畢竟ひつきやう)” の例文
が、譃と云ふことは誰でも知つてゐますから、畢竟ひつきやう正直と変らないでせう、それを一概に譃と云ふのはあなたがただけの偏見ですよ。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかるに今日こんにちぱんにこの轉倒てんたふ逆列ぎやくれつもちゐてあやしまぬのは、畢竟ひつきやう歐米文明おうべいぶんめい渡來とらいさい何事なにごと歐米おうべい風習ふうしう模倣もほうすることを理想りさうとした時代じだい
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
熱意、情熱畢竟ひつきやうするに其もとたるや一なり。情熱を欠きたる聖浄は自から講壇より起る乾燥の声の如く、美術のヱボルーシヨンにはかなひ難し。
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
畢竟ひつきやうするにすべての理論は、憐む可きものである。そして自分の理論の大部は既に久しい以前に其存在を失つて仕舞つてゐる。
而して余は是れ畢竟ひつきやう、政府と被害民との間に一巨溝の横はりて、相互の意志毫も相通ずるなきに原因することを発見せり。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
すると戦争は戦争の為の戦争ではなくつて、他に何等なんらかの目的がなくてはならない、畢竟ひつきやうずるに一の手段に過ぎないといふ事に帰着してしまふ。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かの荒い海の背景がこの平和の印象を少しも壞さないのは寧ろ不思議である。それといふのも畢竟ひつきやう慣れといふことが感激を銷磨せうまするからであらう。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
畢竟ひつきやう情人の不実を知ると云ふことは、恋を滅す最好の毒である。そして御身は苦もなく己がために此毒を作つてくれるだらうと、己は予期したのだ。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
しかもこの不幸や遂に現世の不幸たるに留まる。不幸は不幸なりといへども、すでに現世を超越せる者に取りては畢竟ひつきやう何の痛痒つうやうをも感ずる者にあらざる也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其上、百年余の余は、ほぼ、五十年を意味してゐることになる。畢竟ひつきやう、粗漏な穿鑿に予断の感情を交へた臆断、と今までの証拠だけでは、定める外はない。
万葉集のなり立ち (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
なすべきやすべて汝が申立は僞り飾ゆゑ本末不都合の事而已多くむこの惣内は九助が留守中に里と不義致しおのれは惣内母と密通みつつうに及び居しは畢竟ひつきやう子供等が不義を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
へうになひて、赤壁せきへきし、松島に吟ずるは、畢竟ひつきやうするにいまだ美人を得ざるものか、あるひは恋に失望したるもののばんむを得ずしてなす、負惜まけをしみ好事かうずに過ぎず。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さりながら人気じんき奴隷どれいとなるも畢竟ひつきやう俗物ぞくぶつ済度さいどといふ殊勝しゆしようらしきおくがあればあなが無用むようばゝるにあらず、かへつ中々なか/\大事だいじけつして等閑なほざりにしがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「そんなことが出來るんかい。電燈も村へ來りや丸で斷る譯にや行くまいから、まあ義理に一つだけは付けることにしようが、畢竟ひつきやう無用の事ぢや。」と、老父としよりは云つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
諸君しよくんこひわらふのは、畢竟ひつきやうひとわらふのである、ひと諸君しよくんおもつてるよりも神祕しんぴなる動物どうぶつである。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
曰く写実リアリスト、曰く理想アイデアリスト、派を分ち党を立つると雖も、畢竟ひつきやうするに専断の区分に過ぎざるのみ。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
たい多數たすうひとあつまつて一組織そしきすれば自然しぜんいきほひとして多數人たすうじん便宜べんぎといふこと心掛こゝろがけねばなりません、多數たすう都合つがふよろしいとやうにといふのが畢竟ひつきやう規則きそく精神目的せいしんもくてきでありませう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
畢竟ひつきやうお夏がこの窮阨きゆうやくの、後のものがたりいかにぞや、そは次の巻に解分ときわくるを聴ねかし……
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
畢竟ひつきやう何事なにごとかの手段しゆだんかもれたことならずやさしげな妹御いもとごてにならぬよし折々をり/\たこともあり毒蛇どくじやのやうな人々ひと/″\信用しんようなさるおこゝろにはなにごとまをすとも甲斐かひはあるまじさりとて此儘このまゝ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
〔譯〕徳性を尊ぶ、是を以て問學ぶんがくる、即ち是れ徳性を尊ぶなり。先づ其の大なる者を立つれば、則ち其知やしんなり。能く其の知をめば、則ち其功やじつなり。畢竟ひつきやう一條いちでうの往來のみ。
畢竟ひつきやう論者の怯懦不明と云ふ可きのみ。福澤先生茲に感ありて帝室論を述らる。
帝室論緒言 (旧字旧仮名) / 飯田平作(著)
畢竟ひつきやう論者の怯懦不明と云ふ可きのみ。福澤先生茲に感ありて帝室論を述らる。
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
私が勞役に行くと云ふことも、畢竟ひつきやうは貴方の御意思通りに從はうと云ふにすぎません。なぜとおつしやるんですか。私は勞役に服して、そこに平和を發見して來ようと思つてるんですもの。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
実現してのあたり見た上でない以上矢張り内心不安であり、空虚である。畢竟ひつきやう誰にでもある単なる自惚うぬぼれ、架空の幻影ではないかと疑ふ。自分で疑ふ位なら人が見縊みくびる事に文句は云へない。
しかし畢竟ひつきやう徒労とらうであつた。彼は作家としては出直すより外なかつた。世間人としては、余りに子供じみて、筆が利かなさすぎた。兄はそのやくざな弟をよく面倒を見てくれた。そして慰め励ました。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と云つて何もむづかしい由来がある訳ではないが、つまり必要は発明の母ですね、エスペラントの発明されたのも畢竟ひつきやう必要に促されたに外ならんので、昔から世界通用語の必要は世界の人が皆感じてゐた
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこでたとひ第一義的な問題にいての、所謂いはゆる侃々諤々かん/\がく/\の議論が出ても、それは畢竟ひつきやうするに、頭脳のよさの誇り合ひであり、衒学げんがくの角突合であり、機智のひらめかし合ひで、それ以上の何物でもないと
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
畢竟ひつきやう意志の問題だ
従つて喜劇になつてしまふ。即ち喜劇は第三者の同情を通過しない悲劇である。畢竟ひつきやう我々は大小を問はず、いづれも機関車に変りはない。
機関車を見ながら (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
畢竟ひつきやうにんいろで、けつして一りつにはかぬものでしよく本義ほんぎとか理想りそうとかをいてところ實際問題じつさいもんだいとしてはあまやくたぬ。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
我文学を繊細巧妙にならしめて、崇高壮偉にならしむる能はざりしもの、畢竟ひつきやうするに他界の観念なくして、接近せる物にのみ寄想したればなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
も一つの雲影がこれ迄常に鉱毒問題をわづらはして居た。「鉱毒は畢竟ひつきやう田中の選挙手段だ」と言ふことだ。彼は進んで言うた。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
其等の人々に同情するといふ事は、畢竟ひつきやう私自身の自己革命の一部分であつたに過ぎない。勿論自分がさういふ詩を作らうといふ心持になつた事もなかつた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
誤つて殺害せつがいせしも畢竟ひつきやうは其と云懸いひかけしが口ごもり何事も皆前世の約束と斷念あきらめ居候得ば一日も早く御仕置しおき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
釈迦牟尼せいきやぼち畢竟ひつきやう愚人、苦労性なる摩訶陀の王子、天台智者は大法螺吹おほぼらふき、まつた伝教は山師の支店でみせ
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
畢竟ひつきやう、軽太子の哀れな物語や、大国主の円満な恋や、仁徳天皇のねぢれた情史を謡ひ歩いて、万葉まで其形を残した性欲生活の驚異を欲した村の人々の心が、更に変態で
相聞の発達 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
これをもつとづかしい哲学的な言葉でふと、畢竟ひつきやうずるに過去は一の仮象かしやうに過ぎないといふ事にもなる。金剛経にある過去しん不可得ふかとくなりといふ意義にも通ずるかも知れない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
されば家塾かじゆく放任主義はうにんしゆぎおこなふのは畢竟ひつきやう獨立心どくりつしんやしなためであつて、このせまちひさな家塾かじゆく習慣しふくわんをつけてくのは他日たじつおほひなる社會しやくわいひろ世界せかいことけない仕度したく御在ございます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
亞弗利加洲アフリカしうにアルゼリヤといふくにがある、凡そ世界中せかいぢゆう此國このくにひとほど怠惰者なまけものはないので、それといふのも畢竟ひつきやう熱帶地方ねつたいちはうのことゆえ檸檬れもんや、だい/\はなき亂れてそのならぬかほり四方よもちこめ
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
な、俗物ぞくぶつ信心しん/″\文学者ぶんがくしや即ちおん作者さくしや様方さまがた生命せいめいなれば、な、俗物ぞくぶつ鑑賞かんしやうかたじけなふするはおん作者さくしや様方さまがた即ち文学者ぶんがくしや一期いちご栄誉えいよなれば、之を非難ひなんするは畢竟ひつきやう当世たうせい文学ぶんがくらざる者といふべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
朱陸しゆりく以下各ちからを得る處有りと雖、かも畢竟ひつきやう此の範圍はんいを出でず。おもはざりき明儒みんじゆに至つて、朱陸しゆりくたうを分つこと敵讐てきしうの如くあらんとは。何を以て然るや。今の學ぶ者、宜しく平心を以て之を待つべし。
ヨセフも亦議員にならなかつたとしたらば、——それはあらゆる「若し………ならば」のやうに畢竟ひつきやう問はないでも善いことかも知れない。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
美術も亦た然らんか。畢竟ひつきやうするに宗教も美術も、人心の上に臨める大感化力なるに於ては、相異なるところあるなし。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
とゞ相果あひはてたる赴き畢竟ひつきやう傍輩はうばいの心實より爲したる事實と相聞え加ふるに千太郎實父じつぷ吉兵衞外一同よりも助命を願ひ出又其方ことすみやかに自訴じそに及びし段神妙しんめうに付死一等を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だから新聞の外国種が余程怪しいもんだ。畢竟ひつきやう大洞のやうな先生が虚誕うそ共喰ともぐひをしてゐるので人名地名の発音の間違どころか飛んでもない見当違ひを一向御頓着なく見て来たやうな虚誕を書く。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
これ畢竟ひつきやう地震ぢしんたいする災害さいがい輕減けいげんするがためであるとかいしてくれた。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
神と云ひ、仏と云ひ、根本意識と云ふ者皆之也。人は顔容に於て、思想に於て、性格に於て各々異なれども、一度其霊性の天地に入るや、俄然としてここに無我の境に達す。無我は畢竟ひつきやう超越也、解脱げだつ也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかしアナアキストの世界となつても、畢竟ひつきやう我々人間は我々人間であることにより、到底幸福に終始することは出来ない。
常におもへらく、人間はいかにいかなる高尚の度に達するとも、畢竟ひつきやうするに或種類の偶像に翫弄ぐわんろうせらるゝに過ぎず、悟るといふも、悟ること能はざるが故に悟るなり
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
(尤も向うから御免だと言はれれば、黙つて引き下る外はない。)ジヤアナリズムと云ふものは畢竟ひつきやう歴史に外ならない。