とう)” の例文
「いえ/\、あんたの知つとられるお稚子はんが住職なつてとうに死なれて、今のはそのお稚子はんの、又そのお稚子はんですぢや。」
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
おそかなおのれより三歳みつわか山田やまだすで竪琴草子たてごとざうしなる一篇いつぺんつゞつて、とうからあたへつ者であつたのは奈何どうです、さうふ物を書いたから
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さういふことはグリゴーリイ・グリゴーリエヸッチに委せきりでございまして、もう妾はとうからその方のことには手出しをいたしません。
とうからあなたに打ち明けて謝罪あやまろう謝罪まろうと思っていたんですが、つい言いにくかったもんだから、それなりにしておいたのです」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とうの昔から敗者の運命に超越してしまつたのであらう。自分も同行Sも結局矢張りバスのもつ近代味の誘惑に牽き付けられてバスを選んだ。
伊香保 (旧字旧仮名) / 寺田寅彦(著)
それからも一つひがまうとするかれこゝろさわやかにするのは與吉よきちであつた。とうからあまつて與吉よきち卯平うへい戸口とぐちふさがつてはぜにうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そりゃおまいとうに済んだよ。」と此方こなたも案外な風情、あまり取込とりこみにもの忘れした、旅籠屋はたごやの混雑が、おかしそうに、莞爾にっこりする。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おひひひひひ」おわきは嬌羞きょうしゅうの笑いと共に父の言葉を確証した、「恥ずかしながらとうより、わらわはお手付の身にござりましょうわいなあ」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
森彦の養家は小泉兄弟の母親の里で、姓は同じ小泉であった。養父はとうに亡くなっていた。留守居する養母、妻、子供は、三吉の周囲まわりに集った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
公爵夫人が弱く叫び声をたてたのもとうくの昔に消え去っていた。次に発せられた声は全く想いもよらぬ声だった。
「そうだなあ、あの女が来たのは、午であったから、もうとうに着かなくちゃならないが、どうしたのだろう」
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御参ござんなれやと大吉が例の額ににらんでとうから吹っ込ませたる浅草市羽子板ねだらせたを胸三寸の道具に数え
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
私はとうから出そうな莞爾にっこりを顔の何処へか押込めて、強いて真面目を作っているのだから、雪江さんの笑顔に誘われると、こらえ切れなくなって不覚つい矢張やっぱり莞爾にっこりする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
村の百姓を頼んで手分てわけをして、どろ/\押して参りましたが、もう間に合いは致しません、斬った奴はとううちへ帰って寝ている時分、百姓しゅが大勢行って見ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「えゝ/\もうとうつからでございますよ。」と、もう一人の女中さんは鏡の前で汚れた手を洗つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
これはまた酷い事、屋根半分はもうとうに風に奪られて見るさへ気の毒な親子三人の有様、隅の方にかたまり合ふて天井より落ち来る点滴しづく飛沫しぶき古筵ふるござで僅にけ居る始末に
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「まだか」、この名は村中に恐怖をいた。彼れの顔を出す所には人々は姿を隠した。川森さえとうむかしに仁右衛門の保証を取消して、仁右衛門に退場を迫る人となっていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
院長ゐんちやうアンドレイ、エヒミチはとうからまち病家びやうかたぬのを、かへつてさいはひに、だれ自分じぶん邪魔じやまをするものはいとかんがへで、いへかへると書齋しよさいり、書物しよもつ澤山たくさんあるので
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
終日、工事の監督に身をゆだねていた駒井能登守——ではない、もうとうの昔に殿様の籍を抜かれた駒井甚三郎。夜は例によって遠見の番所の一室にこもって、動力の研究にふけっている。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
笠に打着うちきて庄兵衞に無理むりを言うこと度々なれど庄兵衞意に心能らず思うて言葉ことばあらそひせし後は久しく往通ゆきかよひもなさで居しが庄兵衞はとうより大藤の女兒むすめお光に戀慕れんぼなしつゝ忍び/\袖褄そでつま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
署長と久五郎と三人の警官、都合五人の同勢が、息き広教寺へ取り詰めた時には、拳龍こと赤井景韶は、とうに寺から逃げた後で、肝を潰した智拳和尚ばかりが、眼を白黒して立ち騒いでいた。
「もしやおまえが、天下を狙う、大伴おおとも黒主くろぬしなら、おれも片棒かついでやろうかと、とうから心をきめているのだ。どういうものか、はじめて顔を見たときから、他人と思われなくなったのが因果さ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「だから言わんこっちゃない。ちいさい時分から私が黒い目でちゃんとにらんでおいたんだ。此方から出なくたって、先じゃとうの昔に愛相あいそをつかしているのだよ」母親はまた意地張いじっぱりなお島のちいさい時分のことを
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「天保銭一枚がもう無くなった」というのはとうの昔の事。
彼はとうに博士になツてゐたのだ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
其處そこにはまたれもはるのやうなだまされて、とうからかなくつてかへるがふわりといてはこそつぱいいねつかまりながらげら/\といた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とうに解消すべきであつたらう父へのその小さな疑惑が、然し、その後になつて、囚はれの身となつた父を知るに及んで、なんと大きく裏書きされ
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
あるいはもうとうにこういう研究に着手しておられる方があるかも知れないが、自分は未だそういう方面に関する面白い発見等の話を聞いたことがない。
短歌の詩形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
無信仰な罪人め! もうとうに鬚は霜に蔽はれ、顔は皺だらけで、すつかり痩せさらばうた身を持ちながら、なほも神意に背いた悪計を企らみをるのだ。
男たちは、とうから人里ひとざとかせぎにりて少時しばらく帰らぬ。内には女房と小娘が残つて居るが、皆向うのにぎやかな蔵屋の方へ手伝ひに行く。……商売敵しょうばいがたきも何も無い。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「有るけれども、言わないのサ——言うと、ここの主人に怒られるから——小泉君は、働くということに一種の考えが有るんだねえ。僕はとうからそう思ってる」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それなら、実は此方こっちとうからその気ありだから、それ白痴こけが出来合ぐつを買うのじゃないが、しッくりまるというもンだ。嵌まると云えば、邪魔の入らない内だ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
叔母をばはしきりに鰹船かつをぶね安之助やすのすけはなしをした。さうして大變たいへん得意とくいやうえたが、小六ころくこと中々なか/\さなかつた。もうとうかへはず宗助そうすけうしたかかへつてなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私はとうからお前さんにお話をしようと思って居りましたが、私の処のおっかさんは継母まゝはゝでございますから、お前さんと私と、なんでも訳があるように云って責折檻せめせっかんをします
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とうから棄ててをるので御座いますから、唯もう一度貫一さんにお目に掛つて、この気の済むほど謝りさへ致したら、その場でもつて私は死にましても本望なのですから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
院長いんちょうアンドレイ、エヒミチはとうからまち病家びょうかをもたぬのを、かえっていいさいわいに、だれ自分じぶん邪魔じゃまをするものはいとかんがえで、いえかえると書斎しょさいり、書物しょもつ沢山たくさんあるので
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それはとうにもう息が絶えていたけれど、俊恵は生きている者に対するように囁いた
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
亜麻の収利はとうの昔にけし飛んでいた。それでも馬は金輪際こんりんざい売る気がなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何も秘します事はございません、ですが御覧の通り、当場所もとうの以前から、かように電燈になりました。……ひきつけの遊君おいらんにお見違えはございません。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うめなんぞじつて、おとつゝあはらゑぐいてやつからつてろ」勘次かんじとうからしぶつてしたでいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
てもらふのも変だし……けれどもね、阿母おつかさん、私はとうから言はう言はうと思つてゐたのですけれど、実は気に懸る事があつてね、それで始終何だか心持がくないの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ああ、そのことなんで、おとつつあん! そのお訊ねに対する返辞なら、かう申し上げるだけで沢山でせう——あつしやあね、もうとうの昔からむつきの厄介にはなつてゐませんよ。
大「えゝとうより此の密書が拙者の手に入って居りますが、余人よじんに見せては相成らんと、貴方の御心中を看破みやぶって申し上げます、どうか罪に陥らんようにお取計いを願いとうござる」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「僕は君、B君ならとうから知っていたんだがネ、長野に来ていらっしゃるとは知らなかった……新聞社へ行って、S君を訪ねてみたのサ。すると、そこに居たのがB君じゃないか」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とうから貴方あなたけて謝罪あやまらう/\とおもつてゐたんですが、ついにくかつたもんだから、それなりにしていたのです」と途切とぎれ/\につた。宗助そうすけにはなん意味いみまるわからなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「震災後だつたでせうか、とうに死んぢやつてよ。」
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
つねつてもたしか活返いきかへつたのぢやが、それにしても富山とやま薬売くすりうりうしたらう、様子やうすではとうになつて泥沼どろぬまに。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とうから是非お話致したいと思ふ事があるのでございますけれど、その後ちよつともお目に掛らないものですから。間さん、貴方、本当にたまにはお遊びにいらしつて下さいましな。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それにあの人の心臓は鉄で出来てゐるの、あの妖女ウェーヂマが地獄の火で打つてやつたのさ。どうしてお父さんは来ないんだらう? もうとうに殺される時なのに、それを知らないのかしら。
貴方の伯父御さまの秋月さまは未だ染々しみ/″\お言葉を戴きました事もないゆえ、大藏とうより心懸けて居りますが、手蔓はなし、よんどころなく今日こんにち迄打過ぎましたが、春部様からお声がゝりを願い
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)