なつ)” の例文
新字:
きことにしてかねやらんせうになれ行々ゆく/\つまにもせんと口惜くちをしきことかぎくにつけてもきみさまのことがなつかしくにまぎれてくに
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
皮をかれた梨は、前のやうに花の形に切られたまゝ置かれてあつた。お光の眼にはなつかしさうなうるほひがまただん/\加はつて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ひながらいましもなつかしき母君はゝぎみうわさでたるに、にしことどもおもおこして、愁然しゆうぜんたる日出雄少年ひでをせうねん頭髮かしらでつゝ
急に向うから私になついてくるやうに、その少女たちも、その名前を私が知りさへすれば、向うから進んで、私に近づいて來たがりでもするかのやうに。
麦藁帽子 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
おつぎはあやぶむやうにしてひかこゑてゝいつた。おつぎはだまつてうごかしてる。與吉よきち返辭へんじがなくてもなつかしさうねえようと數次しば/\けた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その下の田の土の色、くろの草の色——是等は他の季節に見る事の出來ないしたしみ、なつかしみを藏してゐる。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
雖然けれども、いざ、わかれるとれば、各自てんでこゝろさびしく、なつかしく、他人たにんのやうにはおもはなかつたほど列車れつしやなかひとまれで、……まれふより、ほとんたれないのであつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れば平生徳になつき恩に浴せる者は言ふも更なり、知るも知らぬも潛かに憂ひいたまざるはなかりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
わたしは快い氣持になつて、少年たちがなつつこさうに、このきちんとした老僕の周圍を跳びはねたり、犬を抱きしめたりするのを見てゐた、犬は體躯をくねらして喜んだ。
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
天台てんだい國清寺こくせいじ豐干ぶかんおつしやる。」りよはしつかりおぼえてかうと努力どりよくするやうに、まゆひそめた。「わたしもこれから台州たいしうくものであつてれば、ことさらおなつかしい。 ...
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
童子はこれを見るごとに戀しくなつかしきこと限なく、人知らぬ愛に胸を苦めたりき。漁父は童子を伴ひて海に往き、うごかし帆を揚げ、暴風と爭ひ怒濤と鬪ふことを教へつ。
そのばたきには、はじめのあひだこそ、こちらでもびっくりしますが、しかしだん/\すゝむにしたがつて、むしろとりびたつのも、道連みちづれが出來できたようになつかしくなるものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
とうさんがひますと、つばめなつかしいくに言葉ことばものひたくても、それがへないといふふうで、ただ、ペチヤ、クチヤ、ペチヤ、クチヤ、異人ゐじんさんのやうなわからないことをひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もしも私が凍りついて動かぬ氷にさへなつて了へば——それはなつかしい死の無感覺である——假令げつけるやうに雨が降つても何ともあるまいに。私にはもう感じられないのだから。
やつた方が話も落着くし市村もじつくりとかんさんになついてゐた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
私はそのひとつを涙に濡れた手で拾ひ取り、さうしてその黄色なエチケツトの帆船航海の圖に怪しい哀れさを感じながら、その一本を拔いてはなつかしさうにつて見た。無論點火する氣づかひはない。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
常によく見る夢乍ら、やし、なつかし、身にぞ染む。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
但馬守たじまのかみなつかしさうにつて、築山つきやま彼方かなたに、すこしばかりあらはれてゐるひがしそらながめた。こつな身體からだがぞく/\するほどあづまそらしたはしくおもつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
またこれから日本につぽんまで夫人等ふじんら航海かうかいともにするやうになつた不思議ふしぎゆかり言葉ことばみじかかたると、夫人ふじんは『おや。』とつたまゝいとなつかしすゝる。
あまりにこひしうなつかしきをりみづかすこしははづかしきおもひ、如何いかなるゆゑともしるにかたけれど、且那だんなさまおはしまさぬとき心細こゝろほそへがたう、あにともおやとも頼母たのもしきかたおもはれぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その思想といふものも、いかなるが詩となすによろしかるべきか知るよしなけれど、わが尼寺にありし時、ふと物のなつかしき如き情、遠きにする如き情の胸に溢るゝことあり。
日本に生れたなら、關白公方くばうにならうと志すが好い。さてそれを爲し遂げるには身を愼み人をなつけるより外は無い。既に國郡が手に入つたら、人物を鑑識して任用しなくてはならぬ。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
數次其子の歡心を買ふ方法をとつて見ましてもすべての機能の遲緩した私の子は他の幼い子に見る樣に快くなつくといふことはないのであります。それでも私の子であります、仕方がありません。
教師 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
愛宕あたごさんにも大けな銀杏いてふがおましたな、覺えてなはる。……はちの巣を燒いてえらい騷動になりましたな。』と、またなつかしな眼をして、小池の顏に見入つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
りき何處どことなくなつかしくおもふかして三日えねばふみをやるほどの樣子やうすを、朋輩ほうばい女子おんなども岡燒おかやきながらからかひては、りきちやんおたのしみであらうね、男振おとこぶりはよし氣前きまへはよし
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さるをそのなつかしき夫の聲の終に應ずることなく、可憐の女子の獨り不言の海に對して口は復た歌ふこと能はず、目は空しく沙上の髑髏されかうべを見、耳は徒らに岸打浪きしうつなみの音を聞きて
吾等われら無上むじやうたのしみとせるなつかしの日本につぽんかへ希望きぼうも、まつた奪去うばひさられたといふものです。
くし事件じけんれつきりをはつた。勘次かんじなにかにつけてはおつう/\となつかしげにんで一ひとほどきはめてむつましかつた。しかしかういふ事件じけん村落むらすべてのくちひさしくふせぐことは出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひやゝかな小池の言葉には答へないで、お光は沈んだ調子ながらに、昔しの思ひ出をなつかしみつゝ語つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あたゝまるやうにとふてれしときありし、なつかしきは其昔そのむかし、有難ありがたきはいま奧樣おくさまなさけと、平常へいぜい世話せわりぬることさへ取添とりそへて、いかかたもすぼまるばかりかしこまりてるさまを
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
美登利みどりなにゆゑとなくなつかしきおもひにてちがだなの一りんざしにれてさびしくきよ姿すがたをめでけるが、くともなしにつたそのけの信如しんによなにがしの學林がくりんそでいろかへぬべき當日たうじつなりしとぞ(をわり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)