とば)” の例文
夜陰にとどろく車ありて、一散にとばきたりけるが、焼場やけばきはとどまりて、ひらり下立おりたちし人は、ただちに鰐淵が跡の前に尋ね行きてあゆみとどめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と云いながら多助の胸ぐらを取り、力に任せて突きとばす。突かれて多助はひょろ/\と横に倒れかゝりましたが、やっと踏みこらえながら
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此時はかならず暴風はやて力をそへて粉にくだきたる沙礫こじやりのごとき雪をとばせ、白日も暗夜あんやの如くそのおそろしき事筆帋ひつしつくしがたし。
途中とちう武村兵曹たけむらへいそう大得意だいとくいで、ヤンヤ/\の喝釆かつさい眞中まんなかつて、口沫こうまつとばして、今回こんくわい冐險譚ぼうけんだんをはじめた。
向嶋も今では瓢箪ひょうたんを下げた風流人の杖を曳く処ではなく、自動車をとばして工場の製作物を見に行く処であろう。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たましひとばし更にいきたる心地もなくたがひかほを見合せ思ひ/\に神佛しんぶついの溜息ためいきつくばかりなり風は益々つよく船を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もの狂ほしい一陣の風が吹き起つたと思ふほどに、二人は何時いつか宙を踏んで、牢舎を後に飄々へうへうと「あんちおきや」の都の夜空へ、火花をとばいて舞ひあがつた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しこの婆さんの笑いが毒々しい笑いで、面付つらつき獰悪どうあくであったら私はこの時、憤怒ふんどしてなぐとばしたかも知れない。いくら怖しいといったって、たかが老耄おいぼればばあでないか。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なんだ貴様はちょうの折りようを知らぬかと甥子おいごまでしかとばして騒ぐは田舎気質かたぎの義に進む所なり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
当家こちらのお弟子さんが危篤ゆえしらせるといわれ、妻女はさてはそれゆえ姿をあらわしたかと一層いっそう不便ふびんに思い、その使つかいともに病院へ車をとばしたがう間にあわず、彼は死んで横倒よこたわっていたのである
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
ギルははげしく女を叱りとばして、バラ/\と階段を馳上った。泉原も続いて後に従った。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
アダムの二本棒にほんぼう意地いぢきたなさのつまぐひさへずば開闢かいびやく以来いらい五千ねん今日こんにちまで人間にんげん楽園パラダイス居候ゐさふらふをしてゐられべきにとンだとばちりはたらいてふといふ面倒めんだうしやうじ〻はさて迷惑めいわく千万せんばんの事ならずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
それより御國許おくにもと飛脚ひきやくとばして、御用ごようこれあり、諸役人しよやくにんども月番つきばんもの一名宛いちめいづゝ殘止のこりとゞまり、其他そのた恩田杢おんだもく同道どうだうにて急々きふ/\出府しゆつぷつかまつるべし、とめいたまひければ、こはそも如何いかなる大事だいじ出來できつらむと
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
開きたりソレの瀧ホラ向ふの岩奇絶妙絶と云ふうちには四五たんは馳せ過る馬車の無法むはふとばせ下は藍なす深き淵かたへは削りなせる絶壁やうやくに車輪をのするだけの崕道がけみちを容赦も酙酌しんしやくもなく鞭を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
四十歳を越した文豪の心はかねて愛くるしいこの小娘に動かされて居て二人の間にデリカアな話が交換される。其処そこへ第一の夫人である女優マドレエヌが現れてアルマンを叱りとばしてその部屋へおひ遣る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
すると女は、いきなり僕の胸を力一杯の拳固げんこで突きとばした。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
吹けば飛ぶ物だけ風は吹きとば
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
ピイーという雪風で、暑中にまいりましても砂をとばし、随分半纒はんてんでも着たいような日のある処で、恐ろしい寒い処へ泊りました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
吾が国に雪吹ふゞきといへるは、猛風まうふう不意ふいおこりて高山平原かうざんへいげんの雪を吹散ふきちらし、その風四方にふきめぐらして寒雪かんせつ百万のとばすが如く、寸隙すんげきあひだをもゆるさずふきいるゆゑ
雪解のしずくは両側に並んだ同じような二階の軒からその下を通行する人の襟頸えりくび余沫しぶきとばしている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
武村兵曹たけむらへいそう彼等かれら仲間なかまでも羽振はぶりよきをとこなに一言ひとこと二言ふたこといふと、いさましき水兵すいへい一團いちだんは、ひとしくぼうたかとばして、萬歳ばんざいさけんだ、彼等かれらその敬愛けいあいする櫻木大佐さくらぎたいさ知己ちきたる吾等われら
召し上意には其方只今たゞいまより越前宅へ罷越まかりこしよび參れとの上意なれば主計頭は御受に及び直樣すぐさま馬をとばむちを加へて一散に數寄屋橋の御役宅へ來り御上使ごじやうし々々々と呼はりければ大岡の屋敷にては上下是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
貫一はただちくるまとばして氷川なる畔柳くろやなぎのもとにおもむけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
無法とばせの馬車なれば(是よりして木曾の山中やまなかにも無法飛ぶのは馬車ではないかなど定めて洒落始めしならん)下手へたな言文一致のことばのやうにアツヱツ發矢はつしなど驚きて思はず叫ぶばかり山も川も只飛び過ぎ熱川にえがはより奈良井の間の諏訪峠といふ所は車の片輪を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
多「あれっちゃんを突きとばしやアがる、惣吉さんお出でなさえ…此奴こいつア…又打てねえ…さっ/\と行けい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
吾が国に雪吹ふゞきといへるは、猛風まうふう不意ふいおこりて高山平原かうざんへいげんの雪を吹散ふきちらし、その風四方にふきめぐらして寒雪かんせつ百万のとばすが如く、寸隙すんげきあひだをもゆるさずふきいるゆゑ
路地は人ひとりやっと通れるほど狭いのに、大きな芥箱ごみばこが並んでいて、寒中でも青蠅あおばえはねならし、昼中でもいたちのような老鼠ろうねずみが出没して、人が来ると長い尾の先で水溜みずたまりの水をはねとばす。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
してるとわたくしでなくとも、此樣こん想像さうざうおこるであらう、いま本船ほんせんあとふかの奇怪あやしふねあるひ印度洋インドやう大惡魔だいあくまかくれなき海賊船かいぞくせんで、先刻せんこくはるか/\の海上かいじようで、星火榴彈せいくわりうだんげ、火箭くわぜんとばして
重吉が種子の遺産として譲受ゆずりうけた五千円の貯金はその時なくなってしまう。つづいて勤先つとめさきの会社が突然解散せられる。種子が形見の貴金属類は内々ないないでとうの昔売りとばされた後である。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こういう奴が出るから茶飯ちゃめしあんかけ豆腐や夜鷹蕎麦よたかそばひまになる、一つ張りとばしてやろうと、廿人力の拳骨を固めてうしろへ下ろうとする蟠龍軒の横面よこずっぽうをポカーリッと殴ると、痛いの痛くないの
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ト突きとばす。職工よろけて倒れる。鈴代おでん屋の灯を見てかけ寄り
杉のはのたてる門辺かどべに目白おし羽觴うしょうとばす岸のちゃ