のう)” の例文
のうの狂言などを見ますと、室町時代・戦国時代頃の大名・侍が、いかに威張って、しかもいかに馬鹿なものが多かったかが知られます。
あんなつまらねえ宿屋ったらねえや、ぜいたくなばか騒ぎばかりしてさ、俺の方じゃあのうもなくすっかり食いつぶしてしまったからな。
「火の手は、何ヵ所からも出ているぞ。——やいやい、深入りばかりがのうではねえ、こっちも見ろ。つい、そこらの物陰にも気をくばれよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のうがゝりの足どり怪しく明治卅二年十一月三日の夕方のそり/\新橋停車場の改札口を出で来れるは、斯く申す小生なり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
聽き込んだのさ。お前に飛込まれるばかりがのうぢやあるまいと思つたから、今日は俺の方から、『大變』をけしかけに來たんだ。驚いたか、八
焦らしているのがのうでもありませんから、ちっと尻切り蜻蛉とんぼのようですが、おしまいの方は手っ取り早くお話し申しましょう
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
狂言は大概のうの間にはさんでやるものであるが、時によると狂言ばかりを催おすことがある、それを狂言会というのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一家の都合つごうによって返済ののう不能ふのうも定まることであるから、感情的の理由も通る場合もあまたあろうが、借財が事業のためにったものならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
龐涓はうけんすでつかへ、惠王けいわう將軍しやうぐんるをて、みづか以爲おもらへく(一五)のう孫臏そんびんおよばずと、すなはひそかに((人ヲシテ))孫臏そんびんさしむ。ひんいたる。
金助は朝起きぬけから夜おそくまで背中をまるめてこつこつと浄瑠璃の文句を写しているだけがのうの、古ぼけた障子しょうじのようにひっそりした無気力な男だった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
顔はむろん金色ですが、ほかの仏像より大きな顔で、おのうの面のように、うすきみがわるいのです。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ヒネクレ者で、口が悪く、見たところはごぞんじのとおり、使いふるした棕櫚箒しゅろぼうきに土用干しの古着をひっかけたような姿。のうといったら人を斬るだけの、この丹下左膳。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
えつのう、百万石の威勢にかけて、冬、お国もとで雪を凍らせ、道中金に糸目をつけずにこれを江戸ご本邸に運ばせて、本郷のこのお屋敷内の雪室深くへ夏までたくわえ
物の道理はそうであろうが、次の瞬間、どうなるかわからない絶体絶命の境界で、のたりのたりとのう狂言の橋がかりの式でやっていくのは、大丈夫の勇気と度量が必要だった。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
人をただげらげらと笑わせることが、昔話ののうででもあるかのごとく、したがってまたその研究には何の深い意味もないかのごとく、速断せしめる原因にもなっていたようだが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜討強盗を身についたのうと心得ていましたが、宿執因果の積り積ったせいでしょうか、今お話のあった年の、何でも十月頃からでしたか、盗みをしても一向にうまい仕事がなく
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
待明まちあかすなりとて伊賀亮がはからひとして金春太夫こんぱるだいふ觀世太夫くわんぜだいふを呼で能舞臺のうぶたいに於て御悦びの御のう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そののうという獣の行き方と、おんなじ行き方だというので能と名付けたと云います。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『そは時頼のぶんに過ぎたる仰せにて候ぞや。現在足助あすけ二郎重景など屈竟くつきやうの人々、少將殿の扈從こしようには候はずや。若年じやくねん未熟みじゆくの時頼、人にまさりし何ののうありて斯かる大任を御受け申すべき』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ぼっちゃん、あのきれいなばかしで、のうのない金魚きんぎょよりは、わたしのほうがよっぽどいいのですよ。ひとつおどってみせましょうか?」といって、一ぴきのどじょうは、びんのそこからみずうえまで
どじょうと金魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
槍先やりさき功名こうみやうよつ長年ながねん大禄たいろく頂戴ちやうだいしてつたが、これから追々おひ/\なかひらけてるにしたがつて時勢じせい段々だん/\変化へんくわしてまゐるから、なにに一のうそなへたいと考へて、人知ひとしれず医学いがくを研究したよ。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは黒い羽織に黒い紋付もんつきを着て、きわめて旧式にきまっている。あなたは黒紋付を持っていますが、やはりのうをやるからその必要があるんでしょうと聞いたら、虚子が、ええそうですと答えた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するともう一人がそばの豆腐屋か何かの店から十のうへ火を一杯掬ってきて、突然いきなり勘六の尻へ当てがいました。忽ち勘六は弾機ばね仕掛けのように立ち上ったばかりか火と見ると一二間飛び退きました。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さいあるはおほのうあるもすくなからず、容姿ようし學藝がくげいすぐれたればとて、大事だいじしやうたくすにひと見渡みわたしたる世上せじやうりやしやれたものならず、幸福かうふく生涯しやうがいおくたまみち、そもなにとせばからんかと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
当世の文士小説かくと六号活字の文壇消息に憎まれ口きくだけがのうとはあまりにつぶしがきかな過ぎる話。物貨騰貴ぶっかとうきの世の中どつちへ転んでも少しは金の取れる余技一、二種ありてもよささうなもの也。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
のう衝いて入って死戦して王をたすけて出づ。張玉ちょうぎょくまた王を救わんとし、王のすでに出でたるを知らず、庸の陣に突入し、縦横奮撃し、遂に悪闘して死す。官軍かちに乗じ、残獲万余人、燕軍おおいに敗れてはしる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
へのむすんだくちに、煙管きせるくわえたまま、せられたように人形にんぎょう凝視ぎょうしつづけている由斎ゆうさいは、なにおおきくうなずくと、いまがた坊主ぼうずがおこして炭火すみびを、十のうから火鉢ひばちにかけて、ひとりひそかにまゆせた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あまさんが、のうめんがものをふやうにひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鼓をかまへてのうする所を画きて
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
働くのうを持ちながら
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
年ばえ二十四、五歳、若いが、革足袋かわたびの先から髪の毛まで、一見して、のうもなく育って来た骨がらでないものを備えていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するより外にのうのない人間ほど恐しいものはないよ。——お前に雪之助の身持と、日本橋の店でも愛想を盡かしてゐることを訊出させたのは、そのためさ
槍突きが出て来たら丁度いいから、富さんと二人でそいつを取っ捉まえて御褒美でもお貰いな、かかあを相手に蔭弁慶をきめているばかりがのうじゃないよ。しっかりおしな
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
文矦ぶんこう呉起ごきへいもちひ・(七五)廉平れんぺいにしてのうつくこころたるをもつて、すなはもつ西河せいがしゆし、もつしんかんふせがしむ。文矦ぶんこうすでしゆつす。其子そのこ武矦ぶこうつかふ。
「あれで、泰軒先生は、腕っ節のつええばかりがのうじゃアねえんだ。学問ならおめえ、孔子でも仔馬でも、ちゃアんとあの腹ん中にしまってるんだから、ヘッ、豪勢なもんヨなあ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あの、おのうめんか。おんなかおさ。あれは、なかなかよくできているのだよ。」
ひすいの玉 (新字新仮名) / 小川未明(著)
のうじゆつこれも藝人げいにんはのがれぬ、よか/\あめ輕業師かるわざし人形にんげうつかひ大神樂だいかぐら住吉すみよしをどりに角兵衞獅子かくべいじゝ、おもひおもひの扮粧いでたちして、縮緬ちりめん透綾すきや伊達だてもあれば、薩摩さつまがすりのあら黒繻子くろじゆす幅狹帶はゞせまおび
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のう狂言きやうげんに「きのこ」がある。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其家そこへよく来るお客で、綽名あだなを「くろさん」とも「のうめん」ともいわれているお客がある。金切れもわるいし、御面相ごめんそうは綽名のとおりだしするのだ。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お前ほどは達者ぢやないが、あんまり寒いから、おのうの足どりぢや反つてやりきれないよ。息がきれなきや、お前の知つてるだけ、道々筋を通してくれ」
これぞ世にいう「のう」である。道士はその半分をいて、持ち帰って朝廷に献じた。
あんな普外なみはずれた器量を持ちながらサ、こういっちゃアなんだが、男がいいばかりでのうのねえ御次男坊なんかと逃げ隠れて、末はいってえどうする気だろう?……今のうちに眼がさめて別れちまえば
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
太吉々々たきち/\呼立よびたてるほかにはなんのうなくなさけなきていなり。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのわりにのうのなさそうないたはいったのです。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ご執権を暗愚にして、今日のやくを招いたのも、多年、遊宴のお取巻きばかりをのうとしていた、きさまらのなせるわざだわ。この、うじ虫めら!」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次の間の縁側から、ガラツ八の八五郎が、黒塗金蒔繪くろぬりきんまきゑの立派な文箱、高々と結んだ紐まで以前のまゝのを捧げて、おのうの足取りといつた調子で來たのでした。
節信 (急ぎ入る。)のう……。(云ひかけて加賀を見返り、あわてゝ口をつぐむ。)
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ところで——かんじんの萩乃は、伊賀の暴れン坊と唄にもあるくらいだから、強いばかりがのうの、山猿みたいな醜男ぶおとこに相違ないと、てんからきめて、まだ見たこともない源三郎を、はや嫌い抜いている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「どうか、お仲間のはしに加えておくんなさい。てまえ、なんののうもありませんが、そのかわり天下に二頭とない名馬をお土産みやげに持ってまいりました」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
房吉は靜かに身を反して、おのうの足どりのやうな、恐ろしいスローモーシヨンで、元の廊下を引返します。