べん)” の例文
旧字:
花柳くわりうに身をはたしたるものゆゑはなしもおもしろく才もありてよく用をべんずるゆゑ、をしき人にぜにがなしとて亡兄ばうけいもたはむれいはれき。
夜などはどこに行ったのかちっとも帰って来ない。そういう事がたびたびあって用をべんずることが出来んので大いに困った事がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この通り別に損のつかない問題なら、頼まれなくてもお冗舌しゃべりをする。論説にこそあにべんを好まんやと書くけれど、決して無口の方でない。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
内大臣の子のとうの中将やべんの少将なども伺候の挨拶あいさつだけをしに来て帰ろうとしたのを、源氏はとめて、そして楽器を侍にこちらへ運ばせた。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もえ子 もういゝ加減に免しておあげよ、ねえ、べんちやん……。野見さんだつて、一人でなすつたことぢやないんだから……。
長閑なる反目 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
相良氏が舞台へ現われて来て、いよいよ事件は白熱化はくねつかしたと思いました。私は一生懸命で天文台の職分を守り、又先生の御命令にべんじています。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あたかも鷲の腹からうまれたやうに、少年は血を浴びて出たが、四方、山また山ばかり、山嶽さんがく重畳ちょうじょうとして更に東西をべんじない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
依之増修ぞうしうせつに於て此事はかの書に見しとおぼえしも、其書を蔵せざれば急就きうしの用にべんぜず、韈癬べつせんするが多し。かつ浅学せんがくなれば引漏ひきもらしたるもいと多かるべし。
のみならず咄嗟とっさに思い出したのは今朝けさ滔々とうとうと粟野さんに売文の悲劇をべんじたことである。彼はまっになったまま、しどろもどろに言いわけをした。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この演説えんぜつが見物をいっせいにわらわした。子どもたちの黄色い声に親たちのにごった声も交じった。親方はかっさいを受けると、いよいよ図に乗ってべんつづけた。
それが歌舞かぶ管絃かんげんわざに携わっていて、それをアソビと謂い、アソビもまた偶然に同じ「遊」の漢字をててべんじたので、どちらが元やら後には不明になったが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
楠木正行との情話に仕立てあげてある「べん内侍ないし」のことなどもまた、話は優雅にできているが、それも女子を一個の品とみている時代の女性観を知る以外には
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しのぶを仕立てる場所について、植木室うえきむろの側を折れ曲ると、そこには盆栽棚が造り並べてある。香の無い、とは言え誘惑するように美しいべんの花が盛んに咲乱れている。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仰いで皎日こうじつて、目ことごとげんして後、赤豆せきとう黒豆こくとうを暗室中にいて之をべんじ、又五色のいとを窓外に懸け、月に映じてその色を別ってあやまつこと無く、しかして後に人を相す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
べん内侍ないしと千代野との別れなどは、チョボを十分に使って一部の観客を泣かせたのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大きなべんは卵色に豊かな波を打って、がくからひるがえるように口をけたまま、ひそりとところどころに静まり返っている。においは薄い日光に吸われて、二間の空気のうちに消えて行く。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或はたゝめるは、まさにこの時なるなからむや、今は山と、人と、石室と、地衣植物と、じん天地を霧の小壺せうこに蔵せられて、混茫こんばう一切をべんぜず、登山の騎客はこと/″\く二合二勺にて馬を下る。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
精神病者せいしんびょうしゃ相違そういないけれど、花前はなまえが人間ちゅうの廃物はいぶつでないことは、畜牛ちくぎゅういっさいのことをべんじて、ほとんどさしつかえなきのみならず、あるてんには、なみの人のおよばぬことをしている。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
悲鳴をあげたのは、白粉おしろいの濃い大年増、これは後で、玄々斎の女房のおべんと知れましたが、三十五六の小皺こじわを、厚化粧で塗りつぶし、真っ赤に口紅を塗った——その当時にしては物凄い女です。
あまつさえ人夫らのうちに、寒気と風雨とに恐れ、ために物議を生じて、四面朦朧もうろう咫尺しせきべんぜざるに乗じて、何時いつにか下山せしものありたるため、翌日落成すべき建築もなお竣工しゅんこうぐるあたわざるとう
ある時はわが大学に在りしことを聞知ききしりてか、学士がくし博士はかせなどいう人々三文さんもんあたいなしということしたりがおべんじぬ。さすがにことわりなきにもあらねど、これにてわれをきづつけんとおもうはそもまよいならずや。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いはが根にともすれば寄る花のべん風無かりけり動きつつ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まづところ幾重いくへにもおわびをいたしてべんじまする。
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
得意とくいべんふるひ落語二席を話す。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
べんジ其名実ヲただシ集メテ以テ之ヲ大成シ此ニ日本植物誌ヲ作ルヲ素志そしトナシ我身命ヲシテ其成功ヲ見ント欲スさきニハ其宿望遂ニ抑フ可カラズ僅カニ一介書生ノ身ヲ以テ敢テ此大業ニ当リ自ラなげうツテ先ヅ其図篇ヲ発刊シ其事漸クちょつきシトいえどモ後いくばクモナク悲運ニ遭遇シテ其梓行しこうヲ停止シ此ニ再ビ好機来復ノ日ヲ
花柳くわりうに身をはたしたるものゆゑはなしもおもしろく才もありてよく用をべんずるゆゑ、をしき人にぜにがなしとて亡兄ばうけいもたはむれいはれき。
合奏は非常におもしろく進んでいった。歌の役を勤める殿上人は階段の所に集まっていたが、その中でべんの少将の声が最もすぐれていた。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
カビ博士は、日頃のとつべんとはうってかわって雄弁に論旨ろんしをすすめていた。しかし僕は白状するが、博士の熱弁を聞くのは、もうそのくらいで沢山だと思った。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、ここに竹童ちくどうが、にわか芸人げいにん口上こうじょうをうつして、べんにまかせてのべ立てると、万千代まんちよはじめ、とんぼぐみ、パチパチと手をたたいて無性むしょうにうれしがってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
保吉はたちまち熱心にいかに売文に糊口ここうすることの困難であるかをべんじ出した。弁じ出したばかりではない。彼の生来せいらいの詩的情熱は見る見るまたそれを誇張し出した。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自然は公平なもので一人の男に金ももうけさせる、同時にカルチュアーも授けると云うほど贔屓ひいきにはせんのである。この見やすき道理もべんぜずして、かの金持ち共は己惚うぬぼれて……
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と腹の中でめながら、なお四辺を見て行くと、百姓家の小汚こぎたな孤屋こおくの背戸にしいまじりにくりだか何だか三四本えてる樹蔭こかげに、黄色い四べんの花の咲いている、毛の生えたくきから
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
寝られぬまゝには更けぬ。時計一点を聞きてのちやうやく少しく眠気ねむけざし、精神朦々もう/\として我我われわれべんぜず、所謂いはゆる無現むげんきやうにあり。ときに予がねたるしつふすまの、スツとばかりに開く音せり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ついにはお胸の痛みが起こってきてお苦しみになった。命婦みょうぶとかべんとか秘密にあずかっている女房が驚いていろいろな世話をする。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
或人あるひととふていはく、雪のかたち六出むつかどなるはまえべんありてつまびらか也。雪頽なだれは雪のかたまりならん、くだけたるかたち雪の六出むつかどなる本形ほんけいをうしなひて方形かどだつはいかん。
こう云う時ほど生徒を相手に、思想問題とか時事問題とかをべんじたい興味にられることはない。元来教師と云うものは学科以外の何ものかを教えたがるものである。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
呂宋兵衛はもとより、なみいる猛者もさどもも、この奇童きどうのよどみなきべんによわされてしわぶきすらたてず、ひろき殿堂は、人なきようにシーンと静まりかえってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先達せんだつての二百円は、代助から受取うけとるとすぐ借銭しやくせんの方へまははずであつたが、あたらしくうちつたため色々いろ/\入費がかゝつたので、つい其方の用を、あのうちで幾分かべんじたのがはじまりであつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その一つの部屋をうかがってみるならば、大きな金網かなあみの中に百匹ずつ位のモルモットを入れ、これを実験室の中に置き、技師たちは皆外へ出た上で、室外からべんを開いて室内へ、さまざまの毒瓦斯ガスを送り
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いささべんぜざるべからず、と横に見向いて
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だれの顔も見るのが物憂ものうかった。お使いの蔵人くろうどべんを呼んで、またこまごまと頭中将に語ったような行触ゆきぶれの事情を帝へ取り次いでもらった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
依之増修ぞうしうせつに於て此事はかの書に見しとおぼえしも、其書を蔵せざれば急就きうしの用にべんぜず、韈癬べつせんするが多し。かつ浅学せんがくなれば引漏ひきもらしたるもいと多かるべし。
おもむきにも似て。——さきの摂政ノ関白太政大臣から、左右の近衛このえノ大将、大納言、八座の公卿、七べんの高官、五位、六位の蔵人くろうど諸司しょしの宮人までが、むらがり寄って来たのである。
聞いてゐると、与次郎一人ひとりで天下が自由になる様に思はれる。三四郎はすくなからず与次郎の手腕に感服した。与次郎は又此間このあひだの晩、原口さんを先生の所へ連れてた事に就いて、べんした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
外は咫尺しせきべんじないほど闇黒まっくらだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
懸河けんがべん
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
弟のべんの少将が拍子を打ち出して、低音に歌い始めた声が鈴虫の音のようであった。二度繰り返して歌わせたあとで、源氏は和琴わごんを頭中将へ譲った。
源氏物語:27 篝火 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すで半途はんとにいたれば鳥の声をもきかず、ほとんど東西をべんじがたく道なきがごとし。案内者はよく知りてさきへすゝみ、山篠やまさゝをおしわけへいをさゝげてみちをしめす。
と、すこし抜けている蛾次郎も、住みなれた土地の地理だけに、くわしくべんじた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこまでも同情だとか、愛だとか、正義だとか、自由だとか、浮世うきよ勧工場かんこうばにあるものだけで用をべんじている。いくら詩的になっても地面の上をけてあるいて、ぜにの勘定を忘れるひまがない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)