黄金こがね)” の例文
ギヨオテの鬼才を以て、後人をして彼のかしら黄金こがね、彼の心は是れ鉛なりと言はしめしも、其恋愛に対する節操全からざりければなり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
真昼の太陽は赭々と照って、野生の羊や犂牛やくの角を黄金こがねのように輝かせ、隊商の率いる家畜の金具に虹のような光彩ひかりを纏わせている。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我は彼等のかうべなる黄金こがねの髮をみとめしかど、その顏にむかへば、あたかも度を超ゆるによりて能力ちから亂るゝごとくわが目くらみぬ —三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
広い縁の向うに泉水せんすいの見える部屋だ。庭いっぱい、黄金こがねいろの液体のような日光がおどって、霜枯しもがれの草の葉が蒼穹あおぞらの色を映している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その春挙氏は画家ゑかきである。画が頼みたい人にそつと内証ないしようでお知らせする。氏の潤筆料に黄金こがねなどは無用の沙汰で、兎角は石の事/\。
峠を越すと、広い平原になって、そこから城下の方まで、十里四方の水田がひろがって、田には黄金こがねの稲が一杯にみのっていました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
「ええい、智慧のねえ奴だ。せっかく黄金こがねつるをひいて来た福運を、初春はる早々、追い払う阿呆があるか。飛んでもねえ馬鹿者ぞろいだ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代表的なレコードは、今は市場にないが『ノルマ』の「山の彼方かなたは」(八一五八)、『ファウスト』の「黄金こがねこうし」などであったろう。
おうなは忽ち身を起し、すこやかなる歩みざまして我前に來て云ふやう。能くも歌ひて、身のしろをち得つるよ。のどの響はやがて黄金こがねの響ぞ。
保吉は悪魔の微笑の中にありありとファウストの二行にぎょうを感じた。——「一切の理論は灰色だが、緑なのは黄金こがねなす生活のだ!」
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今夜は、温かい、黄金こがねの雨が降るであろう——お悦の二重顎がぶるるとふるえたが、早苗は、それを聴くと陰気そうな顔で黙ってしまった。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは波間なみまに一台の黄金こがねづくりの車があって、その上に裸体らたいの美の女神ヴィーナスが髪をくしけずりながら艶然えんぜんと笑っているのであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黄金こがねの羽虫、どこから来たの。蜜飲みつのみの虫、あらあら、いけないわ。そんなに私の傍へ寄つてはいやよ、日向の雛鳥、あつちへお行きよ。」
駒鳥の胸 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
まるで、黄金こがねをつむいだようにきれいでした。魔法使まほうつかいの声をききますと、ラプンツェルはあんだ髪をほどいて、窓のかぎにまきつけます。
いいや、あの黄金こがねの原から飛び上がってくるのかと思った。次には落ちる雲雀と、あが雲雀ひばりが十文字にすれ違うのかと思った。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「嬉し悲しの色さへ見せぬなれが眼は、鉄と黄金こがね混合まじへたる冷き宝石の如し。」と云ひたるも、この種の女の眼にはあらざるか。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
女房 めした竜馬は風よりも早し、お道筋は黄金こがねの欄干、白銀の波のお廊下、ただ花の香りの中を、やがてお着きなさいます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きゝしばし思案して申ける樣和尚は何とおもはるゝや拙者せつしや大言たいげんはくに似たれども伊賀亮ほどの大才ある者久しく山中にかくれてある黄金こがね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
玉藻もきょうは晴れやかに扮装いでたっていた。彼女はうるしのような髪をうしろに長くたれて、日にかがやく黄金こがね釵子さいしを平びたいにかざしていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あらゆる暴虐ぼうぎゃくいた身を宮殿をしのぐような六波羅ろくはらの邸宅の黄金こがねの床に横たえて、美姫びきを集めて宴楽えんらくにふけっております。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そう思うんじゃごぜえません、——そうと知ってるんでがす。あの黄金虫に咬まれたんでなけりゃあ、どうしてあんなにしょっちゅう黄金こがねの夢を
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
で、セエラはアアミンガアドに、黄金こがねのお皿のこと、まる天井のこと、燃えさかる丸太のこと、きらめく蝋燭のことなどを話して聞かせました。
その二つの山並やまなみは、朝の光を受けて、まるで、黄金こがねのヴェールにつつまれているように、青くキラキラとかがやいていました。
アルレスのバジリカ式の寺院をかたどつた、聖トロフイヌスの納骨箱でさへ黄金こがねの響を、微かな哭声こくせいにして発したのである。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
くさおどろいて、その黄金こがねけてながれたような光線こうせんていますと、やがてそのひかりは、あか青木あおきえつきました。
小さな草と太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
黄金こがねを打ち延べたように作るのだということを芭蕉が教えたのは、やはり上記の方法をさして言ったものと思われる。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
肩の高さに伸ばした其手には、燦爛として輝くものが載つてゐた。よく見ると、それは私が贈つた黄金こがねの指環である。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
言寄いひよことばかこまれても、こひするまなこおそはれても、いっかなこゝろうごかさぬ、賢人けんじん墮落だらくさする黄金こがねにも前垂まへだれをばひろげぬ。
海には白帆が、その上には菫色すみれいろの雲が、じつと動かずにゐた。そこら一めんに陽炎かげろふがもえ、路のふちにはたんぽぽが、黄金こがねのおあしのやうに落ちてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そのとき、耕地のはずれの大木の下から人の呼び声がしたので、ジャンはふと顔をあげると、黄金こがね色の麦穂の上から、彼の女房の上体がちらと浮きあがった。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
地中海面より低きこと二百五十フイート、乾ける湖の如く、一面麦熟れて黄金こがねせんを敷く。パレスタインに来りて今日初めて平野を見、黒土の土らしき土を見る。
大抵たいてい五十年ごじふねんさだまつたいのち相場さうば黄金こがねもつくるはせるわけにはかず、花降はなふがくきこえて紫雲しうん來迎らいがうするあかつきには代人料だいにんれうにてこと調とゝのはずとはたれもかねてれたるはなし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、それを以て、もう黄金こがね浪打つ秋の実りにさえも思い取るのでした。「空」の世界は自由であります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
黄金に就いては「黄金こがね花咲くみちのくの……」というような歌もありますように、昔の人達は、東北地方をば自然金の産地のように思っていたようであります。
藤右衛門は不思議に思つて其処へ行つて見ると、黄金こがねの甕が今にも川へ落ちさうになつてあつたのぢや。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
黄金こがねの金具を打ったかごまち四辻よつつじを南の方へ曲って往った。轎の背後うしろにはおともの少女が歩いていた。それはうららかな春の夕方で、夕陽ゆうひの中に暖かな微風が吹いていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
吝嗇りんしょくな人間が生前に隠して置いた財物ざいもつの附近に、夜中徘徊するというのもやはりこのわけです。この人たちは自分の黄金こがねに対して厳重な見張りをしているのです。
青、赤、紫、緑、黄色、銀色、銅色、黄金こがね色と、とりどり様々の色をした魚が、同じ色同志に行列を作って、縞のようになったり、渦のようになったりしました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
月のいいなつばんでした。牛若うしわか腹巻はらまきをして、その上にしろ直垂ひたたれました。そして黄金こがねづくりのかたなをはいて、ふえきながら、五条ごじょうはしほうあるいて行きました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、モルガンはいっているが、黄金こがね色の花が、みんな金貨のような錯覚をお雪に与えた。ダイヤモンドばかりでなく、自分の身からも光りが発しるような気がした。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ある気狂い女が夢中になって自分の子の生血を取てお金にし、それから鬼に誘惑だまされて自分の心を黄金こがねに売払ったという、恐ろしいお話しを聞いて、僕はおっかなくなり
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
彼女は、彼をその災難の彼方かなたの過去と、その災難の此方こなたの現在とに結びつける黄金こがねの糸であった。
黄金こがね色に輝く稲田いなだを渡る風に吹かれながら、少し熱いとは感じつつもさわやかな気分で歩き出した。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
けれどもつぎあいちやんはまへのつかなかつた窓帷カーテンところました、其背後そのうしろにはほとんど五しやくぐらゐたかさのちひさながありました、あいちやんはそのちひさな黄金こがねかぎ其錠そのぢやうこゝろ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ドル臭しとは黄金こがねの力何事をもなし得るものぞと堅く信じ、みやびたる心は少しもなくて、学者、宗教家、文学者、政治家のたぐいを一笑し倒さんと意気込む人の息気いきをいう
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今かの森の中にて、黄金こがね……黄金色なる鳥を見しかば。一矢に射止めんとしたりしに、あに計らんやかれおおいなるわしにて、われを見るより一攫ひとつかみに、攫みかからんと走り来ぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
右手に見える谷間は、牧場と穀物畑と森とで埋められ、黄金こがねかす一筋の川は大小の緑の蔭、豐熟した穀物やくすんだ森、鮮やかな光の草地の間をうね/\と流れて行く。
黄金こがね作りの武田びし前立まえだて打ったる兜をいただき、黒糸に緋を打ちまぜておどした鎧を着、紺地の母衣ほろに金にて経文を書いたのを負い、鹿毛かげの馬にまたがり采配を振って激励したが
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
黄金こがね穹窿まるてんじょうおほひたる、『キオスク』(四阿屋あずまや)の戸口に立寄れば、周囲に茂れる椶櫚しゅろの葉に、瓦斯燈ガスとうの光支へられたるが、濃き五色にて画きし、窓硝子をりてさしこみ
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ルパンがふと気が付いてみると、卓子の一端に水入があって、その硝子がらす栓には頭の方に黄金こがねの飾りが付いている。やがて手は水入に届いた。さぐる様にしてそっと栓を抜いた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)