くら)” の例文
あるなつのこと、おとこは、あせをたらして、おもすみだわらを二つずつおって、やまをくだり、これをまちのある素封家そほうかくらへおさめました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
またくらのようなものは、おほくは今日こんにち奈良なら正倉院しようそういん御倉おくらなどにるような、みあはせた校倉あぜくらといふものであつたとおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そのあいだに、たにしの子はひとりではきはき、下男げなんたちにさしずをして、お米を馬からおろして、くらみこませました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
十三屋へ行ってみると、まだお曾与の死骸の始末もせず、父親の文吉と母親のおくらは際限のない涙にひたっておりました。
何分なにぶん此頃このごろ飛出とびだしがはじまつてわしなどは勿論もちろん太吉たきちくら二人ふたりぐらゐのちからでは到底たうていひきとめられぬはたらきをやるからの、萬一まんいち井戸ゐどへでもかゝられてはとおもつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まるい月は形が大分だいぶちひさくなつて光があをんで、しづかそびえる裏通うらどほりのくら屋根やねの上、星の多い空の真中まんなかに高く昇つてた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
といったが、てんで耳もかさず、くらから毛利もうりの屋敷のほうへ曲り、横丁をまわりくねりしたすえ、浜町はまちょう二丁目の河岸っぷちに近いところへ出た。
海老之丞えびのじょうこたえました。これは昨日きのうまで錠前屋じょうまえやで、家々いえいえくら長持ながもちなどのじょうをつくっていたのでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
楽真院は茝庭さいてい、安良は暁湖ぎょうこで、ならびに二百俵の奥医師であるが、彼は法印、これは法眼になっていて、当時くらの分家が向柳原むこうやなぎはらの宗家の右におったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三日ほど経ちまして縛られてまいりました悪者三人は、百々村のくら八と太田の金山かなやまの松五郎、今一人いちにんは江田村の源藏げんぞうで、段々お調べになると、其の者共の申口もうしぐち
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長い長い留守居の後で、お俊姉妹はようやく父の実と一緒に成れたのである。この二人の娘は叔父達の力と、母おくら遣繰やりくりとで、わずかに保護されて来たようなものであった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それからその建御雷神たけみかずちのかみは、私に向かって、おまえのくらのむねを突きとおしてこの刀を落とすから、あすの朝すぐに、大空の神のご子孫にさしあげよとお教えくださいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
書庫は、母屋おもやから、すこしはなれた庭にたっていました。コンクリートづくりのくらです。くつをはいて、書庫の前にいって、錠前をしらべてみましたが、べつじょうありません。
妖星人R (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どろぼうたちは、自分たちの、人にかくしていたおくらを見つけられたので、大へん腹を立てました。そして、いきなりカシムをつかまえて、切りころして、からだの肉を切りきざんでしまいました。
安政あんせい年間の事であった。両国りょうごくくら栄蔵えいぞうと云う旅商人あきんどがあった。
沼田の蚊帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
尤もおくらさんの事に就ては両方の言う事が折合ませんですけれど目
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「八ぴょうしか、いれてない。そんないいがかりをつけるなら、くらにはいってかぞえてみるがいい。」と、主人しゅじんは、いたけだかになりました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
あゝ浮世うきよはつらいものだね、何事なにごとあけすけにふて退けること出來できぬからとて、おくらはつく/″\まゝならぬをいたみぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「どのくらにも、じょうらしいじょうは、ついておりません。子供こどもでもねじきれそうなじょうが、ついておるだけです。あれじゃ、こっちのしょうばいにゃなりません。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
むかしあるところに、田を持って、畑を持って、屋敷やしきを持って、くらを持って、なにひとつ足りないというもののない、たいへんお金持ちのお百姓ひゃくしょうがありました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
小杉卓二が大の男の癖に悲鳴を挙げると、お勝手に働いていたやとい婆さんのおくらが飛んで来ました。
あの子を勾引かどわかした事からづきがまわったという訳は、百々村どゞむらくら八と金山かなやままつ江田村えだむら源藏げんぞうが捕まって、己達へ足がついて来たから、すぐに逃げなくっちゃアいけねえぜ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
片側かたかは朝日あさひがさし込んでるので路地ろぢうち突当つきあたりまで見透みとほされた。格子戸かうしどづくりのちひさうちばかりでない。昼間ひるま見ると意外に屋根やねの高いくらもある。忍返しのびがへしをつけた板塀いたべいもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それには、高倉下たかくらじくらのむねを突きやぶって落としましょうと、こうお答えになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
……五日前のくら不動ふどうの前のは、やはり物盗ものとりじゃございません。持って出たと思われる五十両は、てめえの家の神棚の上にのっかっていたそうでございます。これにゃ、どうも……
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あの、コロ、コロ、いうごえは、わたしが、ここからとおい、ひがしほうまちんでいるときに、白壁しらかべくらのある、ふるい、おおきな酒屋さかやがあった。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何分この頃飛出しが始まつて、わしなどは勿論もちろん太吉とくらと二人ぐらゐの力では到底引とめられぬ働きをやるからの、万一井戸へでも懸られてはと思つて
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
海蔵かいぞうさ、どうしたじゃ。一せんもつかわんで、ごっそりためておいて、おおきなくらでもたてるつもりかや。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
むかし、むかし、あるいえのおくらの中に、おこめって、むぎって、あわって、まめって、たいそうゆたかにらしているおかねちのねずみがんでおりました。
ねずみの嫁入り (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その時、お柳の母親——乾物屋の女房のおくらは、額で歩くようにして飛んで来ました。
まア富貴楼ふつきらうのおくらさんかね、福分ふくぶんもあり、若い時には弁天べんてんはれたくらゐ別嬪べつぴんであつたとさ、たく横浜よこはま尾上町をのへちやうです、弁天通べんてんどほりと羽衣町はごろもちやうちかいから、それに故人こじん御亭主ごていしゆかめさんとふからさ。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
こうは、それをもらってから、さすがにはずかしいおもいがして、くらなかにしまってあるいもを、いつまでもそとすことができませんでした。
自分で困った百姓 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おいたはしきこととは太吉たきちひぬ、おくらへり、こゝろなきおさんどんのすゑまでぢやうさまにつみありとはいさゝかもはざりき、黄八丈きはちぢやうそでなが書生羽織しよせいばおりめして
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わかいお婿むこさんとおよめさんは、なかよくらして、おとうさんとおかあさんをだいじにしました。そしてたくさん子供こどもんで、おくらのねずみの一家いっかはますますさかえました。
ねずみの嫁入り (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そういうむらこそ、こっちのしょうばいになるじゃないかッ。くらがあって、子供こどもでもねじきれそうなじょうしかついておらんというほど、こっちのしょうばいに都合つごうのよいことがあるか。まぬけめが。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
するとあがはなに腰を掛けて居たのは、吾妻郡あがつまごおり市城村いちしろむらと云う処の、これは筏乗いかだのり市四郎いちしろうと云う誠に田舎者で骨太な人でございますが、弱い者は何処までも助けようと云う天稟うまれつきの気象で、さんくらうまれ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はたして、そのとしいも収穫しゅうかくは、いつものようにやはりよかったのであります。こうは、そのいもをすっかりくらなかれてかくしてしまいました。
自分で困った百姓 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うっそうと、青葉あおばのしげったあいだから、白壁しらかべくらえたり、たのしそうに少女しょうじょたちのうたうくわつみうたこえたりして、だれでも平和へいわむらだとおもったからであります。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは、このうたをきくとかなしくなるの、東京とうきょうまれて、田舎いなか景色けしきらないけれど、白壁しらかべのおくらえて、あおうめのなっているはやしに、しめっぽい五がつかぜ
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おとこは、やまを五たびくだって、またのぼったきおくがあります。それでくらにいって、かずをかぞえてみると十いれたものが、八つしかなかった。かれのかおは、土色つちいろとなりました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
黄金こがねはこなどというものは、そうたくさんあるものでないから、どこかのくら宝物ほうもつとなって、そのまましまってあるか、もしくは、どこかの地中ちちゅうにうずめられているという昔話むかしばなしでも
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)