とまり)” の例文
今晩こんばんやど連參つれまゐれと申されければ幸藏はおせん與惣次に向ひ願の趣きお取上に相成あひなりたれば今宵おとまり御本陣迄ごほんぢんまでまかり出よとおき乘輿のりもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうとまりが知れて見ると急ぐにも当らんから、どうだね、一ゲエム。君はこの頃風早とたいに成つたさうだが、長足の進歩ぢやないか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これがとまりくと、大形おほがた裕衣ゆかたかはつて、帯広解おびひろげ焼酎せうちうをちびり/\りながら、旅籠屋はたごやをんなのふとつたひざすねげやうといふやからぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
視野を、清盛が経営した大輪田おおわだとまりの築港にまで馳せて、そのころの「福原京」の屋並や交通路などを、いまの神戸市の上においてみる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
案ずるに沖縄の港は牧那渡まちなととまり、那覇という順に開けたのであろう。察度さっと王時代に牧湊まきみなとが中山で重要な港であったことは、『中山世鑑ちゅうざんせいかん』に
浦添考 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
また同じ国のむろとまりについた時に、小舟が一艘いっそう法然の船へ近づいて来た。何ものかと思えばこの泊の遊女の船であった。その遊女が云うのに
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とまりに来ると、左手の屏風が急に畳まれて、そうヶ岳や駒ヶ岳の重なり合って大きくわだかまっている後ろから、劒ヶ岳の一部が大鋸の歯で空を引割っている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あわてゝ居りますから戸がいて居りますのも夢中でね、ヘイうも初めて参りましたが、とまりで聞き/\参りました者で、勝手を知りませんから難儀致しまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一方の眼に炎天の雪を望み、片方の目に漁村の石屋根を撫でつつ、翼を張った鳶のように、とまりに着く。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
五十いそぢあまりの武士もののべ廿はたちあまりの同じ出立いでたちなる、六八日和にわはかばかりよかりしものを、明石より船もとめなば、この六九朝びらきに七〇牛窓うしまど七一とまりは追ふべき。
宿々のとまりで、罨方あんぽうしたり冷したり、思いつく限りの手当をぬかりなくやってみたが、ふぐり玉は一日ごとにふくれむくみ、掛川の宿では、とうとうがんの卵ほどに成上り
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
後にとまりまた城間ぐすくま、また後には国上くにがみ、近年は出ずというから、その記念の地を祭場としていたものと思われる。馬琴の『椿説弓張月』なども、この記事にった想像画を掲げている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ぬばたまの夜明よあかしも船はぎ行かな御津の浜松待ち恋ひぬらむ」(巻十五・三七二一)、「大伴の御津のとまりに船てて立田の山を何時か越えかむ」(同・三七二二)とあるのは
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一緒にとまり込んだ滿谷君等の四人はもう既に画室や下宿を見附けてひき越して仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とまりがきまると、行手ゆくてを急ぐ要はありません。のろ/\歩きましょう。一歩は一歩のたのしみです。父は九十三、母は九十一、何卒どうか私共もあやかりたい。先頃の大地震に、私はある人に言いました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
可児君 (それを受け取り)とまり六郎……。へえ、これは珍しい。(奥に向ひ声をかけようとするが、やめて起ち上り一寸考へて)兎に角、お上りなさいつて……。(誰にともなく)どうもはや……。
可児君の面会日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
けふのとまりのことを知りて出迎へし「リフレエ」着たる下部しもべに引かれて、白石はくせききざはしのぼりゆくとき、園の木立をもるるゆふ日あけごとく赤く、階の両側ふたがわうずくまりたる人首じんしゅ獅身ししんの「スフィンクス」を照したり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
春の川のりあひ舟のわかき子が昨夜よべとまりうたねたましき
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「いいえ。とまりよ。あの峠を越えて向うの部落なの」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「四階の博多ホテルへおとまりになりました」
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
諸共にけふのとまり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
魚津うおづより三日市みっかいち浦山うらやま船見ふなみとまりなど、沿岸の諸駅しょえきを過ぎて、越中越後の境なるせきという村を望むまで、陰晴いんせいすこぶる常ならず。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これまでわりに好天にめぐまれてきたのがむしろ僥倖で、その晩は、風さえ加わり、むろとまりの内でさえ、すべての船が高く低くゆられとおした。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんた何方どちらへおいでゝごぜえやすねえ、もうハア日イ暮れ掛って来やしたから、おとまりは流山か松戸どまりが近くってようごぜえましょう、川を越してのお泊は御難渋でけえようだが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おなじ黒人の歌でも、「住吉すみのえ得名津えなつに立ちて見渡せば武庫のとまりゆ出づる舟人」(巻三・二八三)は、少しくらく過ぎて、人麿の「乱れいづ見ゆあまの釣舟」(同・二五六)には及ばない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
山桜やまざくらも散ってたけのこが出る四月の末、熊本城のかこみけたので、避難の一家は急いで帰途に就いた。伯父の家から川にうて一里下れば木山町、二里下ると沼山津ぬやまづ村。今夜は沼山津とまりの予定であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夫是それこれ義理ぎりにてつながれし天地和合わがふえんにて双方さうはうの申口により事分明なり九助其方島田宿とまりせつ盜賊たうぞくなんとは如何なるわけぞ又百八十兩と申ては大金なるに其方馴染なじみうすき藤八へ預けしは如何の手續なりしやなほ明白めいはくに申せと尋問らるに九助は先日も申上し通り百八十兩あまりの大金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これがとまりに着くと、大形の浴衣ゆかたに変って、帯広解おびひろげ焼酎しょうちゅうをちびりちびりりながら、旅籠屋はたごやの女のふとったひざすねを上げようというやからじゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大輪田ノとまりの築港を計画し、日宋貿易を将来に考え、また厳島を、海の平家の氏神として、納経を立願したり
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又「清兵衞さん、去年おとまりの時に、私の忰は高岡の大工町の宗慈寺と云う寺に這入って、弟子に成って居ると云う貴方あなたのお話が有ったが、眞達と云う忰は達者で居りますかな」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
帰途に、「天雲のたゆたひ来れば九月ながつき黄葉もみぢの山もうつろひにけり」(同・三七一六)、「大伴の御津みつとまりに船てて立田の山を何時か越えかむ」(同・三七二二)などという歌を作って居る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
蒙り駿すんゑんのう四ヶ國巡見として罷越し駿州吉原宿とまりの節長門守殿御領分りやうぶん水呑村名主九助妻せつ并に駿州島田宿藤八と申者愁訴しうその趣き吟味に及び候所再應さいおう糺明きうめいの筋有之に付右の段江戸表御老中方へ縫殿頭より御屆けに及び右節藤八とも差立さしたて相成候間本人九助并に九郎兵衞夫婦下伊呂村々役人其外掛合かゝりあひの者一同勘定奉行兼郡奉行松本理左衞門始め掛り役人殘らず江戸表へ早々差出し三番町松平縫殿頭屋敷迄相送あひおくらるべく旨申入候やう縫殿頭申付候之に依て此段御たつしに及び候以上
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「何でもいいやい、お丹姉さんの遊ばすことだ。」「でも気にかかるかしてこの頃は毎晩とまりに来て、御両人様抱ッこで寝るぜ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むろとまりの群船に一夜が明けた翌日だった。尊氏が坐乗ざじょうの大船へ、ひる頃、一団の伺候者しこうしゃがあった。——奥地の白旗城から出てきた赤松円心則村のりむらと、一族の者だった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
必ず必ずおき立て申しますではないのでござりまするけれども、お早く遊ばしませぬと、おとまりが難しゅうござりますので。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで、いいわけするが、福原旧都といい、大輪田ノとまりといい、一ノ谷古戦場群といい、この附近には、余りに史蹟が多すぎる。匆忙そうぼう半月のコースには組みきれない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
変に気が詰まって、他人ひとの内へとまりにでも行ったようで、窮屈で、つまらなくッて、思ってみればその時分から旦那が嫌いだったかも知れないよ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかをみれば、とまり八幡やわた白子しらこ在所ざいしょ在所、いずれをみても荒涼こうりょうたるはらと化して、あわれ、並木なみきのおちこちには、にげる途中でなげすてた在家ざいかの人の家財荷物かざいにもつが、うらめしげに散乱して、ここにも
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次手ついでだから、つぎとまり休屋やすみや膳立ぜんだてを紹介せうかいした。ますしほやき、小蝦こゑびのフライ、玉子焼たまごやきます芙萸ずいきくづかけのわん
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宮本様おとまり
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こと此頃このごろながし、東京とうきやうときから一晩ひとばんとまりになつてならないくらゐ差支さしつかへがなくば御僧おんそう御一所ごいつしよに。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なにをしてござる、御修行ごしゆぎやうが、このくらゐあつさで、きしやすんでさつしやるぶんではあんめえ、一生懸命しやうけんめい歩行あるかつしやりや、昨夜ゆふべとまりから此処こゝまではたつた五
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さみしいにも、第一の家には、旅人の来て宿るものは一にんも無い、と茶店ちゃみせで聞いた——とまりがさて無いばかりか、みまわして見ても、がらんとした古家ふるいえの中に、其のおんなばかり。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
長話はしたが、何にも知らずに……可心は再び杖をいて、それから二三町坂を上ると、成程、ちょっとした茶店もあった。……とまりを急いで、……高浜の宿しゅくへ着きました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京を出る時から一晩のとまりが気になってならないくらい、差支さしつかえがなくば御僧おんそうとご一所いっしょに。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
晩のとまりはどこだって聞きますから、向うの峰の日脚を仰向あおむいて、下の温泉だと云いますとね、双葉屋の女中だと、ここで姉さんが名を言って、お世話しましょうと、きつい発奮はずみさ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このくらいのあつさで、岸に休んでいさっしゃる分ではあんめえ、一生懸命いっしょうけんめい歩行あるかっしゃりや、昨夜ゆうべとまりからここまではたった五里、もう里へ行って地蔵様を拝まっしゃる時刻じゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頃日このごろく——當時たうじ唯一ゆいつ交通機關かうつうきくわん江戸えど三度さんどとなへた加賀藩かがはん飛脚ひきやく規定さだめは、高岡たかをか富山とやまとまり親不知おやしらず五智ごち高田たかだ長野ながの碓氷峠うすひたうげえて、松井田まつゐだ高崎たかさき江戸えど板橋いたばしまで下街道しもかいだう
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
入交いれかわりにとまりに来る渡者の稼ぎ高に割当てて、小遣こづかいって、屋根代を入れさせる。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
越中にとまりと云って、家数千軒ばかり、ちょっと繁昌はんじょうな町があります。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)