かま)” の例文
それが、じつはちっとのんきすぎるんで、あっしもさっきから少しばかり腹だてているんですが、半年のこっちも一つかまのおまんまを
それどころか、地獄にや、ほれ、でつけえ人煮るかまがあるつてこんだから、俺がやうな薪割稼業まきわりかげふは案外調法がられめえもんでもねえ。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
あらをはつたとき枯葉かれはおほいやうなのはみなかまでゝうしろはやしならみきなはわたして干菜ほしなけた。自分等じぶんら晝餐ひるさいにも一釜ひとかまでた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私たちが少年の頃には、酒屋の職人たちが酒の仕込みの日に、蒸した白米をかまからつかみ出して、ヒネリ餅というものをこしらえていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
別にただの御飯へ塩味あじを付けて炊いて火を引く時今の紫蘇の手でんだものを早くかまの中へ入れておひつへ移す時杓子しゃくしでよく混ぜます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ひとかまの飯を食わねば、心はだんだん離れるものだろうか。茂緒はとうとう何もいわずに、泣きべそのような顔で房次の家を出た。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
とうとうおかまが上までけました。その時分じぶんには、山姥やまうばもとうにからだじゅうになって、やがてほねばかりになってしまいました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
細かい人形、お茶道具、おかまなべやバケツに洗濯板せんたくいた、それに色紙や南京玉ナンキンだま、赤や黄や緑の麦稈むぎわらのようなものが、こてこて取り出された。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その顔が破れたおかま帽子の下から、ヒョイとのぞいたときには、明智は思わずわきを向いて、話しかけたのを後悔したほどであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かまの周囲にはき上がって流れだした米の汁が、かさかさに幾条いくすじとなくこびりついて、あるものは吉野紙をりつけたごとくに見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海の中にもぐった時に聞こえる波打ちぎわの砂利じゃりの相摩する音や、火山の火口の奥から聞こえて来るかまのたぎるような音なども思い出す。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ばてれんの前にはまたかまが置かれ、ぐらぐら煮つめられているその硫黄いおうの毒気は、すべてその男の口に当たるように鼻はふさがれている。
鳴らんのだ、かまが、贄釜がよ! ……姥のご機嫌、それで斜めさ! ……姥のご機嫌もご機嫌だが、こっちのご機嫌だってナナメだあね。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
少し眠足ねたりないが、無理に起きて下坐舗へ降りてみれば、只お鍋が睡むそうな顔をしてかまの下を焚付たきつけているばかり。誰も起きていない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おい! もう大がいにしておけ。あまりかせぎすぎると、こんどは道中のやッかいになって、かまをかぶって歩くようなことになるぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先日せんじつ歳暮せいぼまゐつたらまつうめ地紋ぢもんのある蘆屋あしやかま竹自在たけじざいつて、交趾かうちかめ香合かうがふ仁清にんせい宝尽たからづくしの水指みづさしといふので一ぷく頂戴ちやうだいしました。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
角三とおたねは、このあいだに料理用の庖丁ほうちょう類やなべかま、食器などを買い集めてい、角三は九月いっぱいで「灘紋」をやめた。
そこには気の少し変な中老の女がいて、おかまを洗って底の飯粒を寄集よせあつめては、「おいしい、おいしい」というのが聞えるということでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
かまに湯を煮たて手にかまをもってる農夫、アルコール地方にたいして反抗した葡萄ぶどう酒地方へ話しかけるため、木の上に登っている民衆の贖主あがないぬし
名探偵かは知らないが、今まで半年あまりも、彼とは同じ団員として、同じかまめしをたべているという形だったんだから。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
民間にて伝うるところによれば、飯を炊くかまが偶然鳴り出すことがある。しかるときは、その家に凶事ありとて大いに恐るることになっている。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
まん中の大きなかまからは湯気が盛んにたち、農夫たちはもう食事もすんで、脚絆きゃはんを巻いたり藁沓わらぐつをはいたり、はたらきに出る支度をしてゐました。
耕耘部の時計 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
番台へ登ろうとしていた丁子風呂のおかみさんと、かま前に居た三助ばんとう丑松うしまつは、両方から飛んで来てお六を抱き起しました。
常磐橋の辻から、京町へ曲がる角にかまを据えて、手拭てぬぐいを被ったいさんが、「ほっこり、ほっこり、焼立ほっこり」と呼んで売っているのである。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
海がめをとらえる道具も、小笠原島方面と、南洋原住民の使うものとを用意し、また、かめの油をしぼるかまもそなえた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
黒い煙の少しと大きな炎とが、かまの下を伝うて存分に吐き出された。そのうちにそれは少しづつ薪へ燃えうつり出した。
当人も、左様に人様には申しておりましたが、この川の下流のかまふち——いえ、もし、渡月橋とげつきょうで見えます白糸の滝の下の……あれではござりません。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まとつては隨分ずいぶんつらいこともあらう、なれどもれほどの良人おつとのつとめ、區役所くやくしよがよひの腰辨當こしべんたうかましたきつけてくれるのとはかくちが
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ある朝、一八四五年七月のある記憶すべき朝、瀝青チャンのいっぱいはいった黒いかまがけむってるのがそこに突然見られた。
まず竹の筒をかまにしてその中へ種々の物を入れそれでふかすので、あるいは草の根とか果物とかいういろいろな物を入れ、また穀類こくるいを入れる事もある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
十数人の大家族だったので、女中が朝暗いうちから起きて、すすけたかまどに大きいかまをかけて、粗朶そだきつける。
おにぎりの味 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして私の身辺には、かまなべ、茶碗、はし、皿、それに味噌みそつぼだのタワシだのと汚らしいものまで住みはじめた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かまのない煙筒のない長い汽車を、支那苦力クーリーが幾百人となく寄ってたかって、ちょうどありが大きな獲物を運んでいくように、えっさらおっさら押していく。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この手紙が出るまでもなく、前日の家出だけでも、事件はおかまの湯が煮えこぼれるような、大騒ぎになっていた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
玉を烹たるもの、そのゆゑをきゝかまふたひらきればすでに玉はなかばかれたり。其たまわたり一寸ばかりこれしん夜光やくわう明月のたまなり。俗子ぞくしやくせられたる事悲夫かなしきかなしるせり。
倹約は吝嗇りんしょくに傾きやすく文華は淫肆いんしに陥りやすく尚武はとかくおかまをねらひたがるなり。尚武の人は言ふおかまは武士道の弊の一端なり。白璧はくへき微瑕びかなり。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かまの下の灰まで自分のもんや思たら大間違いやぞ、久離きゅうり切っての勘当……」を申し渡した父親の頑固がんこは死んだ母親もかねがね泣かされて来たくらいゆえ
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
大阪に商売人が集るのもかまさき乞食こじきが集るのも、東京へ文芸が集るのも、支那に支那人が多いのも銀座にカフェが出来るのも十二階下に白首しろくびが集るのも
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
さあさあ、こんなところにいないで早く表へ出て行っておくれ。私は用があるんだよ。おかまの御飯が噴いているのに、お前のお蔭でげ臭くなったじゃないか
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兄と実枝は勝手に押入れを開けて、かまや茶道具を調べ出した。礼助はその間中、庭を見て歩いた。和尚が作つてゐるらしい牡丹畑ぼたんばたけを見て帰つて来ると、兄は
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
少くとも同じ屋根の下で、一つかまの飯をたべながら、これから共同生活をやっていこうとする人たちの間では、決してとりかわされてはならない言葉なのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これまでは彼らは「一つかまの飯を食う」仲間の関係であった。だが今では、それ以外に「労働者としての階級」に属する同志だという感情がつけ加えられた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ほんの少し、つつみの上が明るんでいるなかで、茄子色なすいろの水の風だけは冷たかった。千穂子ちほこかまの下をきつけて、おそ与平よへいむかえかたがた、河辺まで行ってみた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
古金買いの中でも、なべかま薬缶やかんなどの古金を買うものと、金銀、地金じがねを買うものとある。あとの方のがいわば高等下金屋である。これに百観音は買われました。
よしや一の「モルヒ子」になぬためしありとも月夜つきよかまかれぬ工風くふうめぐらしべしとも、当世たうせい小説せうせつ功徳くどくさづかりすこしも其利益りやくかうむらぬ事かつるべしや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
その晩、太郎右衛門夫婦は、大きなかまに湯をわかして、うまやの前で赤児に湯をつかわせてやることにしました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
が、いまは白昼、素面しらふで風呂をたいていたのが、かまの下から一本抜いて、燃えているやつをはさんで来る。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
釜右ヱ門かまえもんこたえました。これは昨日きのうまでたびあるきの釜師かましで、かま茶釜ちゃがまをつくっていたのでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「でも、あんな髭をはやして分別顔でりきんでいるさまは、石川五右衛門のかまうでを思い出させます。」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あのむしろうへ御覽ごらんつてせました。そこではおかまからしたおちやをひろげて團扇うちはであほいでひとがあります。あの焙爐ほいろはう御覽ごらんつてせました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)