に、逆境に立つや、なお持ち前の生命力の充溢じゅういつを示して、逆境いよいよその人の深い所の素質をゆかしくたたえて見せ
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腰を立てても力のない、杖にしたそうな鉄鎚など、道具を懐にして、そこで膳にはついたんだそうですけれど、御酒一合が、それも三日め五日めのひんたのしみの、その杯にもせるんですもの。
「そりや嫌さ。ひんすればどんするツていふからね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あるじはひんにたえし虚家からいえ 杜国とこく
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひんの盗みか、一擁ひとかゝ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お浜に似て昔は美しかったでしょう、ひんやつれ果ててはおりますが、何の邪念があろうとも思われません。話の筋道も、まことによく通ります。
だから貧時ひんじにはひんばくせられ、富時ふじにはに縛せられ、憂時ゆうじにはゆうに縛せられ、喜時きじにはに縛せられるのさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふきつゝはなしかくれば長庵はわざと目をぬぐひ涙に聲をくもらせてひんの病は是非もなし世の成行なりゆき斷念あきらめよ我とてはたくはへ金は有ざれども融通ゆうづうさへ成事なら用立ようだつ遣度やりたしと手紙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
七つのとしより實家じつかひんすくはれて、うまれしまゝなれば素跣足すはだししりきり半纒ばんてん田圃たんぼ辨當べんたうもちはこびなど、まつのひでを燈火ともしびにかへて草鞋わらんじうちながら馬士歌まごうたでもうたふべかりし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其の癖随分贅沢を致しますから段々ひんに迫りますので、御新造ごしんぞが心配をいたします。
梅若七兵衛 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四百四病のそのうちひん程つらきものはなし、心は花であらばあれ、深山みやまがくれのやつれたれおもいを起すべき、人間万事かねの世の中、金は力なり威力なり、金のみは我らに市民権を与う
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
妾の如く貧家に生れ今日こんにち重ねてこの不運にいて、あわや活路を失わんずるものとは、同日どうじつの談にあらざるべしとなじりしに、実に彼はひんよりもなおなおつらき境遇に彷徨さまよえるにてありき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
養家ようかひんしたため十五歳で京都の妙心寺みょうしんじに小僧にやられ、名を十竹じっちくともらい、おいずるを負うて、若いあいだ、南都なんと高野こうや、諸山を遍参へんさんして、すこしばかり仏法をかじったり、一切経いっさいきょうを読んでみたり
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ならば、ひんまもるにもおよばぬ。法度はっとをかしてこれりゃれ。
さりとはをかしくつみなり、ひんなれや阿波あわちゞみの筒袖つゝそでれはそろひがはなんだとらぬともにはふぞかし、れをかしらに六にん子供こどもを、やしおや轅棒かぢぼうにすがるなり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
障子にさした足袋たびの影はいつしか消えて、はなった一枚の間から、靴刷毛くつはけはじが見える。えんは泥だらけである。ひらほどな庭の隅に一株の菊が、清らかに先生のひんを照らしている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
出しても其手は勿々なか/\くはぬ夫よりは御前方も一文もらひの苦しまぎひんの盜みにこひの歌とやら文右衞門さんが不※ふと出來心できごころにて盜まれしと言つた方が罪がかるい其所はわたしが心一つで取計らひ質を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もっとも横町の奎斎けいさい先生に訊くと、——恋患いやひんの病なんてのは、病気じゃないそうですね、その証拠は、恋い焦れている相手に添わせてやると、厚紙を引っぺがすように治るんだって
悪「はい/\ひんの盗みでございます、どうか命ばかりは助けて下さい」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
第五章 ひんに迫りし時
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
年がらひん
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その学問や、その学問の研究を阻害そがいするものが敵である。たとえばひんとか、多忙とか、圧迫とか、不幸とか、悲酸ひさんな事情とか、不和とか、喧嘩けんかとかですね。これがあると学問が出来ない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さらでもおいてはひがむものとかいはんやひんにやつれにやつれひとうらめしくなかつらくけてはなげれてはいかこゝろ晴間はれまなければさまでには病氣びやうきながら何時いつなほるべき景色けしきもなくあはれ枯木かれきたる儀右衞門夫婦ぎゑもんふうふちわびしきは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)