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殊更
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ことさら
ふりがな文庫
“
殊更
(
ことさら
)” の例文
『朝日新聞』にて『
空
(
そら
)
だき』をお書きなすってから、作風も筆つきも
殊更
(
ことさら
)
に調ってきて、『空だき』の続稿の出るのがまたれました。
大塚楠緒子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
脚を重ねて
椅子
(
いす
)
に座す。ポケットより新聞と老眼鏡とを取り出し
殊更
(
ことさら
)
に顔をしかめつつこれを読む。しきりにゲップす。やがて
睡
(
ねむ
)
る。
饑餓陣営:一幕
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
こういう所に女に軽蔑された根拠もあったのだし、それを避けようとして
殊更
(
ことさら
)
に泣き言めいて悩み悩みと言い慣わした理由もある。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
また或女は無情と酷薄とを極めた旧道徳に対する反感から
殊更
(
ことさら
)
に貞操を眼中に置かないという風な矯激の思想を持っているかも知れぬ。
鏡心灯語 抄
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
お屋敷に仕える
青侍
(
あおさぶらい
)
の数も少いことではございませんが、
殊更
(
ことさら
)
わたくしにお申含めになったについては、少々訳がらもございます。
雪の宿り
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
▼ もっと見る
と
殊更
(
ことさら
)
強く聞きかえした。向きあうと、かならずこういう
形
(
かたち
)
になる夫婦なのである。主水は
狐拳
(
きつねけん
)
でもしているようだと思うことがある。
鈴木主水
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
世間には往々読まざる書物をれいれいと
殊更
(
ことさら
)
人の見る処に
飾立
(
かざりた
)
てて置く人さえあるのに、これはまた何という一風変った
癇癖
(
かんぺき
)
であろう。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
それから、一カ月前町長に挙げられて、年俸を三百円頂戴する身分になった事を、面白半分、
殊更
(
ことさら
)
に真面目な句調で
吹聴
(
ふいちょう
)
して来た。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
……
川
(
かは
)
も
此
(
こ
)
の
邊
(
あたり
)
は
最
(
も
)
う
大溝
(
おほどぶ
)
で、
泥
(
どろ
)
が
高
(
たか
)
く、
水
(
みづ
)
が
細
(
ほそ
)
い。
剩
(
あまつさ
)
へ、
棒切
(
ぼうぎれ
)
、
竹
(
たけ
)
の
皮
(
かは
)
などが、ぐしや/\と
支
(
つか
)
へて、
空屋
(
あきや
)
の
前
(
まへ
)
は
殊更
(
ことさら
)
に
其
(
そ
)
の
流
(
ながれ
)
も
淀
(
よど
)
む。
松の葉
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
人形芝居は下から見るに限ると云う意見の老人は「ここがいいね」と
殊更
(
ことさら
)
土間へ席を取ったので、若葉の
萌
(
も
)
える頃ではあるが
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
今夜
(
こよひ
)
は満願とてかの橋にもいたり
殊更
(
ことさら
)
につとめて
回向
(
ゑかう
)
をなし鉦うちならして
念仏
(
ねんぶつ
)
しけるに、
皎々
(
けう/\
)
たる月
遽然
(
にはか
)
に
曇
(
くも
)
りて
朦朧
(
まうろう
)
たり。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
殺したる事大膽不敵の
擧動
(
ふるまひ
)
なり伊勢屋方より
訴
(
うつた
)
へたる旅僧も同夜の事なれば是は
汝
(
なんぢ
)
が
同類
(
どうるゐ
)
成
(
なる
)
べし
殊更
(
ことさら
)
其方
(
そのほう
)
は金屋にて盜みし櫛を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
「何分、わたくしは、御当地に始めての旅の者、
殊更
(
ことさら
)
、取り急ぎます日暮れ時、何事もお心
寛
(
ひろ
)
うお許し下されますよう——」
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
間接には幾分か関係のある面白い話も沢山ありますけれども、直接の関係はないからここに
殊更
(
ことさら
)
お話する必要はありません。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
けれど私はその原因が、佐川二等兵の慣れない運転にあるのを知っているので、
殊更
(
ことさら
)
不満として口にするのを差し控えた。
指導物語:或る国鉄機関士の述懐
(新字新仮名)
/
上田広
(著)
其夜
(
そのよ
)
は
床
(
とこ
)
に
入
(
い
)
りしかども、さりとは
肝癪
(
かんしやく
)
のやる
瀬
(
せ
)
なく、よしや
如何
(
いか
)
なる
用事
(
ようじ
)
ありとても、
我
(
わ
)
れなき
留守
(
るす
)
に
無斷
(
むだん
)
の
外出
(
ぐわいしつ
)
、
殊更
(
ことさら
)
家内
(
かない
)
あけ
放
(
はな
)
しにして
われから
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
殊更
(
ことさら
)
少將殿の御事、不肖弱年の時頼、
如何
(
いか
)
でか御託命の重きに堪へ申すべき。御言葉のゆゑよし、時頼つや/\
合點
(
がてん
)
參らず
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
彼
(
かれ
)
はさうでなくても
嘗
(
かつ
)
てはき/\と
口
(
くち
)
を
利
(
き
)
いたこともなく、
殊更
(
ことさら
)
勘次
(
かんじ
)
に
對
(
たい
)
しては
皺
(
しな
)
びた
顏
(
かほ
)
の
筋肉
(
きんにく
)
を
更
(
さら
)
に
蹙
(
しが
)
めて
居
(
ゐ
)
るので
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
いったん部屋の中に入って、
障子
(
しょうじ
)
もしめてしまおうかと思った程だったのが、
殊更
(
ことさら
)
縁側へ出て、自分の方から声をかけないでは済まされなくなった。
果樹
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
又何故、この告白を、
殊更
(
ことさら
)
奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、
悉
(
ことごと
)
く明白になるでございましょう。
人間椅子
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
水を差すべくその愛は
傍目
(
はため
)
にも余り純情で、
殊更
(
ことさら
)
らしい誠実を要せず、献身を要せず、
而
(
しか
)
も
聊
(
いさゝか
)
の動揺もなかつた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
この通り多くの例は、いずれも
殊更
(
ことさら
)
にツクの音を濁っている。これは自分にとっては無意味な
訛謬
(
かびゅう
)
とは思われぬ。
野草雑記・野鳥雑記:01 野草雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
急いで歩いて来たものと見え、暫らく
土塀
(
どべい
)
の傍に立って息を吐きましたが、能く見れば目の縁も紅く泣
腫
(
は
)
れて、色白な顔が
殊更
(
ことさら
)
いじらしく思われました。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
かねて
見向
(
みむき
)
もしない村の人達が、
殊更
(
ことさら
)
にお世辞を云って、お祝いに来たりした。恵美のうちのお
祖父
(
じい
)
さんも来た。私は、なんだか
嬉
(
うれ
)
しくて
仕様
(
しよう
)
がなかった。
戦争雑記
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
兎に角此気まぐれな小川でも、これあるが為に少しは田も出来る。
堤
(
つつみ
)
の
萱
(
かや
)
や
葭
(
よし
)
は青々と
茂
(
しげ
)
って、
殊更
(
ことさら
)
丈
(
たけ
)
も高い。これあるが為に、夏は
螢
(
ほたる
)
の
根拠地
(
こんきょち
)
ともなる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
それがどれ位の出来栄えか、今度帰ったら
殊更
(
ことさら
)
私も仰々しくそれをほめそやさねばなるまいと考えたりする。
故郷を想う
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
血したたるが如き
紅葉
(
もみじ
)
の大いなる枝を肩にかついで、下腹部を
殊更
(
ことさら
)
に前へつき出し、ぶらぶら歩いて、君、誰にも言っちゃいけないよ、
藤村
(
とうそん
)
先生ね、あの人
虚構の春
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
殊更
(
ことさら
)
それが文政天保の交の訳文だけに、一段の面白味を添えて、
敢
(
あえ
)
て新奇ではないが、幽婉なこの挿話を読んで情趣溢るる南島の空を偲ぶこと更に切であった。
南嶋を思いて:――伊波文学士の『古琉球』に及ぶ――
(新字新仮名)
/
新村出
(著)
ところが、その言ひ方が妙に哀れつぽくて
殊更
(
ことさら
)
らしく
滑稽
(
こつけい
)
だつたので、みんなが一斉にどつと笑ひ出した。
新らしき祖先
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
前にも申上げた通りいわゆる琉球王国は慶長十四年以後は日本の一諸侯島津氏が
殊更
(
ことさら
)
に名に於ては支那に
隷
(
れい
)
せしめ実に於ては日本に属せしめて
私
(
ひそ
)
かに支那貿易を
琉球史の趨勢
(新字新仮名)
/
伊波普猷
(著)
其処
(
そこ
)
は道幅が、
殊更
(
ことさら
)
狭くなっているために、軽便の軌道は、山の崖近く敷かれてあって、軌道と岩壁との間には、車体を
容
(
い
)
れる間隔は存在していないのだった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
彼は私のこの
懸念
(
けねん
)
をさとったらしく、わたしを安心させようとして
殊更
(
ことさら
)
に快活をよそおい、ほんのつまらない冗談にも、わざとからからと笑ったりしてみせた。
世界怪談名作集:09 北極星号の船長 医学生ジョン・マリスターレーの奇異なる日記よりの抜萃
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
写実
(
リアリズム
)
は到底、是認せざるべからず、唯だ写実の写実たるや、自から其の注目するところに異同あり、或は
殊更
(
ことさら
)
に人間の醜悪なる部分のみを描画するに止まるもあり
情熱
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
といったが、そういった後で、彼は自分の
亢奮
(
こうふん
)
してくるのを
殊更
(
ことさら
)
に抑えようと努めている風に見えた。
宇宙尖兵
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
なかに一人ちよつぴり鼻の尖つた狐のやうな表情をした、
商人
(
あきんど
)
らしい男が、口汚くウヰルソンを
罵
(
のゝし
)
るのが、
殊更
(
ことさら
)
耳立
(
みゝだ
)
つて聞えた。総長某氏は
癪
(
しやく
)
にさへて口を出した。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
黒田を誘うて当もなく歩く。咲く花に人の集まる処を廻ったり
殊更
(
ことさら
)
に淋しい墓場などを尋ね歩いたりする。黒田はこれを「浮世の匂」をかいで歩くのだと言っていた。
イタリア人
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
それに近づくあらゆる
生物
(
いきもの
)
を
殊更
(
ことさら
)
に
跛
(
びっこ
)
にしてやろうというつもりのもののように思われたが、その敷石が流れた葡萄酒を堰き止めて、小さな水溜りを幾つも作っていた。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
自分は一度
殊更
(
ことさら
)
に火鉢の傍に行って
烟草
(
たばこ
)
を吸って、
間
(
あい
)
の
襖
(
ふすま
)
を
閉
(
し
)
めきって、
漸
(
ようや
)
く秘密の左右を得た。
酒中日記
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
實
(
じつ
)
にこれ
等
(
ら
)
義勇
(
ぎゆう
)
の
行動
(
こうどう
)
はそれが
少年
(
しようねん
)
によつてなされたゞけに
殊更
(
ことさら
)
たのもしく
思
(
おも
)
はれるではないか。
地震の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
T先生も
殊更
(
ことさら
)
に注意をせられて、手術の時など、私たちの準備を厳重に監督なさいました。
手術
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
鮓の中にといふは
殊更
(
ことさら
)
に聞える。中にといふことが散らし鮓の飯の間から少し蓼の葉が見えて居ることだといふ選者の説明であるが、まさかさうはとれまい。虚子選三座の句に
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
その美しい
貌
(
かお
)
だちをもった、まだ十七八の少女の顔が、
殊更
(
ことさら
)
、抜けるように白く見え、その滑かな額には、汗のような
脂
(
あぶら
)
が浮き、降りかかった断髪が、べっとりと
附
(
くっ
)
ついていた。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
殊更
(
ことさら
)
に何かを考えるということもなく、ただ散歩の延長のようなつもりで、旅の誘いのまにまにぶらりと家を出る。
素朴
(
そぼく
)
なひとりの旅人であればそれでいいと思うようになった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
宗右衛門自身が江戸の或る大名家老から
頂戴
(
ちょうだい
)
した
羽二重
(
はぶたえ
)
の
褥
(
しとね
)
が紅白二枚、死出の旅路をひとりで
辿
(
たど
)
るお辻の小さな足にも
殊更
(
ことさら
)
に絹
足袋
(
たび
)
を作つて
穿
(
は
)
かせ、穿きかへまでも一足添へた。
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
実
(
まこと
)
の親達の無慈悲を聞きましたから、
殊更
(
ことさら
)
に養い親の恩が有難くなりましたが、両親とも
歿
(
な
)
い
後
(
のち
)
は致し方がございませんから、
切
(
せ
)
めては
懇
(
ねんごろ
)
に供養でもして恩を返そうと思いまして
名人長二
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
肴町
(
さかなまち
)
十三日町
賑
(
にぎわ
)
い
盛
(
さかん
)
なり、
八幡
(
はちまん
)
の祭礼とかにて
殊更
(
ことさら
)
なれば、見物したけれど足の痛さに
是非
(
ぜひ
)
もなし。この日岩手富士を見る、また北上川の源に沼宮内より
逢
(
あ
)
う、共に
奥州
(
おうしゅう
)
にての名勝なり。
突貫紀行
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
心永く
痍
(
きずつ
)
きて恋に敗れたる貫一は、
殊更
(
ことさら
)
に他の成敗に就いて
観
(
み
)
るを欲せるなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
殊更
(
ことさら
)
に
跛
(
びっこ
)
を引いたりするような愚物になってしまった、実に不可解な出来事である、今日図らずも私を見出して再び以前のゼーロンに立ち返りでもしたら幸いであるが! との事であった。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
分与
(
ぶんよ
)
したる田畑をば親族の名に書き換え、即ちこれに売り渡したる
体
(
てい
)
に持て
做
(
な
)
して、その実は再び
本家
(
ほんけ
)
の
有
(
ゆう
)
となしたるなど、少しも油断なりがたく、彼の死後は
殊更
(
ことさら
)
遺族の
饑餓
(
きが
)
をも
顧
(
かえり
)
みず
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
殊更
(
ことさら
)
に
勉
(
つと
)
めて
他人
(
たにん
)
を
教化
(
けうくわ
)
せんとするが如きは
是
(
これ
)
を為す者の
僣越
(
せんえつ
)
を
示
(
しめ
)
し、
無智無謀
(
むちむぼう
)
を
証
(
しよう
)
す、
余
(
よ
)
は
知
(
し
)
る大陽は
勉
(
つと
)
めて
輝
(
かゞや
)
かざるを、
星
(
ほし
)
は吾人の
教化
(
けうくわ
)
を
計
(
はかつ
)
て
光
(
ひかり
)
を
放
(
はな
)
たず、
光
(
ひ
)
からざるを
得
(
え
)
ざれば
光
(
ひか
)
るなり
問答二三
(新字旧仮名)
/
内村鑑三
(著)
殊
常用漢字
中学
部首:⽍
10画
更
常用漢字
中学
部首:⽈
7画
“殊”で始まる語句
殊
殊勝
殊勲
殊勲者
殊勝気
殊遇
殊寵
殊異
殊効
殊礼