はば)” の例文
しかし金以外の領分において彼らははばを利かし得る人間ではない、金以外の標準をもって社会上の地位を得る人の仲間入は出来ない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だんだん、下にさがるほど、鉄骨のはばが広くなって、展望台のすぐ上まできたとき、長島君は、思わず「あっ。」と、声をたてました。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると、ああ、ガンジス河、はばにも近い大きな水の流れは、みんなの目の前で、たちまちたけりくるってさかさまにながれました。
手紙 二 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やっぱり今まで歩いて来たそのはばの広いなだらかな方がまさしく本道、あと二里足らず行けば山になって、それからが峠になるはず。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここでニールスは、とびこせるぐらいのはばのせまいところを見つけるために、しばらくまわり道をしなければならなくなりました。
するとそのころ、臣下の中でおそろしくはばをきかせていた志毘臣しびのおみというものが、その大魚おうおの手を取りながら、袁祁王おけのみこにあてつけて
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
二の股川を合わせた吉野川が幾らかはばの広い渓流けいりゅうになった所にばしかかっていて、それを渡ると、すぐ橋の下の川原に湯が湧いていた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その翌二十八日大林入口のシムラという村を過ぎてはば四里の大林を一直線に横ぎってビチャゴリという山川の岸にある村にて宿りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
庶民に向ったら、どんなにこわい顔のはばを見せるだろうと思いやられる重秀であったが、多分にお道化どけもして見せられる半面の持ち主だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二丁櫓にちょうろのあとが、はばびろい櫓足ろあしをひいて、走るように対岸の町をさして遠ざかってゆくのだ。もうけんかどころでなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
いや頸がなくなって、肩とあまりちがわないはばをもっていたという方がいいかもしれない。頭部に全然毛はなく、丸いかぶとのような形をしていた。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここは、どこだかおれにもわからない。だが、このあるいているはばひろ一筋ひとすじみちは、おれたちの領分りょうぶんだということができる。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
神酒みきをあげ、「六根清浄ろっこんしょうじょう………………懺悔〻〻さんげさんげ」と叫んだあとで若い者がふんどし一つになって此二間はばの大川に飛び込み
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そういう一面から、また一方、極めて高くけがれないその理想主義に至るまでのはばの広さを考えると、子路はウーンと心の底からうならずにはいられない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これに対座している主人は痩形やせがた小づくりというほどでも無いが対手あいてが対手だけに、まだはばが足らぬように見える。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
花は花下かかに緑色の下位子房かいしぼうがあり、はば広いがく三片がれて、花を美しく派手はでやかに見せており、狭い花弁かべん三片が直立し、アヤメの花と同じ様子ようすをしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
出ないとはばかなくなったり憎まれたりするから、表通りの商人までがこの貧窮組へ飛び込んでお粥の施しを受け、いっぱしの貧窮人らしいかおをします。
その間を通っている一間はばの道を、武器を携えた甲冑武者と、縛られた無数の若者とが、物も云わずに歩いて行く光景さまは、一幅の地獄の絵巻物と云えよう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
坦々たんたんの如き何げんはばの大通路を行く時も二葉亭は木の根岩角いわかど凸凹でこぼこした羊腸折つづらおりや、やいばを仰向けたような山の背を縦走する危険を聯想せずにはいられなかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
月の無い夜、私は自転車に提灯ちょうちんをつけて、狐火を見に出かけた。はば一尺か、五寸くらいの心細い野道を、夏草の露を避けながら、ゆらゆら自転車に乗っていった。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
攫者キャッチャーの後方に張りて球を遮るべき網(高さ一間半、はば二、三間位)競技者十八人(九人ずつ敵味方に分るるもの)審判者アムパイア一人、幹事一人(勝負を記すもの)等なり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼女は振向ふりむいたが、立ち止りもしないで、まるい麦わら帽子ぼうしについているはばの広い水色のリボンを、片手ではらいのけると、ちらとわたしにをそそぎ、軽くほほえんだなり
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
またあるとき太子たいし天子てんしさまの御前ごぜんで、勝鬘経しょうまんきょうというおきょう講釈こうしゃくをおはじめになって、ちょうど三日みっかめにおきょうがすむと、そらの上から三じゃくはばのあるきれいな蓮花れんげって
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かたはらに直下数丈の瀑布ばくふありてはばすこぶひろし其地のいうにして其景のなる、真に好仙境こうせんきようと謂つべし、ちなみに云ふ此文珠岩はみな花崗岩みがけいわよりりて、雨水のくは水蝕すゐいつしたるなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
のちのちあの大きな二はば三幅の竪旗たてはたとなり、その布の上に天下太平てんかたいへいだの、国土安全こくどあんぜんだのの文字を書くことになってから、それがよく読めるように、片がわにをつけ綱をとおし
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日きょうはどんな御馳走ごちそう我々われわれわしてくれるか。』と、無暗むやみはばかせたがる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
からだのはばがひろくて、骨組ほねぐみが太い。肉という肉がはりきってる。頭が大きくてまるい。鼻は低くて上を向いてる。下のあごが上のあごよりつき出ていて、口がひらべったく大きい。
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
こしかけといってもそれはきわめてはばのせまい板をくいにうちつけたもので、どうかするとしりがはずれて地にすべりこみそうになる、それを支えているのはなかなか容易なことではない
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あなつくるに當つては、或は長さ幾歩いくほはば幾歩とあゆみ試み、或はなわ尋數ひろすうはかりて地上にめぐらし、堀る可き塲所ばしよの大さを定め、とがりたるぼうを以て地を穿うがち、かごむしろの類に土を受け
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
昔だって同じことで、なるほど、大迫玄蕃は万年平番士、いつまでっても秘書課のすみにくすぶっているほうで、役所では、あんまりはばく顔ではなかったが——刀である。剣腕けんわんである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お針仕事が、津々浦々の、女たちにもわかりよいやうに、反物のはばは、およそ男の人のゆきに一ぱいであることを目標めあてとし、その布を、袖に四ツに畳んで折り、身ごろを長く四ツに折ればとれる。
きもの (新字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
幕府に召し出されてはばをきかせている剣術師なぞは江戸で大変な人気だ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ていは、固定席フィックス滑席艇スライデングに移るまえにあった。ドギュウと日本では称しているような昔なつかしいもの。それにオォルのにぎりも太く、ブレエドのはばも広く、艇はおそいけれど、バランスがよく、舟足も軽い。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「あれが三はば前垂まえだれといって、昔からこの地方特有のものだそうです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
五色の練絹ねりぎぬを以て手足を床に縛らし、一度に躍りあがると、絹は皆切れる、もし、その絹を三はば合せて縛ると切れない、今、絹の中に麻を入れて縄にして縛ると、どんな事があっても切れる事がない
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其頃岡崎から程近ほどちか黒谷くろたに寺中ぢちう一室ひとまを借りて自炊じすゐし、此処こヽから六条の本山ほんざんかよつて役僧やくそう首席しゆせきを勤めて居たが、亡くなつた道珍和上とも知合しりあひであつたし、う云ふ碩学せきがく本山ほんざんでもはばいた和上わじやう
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
少年は今まで立っていた板張いたばりから出はずれると、ことさらに手で平均をとる様子もなく、両足をならべて立つはばもない鉄梁てつりょうつたって、ひょいとビルディングの一番外側になっている鉄桁てつげたに足をのせた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
それからわたくし神様かみさまみちびかれて、あちこちあるいてて、すっかり岩屋いわや内外ないがい模様もようることができました。岩屋いわやなりおおきなもので、たかさとはばさはおよそそ三四けん奥行おくゆきは十けんあまりもございましょうか。
月夜風しろうはばだつ墓地わきを影はずみ來る母と子らはも
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
こっち側の窓を見ますと汽車はほんとうに高い高いがけの上を走っていてその谷の底には川がやっぱりはばひろく明るく流れていたのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すると、ほどなく彼の前に、七、八だんはばのひろい石垣いしがきがあらわれて、巨人きょじんがふんばったあしのような大鳥居おおとりいもとがそこに見られたのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ニールスははばの広い石垣いしがきによじのぼりました。石垣は農場のうじょうをとりまいていて、その上にはイバラやイチゴのつるが、いちめんにからまっていました。
あの延髄えんずいを刺したはりだ。調べてみると指紋はあった。しかし細いはりの上にのったはばのない指紋なんて何になるのだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実際、其処にしゃがんだ、胸のはばただ、一尺ばかりのあいだを、わざとらしく泳ぎまわって、これ見よがしの、ぬっぺらぼう!
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出雲いずもの国へおまわりになって、そのあたりではばをきかせている、出雲建いずもたけるという悪者をお退治たいじになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
左右が高くって、中心がくぼんで、まるで一間はばを三角に穿って、その頂点が真中まんなかつらぬいていると評してもよい。路を行くと云わんより川底をわたると云う方が適当だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はばほどにそれをあけて下を見おろすと、植込の間から、かがやくばかりなる提灯燭台の広間と、うすぼんやりの燈籠の庭では前に記したような光景であります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこには、どんなはばとびの名人だって、とびこせそうもないような、大きい深い穴があいていて、そのまんなかに、じょうぶな厚い板が、橋のようにかけてあるのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
清水川という村よりまたまた野辺地のべちまで海岸なり、野辺地の本町ほんまちといえるは、御影石みかげいしにやあらんはば三尺ばかりなるを三四丁の間き連ねたるは、いかなる心か知らねど立派なり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かれのくちから、しぜんに、この言葉ことばが、ついてました。かれは、空想くうそうにふけりながらあちこちと、みちがってあるくうち、いつしか電車でんしゃとおる、はばひろみちたのでありました。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)