あま)” の例文
あまあがりの晩に車に乗つて、京都の町を通つたら、しばらくして車夫しやふが、どこへつけますとか、どこへつけやはりますとか、何とか云つた。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見るとそれは秘命をおびて、伊那丸いなまるの本陣あまたけをでた奔馬ほんば項羽こうう」。——上なる人はいうまでもなく、白衣びゃくえ木隠龍太郎こがくれりゅうたろうだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほんとうに、そうだ。あまごいをしなければなるまい。」と、ほかの百しょうは、そらあおぎながら、心配しんぱいそうなかおつきをしていうのでありました。
娘と大きな鐘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いずれも力のはいる見物みもので、三十余組の勝負に時はようやく移って正午に一息つき、日のようやく傾く頃、武州高槻たかつき柳剛流りゅうごうりゅう師範あま某と
あまあしがたち消えながらも何處どこからとなく私のはだを冷してゐる時、ふとあかい珊瑚の人魚が眞蒼まつさをな腹を水に潜らせる
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
怠惰たいだの一団が勉強家を脅迫きょうはくして答案の回送を負担せしめる。もし応じなければ鉄拳てっけんが頭にあまくだりする。大抵たいてい学課に勉強な者は腕力が弱くなまけ者は強い。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あまあがりの桟道そばみちにかけてある橋の板を踏すべらして、がけころがちて怪我けがをしてから、病院へかつぎこまれて、間もなく死んでしまったと云うのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
または寺の多い裏町の角なぞに立っている小さなほこらやまたあまざらしのままなる石地蔵いしじぞうには今もって必ず願掛がんがけ絵馬えまや奉納の手拭てぬぐい、或時は線香なぞが上げてある。
しかし天皇はそれでも寸分すんぶんもおいといにならないで、雨がひどく降るたんびには、おへやの中へおけをひき入れて、ざあざあとり入るあまもれをお受けになり
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
なんともいえず可憐かれんな澄んだ音を立てて水たまりに落ちるあまだれの音はなお絶え間なく聞こえ続けていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただぽかんと海面うみづらを見ていると、もう海の小波さざなみのちらつきも段〻と見えなくなって、あまずった空がはじめは少し赤味があったが、ぼうっと薄墨うすずみになってまいりました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
およそ人の大きさにて、以前は堂の中にありしが、今はあまざらしなり。これをカクラサマという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二階にかいが、また二階にかいえる。くろはしらに、すゝ行燈あんどん木賃きちん御泊宿おとまりやど——内湯うちゆあり——と、あまざらしにつたのを、う……ると、いまめかしきことながら、芭蕉ばせをおく細道ほそみちに……
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あのむかいあわせの屋根うらべやの窓も、また、あけひろげられて、カイとゲルダとは、アパートのてっぺんの屋根上のあまどいの、ちいさな花ぞので、ことしもあそびました。
はツかけの、やなやつめ、這入はいつてたら散々さん/″\いぢめてやるものを、かへつたはしいことをした、どれ下駄げたをおし、一寸ちよつとてやる、とて正太しようたかわつてかほせばのきあまだれ前髮まへがみちて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あまづつみにほへる見れば紫雲英田げんげだや春の日永はよくふりにけり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
中窓ちうまど欄干てすりにもたれてあまだれをみてゐるムスメがあつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
か、あまじめるにくゆるもののかをりに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
悲みのあまそそぎ洗ひさらして
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あまあがりだし弾力もある
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しばしば深いもやが下りる、十二月の初旬近くで、並木の柳や鈴懸すずかけなどが、とうに黄いろい葉をふるっていた、あるあまあがりの夜の事である。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蛾次郎が、くるくるいをして逃げだしたのも道理、それは、あまたけからおりてきたとうの卜斎、すなわち上部八風斎かんべはっぷうさいであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまごいをするのには、むらひとたちは、おとことなく、おんなとなく、おてらあつまって、供養くようをしなければなりません。
娘と大きな鐘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ト見ると襖から承塵なげしへかけた、あまじみの魍魎もうりょうと、肩を並べて、そのかしら鴨居かもいを越した偉大の人物。眉太く、眼円まなこつぶらに、鼻隆うして口のけたなるが、頬肉ほおじしゆたかに、あっぱれの人品なり。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまづつみにほへる見れば紫雲英田げんげだや春の日永はよくふりにけり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夕河岸ゆふがしあぢ売る声やあまあがり
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みじかしとくらこゝろ如何いかばかり長閑のどけかるらんころ落花らくくわの三ぐわつじんちればぞさそあさあらしにには吹雪ふゞきのしろたへ流石さすがそでさむからでてふうらの麗朗うら/\とせしあまあがり露椽先ぬれゑんさき飼猫かひねこのたまかるきて首玉くびたましぼばなゆるものは侍女こしもとのお八重やへとてとし優子ゆうこに一おとれどおとらずけぬ愛敬あいけう片靨かたゑくぼれゆゑする目元めもとのしほの莞爾につこりとして
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれは、よもやあまたけにのこした伊那丸の身や、同志の人々を忘れはてるようなものではけっしてあるまい。いや、断じてないはずの人間だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あのてらかねをつこうじゃないか。」と、こういうのです。あまごいのは、むらじゅうのおとこも、おんなも、仕事しごとやすんでおてらへおまいりをして、さかんな供養くようをしました。
娘と大きな鐘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこへちょうど店の神山かみやまが、汗ばんだひたいを光らせながら、足音をぬすむようにはいって来た。なるほどどこかへ行った事は、そであまじみの残っている縞絽しまろの羽織にも明らかだった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかるべき門は見えるが、それも場末で、古土塀ふるどべい、やぶれがきの、入曲いりまがつて長く続く屋敷町やしきまちを、あまもよひの陰気な暮方くれがた、その県のれいつかふる相応そうおう支那しなの官人が一人、従者をしたがへて通りかかつた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あまづつみ薄き田の面の上清うはずみにおたまじやくしはよく泳ぐなり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
源吉げんきちは、じっとしていられなくなって、小降こぶりになるのをち、あまマントをかぶってそとました。
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
男のが先へ立って駈出して来る事だろう、と思いながら、主税がぼうしを脱いで、あまあがりの松のわきを、緑の露に袖擦りながら、格子をくぐって、土間へ入ると、天井には駕籠かごでも釣ってありそうな
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある蒸し暑いあまもよいの、舞台監督のT君は、帝劇ていげき露台バルコニーたたずみながら、炭酸水たんさんすいのコップを片手に詩人のダンチェンコと話していた。あの亜麻色あまいろの髪の毛をした盲目もうもく詩人のダンチェンコとである。
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あまづつみ薄き田の面の上清うはずみにおたまじやくしはよく泳ぐなり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今日きょうは、りそうだからあまマントをっておいで。」と、注意ちゅういなさいました。
おきくと弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あまがへる日中ひなか啼きぎ声はや矢筈檀やはずまゆみの根にひびかひぬ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「おとなしく、あまマントをっていってくれればいいものを……。」
おきくと弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みるまに、むらも まちも あまぐもに つつまれて しまいました。
うみぼうずと おひめさま (新字新仮名) / 小川未明(著)