)” の例文
するとその中の幾匹かが、これはたまらないと言ったふうに、大急ぎで逃げ出した。けれどもだその大多数は執拗しつように喰い付いていた。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「ああ、いい事があらあ」釈迦しゃかの十蔵と云うだ二十二三の男が叫んだ。彼は忠次のさかずきを貰ってから未だ二年にもなっていなかった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それはだ食べられたが、困ったのは酒を強いられた事で、その酒たるや、正月に造ったという濁酒どぶろくで、うじがわいているのであった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
いつでもねこ可愛かわいがりに愛されていて、身体こそ、六尺、十九貫もありましたが、ベビイ・フェイスの、だ、ほんとに子供でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
けれども彼はだ其自然を自認することが出来ず、何処どこまでも自分を以前の父のごとく、僕を以前の子の如く見ようとして居るのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
鏡子は気にかゝ良人をつとの金策の話を此人にするのに、今日けふだ余り早すぎると下臆病したおくびやうな心が思はせるので、それは心にしまつて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
だ東京で三年前に買つたまゝのをかぶつて居る僕の帽もこの連中れんぢゆうあかみた鳥打帽やひゞれた山高帽やまだかばうに比べれば謙遜する必要は無かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
左様さうだらう、だ結婚もしない、公然約束もしない、父母の承諾を得たでもない、其れで良人があるとすれば、野合の外なからう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
わたくしこの大佐たいさとはかつ面會めんくわいしたこといが、かね櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさとは無二むに親友しんいうで、また、わたくしためには終世しゆうせいわするゝこと出來できない
お前がおれの敵だったら、おれはだしも救われるだろう、だが、そうじゃない。おれたちは味方同志だ。憎み合っている味方同志だ。
河鹿 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
しかるに満の計算によると、四歳といふことになる。従来の計算による常識だと、五歳以前の幼童はだまことに小さい感じである。
(新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
博士を監視していた五十七ヶ国のスパイは、いずれも各自の胸部きょうぶに、貫通かんつうせざる死刑銃弾の疼痛とうつうにわかに感じたことであった。
わかつた、松葉屋まつばやのおいねいもうと金次きんじ待合まちあひを出したと聞きましたが。乙「ぼく家見舞いへみまひいかず、年玉としだま義理ぎりをかけてさ。甲「し/\。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
頼朝がだ病気にならない時、御所ごしょの女房頭周防のむすめの十五になる女の子が、どこが悪いと云うことなしにわずらっていてくなった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは、新しい未知の環境の中におのれを投出して、おのれの中にあつてだ己の知らないでゐる力を存分に試みることだつたのではないのか。
『それに、加藤はだ廻診から帰つてゐまい。』と考へると、『然うだ。玄関だけで口上を済まして、静子を伴出して帰らうか。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すそひぢかゝつて、はしつてゆかく、仰向あふむけのしろ咽喉のどを、小刀ナイフでざつくりと、さあ、りましたか、いたんですか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それはしかとはきまらんがの、下谷したやに富山銀行と云ふのがある、それ、富山重平な、あれの息子の嫁に欲いと云ふ話があるので」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そんなことは今の私にはだ/\荷が勝ち過ぎるし、それに書くと云つても、自分一個の(たとへ独断にせよ)見識でも確立しての上で
「婦人解放の悲劇」自序 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
もしの仕事が思ふやうに捗取はかどつたら、いづれそれを持つて山を下りようと思ふ。けれども斯のことはだ誰にも言はずにある。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私はだいちども、の年少の友人たちに対して、面会を拒絶した事が無い。どんなに仕事のいそがしい時でも、あがりたまえ、と言う。
新郎 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その他運動と云っても、当時はだベースボールもなく、庭球テニスもなかったから、普通体操位のもので、兵式体操はやらなかった。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その榧よいつよりか老い、この栗よいつよりか立つ。榧と栗さびにさびつれ、なほしだ花は咲きけり。年ごとに花はつけけり。
偶然の一致か、それとも伯爵が古代ローマのオツフラを模倣したのか、そこまではだ研究していないから、ここに断言し兼ねる
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
俳句の性格と言えば一番に「季」という事をげねばならぬが、この「季」という事についてはだ新人諸君の詳説を聞かない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
新客きで、だ見ぬ客の前に膳を持つて行く事の好きなお米さへ、三田の御給仕は二三度で懲りて、成る可く外の者に讓る事にしてゐる。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
角川の家ではだ眠らなかった。市郎の傷もようやえて、此頃このごろは床の上に起き直られるようになったので、看病の冬子は一旦わが家へ帰った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
明治十一年のこと、当時私は廿五にじゅうご歳の青年であったが、東京とうきょうへ上京して四年後で、しば花園橋はなぞのばしぐ近所の鈴木すずき某氏の門弟であった頃だ。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
わがくにおい此現象このげんしようだかつて大規模だいきぼおこしたことのないのは、たん此現象このげんしようおこすに適當てきとう構造こうぞう場所ばしよ存在そんざいしないのにるものであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
その冷やりと触れてくる空気の中で、微かに血の臭気が匂ってきた。それが、捜査開始後、だ四時間にすぎないのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わたしだそれをひらきません』とつて白兎しろうさぎは、『だが、それは手紙てがみのやうです、囚人しうじんになつた、——何者なにものかにてた』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
元来がんらいわたくしなみだもろいおんないまでもくせがとまりませぬが、しかしあのときほどわたくしがつづけざまにいたこともなかったようにおぼえてります。
震災後の東京は漸次に近代都市の面影を加えてはいくようだが、だ未だ東京市街と住民との生活の間にはパリに於けるが如きアルモニーがない。
パリの散策 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
あるひはラブがなかつたせいかもれぬ。つましんからわたしれてるほど、夫婦ふうふ愛情あいじやうあぶらつてないせいかもれぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
今朝裁判所から此通り私しを午後の三時に出頭しろと云て来ましたが、裁判官は虫も殺さぬ私しの所天へ人殺の罪をせ、それ飽足あきたらず、私しを
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
トまた引懸りが有る、まだ決徹さっぱりしない。文三周章あわててブルブルと首を振ッて見たが、それでもだ散りそうにもしない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「調馬はだしもよ、朝く法華経二部を、腹のそこから声を出してんでみい。五臓六腑、一物もなくなってしまう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにとはなしにはりをもられぬ、いとけなくて伯母をばなるひと縫物ぬひものならひつるころ衽先おくみさきつまなりなど六づかしうはれし
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
せがれと嫁の絶えない争論いさかいめかあらたに幾本目かの皺がおもてにはっきり刻まれていたが、でも彼女はだまんざら捨てたものではないと独りで決めていた。
目撃者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
言わばだ取止めのない卵的の恋であるから、少しく心の力が必要な所へくると話がゆきつまってしまうのである。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのほかにもだ二つ三つ変だな……と思った事があったが、先の用事に気を取られて、次から次に忘れて行った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は極道ごくどうな青年だった。船員が極り切って着ている、続きの菜っ葉服が、矢っ張り私の唯一の衣類であった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その軟かなだ完成しない羽は全体は乳色で、言ふばかりなく可憐で、痛々しく、小さくちぢかんで居た。ただそれの緑色の筋ばかりがひどく目立つた。
マア/\皆さん、ちよつとわたしのいふことを聞いて下さい。一体鶴は千年のよはひをもつといふものですから、この鶴はだ/\永く生きのびることが出来ます。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
やがて砥石の傍に水の入った桶が置れて、小舎こやに行った男が土の上に蹲踞うずくまって大きな鉞をぎ始める。けれどこの悪者はだ一言も互に話し合わなかった。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
見ると、だ独り者らしいな。仮令たとえ自分の持家にもせよ、締りを破って這入はいって、たった一人で死んでるという事になると、一応駐在所に知らせた方がいゝな
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
我々われ/\隱居いんきよするにははやいです。ハヽヽ左樣さうでせうドクトル、隱居いんきよするのには。』郵便局長いうびんきよくちやうふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
少しも日本にだ帰りたく思いません。永く米国に居りたく思います。米国に参りまして気が清々せいせいとなりました。葛城が居りますから、何かと心強う御座います。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「とくと、勘考かんこうつかまつりますが、府内ふないへ到着するまでには、だ未だ余日よじつもあること。到着の上にて——」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これらのすべてに共通するところは、異性への運動を示すために、眼の平衡を破って常態を崩すことである。しかし、単に「色目」だけではだ「いき」ではない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)