背負しよ)” の例文
彼の母がふだん滅多に出入りしない部屋に入つてきますと、Marion は蝶番てふつがひをはづした大きな窓の扉を自分の背に背負しよつて
で、「眞平まつぴら御免ごめんなさい。」とふと、またひよろ/\とそれを背負しよつてあるく。うすると、その背後うしろで、むすめは、クツクツクツクツわらふ。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
幼児をさなごたちはみな十字架クルス背負しよつて、しゆきみつかたてまつる。してみるとそのからだしゆ御体おんからだ、あたしにけてくださらなかつたその御体おんからだだ。
背負しよひ込んで、それから舞臺に立つまで十年近くも丹精しましたよ。一本立の藝人にする仕込みは、並大抵のことぢやありません
けれど彼女かれは千円近くの借金を背負しよつてるのでともだへますから、何を言ふのだ、霊魂を束縛する繩が何処に在ると励ましたのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
柵の中は、左程広くもない運動場になつて、二階建の校舎が其奥に、愛宕山あたごやま欝蒼こんもりした木立を背負しよつたやうにして立つてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一睡するまでは、氣が張りつめて、あたまが重く、大責任を背負しよつてゐるかの樣に壓迫を感じて、隨分のぼせてゐた樣だ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
しかも、それ以上の暴行に我慢出來ないから、抵抗すると、私は、家内中の非難を、悉く背負しよはされてしまつた。
助八 いくらおめえの商賣でも、長屋の井戸がへにえて公を背負しよつて出ることもあるめえぢやあねえか。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
悪戯盛いたづらざかりの少年の群は、一時に溢れて、其騒しさ。弁当草履を振廻し、『ズック』の鞄を肩に掛けたり、風呂敷包を背負しよつたりして、声を揚げながら帰つて行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
然るに学者は世界の知識を独り背負しよつて立つたやうな気になつて、とんと巡査が人民に説諭すると同じ口吻くちぶりを以て無学者に臨んでゐる。此位暴慢無礼な沙汰はない。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「六十八さ。もう駄目だよ。ついこの間まで六貫や七貫平気で背負しよへたんだがね。年にや勝てない。」
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
らやうなばゝあでも十ぐれえ背負しよへんだもの、近頃ちかごろぢやもうものが一ばん不自由ふじようやうねえのさな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
背負しよひあるくさま、としはとへば生意氣なまいきざかりの十六にもりながら其大躰そのづうたいはづかしげにもなく、表町おもてまちへものこ/\とかけるに、何時いつ美登利みどり正太しようたなぶりものになつつて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雑多な時間もあるうちで、気のきかないこと夥しい時間を背負しよひこむばかりなのだ。
はあ、いつも私のおふくろ——この子供の祖母ばばですな、それが守してるんすが、その今年八つになる私の娘が、おぶいたがつて泣くもんだから、ちよつくら背負しよはせてやつたんだつていひやす。
嘘をつく日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
素襖すあをかきのへたながら、大刀たちの切字や手爾遠波てにをはを、正して点をかけ烏帽子ゑぼし、悪くそしらば片つはし、棒を背負しよつた挙句の果、此世の名残執筆の荒事、筆のそつ首引つこ抜き、すゞりの海へはふり込むと
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれど、今途中で聞くと、娘つ子奴、一人で、その死骸を背負しよつて、其小屋の裏山にのぼくつて、小屋の根太ねだやら、扉やらを打破ぶちこはして、火葬にしてるといふ事だが……此処からけむ位見えるかも知れねえ
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
私は、多人数を背負しよつて歩くのが好きであつた。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
花聟はそれを聴いて、美しい女中頭が、どつさり「幸運しあはせ」を背負しよつて、自分の大きな鼻のあなから身体からだのなかへ潜り込むやうに思つた。
「あつしぢやありませんよ。錢形の親分に逢ひ度いんださうで、染井からわざ/\神田まで、馬に喰はせるほど握り飯を背負しよつて來ましたよ」
旦那だんな徐羣夫じよぐんふ田舍大盡ゐなかだいじん忘其郡邑矣そのぐんいうをわする、とあるから何處どこのものともれぬが、あんずるに金丸商店かねまるしやうてん仕入しいれの弗箱どるばこ背負しよつて、傲然がうぜんひかへる人體じんてい
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
常に友達の為めに借金を背負しよはされて居た程です、うも日本では今以て、鍛冶工かぢこうなど云へばただちに乱暴な、放蕩三昧はうたうざんまいな、品格の劣等の者の如く即断致しますが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
こんな風に、未だあなたは、約束を破つたと共に一緒に行く契約をも踏み躙つた不名譽を背負しよふのです。
そこへくとぢいやのつたがありました。松葉まつばんだのもありました。ぢいやはその背負しよつたり、松葉まつば背負しよつたりして、おうち木小屋きごやはうかへつてるのでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
背負しよひあるくさま、年はと問へば生意気ざかりの十六にも成りながらその大躰づうたいを耻かしげにもなく、表町へものこのこと出かけるに、何時も美登利と正太がなぶりものに成つて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
幼児をさなごしろ蜜蜂みつばち分封すだちのやうに路一杯みちいつぱいになつてゐる。何処どこからたのかわからない。ごくちひさな巡礼じゆんれいたちだ。胡桃くるみ白樺しらかんばつゑをついて十字架クルス背負しよつてゐるが、その十字架クルスいろ様々さまざまだ。
殆ど神託的に、その國家を、たとへば、豐太閤なり、伊藤公なり、また他の人なりに背負しよはして立つことになる。さういふ偉大な政治家もしくは思索家は、今云ふ神託的に、國家その物だ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
工事こうじ箇所かしよへは廿もあつた。勘次かんじけばすぐぜにになるとおもつたのでやうやく一ゑんばかりの財布さいふふところにした。辨當べんたうをうんと背負しよつたので目的地もくてきちへつくまでは渡錢わたしせんほかには一せんらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
背負しよつて、三度部屋のなかをぐるぐる歩きすることにしてるんだよ。さうすると身体からだがくたびれて、やつと気が落ちつくんだよ。
薪割まきわりが姉さんの肩をかすつて水へ落ちたので、總立ちになつて大騷ぎをしたのと、喜三郎どんが重箱を背負しよつて船へ飛込んだのと一緒でした。
が、さむさはさむし、こたつのあなみづたまりをて、胴震どうぶるひをして、ちひさくなつてかしこまつた。夜具やぐ背負しよはして町内ちやうないをまはらせられないばかりであつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そうよなし。今夜は門の前でかがりでもかずと思って、おれは山から木を背負しよって来た。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
男でも女でも、そんなふとつちよの、弱蟲の、自惚うぬぼれの強い役に立たずを背負しよひ込まうつて人が見附からないと、あなたは虐待されたとか無視されたとかみじめだとかつて喚き立てるのでせう。
「僕は刹那主義を以つて日本國を背負しよつてゐるの、さ。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「さう思ふのも無理はねえが、自分で殺したのなら、わざ/\わなを人樣に見せて、うたがひを背負しよひ込むやうな馬鹿はあるめえ」
松村まつむら小松こまつかこつて、松賀町まつかちやう淨瑠璃じやうるりをうならうといふ、くらくらとはならんだり、なか白鼠しろねずみ黒鼠くろねずみたはら背負しよつてちよろ/\したのが、みなはひになつたか。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
リンコルンと云へば、亜米利加中の人間の苦労と悲しみとを自分一人で背負しよひでもしてゐるやうな、気難かしい、悲しさうな顔をしてゐる大統領であつた。
昨日の朝、父はまた捜しに出た。いつも遠く行く時には、必ず昼飯ひるを用意して、例の『山猫』(かまなたのこぎりなどの入物)に入れて背負しよつて出掛ける。ところが昨日に限つては持たなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
親分も殺さず、六千兩も無事に奪ひ取つたら、とがは宰領の井上玄蕃が一人で背負しよひこむ筈——と、仲間の者に隱れて親分をそつと此處へさそひ込みました
女中ぢよちう一荷ひとに背負しよつてくれようとするところを、其處そこ急所きふしよだと消口けしぐちつたところから、ふたゝ猛然まうぜんとしてすゝのやうなけむり黒焦くろこげに舞上まひあがつた。うづおほきい。はゞひろい。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何故といつて、聖書で見ると、どんな人間ひとだつて乗合馬車位の「罪」は、各自てんでにみんな背負しよつてるのだから。
惡い番頭が勝手にそんなものをこしらへて、自分の懷ろをこやして居たのを、何にも知らない俺達の親父とお袋が罪を背負しよはされ、いかさまますは罪が深いと言ふので
女といふものはよく目端の利くもので、平素ふだんから良人をつとの腕前はちやんと見貫みぬいてゐるから、その力量ちから一つでとて背負しよひ切れないと見ると、直ぐ神様のとこへ駈けつける。
下坂くだりざかは、うごきれると、一めい車夫しやふ空車からいて、ぐに引返ひつかへことになり、梶棒かぢぼうつてたのが、旅鞄たびかばん一個ひとつ背負しよつて、これ路案内みちあんないたうげまでともをすることになつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
川を後ろに背負しよつてゐるんだから——その時、あつしは危ないと思つて身をよけると、萬兵衞親爺奴、突いて出たはずみに、もんどり打つて大川へ飛び込みましたよ
戦時利得税をうんと背負しよはなければならない筈の山下氏は、それだけ他人ひとより大きな声を張り上げる資格がある者のやうに、図技けた牛のやうな調子で蔵相に挨拶した。
「あゝてますとも」とつて、受取うけとつて、それを突然いきなり、うむと、女房かみさん背負しよつたものです。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一萬兩の身上を背負しよつてゐても、十六になつたばかりの、薄あばたの家附の娘のお染より、親父の妾のお袖の方がよかつたんでせう。——このお袖といふ女はまた——
と、背負しよつてるひとは、「なんだね、おまへわらごツちやないやね。」とひながらまたひよろ/\。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)