あけ)” の例文
表附きはあけっぴろげではなく、土蔵造りのところどころに間口があり、そのほかは上部だけ扉があがって、下部は土で塗ってあった。
あけしに驚きさす旅宿屋やどやの主人だけよひことわりもなき客のきふに出立せしはいかにも不審ふしんなりとて彼の座敷をあらためしにかはる事もなければとなり座敷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
〔或ひは後或ひは前〕宵の明星となりて現はるゝ時は日沒後なれば後といひ、あけの明星となりて現はるゝ時は日出前なれば前といへり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
金も少しは入るだろうがそれも私がどうなりとしてらちあけましょう、親類でも無い他人づらがらぬ差出さしでた才覚と思わるゝか知らぬが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もう十時頃で、田舎はのんきですから、しらしらあけもおんなじに、清々すがすがしく、朗かに雀たちが高囀たかさえずりで遊んでいます。蛙も鳴きます。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
転輪てんりん王此玉をこゝろみに高きはたかしら挙著あげおきけるに、人民等じんみんら玉の光りともしらず夜のあけたりとおもひ、おの/\家業かせぎをはじめけりとしるせり。
それがまた、この九年間、少しも時刻をたがえずに、くれ六ツにいてあけ六ツに消えるので、里人たちには時刻を知る便宜にもなっていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
榛軒は少年弟子のためにあけ卯の刻に書を講じた。冬に至ると、弟子中虚弱なるものは寒を怯れた。そしてこれを伊沢氏の寒稽古と謂つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一母五子、他人を交えず世間の附合つきあいは少く、あけても暮れてもただ母の話を聞くばかり、父は死んでも生きてるような者です。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あゝ浮世うきよはつらいものだね、何事なにごとあけすけにふて退けること出來できぬからとて、おくらはつく/″\まゝならぬをいたみぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
というので、是から衣類やくしこうがい貯えの金子までもト風呂敷として跡をくらまし、あけ近い頃に逐電して仕舞いました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あけの日二八八大倭やまとさとにいきて、翁が二八九めぐみかへし、かつ二九〇美濃絹みのぎぬ三疋みむら二九一筑紫綿つくしわた二屯ふたつみおくり来り、なほ此の妖災もののけ二九二身禊みそぎし給へとつつしみて願ふ。
オヤオヤと驚いていますと、塀を登って這入った男が内から門をギイッとあけますと、仲間の者は皆、長刀や太刀を抜き放して、ドヤドヤと門の中へ押し入りました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其角の「鶯の身をさかさまにはつねかな」にしろ、蕪村の「うぐひすの啼くやちひさき口あけて」にしろ、梅室の「尾をそらす鶯やがて鳴きにけり」にしろ、皆これを遠く見ず
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
それもあかつきの南京路の光景から、あけをうけた繁華はんかな時間の光景から、やがて陽は西にかたむき夜のとばりが降りて、いよいよ夜の全世界とした光景、さては夜もけて酔漢すいかん
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かくてその年もあけたが、彼の京都で長州兵が禁門に発砲したことがあったり、その前後も藩主や世子は京都江戸へ奔走されていたので、兵員も多人数を要することになり
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
千代子の様子はいつもの通りあけぱなしなものであった。彼女はどんな問題が出ても苦もなく口をいた。それは必竟ひっきょう腹の中に何も考えていない証拠しょうこだとしか取れなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
空のあけるに従っていよいよ細かに黒白分明し、その飛行はまた耀く風の幅となり、川となり、旗となり、帆となり、吹雪となり、波濤となり、無数に白く、また、黒く紫に
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
一〇二 正月十五日の晩を小正月こしょうがつという。よいのほどは子供ら福の神と称して四五人群を作り、袋を持ちて人の家に行き、あけの方から福の神が舞い込んだととなえて餅をもらう習慣あり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あけの月が忘れられたように山のにかかって、きょうもどうやら好晴らしい。うす紫の朝もやには、人家が近いとみえて鶏の声が流れ、杉木立ちの並ぶ遠野の果てに日の出の雲は赤い。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
席亭せきていの主人が便所へ出掛けて行く、中の役者が戸をあけて出る機会とたん、その女の顔を見るが否や、席亭せきていの主人は叫喚きゃっと云って後ろへ転倒ひっくらかえてめえまだ迷っているか堪忍してくれとおがみたおされ。
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
その入口板戸の横に切りあけられた小さな、横長い穴から、黒い制服制帽の、人相の悪い巨漢が、御覧の通り朝から晩まで、冷たい眼付で場内を覗いているところを御覧になりますると
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
窓をあけぱなして涼しい風をれながら、先生からいただいて来た漱石そうせき研究をひざの上にひろげて、読むでもなく読まぬでもない気持で、時々眼をあげると、瀬戸内海だったりしたこともあった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
さればこゝにも天安てんやすが、家台見世から仕上たる、二階造の大道具、其小道具の器物迄、そつくり跡を引受けて、彼十二時の趣向に基き、下料やすいを名代看板に、再び見世をあけ六ツから、廓帰の御入来あらば
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
行動するのは二十日の午前零時からあけまでの間。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
白梅しらうめあける夜ばかりとなりにけり
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
日と月をかゝげ目出度めでたあけの春
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
あけやすき土蔵どざうの白き壁
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あけりやおてらかねがなぁる。
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
松に涼しいあけの鐘。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
転輪てんりん王此玉をこゝろみに高きはたかしら挙著あげおきけるに、人民等じんみんら玉の光りともしらず夜のあけたりとおもひ、おの/\家業かせぎをはじめけりとしるせり。
あけて内より白木しらきはこ黒塗くろぬりの箱とを取出し伊賀亮がまへへ差出す時に伊賀亮は天一坊に默禮もくれいうや/\しくくだんはこひもとき中より御墨附おんすみつきと御短刀たんたうとを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
職人衆のうちのは景気よくあけっぱなしで、店さきへ並べて、奥の人たちも自慢そうにすだれのかげで団扇うちわづかいをしながら語りあっているのもあった。
まくりや、米の粉は心得たろうが、しらしらあけでも夜中でも酒精アルコオルで牛乳をあっためて、嬰児あかんぼの口へ護謨ゴムの管で含ませようという世の中じゃあなかった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ浮世はらいものだね、何事もあけすけに言ふてける事が出来ぬからとて、お倉はつくづくままならぬをいたみぬ。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
東町奉行所で小泉を殺し、瀬田を取り逃がした所へ、堀が部下の与力よりき同心どうしんを随へて来た。跡部あとべは堀と相談して、あけ六つどきにやう/\三箇条の手配てくばりをした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
〔朝の星〕あけの明星。明星が日光を受けて美しくなる如く、ベルナルドゥスは聖母の光を受けて美しくなれるなり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ちかちかあけからすの鳴くこえきけば、首尾えい首尾えいと島中に告げる。内のさまたち早や目をさます。にまにつきたる子供のはても、遊ぶひまなく大漁だいりょう繁昌で暮らす。ヤンレ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
今迄の事は私がびるから……冗談じゃアねえ……新吉、お送り申しな、オイ今あけるよ、裏口へ駕籠屋が来たから明けてりな、おい御苦労、さア師匠、広袖を羽織っていゝかえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかしそれはいつまで経ってもHさんの前で自分から打ちあけるべき性質のものでないと自分は考えていた。親しい三沢の知識ですら、そこになるとほとんど臆測おくそくに過ぎなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この六日の朝は、霧深くして、夜のあけも分らなかったので幸村の出陣が遅れたのである。し、そんな支障がなかったら、関東軍は、幸村等に、どれ程深く切り込まれていたか分らない。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あけてもくれてもひじさすきもを焦がし、うえては敵の肉にくらい、渇しては敵の血を飲まんとするまで修羅しゅらちまた阿修羅あしゅらとなって働けば、功名トつあらわれ二ツあらわれて総督の御覚おんおぼえめでたく追々おいおいの出世
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
遠くよりかこみて夜のあけるまで吠えてありきとぞ。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
くらがりに目あけてさびしなく水雞くいな 万乎
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
放擲ほうてきし去り放擲し去りあけの春
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
さてさらしやうはちゞみにもあれ糸にもあれ、一夜灰汁あくひたしおき、あけあした幾度いくたびも水にあらしぼりあげてまへのごとくさらす也。
立伊賀亮事にはか癪氣しやくき差起さしおこり明日の所全快ぜんくわい覺束おぼつかなく候間萬端ばんたん宜敷御頼み申也と云おく部屋へや引籠ひきこもり居たりけるさて其夜もあけたつ上刻じやうこくと成ば天一坊には八山を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
思ふ人を遠きあがたなどにやりて、あけくれ便りのまちわたらるゝ頃、これをききたらばいかなる思ひやすらんと哀れなり。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もすそ濡縁ぬれえんに、瑠璃るりそらか、二三輪にさんりん朝顏あさがほちひさあはく、いろしろひとわきあけのぞきて、おび新涼しんりやうあゐゑがく。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
瀬田済之助せたせいのすけが東町奉行所の危急をのがれて、大塩の屋敷へ駆け込んだのは、あけ六つを少し過ぎた時であつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)