人並ひとなみ)” の例文
旧字:人竝
學校がくかう中途ちゆうとめたなり、ほんほとんどまないのだから、學問がくもん人並ひとなみ出來できないが、役所やくしよでやる仕事しごと差支さしつかへるほど頭腦づなうではなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぼくはものを感じるのは、まあ人並ひとなみだろうと、思っていますが、おぼえるのは、面倒臭めんどうくさいと考えるゆえもあって、自信がありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
いつしかわたくしのことをにもたぐいなき烈婦れっぷ……気性きしょう武芸ぶげい人並ひとなみすぐれた女丈夫じょじょうぶででもあるようにはやてたらしいのでございます。
フェアファックス夫人は、思つてた通りの人で、相當な教育と人並ひとなみの聰明さを持つた、温和な、親切な氣質きだての婦人だつた。
日本に来て初めて人並ひとなみの身長者となり、人並以上の美人を妻としかつその妻に終世深く愛されたことは、いかにしても得がたき望外の幸福であったろう。
と、寸の短い小さな手の、それでも人並ひとなみつめに染めてある指で、ハンドバッグから名刺を出した。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これでも僕は人並ひとなみの顔をしているつもりである。それを女史はまちがえるにも事によりけりで、僕を火星人ではないだろうか、金星から来た人かと思っているのである。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人前にんまえ、一人分にんぶん、一ととおり、人並ひとなみ、十人並にんなみ、男一ぴきの任務などいう言葉はわれわれのつねに聞くところである。なかんずく一人前という言葉は種々の場合に応用されている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
又この人並ひとなみならぬ雲雀骨ひばりぼね粉微塵こなみじんに散つてせざりしこそ、まことに夢なりけれと、身柱ちりけひややかにひとみこらす彼のかたはらより、これこそ名にし負ふ天狗巌てんぐいわ、とたりがほにも車夫は案内あないす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
のこれるはじうへならず、勿躰もつたいなき覺悟かくごこゝろうち侘言わびごとして、どうでもなれぬ生中なまなかきてぎんとすれば、人並ひとなみのういことつらいこと、さりとは此身このみへがたし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うなるようにいって、背広の人に手をひかれながら、自動車からあらわれたのは、もん羽織はおりにセルのはかまといういでたちの、でっぷりふとった、背丈せたけ人並ひとなみ以上の老人だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたくし人並ひとなみ生活せいくわつこのみます、じつに、わたくし恁云かうい窘逐狂きんちくきやうかゝつてゐて、始終しゞゆうくるしい恐怖おそれおそはれてゐますが、或時あるとき生活せいくわつ渇望かつばうこゝろやされるです、非常ひじやう人並ひとなみ生活せいくわつのぞみます、非常ひじやう
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのくせ私は少年の時から饒舌しゃべり、人並ひとなみよりか口数くちかずの多い程に饒舌って、うして何でもることは甲斐々々かいがいしく遣て、決して人に負けないけれども、書生流儀の議論とうことをしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かくていんの願ひにはあらねど、さすが人並ひとなみかしこく悟りたるものを、さらでも尚とやせんかくやすらんのまどひ、はては神にすがらん力もなくて、人とも多くは言はじな、語らじなと思へば
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かわって、飯島平左衞門は凛々りゝしい智者ちえしゃにて諸芸に達し、とりわけ剣術は真影流の極意ごくいきわめました名人にて、おとし四十ぐらい、人並ひとなみすぐれたお方なれども、妾の國というが心得違いの奴にて
人並ひとなみの道はとおらぬ梅見かな」の句が其の中にあった。短冊たんざくには
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひんがしの国には住めど人並ひとなみに心の国を持たぬ寂しさ
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かたきどしなれば誓約かねごとをも人並ひとなみにはげがたく
加代 人並ひとなみのことはするわよ。
人並ひとなみさいに過ぎざる
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
置當おきあてしとて終に番頭となし見世の事は久兵衞一人にまかせしなり尤も五兵衞のせがれに五郎藏と云ふ者有けれ共是は人並ひとなみはづれし愚鈍おろかにして見世の事等一向にわからざれば此番頭久兵衞などには宜樣いゝやうに扱はれ主人か奉公人かの差別もなき位の事なりまた親父おやぢの五兵衞と云者は是迄商賣向には勿々なか/\如才じよさいなけれ共さけすき女も好にていゝ年を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ただ人並ひとなみみすぐれて情義深なさけふかいことは、お両方ふたかた共通きょうつう美点みてんで、矢張やは御姉妹ごきょうだい血筋ちすじあらそわれないように見受みうけられます……。
夫婦ふうふ和合わがふ同棲どうせいといふてんおいて、人並ひとなみ以上いじやう成功せいこうしたと同時どうじに、子供こどもにかけては、一般いつぱん隣人りんじんよりも不幸ふかうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うしたからとて人並ひとなみではいに相違さういなければ、人並ひとなみことかんがへて苦勞くろうするだけ間違まちがひであろ、あゝ陰氣いんきらしいなんだとて此樣こんところつてるのか、なにしに此樣こんところたのか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたくし人並ひとなみ生活せいかつこのみます、じつに、わたくしはこう窘逐狂きんちくきょうかかっていて、始終しじゅうくるしい恐怖おそれおそわれていますが、或時あるとき生活せいかつ渇望かつぼうこころやされるです、非常ひじょう人並ひとなみ生活せいかつのぞみます、非常ひじょう
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すると博士は、人並ひとなみはずれた大頭おおあたまを左右にふりながら
手足も顏もすつかり他の人並ひとなみだと思ふのですがね。
いつもひとつの修行しゅぎょうからぎの修行しゅぎょうへとてられてまいりましために、やっと人並ひとなみになれたのでございます。
胃が痛いので肉刀ナイフ肉匙フォーク人並ひとなみに動かしたようなものの、そのじつは肉も野菜も咽喉のどの奥へ詰め込んだ姿である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美尾みをぐるめわたしあづかり、おまへさんは獨身ひとりみりて、官員くわんゐんさまのみにはかぎらず、草鞋わらじいてなりとも一かどはたらきをして、人並ひとなみごされるやうこゝろかけたがからうではいか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仏蘭西フランスの老画家アルピニーはもう九十一二の高齢である。それでも人並ひとなみの気力はあると見えて、この間のスチュージオには目醒めざましい木炭画が十種ほど載っていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しぬけのおほせはませぬとてくを、恭助けうすけ振向ふりむいてんともせず、理由わけあればこそ、人並ひとなみならぬことともなせ、一々の罪状ざいじやういひたてんはかるべし、くるま用意よういもなしてあり、たゞのりうつるばかりとひて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もう「あの女」の事は聞くまいと決心した自分は、なるべく病院の名前を口へ出さずに、寝転ねころびながら彼と通り一遍の世間話を始めた。彼はその時人並ひとなみの受け答をした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「愚図だ」とあにが又云つた。「不断ふだん人並ひとなみ以上にらずぐちを敲く癖に、いざと云ふ場合には、丸で唖の様にだまつてゐる。さうして、かげで親の名誉にかゝはる様な悪戯いたづらをしてゐる。 ...
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけひとのするごとくにかねつた。しかもちながら、自分じぶん人並ひとなみこのかね撞木しゆもくたゝくべき權能けんのうがないのをつてゐた。それを人並ひとなみらしてさるごとおのれをふか嫌忌けんきした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三年間まあ人並ひとなみに勉強はしたが別段たちのいい方でもないから、席順はいつでも下から勘定かんじょうする方が便利であった。しかし不思議なもので、三年立ったらとうとう卒業してしまった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小さいけれども明確はっきりした輪廓りんかくを具えている鼻、人並ひとなみより大きい二重瞼ふたえまぶちの眼、それから御沢おさわという優しい名、——私はただこれらを綜合そうごうして、その場合における姉の姿を想像するだけである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)