こな)” の例文
小僧こぞうはこの子をこなひきの夫婦ふうふのところへつれていきました。すると、粉ひきの夫婦には子どもがなかったものですから、ふたりは
ぴちりと音がして皓々こうこうたる鏡は忽ち真二つに割れる。割れたるおもては再びぴちぴちと氷を砕くが如くこな微塵みじんになってしつの中に飛ぶ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分じぶんかへりましたとき兩臂りやうひぢと、ちゝしたと、手首てくびみやくと 方々はう/″\にじんで、其處そこ眞白まつしろくすりこな振掛ふりかけてあるのがわかりました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ガラスのようにぴかぴか光る馬車がすばらしい馬に引かれて、その上にこなをふりかけたかつらをかぶった大きな太った御者ぎょしゃが乗っていた。
おじいさんと、おばあさんは、その赤黒あかぐろこなめしにかけてべました。しかし、そのにおいほど、あまり、うまくはありません。
片田舎にあった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
黒いこなを疊の上に散らしたりするのに、眉を顰めてゐたが、さりとて別に幼いものや若いものを捉へて、茶の湯を教へようとはしなかつた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
れだんべぢい蕎麥そばこなへえつてたのな、らどうしたんだかんねえからをけなかけていたつきや、そんぢやぢいがんだつけなあそら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
土筆摘み、妻と子と摘み、うすあかき土筆の茎の緑だつそのこなの、かなしともも妻も摘め、をさな児もしみみ摘みをる、そのをさなさを。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うめばちそうはブリリンときあがってもう一ぺんサッサッと光りました。金剛石こんごうせきの強い光のこながまだはなびらにのこってでもいたのでしょうか。
一匹の桜いろの蝶が、奇蹟のやうにひらひらと、平気で、わたしの視野をかけつていつた。ひかりのこなを撒きながら。……
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
白はとうとう尻尾しっぽを巻き、黒塀の外へぬけ出しました。黒塀の外には春の日の光に銀のこなを浴びた紋白蝶もんしろちょうが一羽、気楽そうにひらひら飛んでいます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いつもかまどのはいすみこなにまみれたみにくい下司女げすおんなではなくって、もう天人てんにん天下あまくだったかとおもうように気高けだかい、十五、六のうつくしいおひめさまでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
暇があるとぬぐいをかけたりこなを打ったりして、いつまでもあきずに眺めていた。とぎに出したりするのも好きだった。
ゴンゴラ大将は、仁王様におうさまがせんぶりのこなめたような顔をして博士のぐにゃぐにゃした肩をわしづかみにした。
こなんこが落ちるにと云いつつ、帰って行かれるなどという笑い話が、今もまだ東日本の田舎いなかには伝わっている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そういいながら、指先ゆびさき器用きよううごかした春重はるしげは、糠袋ぬかぶくろくちくと、まるできんこなでもあけるように、まつろうてのひらへ、三つばかりを、勿体もったいらしくげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼女はこなだらけのがさ/\した手を私に差し出した。前とは違つたあたゝかい微笑がそのがさつな顏に浮んだ。そしてその時から私たちはお友達になつたのである。
煎茶せんちゃにかぎる。煎茶の香味と苦味とが入用いりようである。少し濃い目の茶をかけると、調和がとれる。茶が薄くては不味まずい。だから、こな茶の上等がいいというわけになる。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
上野ではしのばず池のあの泥くさりの水でこなミルクをといてのみにのませた婦人さえありました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あのたいそうあまい、しろこな……砂糖さとうとやらもうすものは、もちろん私達わたくしたち時代じだいにはなかったもので、そのころのお菓子かしというのは、おもこめこなかためた打菓子うちがしでございました。
おじいさんはふしぎなこなを、ポケットから出しました。それから、口の中で何かぶつぶつ言いながら、火の上にふりかけました。すると、たちまち大地がゆれはじめました。
吾輩は決して無意味の活動をするんじゃない。吾輩は人間の為にこくくのだ、こなく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
僧坊たりしむかしの壁は巣窟となりぬ、法衣ころもはあしきこなの滿ちたる袋なり 七六—七八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
無数の針は音なき風となって、ピラピラと飛んできてもはだにつき立つほどではないが、あたかも毒蛾どくがこなのように身をしたので、ふたりはあッ——とおもてをそむけた。その一しゅんだ!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はあの恐ろしい火と水との正体を知ってからは、彼ら自身の法則でかえって彼らを使役して私のこなひき場の車をまわさせたりかまどをたかせたりしている、わしは彼の法則を知りたい。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
何うかすると工場の歸りだとか謂ツて、鉛筆のしんこなで手を眞ツ黒にしながら、其を自慢にしてゐるやうなこともあツた。兩手共荒れてひゞの切たやうになツて、そしてカサ/\してゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
彼女はにないの棒を投げ出すと、それがたちまちに小さい蛇となった。客はふところからこなの固まりのような物を取り出して、地面に二十あまりの輪を描いて、自分はそのまん中に立った。
なお貯蔵室にこな二樽と、それから数の知れないほどに煙草がたくさんある。
むかし、あるところに、三人むすこをもった、こなひき男がありました。
この種のものは外観上はうどん粉位のこなに見えるのであるが、その顕微鏡写真をとって見ると、非常に小さい角柱状の結晶の集合から成っている場合が多い。その一例を第6図(第3図版)に示す。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
こなダイヤとほし、凍つた藍のやま々、冠まつ、ヤホー、ヤホー
冠松次郎氏におくる詩 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
白いこなのやうな雪がチラ/\降り
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
しろくつめたきこなぐすり
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
こな絵具に似た
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
するととりりてたので、二十にんこなひきおとこは、そうががかりで、「ヨイショ、ヨイショ!」とぼうでもって石臼いしうすたかげました。
「へびは煙草たばこをきらうといいますから、たばこのこなを、垣根かきねのところにまいておくといいでしょう。」と、おかあさんが、おっしゃいました。
少年の日二景 (新字新仮名) / 小川未明(著)
土筆摘み、妻と子と摘み、うすあかき土筆の茎の、緑だつそのこなの、かなしともが妻も摘め、をさな児もしみみ摘みをる、そのをさなさを。
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
乾燥かんさうしてこなためせて女房等にようばうらしきりにせきをした。彼等かれらけおりて手桶てをけみづをがぶりとんでやうやむね落附おちつけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「さようでございます。これはすきとおったするどいあきこなでございます。数知れぬ玻璃はり微塵みじんのようでございます」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
火鉢に炭をがうとしたら、炭がもう二つしかなかつた。炭取の底には炭のこなの中に、何かの葉が乾反ひぞつてゐる。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
勿論もちろん、根を抜かれた、肥料こやしになる、青々あおあおこなを吹いたそら豆の芽生めばえまじって、紫雲英れんげそうもちらほら見えたけれども。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしは中になにも見つけなかった。パンといっしょについていたじゃがいもをもこなごなにくずしてみたが、ごくちっぽけな紙きれをも見つけなかった。
殿とのさまはびっくりして、おひめさまのお部屋へやへ行ってごらんになりますと、おひめさまはくちのはたにいっぱいお菓子かしこなをつけて、ねむっておいでになりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
隣家の蕎麦屋でこなをふるう音が、コットンコットンと響いてくると、あたしは泣出したものです。
並べたまぐろの上に、徐々じょじょにかたすみから熱湯を、こな茶のざるを通してそそぐ。まぐろの上の方から平均してまんべんなくかけていくと、まぐろの上皮がいくらか白んでくる。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
父は漢法医の業を廃した人だったので、紙に三つの漢字を書いて、近くの生薬屋きぐすりやに求め、それをこなにしてんだが少しもうまいものでなく、第一に分量が多いので閉口した。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「いゝえ駄目——ハナァと一緒にゐると大忙おほいそがしだし、あなたをこなだらけにしてしまふわ。」
かんがえてもねえ。これがきんぼうけずったこなとでもいうンなら、ひろいがいもあろうけれど、たかおんなつめだぜ。一貫目かんめひろったところで、瘭疽ひょうそくすりになるくれえが、せきやまだろうじゃねえか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかしそれは音がしなかった。そのかわり、ラッパのような口からは、銀白色ぎんはくしょくこな噴火ふんかする火山灰かざんばいのようにふきだし、陳列棚の方からのびてくるきみのわるい黒い煙をつつみはじめた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
生々いきいきとして居た甘藷の蔓は、唯一夜に正しく湯煎うでられた様にしおれて、明くる日は最早真黒になり、さわればぼろ/\のこなになる。シャンとして居た里芋さといもくきも、ぐっちゃりと腐った様になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)