つち)” の例文
と、いうことは素気そっけないが、話を振切ふりきるつもりではなさそうで、肩をひとゆすりながら、くわを返してつちについてこっちの顔を見た。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天心の月は、智恵子の影を短くつちしるした。太鼓の響と何十人の唄声とは、その月までも届くかと、風なき空に漂うてゆく。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あるいは枯山からやまをして変えて青山にす。あるいは黄なるつちをして変えて白き水にす。種々くさぐさあやしき術、つくして究むべからず。
六月みなつきつちさへけて照る日にも吾が袖めや君に逢はずして」(巻十・一九九五)等は、同じような発想の為方しかたの歌として味うことが出来る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
萩も夏萩などがあつて、梅雨あがりのしめつたつちに咲き枝垂れてゐるのを見る。そのせゐか、『秋』といふ感じから、ともすれば薄れがちである。
秋草と虫の音 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
空吹く風もつち打つ雨も人間ひとほど我にはつれからねば、塔破壊こはされても倒されても悦びこそせめ恨はせじ、板一枚の吹きめくられ釘一本の抜かるゝとも
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それは、もうふゆちかい、あさのことでした。一ぴきのとんぼは、つめたいつちうえちて、じっとしていました。両方りょうほうはね夜露よつゆにぬれてしっとりとしている。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
つちは固く、空氣は靜かで、私の行く路には人一人ゐなかつた。私は、身體があたゝかになるまで、急ぎ足に歩いた。
草屋根の門ぎわに、いっぱいの萩の株が、雨にたたかれ、風にさわいで、長い枝をつちによごしている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あなあはれ空飛ぶ鳥と、つちを匐ふ家のけものと、いつのまにかくや馴れけむ、なじかさはかくも親しき。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
同じく。いもが見て後も鳴かなむほとゝぎす、花橘はなたちばなつちに散らしつ。……俺を見ろ! 俺を見ろ、 畜生! おい! おい! おい俺を見ろ! 妹が見て後も鳴かなむ……。
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
兎に角あそこは女に取つて好い温泉場であるに相違なかつた。第一、行くのに便利であつた。上野から足、つちを踏まずに行く事が出来た。それに、山も大して深くはなかつた。
女の温泉 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
天つ御国をつちに 建てんと叫ぶ我がしたに 燃ゆれど尽きぬ博愛の 永久のほのほ恵みてよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
『それ、このに。』と武村兵曹たけむらへいそう紀念塔きねんたふかついではしたので、一同いちどうつゞいて車外しやぐわいをどで、日出雄少年ひでをせうねん見張みはりやくわたくしつちる、水兵すいへいいしまろばす、武村兵曹たけむらへいそう無暗むやみさけ
欺かえてみ伏せる時に、吾その上を蹈みて讀み度り來て、今つちに下りむとする時に、吾、いましは我に欺かえつと言ひをはれば、すなはち最端いやはてに伏せる鰐、あれを捕へて、悉に我が衣服きものを剥ぎき。
ピータ すれば、その從僕さんぴんさまのお帶劍こしのもの汝等ぬしら賤頭どたませてくれう。(短き鈍劍を拔いて揮り𢌞し)これ、大概たいがい大言ぶう/\めぬと、その太鼓面たいこづらをはりまげてつちなかへめりこますぞよ、は如何どうだ?
三に曰く、みことのりを承はりては必ず謹め、きみをば則ちあめとす。やつこらをば則ちつちとす。天おほひ地載せて、四時よつのときめぐり行き、万気よろづのしるし通ふことを得。地、天を覆はむとるときは、則ちやぶるることを致さむのみ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それをじみちの方へ引戻そうとして、とらの日の一句は附けられたものと思うが、なお興味はそぞろいて次の「南京ナンキンつち」という句になったのである。じい独活苅うどかりなども原因は是とよく似ている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若き空には星の乱れ、若きつちには花吹雪はなふぶき、一年を重ねて二十に至って愛の神は今がさかりである。緑濃き黒髪を婆娑ばさとさばいて春風はるかぜに織るうすものを、蜘蛛くもと五彩の軒に懸けて、みずからと引きかかる男を待つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これ家来の無調法を主人がわぶるならば、大地だいじへ両手を突き、重々じゅう/″\恐れ入ったとこうべつちに叩き着けてわびをするこそしかるべきに、なんだ片手に刀の鯉口こいぐちを切っていながら詫をするなどとは侍の法にあるまい
しか樹木じゆもく吸收きふしうして物質ぶつしつの一つちおよ空氣くうき還元くわんげんせしめようとしてすべてのこずゑからうばつて、いたところ空濶くうくわつかつ簡單かんたんにすることをこのふゆには、くぬぎ枯葉かれは錯雜さくざつし、溷濁こんだくしてえねばならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そのつちの神よりほかにあなた方に神はないのですか」
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
つち照斑てりふ蒲公英たなの花、芽ぐむのつつましき
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
せいなるつちの安らけき兒等こらの姿を見よやとて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それは やはり音たてず つちにこぼれた
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
われらとてつち臥所ふしどの下びにしづみ
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
つちの胸にすがりて、かくぞ世にある。
そらつちとに緑はうまる
決闘 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
しめれるつちに香を留めて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
夢も鏡もあめつち
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
あめつちとに迷ひゐる
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
喜悦よろこびつちどよみ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
そこでもう所詮しょせんかなわぬと思ったなり、これはこの山のれいであろうと考えて、杖をてて膝を曲げ、じりじりするつちに両手をついて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空吹く風もつち打つ雨も人間ひとほど我にはつれなからねば、塔破壊こわされても倒されても悦びこそせめ恨みはせじ、板一枚の吹きめくられくぎ一本の抜かるるとも
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
梅雨後つゆあがりの勢のよい青草が熱蒸いきれて、真面まともに照りつける日射が、深張の女傘かさ投影かげを、鮮かにつちしるした。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あなあはれ空飛ぶ鳥と、つちを匍ふ家のけものといつのまにかくや馴れけむ。なじかさはかくも親しき。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
濕つたつちをぴたぴたと踏みながら我等二人は、いま漸く旅の第一歩を踏み出す心躍りを感じたのである。地圖を見ると丁度その地點が一二〇八米突メートルの高さだと記してあつた。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
巻十二(二九五〇)に、「吾妹子が夜戸出よとで光儀すがた見てしよりこころそらなりつちは踏めども」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
碧空へきくう澄める所には白雲高く飛んで何処いづこに行くを知らず、金風きんぷうそよと渡る庭のおもには、葉末の露もろくも散りて空しくつちに玉砕す、秋のあはれはかり鳴きわたる月前の半夜ばかりかは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(とつちに坐って考え込み、はてはぴたりと両手を突いて、うな垂れる)
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
神産巣日御祖かむむすびみおやの命の富足とだる天の新巣にひす凝烟すす八拳やつか垂るまでき擧げ二六つちの下は、底つ石根に燒きこらして、𣑥繩たくなはの千尋繩うち二七、釣する海人あまが、口大の尾翼鱸をはたすずき二八さわさわにきよせげて
あるいは黄なるつちをして変えて白き水にす。種々くさぐさあやしき術、つくして究むべからず(『扶桑略記ふそうりゃっき』四には多以究習とす)。また、虎、その針を授けて曰く、慎矣慎矣ゆめゆめ、人をして知らしむることなかれ。
聖なるつちの安らけき児等こらの姿を見よやとて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
が身を、つちにはおつる影もたえて
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
物を朽ちくずれしむるつちの膝を
つちこぼれし 龍のひげ……
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
やさしき花をつちに見て
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
あめつちとに迷ひゐる
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其処そこでもう所詮しよせんかなはぬとおもつたなり、これはやまれいであらうとかんがへて、つえてゝひざげ、じり/\するつち両手りやうてをついて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
湿ったつちをぴたぴたと踏みながら我等二人は、いま漸く旅の第一歩を踏み出す心躍りを感じたのである。地図を見ると丁度その地点が一二〇八米突メートルの高さだと記してあった。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)