唐土もろこし)” の例文
百樹もゝき曰、唐土もろこしにも弘智こうちたる事あり。唐の世の僧義存ぎそんぼつしてのちしかばね函中はこのなかおき、毎月其でしこれをいだし爪髪つめかみのびたるを剪薙はさみきるをつねとす。
ここは唐土もろこしで、自分はしゅう武王ぶおうの軍師で太公望たいこうぼうという者であると彼は名乗った。そうして、更にこういうことを説明して聞かせた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
むかし唐土もろこし蔡嘉夫さいかふといふ人間ひと、水を避けて南壟なんろうに住す。或夜おおいなる鼠浮び来て、嘉夫がとこほとりに伏しけるを、あわれみて飯を与へしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
唐土もろこしから傳來の繪と違つて、元信の描いたのは紙本で、それにのりも新しいわけですから、水で剥がすのは一番良い要領です。平次は續けて
過日もさる物識りから承りましたが、唐土もろこしの何とやら申す侍は、炭を呑んでおしになってまでも、主人のあだをつけ狙ったそうでございますな。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むかし唐土もろこし長安ちやうあんのハイカラ、あたらしいかひたてのくつで、キユツ/\などとやり、うれしさうに、爪先つまさきて、ニヤ/\とまちとほる。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ゆめ五臟ござうのわづらひといひつたふれども正夢しやうむにして賢人けんじん聖人せいじん或は名僧めいそう知識ちしきの人をむは天竺てんぢく唐土もろこし我朝わがてうともにそのためすくなからずすで玄奘法師げんさうほふしは夢を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そもそもお客の始まりは、高麗こま唐土もろこしはぞんぜねど、今日本にかくれなき、紀伊国文左に止どめたり。さてその次の大尽は、奈良茂の君に止どめたり。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遣りましたら、まるで唐土もろこしにでも行ったように長いことかかって、ようやく御返事をいただいて参りました。しかしそれを
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ささなみの大津の宮に人となり、唐土もろこし学芸ざえいたり深く、からうたも、此国ではじめて作られたは、大友ノ皇子か、其とも此お方か、と申し伝えられる御方。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
月丹、照殿紅などは、唐土もろこしにての花大なるものの名なり。わびすけ、しら玉は我邦にての花白きものの名なり。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
一 婦人は夫の家を我家わがいえとする故に唐土もろこしにはよめいりを帰るといふなり。仮令夫の家貧賤成共なりとも夫を怨むべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わしは和子に此のからうたを教えて上げる。此れは唐土もろこし白楽天はくらくてんと云う人の作ったもので、子供にはむずかし過ぎて意味が分らないであろうが、そんなことはどうでもよい。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
下々の手前達がかくと御政事向の事を取沙汰とりざた致すわけでは御座いませんが、先生、昔から唐土もろこしの世には天下太平のしるしには綺麗きれい鳳凰ほうおうとかいう鳥がさがると申します。
三月三十日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これは吉野山よしのやまは、だんだんそれを分け入って行くと、唐土もろこしに通じているという話のあるところから思いついた句であろう。謡曲の『国栖くず』にも次ぎのような文句がある。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
唐土もろこしの山のかなたに立つけむりのごとく、ほとんどわれわれと没交渉のように心得、理想に憧憬あこがれているという青年男女などは、日々学課をそっち退けとし、月や星をなが
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
左伝さでんに平地尺にみつるを大雪とと見えたるはその国暖地なればなり。唐の韓愈かんゆが雪を豊年の嘉瑞かずいといひしも暖国の論なり。されど唐土もろこしにも寒国は八月雪ふる五雑俎ござっそに見えたり。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
下々の手前たちがとやかくと御政事むきの事を取沙汰とりざた致すわけでは御座いませんが、先生、昔から唐土もろこしの世には天下太平のしるしには綺麗きれい鳳凰ほうおうとかいう鳥が舞下まいさがると申します。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寅二郎が、日本字なりと答えると、ウィリアムスは笑って、それは唐土もろこしの字ではないかといった。ウィリアムスの明晰めいせきな日本語と日本についての知識とが、寅二郎たちをよろこばした。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
唐土もろこしから種々いろ/\薬種やくしゅが渡来いたしてるが、その薬種を医者が病気の模様にってあるいゆるめ、或は煮詰めて呑ませるというのも、畢竟ひっきょう多くの病人を助ける為で、結句けっく御国みくにの為じゃの
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仲麿は誰もが知つてゐる通り唐土もろこしの空でビスケツトのやうな乾いたお月様を見ながら
「半蔵さん、攘夷なんていうことは、君の話によく出る『からごころ』ですよ。外国を夷狄いてきの国と考えてむやみに排斥するのは、やっぱり唐土もろこしから教わったことじゃありませんか。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此の石榴市といふは、二一六泊瀬はつせの寺ちかき所なりき。二一七仏の御中には泊瀬なんあらたなる事を、唐土もろこしまでも聞えたるとて、都より辺鄙ゐなかよりまうづる人の、春はことに多かりけり。
それは五人ごにんとも別々べつ/\で、石造皇子いしつくりのみこには天竺てんじくにあるほとけ御石みいしはち車持皇子くらもちのみこには東海とうかい蓬莱山ほうらいさんにあるぎんきんくき白玉しらたまをもつたえだ一本いつぽん阿倍あべ右大臣うだいじんには唐土もろこしにある火鼠ひねずみ皮衣かはごろも
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
されば我邦のいにしえ猫を手飼の虎といえる事『古今六帖こきんろくじょう』の歌に「浅茅生あさぢふの小野の篠原いかなれば、手飼の虎の伏所ふしどころなる」、また『源氏物語』女三宮の条に見えたり、唐土もろこしの小説に虎を山猫という事
忠臣の亀鑑かがみとは唐土もろこし予譲よじょう
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
百樹もゝき曰、唐土もろこしにも弘智こうちたる事あり。唐の世の僧義存ぎそんぼつしてのちしかばね函中はこのなかおき、毎月其でしこれをいだし爪髪つめかみのびたるを剪薙はさみきるをつねとす。
かしい。唐土もろこしの繪には、仰向けに落ちる馬の繪もあるが、——水の上に落ちても立直らずに、四足を上に向けてバタ/\やつて居るといふのは變だな
恋とサアなさけのその二道は、やまと、唐土もろこしえびすの国の、おろしゃ、いぎりす、あめりか国も、どこのいずくも、かわりはしない。さても今度の心中話。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
震旦しんたんから渡って参りました、あの摩利まりの教と申すものだそうで、摩利信乃法師まりしのほうしと申します男も、この国の生れやら、乃至ないし唐土もろこしに人となったものやら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかもその魂は八万奈落の底に沈んで、ひそかに末法の代の来たるを待っているうちに、まず唐土もろこしの世が乱れた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
高麗こうらい唐土もろこし暹羅シャム国、カンボジャ、スマトラ、安南あんなん天竺てんじく、世界ははて無く広がって居りまする。ここの世界が癪に触るとて、癪に触らぬ世界もござろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何しろ、唐土もろこしでも、天竺てんじくから渡った物より手に入らぬ、という藕糸織はすいとおりを遊ばそう、と言うのじゃもののう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
立らるゝ事天晴あつぱれ器量きりやうといひ其上唐土もろこしにもしうの文王たみ百姓のつみあるものを金銀を出させて其罪そのつみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そが中に、威力いきおいありさとり深くて、人をなつけ、人の国を奪ひ取りて、又人に奪はるまじき事量ことはかりをよくして、しばし国をよく治めて、後ののりともなしたる人を唐土もろこしには聖人とぞ言ふなる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これに引当てゝ長二郎を無罪にいたす道理を見出されましたので、大學頭様はひそかに喜んで、長二郎の罪科御裁断の儀に付きとくと勘考いたせし処、唐土もろこしにおいても其の類例は見当り申さざるも
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
遠く四八唐土もろこしにわたり給ひ、あの国にて四九でさせ給ふ事おはして、此の五〇のとどまる所、我が道をぐる霊地れいちなりとて、杳冥そらにむかひてげさせ給ふが、五一はた此の山にとどまりぬる。
「のかぬとも我塗り替へん唐土もろこしの井守も守る限りこそあれ」中略
唐土もろこしには此火を火井くわせいとて、博物志はくぶつしあるひ瑯瑘代酔らうやたいすゐに見えたる雲台山うんたいさんの火井も此地獄谷の火のごとくなれども、事の洪大こうだいなるは此谷の火にまさらず。
親は子のために隠し、子は親のために隠す——といった唐土もろこしの聖人の言葉を、平次は小耳に挟んでいたのです。
つたく、唐土もろこし長安ちやうあんみやこに、蒋生しやうせいふは、土地官員とちくわんゐんところ何某なにがしだんで、ぐつと色身いろみすましたをとこ今時いまどき本朝ほんてうには斯樣こんなのもあるまいが、淺葱あさぎえり緋縮緬ひぢりめん
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これは都人みやこびとの顔の好みが、唐土もろこしになずんでいる証拠しょうこではないか? すると人皇にんおう何代かののちには、碧眼へきがん胡人えびすの女の顔にも、うつつをぬかす時がないとは云われぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何しろ、唐土もろこしでも、天竺から渡つた物より手に入らぬといふ藕絲織はすいとおりを遊ばさうと言ふのぢやものなう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
以て重過料おもくくわれう申付ると有て此事はまづ双方さうはう落着らくちやくに及びけるがまことに越前守殿ならずば斯手早く黒白も判るまじと人々申合りしとぞ昔時むかし唐土もろこしかんの代に是とよく似たることあり趙氏てうしつま若き時夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御腹おなかには大事の/\我子わがこではない顔見ぬ先からいとしゅうてならぬ方様かたさま紀念かたみ唐土もろこしには胎教という事さえありてゆるがせならぬ者と或夜あるよの物語りに聞しに此ありさまの口惜くちおしはらわたを断つ苦しさ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唐土もろこしには此火を火井くわせいとて、博物志はくぶつしあるひ瑯瑘代酔らうやたいすゐに見えたる雲台山うんたいさんの火井も此地獄谷の火のごとくなれども、事の洪大こうだいなるは此谷の火にまさらず。
「左樣日本の品ではない、——丁寧に扱つても、杉原紙すぎはらがみか奉書といふところだが、唐土もろこし渡來の唐紙を、くづでも何んでも惜し氣もなく使つてゐるのは不思議ぢや」
ただ今では筑紫つくしの果に流浪して御出でになるとやら、あるいはまた東海の波を踏んで唐土もろこしに御渡りになったとやら、皆目御行方かいもくおゆくえが知れないと申すことでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はこれを読んで、いきなり唐土もろこし豆腐屋とうふやだと早合点はやがてんをした。……ところうでない。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その木像まで刻むというは恋に親切で世間にうと唐土もろこしの天子様が反魂香はんごんこうたかれたよう白痴たわけと悪口をたたくはおまえの為を思うから、実はお辰めにわぬ昔とあきらめて奈良へ修業にいって、天晴あっぱれ名人となられ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)