えり)” の例文
とがった銀杏返いちょうがえしを、そそげさして、肩掛もなしに、冷いえりをうつむけて、雨上りの夜道を——凍るか……かたかたかたかたと帰って行く。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから、ヒョロヒョロした歩き方で、一匹の犬のそばへ行ったが、やにわにえりがみを掴まえると、荒筵の方へ引きずって行った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
上布には、くつきりしたえりあし、むつちりした乳房のあたりの豐けさをおもはされる。落附いた御内室ごないぎさんである。
夏の女 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
お庄は手鈍てのろい母親に、二時間もかかって、顔やえりを洗ってもらったり、髪を結ってもらったりして、もうねこになったような白粉おしろいまでつけて出て行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
宗仁の書面は彼の指にほぐれた。極めて短文であり、また非常な走り書である。——が、一読卒然そつぜんとして、秀吉のえりもとの毛は、燈火にそそけ立っていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくまで白いえりもとの、これにも霜の置くかと見えて、ぞつとするほど美麗しきを、後れ毛に撫でさせて
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
彼女は衣服きものも満足なのは持っていなかった。その他宝石えり飾りの類、およそ彼女がこの世の中に欲しいと思うような身の周囲まわりの化装品は一つとして彼女のままにはならなかった。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
その雪のような白いえり、その艶々つやつやとした緑の黒髪、その細い、愛らしい、奇麗な指、その美しい花のような姿に見とれて、その袖のうつり香にたれて、何もかも忘れてしまい
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
御存生ごぞんじやうなら川田かはだらうくんだね、はらふくれてゐるところから体格かつぷくと云ひ、ニコヤカなお容貌かほつきと云ひ、えり二重ふタヘつてゐる様子やうすはそつくりだね、なにしろもうかみになつちまつてやうがない
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒縮緬くろちりめんの羽織に夢想裏むそううら光琳風こうりんふうの春の野を色入いろいりに染めて、納戸縞なんどじまの御召の下に濃小豆こいあづき更紗縮緬さらさちりめん紫根七糸しこんしちん楽器尽がつきつくしの昼夜帯して、半襟はんえりは色糸のぬひある肉色なるが、えりの白きをにほはすやうにて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
シモオヌよ、雪はそなたのえりのやうに白い
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
渠がこの家にきたりし以来、吉造あか附きたるふどしめず、三太夫どのもむさくるしきひげはやさず、綾子のえりずるようにりて参らせ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヂヂッ毛とおやっこさんをつけていた(ヂヂッ毛はえりのボンノクボに少々ばかりそり残してある愛敬毛あいきょうけ、おやっこさんは耳の前のところに剃り残したこれも愛敬毛)
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
えりを抜けるほど衣紋えもんから抜いて薄白く月光に浮き出させて、前こごみに体を傾けて、足のもどかしさに焦心あせりながらも、しかし武術のたしなみはある、決して口で呼吸をしないで
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女はよく庸三の家の日当りのいい端の四畳半へ入って、すっかり彼女になついてしまった末の娘と遊んだものだが、一緒に風呂ふろへも入って、えりってやったり、つめを切ったりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
木鹿大王は白象にってきた。象のえりには金鈴をかけ七宝しっぽうの鞍をすえている。また身には銀襴ぎんらん戦袈裟いくさげさをかけ、金珠の首環くびわ、黄金の足環あしわ、腰には瓔珞ようらくを垂れて、大剣二振ふたふりをいていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おのづかうれはし底寂そこさびしきと、えりの細きが折れやしぬべく可傷いたはしきとなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ぽう、ぽっぽ——あれ、ね、娘は髪のもつれをなでつけております、えりの白うございますこと。次のの姿見へ、年増が代って坐りました。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの禿はげあがったような貧相らしいえりから、いつも耳までかかっている尨犬むくいぬのような髪毛かみのけや赤い目、のろくさい口の利方ききかたや、卑しげな奴隷根性などが、一緒に育って来た男であるだけに
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と訊ね、河原のむしろに直ると、をあわせて、えりやいばを受けたという。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
職人はたぶん女中のえりをおまけに剃ってやっていたのであろうが、あたしがあんまりはねるので、女中にもなんしょで、ひょいと、あたしのおやっこを片っぽとってしまった。あたしはなおさらよろこんだ。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
えりと言わず、肩と言わず、降りかかって来ましたが、手を当てる、とべとりとして粘る。いでみると、いや、貴僧あなた、悪甘い匂と言ったら。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……お通りすがりが、何とも申されぬいい匂で、その香をたよりに、いきなり、横合の暗がりから、お白いえりかじりついたものがござります。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二の腕から、えりは勿論、胸の下までべた塗の白粉おしろいで、大切な女のはだえを、厚化粧で見せてくれる。……それだけでも感謝しなければなりません。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くたびにだんだんお顔がねえ、小さくなって、えりン処が細くなってしまうんですもの、ひどいねえ、私ゃお医者様が、口惜くやしくッてなりません。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなにも、清らかなものかと思う、お米のえり差覗さしのぞくようにしながら、盆に渋茶は出したが、火を置かぬ火鉢越しにかの机の上の提灯をた。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「でも、小父さんは気が弱いんですね、——あの、お久さんのえりの下が三寸ばかり、きれいで……似ているって、」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えりから寒くなって起きて出た。が、寝ぬくもりの冷めないうち、早くかわやへと思う急心せきごころに、向う見ずにドアを押した。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水打った格子さきへ、あの紫がすそをぼかして、すり硝子がらすあかりに、えりあしをくっきりと浮かして、ごらんなさい、それだけで、私のうちの估券こけんがグッと上りまさね。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔色青き白雲天窓しらくもあたま膨脹ふくだみて、えりは肩に滅入込めいりこみ、手足は芋殻いもがらのごとき七八歳ななつやつの餓鬼を連れたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見れば島田まげの娘の、紫地の雨合羽あまがっぱに、黒天鵝絨びろうどの襟を深く、拝んで俯向うつむいたえりしろさ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首を伸ばした白尾に釣られて、ひとしく伸ばしたえりを、思わず引込めて真三は縮まった。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ともはやえりのあたりがむずむずして来た、平手ひらてこいて見ると横撫よこなでに蛭のせなをぬるぬるとすべるという、やあ、乳の下へひそんで帯の間にも一ぴきあおくなってそッと見ると肩の上にも一筋。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒髪は乱れてえりもつれ頬にかかり、ふッくりした頬もしし落ちて、すそたもともところどころ破れ裂けて、岩にすがり草をみ、荊棘いばらの中をくぐり潜った様子であるが、手を負うた少年のかいなすがって
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅葱あさぎひもは白いえりから、ふさふさとある髪をくぐって、つとは両手に外された。既にその白魚しらおの指のかかった時、雪なすきぬの胸を通して、曇りなき娘ののあたりに、早や描かれて見えるよう。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さし俯向うつむいたえりのほんのり白い後姿で、さばつまゆらぐと見えない、もの静かな品のさで、夜はただ黒し、花明り、土のいかだに流るるように、満開の桜の咲蔽さきおおうその長坂を下りる姿が目に映った。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっ睫毛まつげを濃く俯目ふしめになって、えりのおくれ毛を肱白く掻上げた。——漆にちらめく雪の蒔絵まきえの指さきの沈むまで、黒くふっさりした髪を、耳許みみもと清く引詰ひッつめて櫛巻くしまきに結っていた。年紀としは二十五六である。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落葉、朽葉くちばうずたかく水くさき土のにほひしたるのみ、人の気勢けはいもせで、えりもとのひややかなるに、と胸をつきて見返りたる、またたくまと思ふひとはハヤ見えざりき。何方いずかたにか去りけむ、暗くなりたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
樹立こだちともなく、むぐらくぐりに、晴れても傘は欲しかろう、草の葉のしずくにもしょんぼり濡々とした、せぎすな女が、櫛巻くしまきえり細く、うつむいたなりで、つまを端折りに青い蹴出けだしが、揺れる、と消えそうに
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怨めしそうに六蔵のおもてを視て、さしうつむいて、えり白く、羅の両袖を胸にひし掻合かきあわす、と見ると浪が打ち、打ち重って、裳を包み、帯を消し、胸をかくし、島田髷の浮んだ上に、白い潮がさらり
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうやっていつの間にやらうつつとも無しに、こう、その不思議な、結構な薫のするあったかい花の中へ柔かに包まれて、足、腰、手、肩、えりから次第しだい天窓あたままで一面にかぶったから吃驚びっくり、石に尻餅しりもちいて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでいて、腰の矢立はここのも同じだが、紺の鯉口こいぐちに、仲仕とかのするような広い前掛をいて、お花見手拭てぬぐいのように新しいのをえりに掛けた処なぞは、お国がら、まことに大どかなものだったよ。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襦袢じゅばんも、素足も、櫛巻も、紋着も、何となくちぐはぐな処へ、色白そうなのが濃い化粧、口の大きく見えるまで濡々ぬれぬれべにをさして、細いえりの、真白な咽喉のどを長く、明神の森の遠見に、伸上るような
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落葉、朽葉うずたかく水くさき土のにおいしたるのみ、人の気勢けはいもせで、えりもとのひややかなるに、と胸をつきて見返りたる、またたくまと思うかのひとはハヤ見えざりき。いずかたにか去りけむ、暗くなりたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うやつて何時いつにやらうつゝともしに、う、不思議ふしぎな、結構けつこうかほりのするあツたかはななかへ、やはらかにつゝまれて、あしこしかたえりから次第しだいに、天窓あたままで一めんかぶつたから吃驚びツくりいし尻持しりもちいて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と乗上って火鉢越に、またそのえりのあたりを強くったのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、かたえぎきして、つれらしいのに、そう云ったえりの白い女がある。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えりの白さを、なめらかに、長く、傾いてちょっと嬌態しなる。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、手よりも濡れた瞳を閉じて、えり白く、御堂みどうをば伏拝み
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青く澄んだ空と一所に、お洲美さんのえりに映った。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)