かなし)” の例文
聞て狂氣きやうきの如くかなしみしかども又詮方せんかたも非ざれば無念ながらも甲斐かひなき日をぞ送りける其長庵は心の内の悦び大方ならずなほ種々さま/″\と辯舌を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それを聞いた哀れな街子は、人の影へかくれるようにしながら、うちの方へけ出しました。それが街子の最初のかなしみでありました。
最初の悲哀 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
網でったと、釣ったとでは、たいの味が違うと言わぬか。あれ等をくるしませてはならぬ、かなしませてはならぬ、海の水を酒にして泳がせろ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さしも遣る方無くかなしめりし貫一は、その悲をたちどころに抜くべきすべを今覚れり。看々みるみる涙のほほかわけるあたりに、あやしあがれる気有きありて青く耀かがやきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うめ手洗鉢ちょうずばちじゃあるまいし、乃公を叩いたって森川さんが帰って来るものか。けれども此は一のかなしき過失に外ならない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
取残されたる叔父のかなしみ、なかなかにいい尽すべくもあらず。小林蹴月こばやししゅうげつ君も訃音ふいんにおどろかされて駈け付け、左の短尺たんざくを霊前に供えられる。
そうしていて、なん容赦ようしゃもなく、このあわれな少女むすめを、砂漠さばく真中まんなかれてって、かなしみとなげきのそこしずめてしまいました。
長吉は自分とお糸の間にはいつのにかたがいに疎通しない感情の相違の生じている事をあきらかに知って、更に深いかなしみを感じた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
れぢや基督ハリストスでもれいきませう、基督ハリストスいたり、微笑びせうしたり、かなしんだり、おこつたり、うれひしづんだりして、現實げんじつたいして反應はんおうしてゐたのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その音の卑しく、其響の険なるは、幾多世上の趣味家を泣かすに足る者あるべし。紳士の風儀久しくおちて、之を救済するの道未だ開けず。かなしいかな。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
廉直れんちよくの・(五三)邪枉じやわうしんれられざるをかなしみ、(五四)往者得失わうしやとくしつへんる、ゆゑ(五五)孤憤こふん・五内外儲ないぐわいちよ説林せつりん説難ぜいなん、十餘萬言よまんげんつくる。
わたくしはこの年の地震の事を語るにさきだって、台所町の渋江の家に座敷牢ざしきろうがあったということに説き及ぼすのをかなしむ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼が教壇の上に立って、讃美歌を捧げる時のその声は、高い、太い声だけれど、またいたましい、かなしみをんだ何処どこやら人に涙を催させるような処があった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
せ寄って文治に抱き付き、胸に顔当てゝ、よゝとばかりに泣きかなしんで居りまする。文治もこぶしにて涙を払いながら、左手ゆんでしっかりとお町の首を抱えて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
親譲りの山も林もなくなりかゝってお吉心配に病死せしより、としわずかとおの冬、お辰浮世のかなしみを知りそめ叔父おじ帰宅かえらぬを困り途方とほうに暮れ居たるに、近所の人々
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
為めに頭をやさんとするもかなしいかな水なきを如何せん、鹽原君ぶる所の劔をきて其顔面にて、以て多少之をひやすをたり、朝にいたりてすこしく快方にむかひ来る。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
また「かかる者は死を望むなれどもきたらず」とあるは彼が自然死を求むれど得ざるをかなしみし語であって、自殺という観念が彼の心に全然なかったことを示すのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
パパもママも煙のように消えてしまったかなしみをも知らぬ顔の無邪気の後ろ姿が涙ぐましかった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
予は何となく故団蔵のおもかげおもひ出すのであつた。予はこの人が近く更に演じやうとするロスタンの「シラノ・ド・ベルジユラツク」を観ずして東に帰らねば成らないのをかなしむ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
すべてのうらみ、すべてのいきどおり、すべてのうれいかなしみとはこのえん、この憤、この憂と悲の極端より生ずる慰藉いしゃと共に九十一種の題辞となって今になおる者の心を寒からしめている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはそれは急にお顔色が変ったこと、ワットお泣なさったそのお声のかなしそうでしたこと。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
ちっとも勢が衰えず、ひっきりなしに揺れる地震の脅威に、かなしむ余裕さえないのであった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
なだめて家に入らしめんとすれどお登和嬢は心のかなしみに堪えずして思わずずるうらみの言葉
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十四日の午後、御船みふね附近の戦争で、父親は胸に弾丸たまを受けて、死屍しゝとなつて野によこたはつたのである。十四日はれ——と書いて、あとが何も書いてないといふことが少なからず人々をかなしませた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
二郎次は、知らぬに、盗坊の手下てしたになっていたことを心からかなしみました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
本当に愛したり欲したりかなしんだり憎んだり、自分自身の偽らぬ本心を見つめ、魂の慟哭どうこくによく耳を傾けることが必要なだけだ。自我の確立のないところに、真実の道義や義務や責任の自覚は生れない。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
このかなしむべき殺人事件の経過は、大体次の様なものであった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いくたびも、いく時も、我が夢をかなしみ痛みて
「愛」はかなしへ難く、いらつめたちの
泣けよ恋人 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
千々の かなしみ、身をば 乗せて。
黒き素船 (新字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
二 患難くわんなんむかふともかなしまず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
けがれず、病まず、かなしまず
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かなしびなそ、あま
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かなしいことです。
小酒井さんのことども (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あみつたと、つたとでは、たいの味が違ふと言はぬか。あれくるしませては成らぬ、かなしませては成らぬ、海の水を酒にして泳がせろ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
長吉ちやうきちは自分とおいとあひだにはいつのにかたがひ疎通そつうしない感情の相違の生じてる事をあきらかに知つて、さらに深いかなしみを感じた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この夜叉王は徹頭徹尾てっとうてつび芸術本位の人で、頼家が亡びても驚かず、娘が死んでもかなしまず、悠然として娘の断末魔だんまつまの顔を写生するというのが仕所しどこ
はなるゝはかなしけれど是も修行しゆぎやうなれば決して御案おあんじ下さるなとて空々敷そら/″\しく辭儀じぎをなし一先感應院へ歸り下男げなん善助に向ひ明朝あした早く出立すれば何卒握飯にぎりめし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それじゃ基督ハリストスでもれいきましょう、基督ハリストスいたり、微笑びしょうしたり、かなしんだり、おこったり、うれいしずんだりして、現実げんじつたいして反応はんのうしていたのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夫婦は心をあはせて貫一の災難をかなしみ、何程のつひえをもをしまず手宛てあての限を加へて、少小すこしきずをものこさざらんと祈るなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ところが街子にとって、容易ならぬかなしみが一つ出来たのであります。それは稲荷様の祭の日のことでありました。
最初の悲哀 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
と泣きい程かなしいのをこらえて砂利の処へぺたぺたと坐りました。明奉行めいぶぎょうだから早くもそれと見て取って
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
氷山の上でかなしみながらえているのを月がながめた時、この世の中の、沢山たくさんかなしみに慣れてしまって、さまで感じなかった月も、心からかわいそうだと思いました。
月と海豹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
燕王範を垂れて反をあえてし、身さいわいにして志を得たりと雖も、ついに域外の楡木川ゆぼくせんに死し、愛子高煦は焦熱地獄につ。如是果にょぜか如是報にょぜほうかなしいたむ可く、驚く可く嘆ずべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とかかる事を言われてはお登和嬢いよいよ悲しさに堪えず「運命の決したとおっしゃるのはいよいよお代さんと御婚礼なさるのですか」大原も今までこらえしかなしみを包み切れず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
時には死と死後の有様について高壇より公衆にむかって余の思想をべたり、人の死するを聞くや、或は聖経せいきょうの章句を引用し、或は英雄の死に際する時のさまかたって、死者をかなしむ者を慰めんとし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
おっとおんな杜松としょう根元ねもとめました。そしてそのときには、大変たいへんきましたが、ときつと、かなしみもだんだんうすくなりました。それからしばらくすると、おとこはすっかりあきらめて、くのをやめました。
良人おっとの後を恋慕こいしたい、石になったる松浦潟まつらがた領巾振山ひれふるやまかなしみも……」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こんなかなしい話を、夢の中で母から聞いた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二 患難くわんなんむかふともかなしまず
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)