)” の例文
旧字:
それがひとうように規則的きそくてきあふれてようとは、しんじられもしなかった。ゆえもない不安ふあんはまだつづいていて、えず彼女かのじょおびやかした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あなたがたもいずれはこちらの世界せかい引移ひきうつってられるでしょうが、そのときになればわたくしどもの現在げんざい心持こころもちがだんだんおわかりになります。
「そしてはよう戻ってにゃあかんに。晩になるときっと冷えるで。味噌屋がすんだらもう他所よそへ寄らんでまっすぐ戻っておいでやな」
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
然し三千代と自分の関係を絶つ手段として、結婚を許諾して見様かといふ気は、ぐる/\回転してゐるうちに一度もなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そうだろう、そうなくちゃアお艶さんじゃアねえ。わしもそれで大きに安心をしました。だがヨ、見れば見るほどい女ッぷりだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よわい人生の六分ろくぶに達し、今にして過ぎかたかえりみれば、行いし事として罪悪ならぬはなく、謀慮おもんばかりし事として誤謬ごびゅうならぬはなきぞかし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そして御主人ごしゅじんからつよさむらいをさがしていというおおせをけて、こんなふうをして日本にほん国中くにじゅうをあちこちとあるきまわっているのでした。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「これだけいうても、まだ、意地を、張っとるんけえ? そこまで思い詰めとるもんなら、もうわしも隠しゃせん! 早う出てえ!」
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
和「お忙しいお勤めではなか/\寺詣りをなさるお暇はないて、暇のある人でも仏様からは催促がんによって無沙汰勝になるもので」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、貴方あなたはよい時代じだいようとすましてもいられるでしょうが、いや、わたくしうことはいやしいかもれません、笑止おかしければおわらください。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「あら、あたしも、帰って来るごと、一週間も前に、便りしたんじゃが。……でも、今に帰ってんけ、帰らんつもりでしょうよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
甲府を過ぎて、わがし方の東の空うすく禿げゆき、薄靄うすもや、紫に、くれないにただようかたえに、富士はおぐらく、柔かく浮いていた。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
葉末はずゑにおくつゆほどもらずわらふてらすはるもまだかぜさむき二月なかうめんと夕暮ゆふぐれ摩利支天まりしてん縁日ゑんにちつらぬるそであたゝかげに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
権七ごんしちや、ぬしづ、婆様ばあさまみせはしれ、旦那様だんなさま早速さつそくひとしますで、おあんじなさりませんやうに。ぬしはたらいてくれ、さあ、
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「考へてみさつしやれ、わしとお前があの世での、一緒になつてらうと、不信心者のクレメンス爺さんが天国へはのぼつてまいからの。」
(なあんだ。あと姥石まで煙草たばこ売るどこなぃも。ぼかげでいで。)おみちはいそいで草履ぞうりをつっかけて出たけれども間もなく戻って来た。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
というのは、ママがきょうせてやろうとおもったシャツは、みんなまだ洗濯屋せんたくやへ行っていて、夕方ゆうがたでなければ返ってなかったからである。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
足の運びのはかどらねば、クロステル街までしときは、半夜をや過ぎたりけん。ここまで来し道をばいかに歩みしか知らず。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「なに、向うの室へ、船長がこいというのか。なかなか無礼なことをいうね。用があれば、そっちがここへいといえ」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『ラランいふのはおまへか。ヱヴェレストはそんなからすようはないぞ。おまへなんぞにられるとやまけがれだ。かへれ、かへれ。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「それは違ふ、眼にも見えず、形にもあらはれぬごうといふ重荷を、われ/\はどれほど過ぎしかたに人にも自身にもになはせてゐるか知れぬ」
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
沈んではいるがしゃんと張切った心持ちになって、クララは部屋の隅の聖像の前にひざまずいて燭火あかりを捧げた。そして静かに身のかたを返り見た。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ない、にんじん? うちのおとっつぁんが川へ網をかけてるんだ。手伝いに行こう。そいで、僕たちは笊でオタマジャクシをしゃくおうよ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
なにいつくようなくろじゃなし、げてなんぞないでも、大丈夫だいじょうぶかね脇差わきざしだわな。——こっちへおいで。あたまけてあげようから。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「うむ。行ってよう。火種ひだねはあるか。この二、三日大分寒くなって来たな。」と男はまだたまま起きようともしない。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それだけ皆な残さずに使ってもえいぜ。また二月にでもなれゃ、なんとか金が這入はいんこともあるまい。」と云った。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
さと (腰かけながら、一寸、真壁の方を見た後)あぎやん人、んてちや、よかこてえ……(かう云つて、首をちぢめ、舌を出す真似をする)
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「玉だれの小簾をすすけきに入りかよひね」(巻十一・二三六四)、「清き月夜に見れど飽かぬかも」(巻二十・四四五三)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「これこれ。こちら様はの、大蔵殿のお店を尋ねて行かっしゃるという。あのお店構えは、ちょっと分らんによって、前まで、お連れ申してう」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ハイ。来るにア来ましたども、弟の方のな許りで、此児これ(と顎で指して、)のなは今年ア来ませんでなす。それでハア、持つてなごあんさす。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
大野おほぬらに小雨降りしくのもとに、時々よりが思ふ人。……どうした? どうかしたのか? おい! おい! 美緒! (声が次第に高くなる)
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
「屋敷の四方の門をとじろ! ……女子供は屋内へはいれ! 老人も負傷者も立ち上がり、敵寄せてば戦え戦え!」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
またんと思いて樹の皮を白くししおりとしたりしが、次の日人々とともに行きてこれを求めたれど、ついにその木のありかをも見出しえずしてやみたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なにしろ客が立て込んでいるので、女中が時どきにお待遠まちどおさまの挨拶をして行くだけで、注文の料理はなかなか運ばれてない。記者は酒を飲まない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いつか俺は、それからそれへと、おのがすぎし方を、ふり返って見る心持ちになっていた。思えば長いことよ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
まだこの道は壺坂寺から遠くもなんだ、それに壺坂寺の深い印象は私に、あのおさとというローマンチックな女は、こんなはたを織る女では無かったろうか
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
もううしこく、あんまりすえかたのことが思われて、七兵衛待遠しさに眠れないので、お松は、かねて朋輩衆から聞いた引帯ひきおび禁厭まじないのことを思い出した。
返書来たりてより一月あまりにして、一通の電報は佐世保の海軍病院より武男が負傷を報じしぬ。さすがに母が電報をとりし手はわなわなと打ち震いつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そのたびごとに根をはらすくふうをしなければ、とかく人生の半分もぬうちに花どころか葉も根もみな枯らしてしまう。すなわち種無しになってしまう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
このようなことを知っていれば、わざわざここまではまいものを、——それだけは口惜くちおしゅうございます。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いつか僕のいる方を向て、「ナニ、おくさまがナ、えらい遠方へ旅にいらしッて、いつまでも帰らっしゃらないんだから、あいいッてよびによこしなすったよ」
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
そのヤマトフにあって見たいと思うけれどもなか/\われない。到頭とうとう逗留中出てない。出て来ないがその接待中の模様にいたってはややもすると日本風の事がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
狂女は果してざりけり。よろこへるお峯も唯へる夫も、褒美もらひし婢も、十時近きころほひには皆寐鎮ねしづまりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さまさせまゐらせんといへるを、赤穴又かしらりてとどめつも、さらに物をもいはでぞある。左門云ふ。既に九〇夜をぎてし給ふに、心もみ足もつかれ給ふべし。
「これかね? おやおや、としもまめで豆撒き給えかし。ふうむ、今夜の句だ。源太郎、お前かい?」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ん年の夏の炎熱が、あの日本北アルプスのいましめの、白い鎖を寸断して、自由に解放するまで、この山も、石は転び次第、雲は飛び放題、風は吹きすさぶなりに任せて
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
し方を徒労にするかしないかは、今後の彼の生き方が決定するのだ、——そうだ、死んではならない、ここで死んでは今日までのおかやの辛労を無にしてしまう。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ほんでもな、天気がいいがら、少し稼いでんべで。——まだ、話は晩にでも出来んのだから……」
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
なるほどそれもよかろう。ではぐに広海さんへってよう、そういう事にかけては老功者の意見を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あきらにいさん、御飯ごはんでせう。御飯ごはんなら持つてよう。阿母さんが留守だから御菜おさいは何も無いことよ。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)