かく)” の例文
旅をして身心共に疲れ果てゝ猶ほ其身は車上に揺られ、縁もゆかりもない地方を行く時は往々にしてかくの如き心境に陥るものである。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
〔譯〕象山しようざんの、宇宙うちうないの事は皆おの分内ぶんないの事は、れ男子擔當たんたうの志かくの如きを謂ふなり。陳澔ちんかう此を引いて射義しやぎちゆうす、きはめてなり。
かくの如き疑問に対しては、実在は相互の関係において成立するもので、宇宙は唯一実在の唯一活動であることを述べて置こうと思う。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
かれ生活せいくわつかくごとくにしていた。あさは八き、ふく着換きかへてちやみ、れから書齋しよさいはひるか、あるひ病院びやうゐんくかである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
梧堂は恐くは蘭軒と同嗜の人であつただらう。わたくしは「箇裏何唯佳景富、茶香酒美貯書堆」と云ふよりかくの如く推するのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かくごとく新しき事態が間断なく継起し、新しき問題がそれと共に続出して来ると、はじめの志向や欲求はそれによって漸次変化を受け
歴史の矛盾性 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
吾人が悲哀戯曲に対するの意見かくの如し。若し世間に罪過は悲哀戯曲に不必要なりと言ふ者あらば、吾人は其暴論に驚かずんばあらず。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
かくの如き事は実際にあり得べしとも思はねど、燕の向ふ見ずに飛ぶ処より聯想し来りて也有はこの諧謔の句をものしたりとおぼし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ゴンクウルはかくの如き賛辞に附記して歌麿の女のたけ高きはこの画家が日本の女を事実よりも立派に美麗になさんと欲したるがためなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
よつかくの如き獅子身中の虫を退治せんが為めに本組合ただちに彼を除名することの決議をして貰ひたい——緊急動議の要旨はれである
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
眼前の不可思議かくの如し、疑はしくは其刀を棄て、悪心をひるがえして仏道に入り、念々に疑はず、刻々に迷はざる濶達かったつ自在の境界に入り給へ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
山へ遊行するにもかくの如き有様であるから、登山になれた我々の感情によつて、祖先達の山の感情を忖度することはできない。
日本の山と文学 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
の時にあたつて、天下岌岌、生民死を救うていとまあらず、士大夫乃ち流宕かくの如し。歎ずべけんや。或は無聊の故に出づるか。(渭南文集、巻三十)
しかしながらあわてた卯平うへいかくごと簡單かんたんかつ最良さいりやうである方法はうはふひまがなかつた。またいかつてかれほゝねぶかれいた。かれくらんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かくの如き旋渦せんくわを生ずる所以ゆゑんならず。稜立かどだちたる巌壁の間に押し込まれたる水は、潮の漲落に際して屈折せられ、瀑布の如き勢ひをなして急下す。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
かくの如く着用するのかおを自らは其全体を見る事能わざるも、傍人の有様を見て、其昔宇治橋上に立ちてたたかいたる一來法師いちらいほうしもかくあらんかと思われたり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
山陽しばしば画師竹洞ちくどうの大陽物をなぶる。竹洞大いに怒り、自ら陽物を書き、『山陽先生、余の陽物を以て大なりと為す。拙者の陰茎いんけい、僅にかくの如し』
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雲隠れにすがたも見えず鳴いてゆく鳥の如く、ただ独りで忍び泣きしてばかりいる、というので、長歌の終に、「かくに思ひわづらひ、のみし泣かゆ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
浪「左様家来の粗相は主人が届かんゆえで有りますから、手前成り代ってお詫を致します、どうか御勘弁を願います、かくの如く両手を突いてお詫を……」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(七五)巖穴がんけつ(七六)趨舍すうしや(七七)ときり、かくごときのたぐひ(七八)湮滅いんめつしてしようせられず、かなしいかな
かくの如く此イソップ翻案は歴史的興味を喚起するに足るものであるが、ただ此に聊か奇異の点というべきことは其が「天保十五年辰の新板」となって居ることである。
春水と三馬 (新字新仮名) / 桑木厳翼(著)
一、我等どもかくの如きの身上に罷り成り、右の通り申し遣し候事、相果て候を迷惑に存じ申入る様に思召され御心中御恥しく存じ候。ゆめ/\左様にては御座なく候。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
成はかくの如き人なり。旗を見るや、愴然そうぜんとして之をそうとし、涙下りて曰く、臣わかきより軍に従いて今老いたり、戦陣をたること多きも、いまかつかくの如きを見ざるなりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かくの如き事を考ふれば、私の如く信仰といふこともなく、安心立命とは行かぬ流義の人間にても、多少世間の事にくるしめらるることなくなり、自得じとくするやうなる処も有之やう存候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
父がかくの如き有様であるとすれば、その子の安否も甚だ心許ないものである。巡査は念の為に市郎の名を呼んだ。が、声は四方の岩に反響するばかりで、底には何の返答こたえもなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その英賢の為にあらはさるることかくの如く、元慶八年勅して元慶寺伝法阿闍梨と為す
昌黎しやうれいいろはげましてしかつていはく、かくごときは、そも/\如何いかなることぞと、うばつてこれれば、しな有平糖あるへいたうかけらごとくにして、あらず、うつくしきもゝ花片はなびらなり。たなそこおとせば、ハラハラとひざる。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私はただ現在のいわゆる郷土研究が、もしわが郷土を視て他を省みなかったならば、結果はおおむかくの如くなるであろうということを、例示するだけの小事業を以て、満足しようとしているのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かくごとき骨噐はエスキモーの現用漁業具中げんやうぎよげうぐちうに在り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
盛世にあつてはかくの如き衝に当るものは、容易に侯となり伯となる。当時と雖、芙蓉間詰五千石高の江戸城留守居は重職であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かくの如き模倣剽窃の時期は誰にも一度はある事なれど、幾年経てもこの泥棒的境涯を脱し得ざる人あり。気の毒の事なり。(三月十三日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
枕山は「アヽ上人ノ先考ニオケルヤ半面ノ識アルニ非ズ。シカモ高誼こうぎかくノ如シ。あに不肖余ノ故ヲ以テニアラズヤ感歎ニ堪ヘズ。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし更に深く進まんとする時、すでに得た所の者と衝突を起し、ここにまた意識的となる、意識はいつもかくの如き衝突より生ずるのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
記者は、白日青天の下にかくの如く無残にさらし出されている東京市政の破綻を見て、無限の感慨に打たれざるを得なかった。
武力なき平和時代の様相は概ねかくの如きものであり、強者、保護者としての男性の立場や作法まで女性の感覚や叡智によつて要求せられるに至る。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
かくごときは政治上の議論にも、社交上の談話にも常にあることなるが、宗教家といふものに至りては殊に甚だしとす。
仏教史家に一言す (新字旧仮名) / 津田左右吉小竹主(著)
劇烈欝勃うつぼつの行為を描き、其主人公はおほむね薄志弱行なりし故に、メルクは彼をいましめていはく、かくの如き精気なく誠心なき汚穢をわいなる愚物は将来決ツして写すなか
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
〔譯〕人心のれいは、しゆとす。氣はたいに之れつるものなり。凡そ事を爲すに、氣を以て先導せんだうと爲さば、則ち擧體きよたい失措しつそ無し。技能ぎのう工藝こうげいも、亦皆かくの如し。
又「別に締りはない、たゞ栓張棒しんばりぼうが有るばかりだが、泥坊の入る心配もない、かくの如き体裁ていさいだが、どうだ」
(四二)あるひいはく、(四三)天道てんだうしんく、つね善人ぜんにんくみすと。伯夷はくい叔齊しゆくせいごときは、善人ぜんにんものか。じんおこなひいさぎようし、かくごとくにして餓死がしせり。
兼吉が執つた婦人に対する最後の手段は、無論正道をばはづれてたでせう、が、生まれてかくの如き清浄な男児の心を得、又た其の高潔なる愛情の手に倒れたと云ふことは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かくの如く呉先生の著書の幾通が偶然か否か私の手に入ったためか、その頃まだ少年であった私が未見の呉先生に対する一種の敬慕の心は後年私が和歌を作るようになって
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
群集ぐんしふたゞ囂々がう/\として混亂こんらんしたひゞきなか騷擾さうぜうきはめた。ちからかくごとくにして周圍しうゐ村落そんらくをも一つに吸收きふしうした。しかしながら、群集ぐんしふ勘次かんじにはかへりみようとはしなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さあるからに親類以下散々に智慮外の体見及候得共みおよびそうらえども我一代は兎角の義に及ばず候とおもい、上下の分も無き程に候へ共覚悟前ならば苦しからず候、氏真までかくごとくにては無国主と可成なるべく
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かくの如くなる可からざる也、と云い、晦庵かいあんの言をなんしては、朱子の寱語げいご、と云い、ただ私意をたくましくして以て仏をそしる、と云い、朱子もまた怪なり、と云い、晦庵かくの如くに心を用いば
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近来に至り候とても様々の姦計を相巧み、時勢一新の妨げに相成候間、かくの如く誅戮ちゆうりくを加へ、死体引捨にいたし候、同人死後に至り、右金子借用の者は、決して返弁に及ばず候、且又、其後とても
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たとへば、溶解ようかいせるなまりくちるゝとも、すこしも不思議ふしぎにはおもはぬであらう。が、これところおいては如何どうであらうか、公衆こうしゆうと、新聞紙しんぶんしとはかならかくごと監獄バステリヤは、とうに寸斷すんだんにしてしまつたであらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かくの如くにして初めて吾人の目的にちかづくことをべきなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
これが満足でても既にかくの如き異体いていの怪物である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
予はこれを明言すると同時に、予があたかもこの時に逢うて、かくの如き人に交ることを得た幸福を喜ぶことを明言することを辞せない。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)