平凡へいぼん)” の例文
つまりさうしないと、平凡へいぼんうはすべりがするとおもつたのでせう。だから、直譯ちよくやくして、みちがはかどらないでとつておけばよいでせう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
其後「血笑記けっしょうき」を除く外、翻訳物は大抵見た。「その面影おもかげ」はあまり面白いとも思わなかった。「平凡へいぼん」は新聞で半分から先きを見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
段の中途からそれを見詰めて居た人相のよからぬ男も、平凡へいぼんな日程を繰り返すやうな靜かさで、何處ともなく姿を消してしまひました。
かれ平凡へいぼんぶんとして、今日こんにちまできてた。聞達ぶんたつほどかれこゝろとほいものはなかつた。かれはたゞありまゝかれとして、宜道ぎだうまへつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしその電燈でんとうひかりらされた夕刊ゆふかん紙面しめん見渡みわたしても、やはりわたくし憂鬱いううつなぐさむべく世間せけんあまりに平凡へいぼん出來事できごとばかりでつてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何も世間をあっと言わせるような、めずらしい生活形式をいて作りだそうというのではない。形式は、むしろ平凡へいぼんなほうがいい。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
糟谷かすやはいよいよ平凡へいぼんな一獣医じゅうい估券こけんさだまってみると、どうしてもむねがおさまりかねたは細君であった。どうしてもこんなはずではなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
先生せんせい此等これら言葉ことば其實そのじつ平凡へいぼんせつですけれど、ぼく先生せんせい生活せいくわつ此等これらせつくと平凡へいぼん言葉ことば清新せいしんちからふくんでることをかんじました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
何気ない、平凡へいぼんな、ひとときではあったけれども、しかし私は、あのような愛情のほのぼのとくすぶるような哀感あいかんにおそわれたことがなかった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
「あたしですの。あたしは多少美しい娘かも知れないけれども、平凡へいぼんな女よ。いずれ二三年のうちに普通に結婚けっこんして、順当に母になって行くんでしょう」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
恐らく佐助は鵙屋の暖簾のれんを分けてもらい一介いっかいの薬種商として平凡へいぼんに世を終ったであろう後年盲目となり検校の位を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あなたたちの先祖せんぞは、そのとき、やはりはたけや、野原のはらびまわっていて、べつに手助てだすけをしなかったから、のちのちまでも平凡へいぼんらしていなさるのです。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ最も常識的な完成に過ぎないのである。知情意のおのおのから肉体的の諸能力に至るまで、実に平凡へいぼんに、しかし実にび伸びと発達した見事さである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その男というのは、ほかの人に影響えいきょうあたえるなどとは自分でも思っていなかったし、たれても平凡へいぼん人間にんげんだった。——それはクリストフの母親ははおやルイザの兄だった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「テクニカラーでした。すばらしくうつくしいものでした。すじはありきたりの平凡へいぼんなものでしたが……」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
いまの、その三人目の男は、私の気質から云えばひどく正反対で、平凡へいぼん誇張こちょうのない男であった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
たとへば日本にほん小島國せうたうごくであつて、氣候きこう温和をんわ山水さんすゐがいして平凡へいぼん別段べつだん高嶽峻嶺かうがくしゆんれい深山幽澤しんざんゆうたくといふものもない。すべてのものが小規模せうきもである。その我邦わがくに雄大ゆうだい化物ばけもののあらうはずはない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ばんまでかゝつてやうや土器どきふちでもつたらしいいしと、把手とつて平凡へいぼんなのを二三たばかり。
〔譯〕獨得どくとくけんわたくしに似る、人其の驟至しうしおどろく。平凡へいぼんは公に似る、世其の狃聞ぢうぶんに安んず。凡そ人の言をくは、宜しく虚懷きよくわいにして之をむかふべし。狃聞ぢうぶん苟安こうあんすることなくんば可なり。
けて、きはめて計略けいりやく平凡へいぼんなのに、われながらをとこどくらしかつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たとえどんなに平凡へいぼんなものでもいいから、これから私の暮らそうとしているようなこんな季節はずれの田舎の、人っ子ひとりいない、しかし花だらけの額縁がくぶちの中へすっぽりとまり込むような
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
このみずうみ景色けしきは、平凡へいぼんといえば平凡ですが、びわのように、夏、ぐるりの山の上に夕立雲ゆうだちぐもがわいたり、冬、銀色の雪がひかったりすると、少しすごいような景色になるのとはちがって、春夏秋冬
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
あまりに平凡へいぼん人達ひとたちうわさばかりつづきましたから、その埋合うめあわせというわけではございませぬが、今度こんどはわがくに歴史れきしにお名前なまえ立派りっぱのこっている、一人ひとり女性じょせいにおにかかったおはなしいたしましょう。
大きなる都会とくわいのなかにたどりつきわれ平凡へいぼん盗難たうなんにあふ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
平凡へいぼん會話くわいわじやアないか。平常ふだんなら當然あたりまへ挨拶あいさつだ。しか自分じぶんともわかれて電車でんしやつたあとでも氣持きもちがすが/\して清涼劑せいりやうざいんだやうながした。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
つまり平凡へいぼんなお手本てほんうつしになぞつてくものですから、だん/\つまらなく、その作者さくしや特徴とくちようすことが出來できなくなつたわけであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あとの一人は、多賀屋の番頭で品吉、三十そこ/\の平凡へいぼんな男ですが、これもお福の笑顏に釣られて、多賀屋の養子になれるものと思ひ込んでゐた男でした。
よし平凡へいぼんな講演をするにしても、私の態度なり様子なりが、あなたがたをして礼を正さしむるだけの立派さをもっていなければならんはずのものであります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そのまごころのこもった常識というのが容易ではないとぼくは思うんです。常識的な、平凡へいぼんなことをやる時ほど、人間はふまじめになりがちなものですから。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
数日来見飽みあきるほど見て来た平凡へいぼんな木乃伊である。彼は、そのまま、行過ぎようとして、ふとその木乃伊の顔を見た。途端とたんに、冷熱いずれともつかぬものが、彼の脊筋せすじを走った。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「もっとおもしろいなにかげいをするむすめさんたちが、あつまってこないものかね。」と、おじょうさまは、その劇場げきじょうへいってみられたけれど、それからおんなは、平凡へいぼんなものばかりでした。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
屋根の形式の割合いに平凡へいぼん百姓家ひゃくしょうやで、畑に面したふたつづきの出居でいの間の、前通りの障子を明け放しにして、その床の間つきの方の部屋に主人らしい四十恰好かっこうの人がすわっていた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
下人は、老婆の答が存外、平凡へいぼんなのに失望した。さうして失望しつばうすると同時に、又前の憎惡が、冷な侮蔑ぶべつと一しよに、心の中へはいつて來た。すると、その氣色けしきが、先方へも通じたのであらう。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
近いと聞いた玉川たまがわは一里の余もあると云う。風景も平凡へいぼんである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かれ平凡へいぼん宗助そうすけ言葉ことばのなかから、一種いつしゆ異彩いさいのある過去くわこのぞやう素振そぶりせた。しかしそちらへは宗助そうすけすゝみたがらない痕迹こんせきすこしでもると、すぐはなしてんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
次郎はかつて道江を平凡へいぼんな女だと思ったことがあったが、読んで行くうちに、その平凡さのおどろくべき成長を見せつけられ、それに一種の威圧いあつをさえ感ずるのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
先生せんせい言論げんろんには英雄えいゆう意氣いきみちながら先生せんせい生活せいくわつ一見いつけん平凡へいぼんきはまるものでした。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
惡黨らしくもなく、平凡へいぼんに老いさらばへていたちの七助は涙と共に語るのでした。
この隧道トンネルなか汽車きしやと、この田舍者ゐなかもの小娘こむすめと、さうしてまたこの平凡へいぼん記事きじうづまつてゐる夕刊ゆふかんと、——これが象徴しやうちようでなくてなんであらう。不可解ふかかいな、下等かとうな、退屈たいくつ人生じんせい象徴しやうちようでなくてなんであらう。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その高原こうげんまれたはなは、まったく、平凡へいぼんはなしてしまいました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ネウリ部落のシャクは、こうした湖上民の最も平凡へいぼんな一人であった。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
こゝにはごく平凡へいぼんなものをあげておきませう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
しかしそれを別な言葉で云って見ると非凡ひぼんなものを平凡へいぼんにするという馬鹿気た意味にもなって来ます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次は、こんな平凡へいぼんなことを訊ねました。
つぎ平凡へいぼん宗助そうすけあたまらして、ことなきひかり西にしおとした。つてかれ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)